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神格化 - Wikipedia

神格しんかく

具体ぐたいてき対象たいしょうかみ、もしくはかみいきにあるとあつかい、みなすこと

神格しんかく(しんかくか、英語えいご: apotheosisアポテオーシス、アポテオシス、えい: deificationdivinization)とは、天体てんたい自然しぜんなんらかの実在じつざい個人こじん集団しゅうだんなどの具体ぐたいてき対象たいしょうかみ、もしくはかみいきにあるなどとするあつかい。

apotheosis語源ごげんギリシアἀποθεόωνapotheoun[1])。日本語にほんごではいずれの単語たんごも「神格しんかく」とやくされるが、キリスト教きりすときょう神学しんがくにおいてapotheosis否定ひていされることにもみられるように、語義ごぎ若干じゃっかんがある。英文えいぶんにおいて「キリスト人間にんげんせい神格しんかくdeification)した」というような記述きじゅつにおいてapotheosis使つかわれない。またtheosisべつ概念がいねんである(後述こうじゅつ)。

アポテオーシスは芸術げいじゅつにおける1つのジャンル用語ようごでもあり、個人こじん集団しゅうだん場所ばしょやモチーフやメロディをとく雄大ゆうだいまたは称揚しょうようしたかたちあつかうことをす。

ヘレニズム以前いぜん君主くんしゅ崇拝すうはいとして、古代こだいエジプトファラオ)やメソポタミアナラム・シン)がれいとしてげられる。エジプトしん王国おうこく以降いこうすべてのくなったファラオはオシリスとして神格しんかくされた。

古代こだいギリシャ

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紀元前きげんぜん9世紀せいき幾何きかがく様式ようしき時代じだい以降いこう、ギリシアの創世そうせい神話しんわむすびついた太古たいこ英雄えいゆうヘロオン英雄えいゆう神殿しんでん)でまつ儀礼ぎれいまれた。

ギリシア世界せかい最初さいしょ自身じしんかみとした支配しはいしゃは、マケドニア王国おうこくピリッポス2せいである。マケドニアは反目はんもくすることもおおかったがアケメネスあさペルシアと経済けいざいてきにも軍事ぐんじてきにもむすびつきがつよく、アケメネスあさでもおう神格しんかくされていた。6番目ばんめつまとの結婚けっこんさいして、ピリッポス2せい神格しんかくされたぞうオリュンポスのかみぞうならなか設置せっちされた。このアイガイでのれい慣習かんしゅうして、のマケドニアおうがれてヘレニズム世界せかい崇拝すうはいされるようになり、その伝統でんとうユリウス・カエサルやローマ皇帝こうていたちにがれていった[2]。ヘレニズム国家こっか支配しはいしゃ生前せいぜんから神格しんかくされる場合ばあいアレクサンドロス3せいなど)や死後しご神格しんかくされる場合ばあいプトレマイオスあさなど)があった。神格しんかくたものとして、たとえばホメーロスなど大昔おおむかし著名ちょめい芸術げいじゅつ崇拝すうはいするという慣習かんしゅうもあった。

アーカイック古典こてんのギリシアでの英雄えいゆう信仰しんこうは、紀元前きげんぜん6世紀せいきごろにしゅとして一般いっぱん市民しみんひろまった。紀元前きげんぜん5世紀せいきには一部いちぶ例外れいがいてき家系かけいのぞいて、自分じぶん祖先そせんだれであるかに関係かんけいなく英雄えいゆう信仰しんこうおこなわれるようになった。例外れいがいとは、エレウシスのつかさどったエウモルピダイエウモルポス子孫しそん)や、神託しんたくところ世襲せしゅうした神職しんしょく家系かけいなどである。ギリシアの英雄えいゆう信仰しんこうでは、英雄えいゆうがオリュンポスの一員いちいんになったとかかみになったとはされていないため、マ帝国まていこくでの皇帝こうてい崇拝すうはいとはことなる。したがって英雄えいゆうちからかぎられている。そのため英雄えいゆう信仰しんこう本質ほんしつてき冥界めいかいてきであり、その儀礼ぎれいゼウスアポローン信仰しんこう儀礼ぎれいよりもヘカテーペルセポネーのそれにちかい。例外れいがいとしてヘーラクレースアスクレーピオス存在そんざいする。かれらはかみとしても英雄えいゆうとしても信仰しんこうされたため、夜間やかん冥界めいかいてき儀礼ぎれいおこない、翌日よくじつにちちゅう生贄いけにえささげるといったことがおこなわれていた。

