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軍事ケインズ主義 - Wikipedia

軍事ぐんじケインズ主義しゅぎ(ぐんじケインズしゅぎ、Military Keynesianism)は、直接的ちょくせつてき戦争せんそうふくめ、景気けいき経済けいざい調整ちょうせいする目的もくてき多大ただい軍費ぐんぴ投入とうにゅうする政策せいさくである。「戦争せんそう頻繁ひんぱんおこなうことを公共こうきょう政策せいさくようとし、武器ぶき軍需ぐんじゅひん巨額きょがく支出ししゅつおこない、巨大きょだい常備じょうびぐんつことによってゆたかな資本しほん主義しゅぎ社会しゃかい永久えいきゅう持続じぞくさせられるとの主張しゅちょう[1]

ケインズの言葉ことば

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軍事ぐんじケインズ主義しゅぎ」という言葉ことばは、けっして公共こうきょう投資とうし軍事ぐんじめんけることから連想れんそうしてできたわけではなく、ケインズ自身じしん直接ちょくせつアメリカじん(とイギリスじん)にかって、戦争せんそう準備じゅんびだい恐慌きょうこうきずけたアメリカのためになることを主張しゅちょうしている。

1939ねんにケインズは「戦費せんぴ調達ちょうたつろん」で、強制きょうせい貯蓄ちょちく必要ひつようせいえい国民こくみん犠牲ぎせい)をいている[2]

1940ねんにケインズは「アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとケインズプラン」[3]なかで、戦争せんそう準備じゅんびによりアメリカはだい恐慌きょうこうから復活ふっかつげるだろうと予見よけんした。

(アメリカの産業さんぎょう経済けいざい巨大きょだい生産せいさんりょくにより)あなたかた戦争せんそう準備じゅんびは(英国えいこくちがって)犠牲ぎせい必要ひつようとするどころか、かえって個人こじん消費しょうひをこれまで以上いじょう促進そくしんし、それ(戦争せんそう準備じゅんびによる消費しょうひ促進そくしん米国べいこく復活ふっかつ)はニューディール成功せいこうしても失敗しっぱいわってもべい国民こくみんあたえることができなかったものになる。

チャルマーズ・ジョンソンによれば、このイデオロギーの誕生たんじょう冷戦れいせん初期しょき米国べいこく国務省こくむしょう政策せいさく企画きかく室長しつちょうであったポール・ニッツェ中心ちゅうしん国家こっか安全あんぜん保障ほしょう会議かいぎ報告ほうこくしょ68 (NSC-68) が作成さくせいされたことによる。1950ねん4がつ14にちけで提出ていしゅつされ9月30にち署名しょめいされたこの文書ぶんしょは「アメリカ経済けいざいは、効率こうりつ十分じゅうぶんたかめれば、民間みんかん消費しょうひ以外いがい目的もくてきにも膨大ぼうだいなリソースを提供ていきょうすることが可能かのうであり、同時どうじたか生活せいかつ水準すいじゅん維持いじできる。これがだい世界せかい大戦たいせん経験けいけんからもっと重要じゅうよう教訓きょうくんのひとつである」と結論けつろんづけ今日きょうまでつづく"公共こうきょう経済けいざい政策せいさく"の根幹こんかん決定けっていしたとする」[1]

一般いっぱんてき言説げんせつ

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経済けいざい政府せいふ介入かいにゅうすることを主張しゅちょうするケインズ主義しゅぎ特殊とくしゅ形態けいたいとしてとらえられている。

経済けいざい効果こうか

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  • 軍需ぐんじゅ政府せいふ支出ししゅつ増大ぞうだいする。これが乗数じょうすう効果こうかによって波及はきゅう消費しょうひしゃ消費しょうひ増大ぞうだいする。
  • くに発展はってん途上とじょうにある場合ばあい軍隊ぐんたい学識がくしき技能ぎのうひく就職しゅうしょくしづらい国民こくみんそう地方ちほう農村のうそん子弟していなど)を募兵ぼへい徴兵ちょうへいかたち雇用こようすることで就労しゅうろう教育きょういく機会きかいあたえる。
  • 兵器へいき開発かいはつのための研究けんきゅう民間みんかん技術ぎじゅつ移転いてん国家こっか技術ぎじゅつりょく増進ぞうしんにつながる。

