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自己抗体 - Wikipedia

自己じこ抗体こうたい(じここうたい、えい: Autoantibody)とは、自己じこ細胞さいぼうないし組織そしきたいしてさんされる抗体こうたいのこと。

自己じこ抗体こうたい 対象たいしょう抗原こうげん 疾患しっかん
こうかく抗体こうたい
こうdsDNA抗体こうたい double stranded-DNA 全身ぜんしんせいエリテマトーデス (SLE)
こうsm抗体こうたい Smith SLE
可溶性かようせいかく抗原こうげん (ENA) Ro/SS-A, La/SS-B SLA[よう曖昧あいまい回避かいひ]
シェーグレン症候群しょうこうぐん
こうセントロメア抗体こうたい centromere 限局げんきょく皮膚ひふ硬化こうかがたぜん身性みじょうきょうかわしょう旧称きゅうしょうCREST症候群しょうこうぐん
こう神経しんけい細胞さいぼうかく抗体こうたい-2 Ri オプソクローヌス
こうトポイソメラーゼ-1抗体こうたいこうScl-70抗体こうたい トポイソメラーゼ-1 つよかわしょう
こうヒストン抗体こうたい ヒストン SLE
こうp62抗体こうたい ヌクレオポリン62 原発げんぱつせい胆汁たんじゅうせいきもかんえん
こうsp100抗体こうたい Sp100かく抗原こうげん
こうとう蛋白たんぱく210抗体こうたい ヌクレオポリン210kDa
こうトランスグルタミナーゼ抗体こうたい tTG セリアックびょう
eTG 疱疹じょう皮膚ひふえん
こうガングリオシド抗体こうたい ガングリオシドGQ1B ミラー・フィッシャー症候群しょうこうぐん
ガングリオシド GD3 急性きゅうせい運動うんどうせいじくさくせいニューロパチー (AMAN)
ガングリオシド GM1 せい運動うんどうニューロパチー (MMN)
こうアクチン抗体こうたい アクチン セリアックびょう
肝腎かんじんミクロソーム抗体こうたい1がた 自己じこ免疫めんえきせい肝炎かんえん
ループスせいこう凝固ぎょうこ因子いんし こうトロンビン抗体こうたい トロンビン SLE
こうリン脂質ししつ抗体こうたい リン脂質ししつ こうリン脂質ししつ抗体こうたい症候群しょうこうぐん
こうこうちゅうだま細胞さいぼうしつ抗体こうたい (ANCA) PR3-ANCA (c-ANCA) こうちゅうだま細胞さいぼうしつ 多発たはつ血管けっかんえんせい肉芽にくがしゅしょう
MPO-ANCA (p-ANCA) こうちゅうだまかく周囲しゅうい 顕微鏡けんびきょうてき多発たはつ血管けっかんえん
こうさんだませい多発たはつ血管けっかんえんせい肉芽にくがしゅしょう
こうアミノアシルtRNA合成ごうせい酵素こうそ抗体こうたいこうARS抗体こうたい こうJo-1抗体こうたい 細胞さいぼうない酵素こうそ 多発たはつ筋炎きんえん/皮膚ひふ筋炎きんえん
こうPL-7抗体こうたい
こうPL-12抗体こうたい
こうEJ抗体こうたい
こうOJ抗体こうたい
こうKL抗体こうたい
こうZo抗体こうたい
リウマトイド因子いんし IgG 関節かんせつリウマチ
こう平滑へいかつすじ抗体こうたい 平滑へいかつすじ 自己じこ免疫めんえきせい肝炎かんえん
こうミトコンドリア抗体こうたい ミトコンドリア 原発げんぱつせい胆汁たんじゅうせいきもかんえん
こうアセチルコリン受容じゅようたい抗体こうたい アセチルコリン受容じゅようたい 重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょう
こうMuSK抗体こうたい muscle-specific kinase (MUSK) 重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょう
こうVGCC抗体こうたい voltage-gated calcium channel (P/Q-type) ランバート・イートン症候群しょうこうぐん
こう甲状腺こうじょうせんペルオキシダーゼ抗体こうたい ヨウ化物ばけものペルオキシダーゼ (microsomal) 橋本はしもとびょう
こうTSHレセプター抗体こうたい TSH受容じゅようたい バセドウびょう
こうHu抗体こうたい Hu 腫瘍しゅよう随伴ずいはん小脳しょうのう変性へんせいしょう
こうYo抗体こうたい 小脳しょうのうプルキンエ細胞さいぼう 腫瘍しゅよう随伴ずいはん小脳しょうのう変性へんせいしょう
こうアミノフィリン抗体こうたい アミノフィリン 腫瘍しゅよう随伴ずいはん小脳しょうのう変性へんせいしょう
こうVGKC抗体こうたい voltage-gated potassium channel (VGKC) あたりえんけい脳炎のうえん
こう基底きていかく抗体こうたい 基底きていかく シデナム舞踏ぶとうびょう
連鎖れんさ球菌きゅうきん関連かんれん小児しょうに自己じこ免疫めんえき神経しんけい精神せいしん疾患しっかん (PANDAS)
こうNMDA抗体こうたい N-methyl-D-aspartate receptor (NMDA) 脳炎のうえん
こうGAD抗体こうたい グルタミン酸ぐるたみんさんデカルボキシラーゼ (GAD65) 1がた糖尿とうにょうびょう
スティッフパーソン症候群しょうこうぐん
こうアンフィフィシン抗体こうたい アンフィフィシン スティッフパーソン症候群しょうこうぐん
aquaporin-4 デーヴィック症候群しょうこうぐん