古代こだいローマ

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古代こだいローマでの神格しんかくは、くなった為政者いせいしゃ後継こうけいしゃ神聖しんせいだとし、元老げんろういんとローマの人民じんみん同意どういのもとにおこなわれるプロセスだった。たん前任ぜんにんしゃ敬意けいいしめすだけでなく、現在げんざい為政者いせいしゃ人気にんきのあった前任ぜんにんしゃ神格しんかくすることで自身じしんもその人気にんきにあやかるという意味いみがあった。上流じょうりゅう階級かいきゅうつね皇帝こうてい崇拝すうはい参加さんかしたわけではなく、皇帝こうていにふさわしくなかった人物じんぶつ神格しんかくかげ嘲笑ちょうしょうすることもあった。

マ帝国まていこくでの皇帝こうてい崇拝すうはい最高潮さいこうちょうたっしたころ、皇帝こうていあいするひと後継こうけいしゃ皇后こうごう、ハドリアヌスのあいしたアンティノウスなどの愛人あいじん)も神格しんかくされた。神格しんかくされた人物じんぶつは、死後しごDivus女性じょせいなら Diva)をけてばれた。信仰しんこうとして神殿しんでんはしら建設けんせつされることもあった。

中国ちゅうごく

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人文じんぶん主義しゅぎてき道徳どうとくいた孔子こうしおしえは、その後継こうけいしゃたちによって儒教じゅきょうとしてまとまり、かんたけみかど時代じだいにはろう思想しそうわって国教こっきょう地位ちいめた。孔子こうしおしえが最高さいこう価値かちみとめられるとともに、孔子こうし自身じしん崇拝すうはい対象たいしょうとなった[3]無冠むかんおうもとおう)とされ、いたりさきひじりなどの追号ついごうおくられた孔子こうしは、混沌こんとんとした世界せかい秩序ちつじょ平和へいわをもたらす存在そんざいかんがえられ、その言行げんこう天啓てんけいをもたらすメッセージとなった[3]孔子こうしびょう参詣さんけい犠牲ぎせいささげることは、清朝せいちょうたおれる1912ねんまで中国ちゅうごく社会しゃかいのあらゆる階層かいそうにおける公的こうてき義務ぎむだった。

あきらだい叙事詩じょじしてき小説しょうせつふうしん演義えんぎ』には、神格しんかくされた伝説でんせつてき人物じんぶつ多数たすう登場とうじょうする。道教どうきょう神格しんかくされた人物じんぶつは、せきはねてつ樊噲など多数たすう存在そんざいする。そうだい武将ぶしょうたけあきらだい神格しんかくされ、せきはねならんで信仰しんこうされている[4][5]

毛沢東もうたくとう生前せいぜんより強烈きょうれつ個人こじん崇拝すうはい対象たいしょうだったが、その死後しご影響えいきょうりょく神格しんかくいきたっしている[6]毛沢東もうたくとうグッズは魔除まよけけや交通こうつう安全あんぜんまもとして効力こうりょくがあるとしんじられている[3]

キリスト教きりすときょう

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神格しんかく」に関連かんれんする、英語えいごにおける"apotheosis"、"theosis"、"deification"は、キリスト教きりすときょうではそれぞれべつ概念がいねんとしてあつかわれる。それぞれの語彙ごいにどのような日本語にほんごやくてるかについては、時代じだい文献ぶんけんによって様々さまざまなやりかたがある。