反対はんたい意見いけん

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  • 経済けいざい軍需ぐんじゅ産業さんぎょう依存いぞんするようになると私企業しきぎょうであるぐんさんかい政府せいふぐんあやつられ政治せいじ私物しぶつにつながる。
  • 軍事ぐんじ研究けんきゅう民間みんかん部門ぶもん生産せいさんせい向上こうじょう国富こくふ強化きょうか寄与きよするとはかぎらない。たとえばきゅうソ連それん北朝鮮きたちょうせんなどのくに莫大ばくだい予算よさん軍備ぐんびけたが、どちらも経済けいざい破綻はたんしてしまったほか、ロナルド・レーガン大統領だいとうりょうつとめていたアメリカでも、SDI計画けいかくなどで防衛ぼうえいがかさみ1985ねん債務さいむこく転落てんらくしてしまった。
  • 軍備ぐんびは、兵器へいき自体じたい価格かかくをつけることができるのでざいとして国富こくふ一部いちぶ形成けいせいするが、一般いっぱんには道路どうろ港湾こうわん鉄道てつどう整備せいびなどの公共こうきょう資本しほん投資とうしとはことなり経済けいざいインフラを向上こうじょうさせる方向ほうこう機能きのうしない(ただし、インターネットGPSなど軍事ぐんじへの技術ぎじゅつ投資とうし民生みんせいされることであらたな市場いちば形成けいせいされることもある)。国際こくさい競争きょうそう優位ゆういみちびくための民間みんかん設備せつび投資とうし十分じゅうぶん資本しほんかわないので産業さんぎょう衰退すいたい空洞くうどうまねく。
  • 非常ひじょう高度こうど技術ぎじゅつもちいる現代げんだい軍隊ぐんたいではまともにたたかえる兵士へいしになるまで訓練くんれんするのに時間じかん費用ひようがかかる。そのため少数しょうすう精鋭せいえい主義しゅぎかたむいており多数たすう徴兵ちょうへい前提ぜんていとしている雇用こよう創出そうしゅつ効果こうか限定げんていてきである。
  • 現実げんじつ軍事ぐんじ衝突しょうとつまねいた場合ばあい生命せいめい財産ざいさん大量たいりょううしなわれ、国土こくど荒廃こうはいすることで、当初とうしょ期待きたいされた経済けいざい活性かっせい効果こうか以上いじょう損失そんしつをもたらす可能かのうせいがある。ある推計すいけいによるとアメリカの1940年度ねんどGDPは9,308おくドルであったが1945年度ねんどまでに国債こくさい累積るいせきで20,850おくドルを発行はっこうしGDP16,470おくドルと急進きゅうしんさせた。このあいだ貨幣かへい所得しょとくは1.75ばい(44ねんに1.82ばい)、物価ぶっかは1.33ばい実質じっしつ所得しょとくは1.32ばいとなっている。一方いっぽう日本にっぽんのGDPは1940年度ねんどに2,097おくドルであったが1945ねんには1,568おくドルに低下ていかした。また1935ねん昭和しょうわ10ねん)の国富こくふは1243おくえんであったが、だい世界せかい大戦たいせん終了しゅうりょう時点じてんうしなわれた国富こくふは496おくえんとの計測けいそくがある[4]
  • 国内こくない雇用こよう逼迫ひっぱくしており、また資本しほん市場いちばでの調達ちょうたつ困難こんなんであったり租税そぜい国民こくみんてき合意ごういることができない(たとえば合理ごうりてき軍事ぐんじてき危険きけん存在そんざいしないひとし水準すいじゅんにあるにもかかわらず、追加ついかてき軍事ぐんじ増加ぞうかさせることは、クラウディングアウト経過けいかしょうじるなり国民こくみんぜい負担ふたんによる可処分かしょぶん所得しょとく減少げんしょうにより企業きぎょう個人こじん投資とうし消費しょうひ行動こうどう影響えいきょうをあたえる可能かのうせいがある。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b チャルマーズ・ジョンソン軍事ぐんじケインズ主義しゅぎ終焉しゅうえん」(岩波書店いわなみしょてん世界せかい』2008ねん4がつごう
  2. ^ だいしょう日本経済新聞にほんけいざいしんぶん2001ねん9がつ19にち
  3. ^ 世界せかい名著めいちょだい57かん 宮崎みやざき義一ぎいちわけ 中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ
  4. ^ 内閣ないかくしょうHP:歴史れきしてき史料しりょう国富くにとみ調査ちょうさ関係かんけい

関連かんれん項目こうもく

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関連かんれん書籍しょせき論文ろんぶん

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  • チャルマーズ・ジョンソン軍事ぐんじケインズ主義しゅぎ終焉しゅうえん」(岩波書店いわなみしょてん世界せかい』2008ねん4がつごう
  • 大橋おおはしようぐんさんふく合体がったい再考さいこう」『いちきょう論叢ろんそうだい123かんだい6ごう日本にっぽん評論ひょうろんしゃ、2000ねん6がつ、950-965ぺーじdoi:10.15057/10507ISSN 00182818NAID 110000316654 
  • もり杲「アメリカ国防こくぼう経済けいざいろん形成けいせい過程かてい:だい2大戦たいせん経済けいざい政策せいさくにおける軍事ぐんじ要因よういん」『經濟けいざいがく研究けんきゅうだい36かんだい3ごう北海道大学ほっかいどうだいがく經濟學部けいざいがくぶ、1986ねん12月、391-424ぺーじISSN 04516265NAID 120000951466