病原びょうげんせい自己じこ抗体こうたい

編集へんしゅう

自己じこ免疫めんえきせい疾患しっかん定義ていぎかんしてはよくられているものはWitebskyの仮説かせつ[1]、Machkayの定義ていぎ[2]られている。Witebskyの仮説かせつでは下記かきの5つの条件じょうけんたすものを自己じこ免疫めんえきせい疾患しっかんとよぶことになった。その条件じょうけんは、標的ひょうてき臓器ぞうきたいする抗体こうたいまたはリンパだま存在そんざい標的ひょうてき臓器ぞうきない特異とくい抗原こうげん証明しょうめい動物どうぶつへの特異とくい抗原こうげん免疫めんえきによる抗体こうたい産出さんしゅつ免疫めんえきされた動物どうぶつでのヒトの疾患しっかん対応たいおうする病理びょうり組織そしきがくてき変化へんか免疫めんえきされた動物どうぶつのリンパだま正常せいじょう動物どうぶつへの移入いにゅうによる同様どうよう病態びょうたい再現さいげんである。Machkayの定義ていぎこうγがんまグロブリンしょう(1.5g/dl以上いじょう)、自己じこ抗体こうたい病変びょうへん部位ぶいへの免疫めんえきグロブリン沈着ちんちゃく副腎ふくじん皮質ひしつステロイドやく反応はんのう、しばしば自己じこ免疫めんえき疾患しっかん合併がっぺいするというものである。Witebskyの仮説かせつは1993ねん改訂かいていされ[3][4]、それが病原びょうげんせい自己じこ抗体こうたい条件じょうけんとしてもちいられている。また脳神経のうしんけい内科ないか領域りょういきではDaniel B Drachmanらが提唱ていしょうした病原びょうげんせい自己じこ抗体こうたい定義ていぎ[5]がしばしば引用いんようされる。

改訂かいていWitebskyの仮説かせつ

編集へんしゅう

1993ねん改訂かいていされたWitebskyの仮説かせつでは下記かきの5つの条件じょうけんたすことが病原びょうげんせい自己じこ抗体こうたいとされる[3][4]

抗体こうたい認識にんしき可能かのう部位ぶいおも細胞さいぼう表面ひょうめん)に標的ひょうてき抗原こうげん発現はつげんすること
その抗体こうたい除去じょきょすることで症候しょうこう所見しょけん改善かいぜんする
抗体こうたい陽性ようせい患者かんじゃぐん一定いってい臨床りんしょうてき特徴とくちょうゆうする
抗体こうたい疾患しっかん活動かつどうせい相関そうかんみとめられる
モデル動物どうぶつ抗体こうたい投与とうよすることで病態びょうたい再現さいげんされる(passive transfer)