"apotheosis"(アポテオーシス)は神格しんかくやくされるほかふる文献ぶんけんには「神化しんか」とやくされているものもある。しかしながら近年きんねんは「神化しんか」は"theosis"の訳語やくごもちいられることおおい。"apotheosis"は皇帝こうていとうかみ々とする異教いきょうてき慣習かんしゅうとされ、キリストきょうにおいては否定ひていされる概念がいねんである[7]

他方たほう、"theosis"(テオーシス・神成かみなり神化しんか)は正教会せいきょうかい神学しんがくや、西方せいほう教会きょうかい神秘しんぴ主義しゅぎにおいて重要じゅうよう概念がいねんである[7]

正教会せいきょうかい神学しんがくにおいて、救世主きゅうせいしゅイエス・キリスト藉身(受肉)したことにより、かみひと創造そうぞうしたさい意図いとした完璧かんぺき人間像にんげんぞう神化しんかしたと説明せつめいされることがあるが[8]、こうした説明せつめいさいしてもちいられる語彙ごいは"apotheosis"、"theosis"のいずれでもなく、"deification"である[9]

日本にっぽん

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近代きんだい

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「ナポレオン戦争せんそうにおいて戦死せんししたフランス兵士へいし神格しんかくアンヌ=ルイ・ジロデ=トリオソン
 
神格しんかくされたジョージ・ワシントン」
 
「ホメーロス礼賛らいさん (The Apotheosis of Homer)」ドミニク・アングル

近代きんだい芸術げいじゅつはこの概念がいねんを、故人こじんへの敬意けいいあらわすため(たとえばアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく議会ぎかい議事堂ぎじどうのドームにえがかれたコンスタンティノ・ブルミディのフレスコ神格しんかくされたワシントン」)、芸術げいじゅつてきコメントとして(たとえばダリアングルの「ホメーロス礼賛らいさん (The Apotheosis of Homer)」)、喜劇きげきてき効果こうかすためなど、様々さまざま動機どうき活用かつようしてきた。

近代きんだい為政者いせいしゃおおくは神学しんがくてきな「神格しんかく」のつもりはなくとも、アポテオーシスてき肖像しょうぞう利用りようしてきた。たとえば、ルーベンスバンケティング・ハウス天井てんじょうとしてえがいたジェームズ1せい肖像しょうぞう王権おうけん神授しんじゅせつあらわしている)、おなじくルーベンスのアンリ4せい肖像しょうぞうアンドレア・アッピアーニえがいたナポレオンのアポテオーシスなどがある。アポテオーシスという用語ようごは、くなったリーダー(暗殺あんさつされたとか殉教じゅんきょうしたということがおおい)をちょう人的じんてきえがくことを比喩ひゆてきあらわし、その人物じんぶつ生涯しょうがいきまとっていたすべてのあやまちや批判ひはん帳消ちょうけしにする効果こうかがある。たとえば、アメリカでのエイブラハム・リンカーンやイスラエルでのイツハク・ラビンなどがれいとしてげられる。

文学ぶんがく

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ジョゼフ・キャンベルの『せんかお英雄えいゆう』では、monomyth からまれた万能ばんのう英雄えいゆう神格しんかく段階だんかいなければならないとく。キャンベルによれば、神格しんかくとはてきやぶった英雄えいゆう経験けいけんする意識いしき拡張かくちょうである。

アーサー・C・クラーク小説しょうせつ幼年ようねんおわ』では、オーバーロードが人類じんるい子供こどもたちにきつつある現象げんしょうを "apotheosis" としょうした(ポストヒューマン参照さんしょう)。

ダン・ブラウン小説しょうせつロスト・シンボル』では、"apotheosis" が物語ものがたり重要じゅうようかぎとなっており、合衆国がっしゅうこく議会ぎかい議事堂ぎじどうの「ジョージ・ワシントンの神格しんかく」も登場とうじょうする。

音楽おんがく

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音楽おんがくにおけるアポテオーシスとは、主題しゅだい雄大ゆうだいかつ称揚しょうようしたかたち演奏えんそうする部分ぶぶんをいう。視覚しかく芸術げいじゅつのアポテオーシスとつうじるめんもあり、とく歴史れきしじょう人物じんぶつ劇的げきてき人物じんぶつをテーマとした作品さくひん顕著けんちょである。

エクトル・ベルリオーズの『葬送そうそう勝利しょうりだい交響曲こうきょうきょく』のだい3は「アポテオーズ (Apotheose)」と名付なづけられており、1840ねんにフランスの戦没せんぼつしゃ記念きねんまえ初演しょえんされた。カレル・フサ軍拡ぐんかく地球ちきゅう環境かんきょう悪化あっかうれい、1970ねんに『この地球ちきゅうかみあがめる (Apotheosis of This Earth)』を作曲さっきょくした。アラム・ハチャトゥリアンのバレエ作品さくひんスパルタクス』には "Sunrise and Apotheosis" とだいしたきょくがある。リヒャルト・ワーグナーベートーヴェンの『交響こうきょうきょくだい7ばん』のかく楽章がくしょうにおけるリズム動機どうき活用かつようをさして「舞踏ぶとう神化しんか (apotheosis of the dance)」とひょうした[10]

脚注きゃくちゅう出典しゅってん

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  1. ^ 『キリストきょうだい事典じてん 改訂かいてい新版しんぱん』33ぺーじきょうぶんかん昭和しょうわ52ねん 改訂かいてい新版しんぱんだいよんはん
  2. ^ Robin Lan Fox, Alexander the Great (1973:20)
  3. ^ a b c ヨウ・シンチュウ ジョン・ボウカー(へん)「中国ちゅうごく宗教しゅうきょう」『ヴィジュアルばん ケンブリッジ 世界せかい宗教しゅうきょう百科ひゃっかはら書房しょぼう 2006 ISBN 4562040343 pp.120-122,139-141.
  4. ^ Liu, James T. C. "Yueh Fei (1103-41) and China's Heritage of Loyalty." The Journal of Asian Studies. Vol. 31, No. 2 (Feb., 1972), pp. 291-297, pg. 296
  5. ^ Wong, Eva. The Shambhala Guide to Taoism. Shambhala, 1996 (ISBN 1570621691), p. 162
  6. ^ 毛沢東もうたくとう観光かんこう - 国立こくりつ民族みんぞくがく博物館はくぶつかん、2017ねん10がつ8にち閲覧えつらん
  7. ^ a b 『キリストきょうだい事典じてん 改訂かいてい新版しんぱん』556ぺーじきょうぶんかん昭和しょうわ52ねん 改訂かいてい新版しんぱんだいよんはん
  8. ^ 高橋たかはし保行やすゆき『ギリシャ正教せいきょう』275ぺーじ講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ 1980ねん ISBN 9784061585003 (4061585002)
  9. ^ "The Blackwell Dictionary of Eastern Christianity" Wiley-Blackwell; New edition (2001/12/5), p159, ISBN 9780631232032
  10. ^ Grove, Sir George (1962). Beethoven and his nine symphonies (3rd ed. ed.). New York: Dover Publications. pp. 228–271. OCLC 705665 

参考さんこう文献ぶんけん

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  • Arthur E.R. Boak, "The Theoretical Basis of the Deification of Rulers in Antiquity", in: Classical Journal vol. 11, 1916, pp. 293-297.
  • Franz Bömer, "Ahnenkult und Ahnenglaube im alten Rom", Leipzig 1943.
  • Walter Burkert, "Caesar und Romulus-Quirinus", in: Historia vol. 11, 1962, pp. 356-376.
  • Jean-Claude Richard, "Énée, Romulus, César et les funérailles impériales", in: Mélanges de l'École Française de Rome vol. 78, 1966, pp. 67-78.
  • Bernadette Liou-Gille, "Divinisation des morts dans la Rome ancienne", in: Revue Belge de Philologie vol. 71, 1993, pp. 107-115.
  • David Engels, "Postea dictus est inter deos receptus. Wetterzauber und Königsmord: Zu den Hintergründen der Vergöttlichung frührömischer Könige", in: Gymnasium vol 114, 2007, pp. 103-130.
  • Stephen King "The Dark Tower: The Gunslinger

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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