この条件じょうけんのうちとくにpassive transferを再現さいげんするのがとくむずかしく、条件じょうけんをみたせない抗体こうたい非常ひじょうおお[6][7]

Daniel B Drachmanらの定義ていぎ

編集へんしゅう

自己じこ抗体こうたい臨床りんしょうてき重要じゅうようなバイオマーカーであるが、病因びょういんにどのようにかかわっているのかも重要じゅうようである。病因びょういん関与かんよする自己じこ抗体こうたい病原びょうげんせい自己じこ抗体こうたいという。病原びょうげんせい自己じこ抗体こうたいであることを証明しょうめいするには以下いかの5つの条件じょうけんをみたすことがもとめられる[5][8]。これはDaniel B Drachmanが提唱ていしょうした条件じょうけんであり、検出けんしゅつ抗原こうげんとの反応はんのう疾患しっかん移送いそう能動のうどう免疫めんえきこう体力たいりょく低下ていか病態びょうたい改善かいぜんの5つの条件じょうけんである。検出けんしゅつこう体力たいりょく低下ていか病態びょうたい改善かいぜんはベッドサイドでしめされる内容ないようであるが、抗原こうげんとの反応はんのう疾患しっかん移送いそう能動のうどう免疫めんえき研究けんきゅうしつでの実験じっけんしめされる内容ないようである。重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょうこうAchR抗体こうたい視神経ししんけい脊髄せきずいえんこうAQP4抗体こうたい免疫めんえき介在かいざいせい壊死えしせいすじしょうこうSRP抗体こうたいこうHMGCR抗体こうたいなどが下記かき条件じょうけんたし病原びょうげんせい自己じこ抗体こうたいかんがえられている。

検出けんしゅつ

対象たいしょうとなる自己じこ抗体こうたい患者かんじゃ検出けんしゅつされることである。

抗原こうげんとの反応はんのう

自己じこ抗体こうたいがターゲットとなる抗原こうげん相互そうご作用さようすることをしめすことである。細胞さいぼうレベルあるいは分子ぶんしレベルの相互そうご作用さよう結果けっか症状しょうじょう説明せつめいできるかというてん重要じゅうようである。

疾患しっかん移送いそう

自己じこ抗体こうたい投与とうよによって病態びょうたい再現さいげんされることをしめすことである。passive transferともいう。

能動のうどう免疫めんえき

対応たいおうする抗原こうげん免疫めんえきにより疾患しっかんモデルが発現はつげんされることである。

こう体力たいりょく低下ていか病態びょうたい改善かいぜん

自己じこ抗体こうたいちから低下ていかによって病態びょうたい改善かいぜんすることである。

自己じこ抗体こうたいさんせい機構きこう

編集へんしゅう

大阪大学おおさかだいがく微生物びせいぶつびょう研究所けんきゅうじょ/免疫めんえきがくフロンティア研究けんきゅうセンターらの研究けんきゅうグループは2015ねん全身ぜんしんせいエリテマトーデス多発たはつせい硬化こうかしょうといった自己じこ免疫めんえき疾患しっかんとのかかわりがられている、9わり以上いじょう人間にんげん感染かんせんしているヘルペスウイルス一種いっしゅエプスタイン・バール・ウイルス(EBウイルス)による自己じこ免疫めんえき疾患しっかん発症はっしょうのメカニズムを分子生物学ぶんしせいぶつがくてきしめした[9]

通常つうじょうはい中心ちゅうしんB細胞さいぼう成熟せいじゅく段階だんかいにあるB細胞さいぼう)の表面ひょうめんに、排除はいじょする抗原こうげんわないB細胞さいぼう受容じゅようたいや、自分じぶん抗原こうげん反応はんのうするB細胞さいぼう受容じゅようたいがあれば、そのB細胞さいぼうアポトーシスにより排除はいじょされる。しかし、そのはい中心ちゅうしんB細胞さいぼうがEBウイルスに感染かんせんすると、EBウイルスの潜伏せんぷく感染かんせんがた遺伝子いでんしのLMP2AがB細胞さいぼう受容じゅようたいシグナルを模倣もほうし、さらに形質けいしつ細胞さいぼう抗体こうたいさんせい細胞さいぼう)への分化ぶんか促進そくしんする因子いんし (Zbtb20) が出現しゅつげんして、本来ほんらいはアポトーシスにより排除はいじょされるべき自己じこ反応はんのうせいB細胞さいぼうのこり(B細胞さいぼう選択せんたく異常いじょう)、自己じこ反応はんのうせい受容じゅようたいなどの抗体こうたいつづける形質けいしつ細胞さいぼうになる結果けっか自己じこ免疫めんえき疾患しっかん発症はっしょうするということである。

また同様どうように、鳥取大学とっとりだいがく医学部いがくぶ医学いがく分子ぶんし病理びょうりがく分野ぶんや研究けんきゅうグループは2017ねん、EBウイルスに感染かんせんしたB細胞さいぼうからバセドウびょう自己じこ抗体こうたいであるこうTSHレセプター抗体こうたい (TRAb) がさんされることを分子生物学ぶんしせいぶつがくてきしめした[10]

EBウイルスに感染かんせんしたB細胞さいぼう自己じこ反応はんのうせいかによらず、EBウイルスの潜伏せんぷく感染かんせんがた遺伝子いでんしのLMP1によるT細胞さいぼう依存いぞんせいのCD40きょう刺激しげきシグナルの模倣もほうによるNF-κかっぱB活性かっせいで、活性かっせい誘導ゆうどうシチジンデアミナーゼ{AID}の発現はつげん促進そくしんされT細胞さいぼう依存いぞんせいクラススイッチ可能かのうとなり、クローンせいにあらゆるアイソタイプの抗体こうたいさんせいをしる。EBウイルスに感染かんせんしたB細胞さいぼう自己じこ反応はんのうせい抗体こうたい可変かへんっていたとき自己じこ抗体こうたいさんるということである。

脚注きゃくちゅう

編集へんしゅう
  1. ^ J Am Med Assoc. 1957 Jul 27;164(13):1439-47. PMID 13448890
  2. ^ Autoimmune Diseases, Pathogenesis, Chemistry and Therapy ISBN 9780398043506
  3. ^ a b Immunol Today. 1993 Sep;14(9):426-30. PMID 8216719
  4. ^ a b Nat Rev Nephrol. 2023 May 10;1-16. PMID 37165096
  5. ^ a b J Clin Invest. 2003 Mar;111(6):797-9. PMID 12639983
  6. ^ Front Neurol. 2020 Feb 5;10:1394. PMID 32116982
  7. ^ Nat Rev Immunol. 2021 Dec;21(12):798-813. PMID 33976421
  8. ^ Official Journal of Japanese Society for Neuroimmunology VOL.21 NO.1 69 2016 ISSN 0918-936X
  9. ^ Minamitani T, Yasui T, Ma Y, Zhou H, Okuzaki D, Tsai CY, Sakakibara S, Gewurz BE, Kieff E, Kikutani H (2015). "Evasion of affinity-based selection in germinal centers by Epstein-Barr virus LMP2A"Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America112 (37): 11612-7., PMC 4577157PMID 26305967doi:10.1073/pnas.1514484112
  10. ^ Nagata K, Kumata K, Nakayama Y, Satoh Y, Sugihara H, Hara S, Matsushita M, Kuwamoto S, Kato M, Murakami I, Hayashi K (2017). "Epstein-Barr Virus Lytic Reactivation Activates B Cells Polyclonally and Induces Activation-Induced Cytidine Deaminase Expression: A Mechanism Underlying Autoimmunity and Its Contribution to Graves' Disease"Viral Immunology30 (3): 240-249., PMC 5393416PMID 2833576doi:10.1089/vim.2016.0179