造つくり酒屋ざかや

造つくり酒屋ざかや（つくりざかや）とは、蔵ぞうで酒さけを醸造じょうぞうし、店舗てんぽでそれを販売はんばいする職業しょくぎょう。造つくり酒屋ざかやは元々もともと素封そほう家かが多おおく、地域ちいきの名士めいし的てき存在そんざいである^[1]。

酒造さけづくり発祥はっしょうの地ちは弥生やよい時代じだいから続つづく島根しまね県けんである^[2]^[3]。奈良なら市しと伊丹いたみ市しも清酒せいしゅ発祥はっしょうの地ちとされるが^[4]、奈良ならでは室町むろまち時代じだいに清酒せいしゅ製造せいぞう方法ほうほうが書かかれた記録きろくがあり、諸白もろはくづくり（麹こうじ米まいと掛かけ米まいの双方そうほうに精白せいはく米まいを使用しよう）を開発かいはつし、これまでのにごり酒ざけを透明とうめい度どの高たかい酒さけにした^[5]。伊丹いたみでは、1600年ねん（慶長けいちょう5年ねん）に木炭もくたんで濾過ろかする双そう白はく澄きよし酒しゅを開発かいはつし、清酒せいしゅを大量たいりょうに醸造じょうぞうする技術ぎじゅつを開発かいはつした^[6]^[7]。

概要がいよう

軒先のきさきに提さげてある杉すぎ玉たまが目印めじるしとなる。

鎌倉かまくら時代ときよに発生はっせいし、室町むろまち時代ときよには隆盛りゅうせい期きをむかえた。

単たんなる酒屋さかやとの定義ていぎの境界きょうかい線せんが明確めいかくにあるわけではないが、一般いっぱんに造つくり酒屋ざかやは土倉つちくら（どそう）として、金融きんゆう業ぎょうや、荷送におくりなどの流通りゅうつう業ごう、通信つうしん業ごうなどさまざまな業種ぎょうしゅを扱あつかう総合そうごう的てきな豪商ごうしょうで、都市としの中心ちゅうしんにしっかりとした店舗てんぽをかまえ、手代てだいや丁稚でっち、女中じょちゅうなどの奉公ほうこう人ひとのほか、用心棒ようじんぼうなども養やしなっていた大所たいしょ帯たいである概念がいねんが強つよい。

一方いっぽう、造つくり酒屋ざかやは純粋じゅんすいに酒さけを造つくりそれを売うっていた所ところという概念がいねんで、規模きぼも必かならずしも大おおきくなく、ときには蔵人くろうどが一人ひとりで営いとなんでいて、場所ばしょも都市としの中なかだけでなく農村のうそん部ぶや山間さんかん部ぶにも多おおかった。かなりさびれた街道かいどう沿そいにも造つくり酒屋ざかやが点在てんざいしていた様子ようすが昔むかしの紀行きこう文ぶんなどからうかがえる。

蔵くらや店舗てんぽは自前じまえの所有しょゆうであったが、たとえば、関東かんとう地方ちほうから東北とうほく地方ちほうに点在てんざいした江え州しゅう蔵ぞう（ごうしゅうぐら）のように、はるか遠方えんぽうに住すむ経営けいえい者しゃが資本しほんを持もち、派遣はけんされた蔵人くろうどが必要ひつように応おうじて土地とちの労働ろうどう者しゃを季き節ぶし雇用こようして営いとなんでいるところもある。

新酒しんしゅが出来できたことを知しらせる杉すぎ玉たまを軒のきに吊つるす酒蔵さかぐら（油あぶら長ちょう酒造しゅぞう）

江戸えど幕府ばくふの酒造しゅぞう統制とうせいや明治めいじ政府せいふの造みやつこ酒税しゅぜい増税ぞうぜいに翻弄ほんろうされ、衰滅すいめつしたり、再生さいせいしたり、新あたらしいものが生うまれたりした。

バブル経済けいざい以後いごの地酒じざけ復興ふっこう期きにおける零細れいさいな地方ちほう蔵ぞうのように、現在げんざいもその流ながれは細々こまごまと続つづいている。

多おおくの造つくり酒屋ざかやでは毎年まいとし2月がつごろに蔵開くらびらきの最盛さいせい期きを迎むかえ、その年としに醸造じょうぞうした新酒しんしゅのお披露目ひろめや利きき酒しゅ、酒粕さけかす・酒さけ饅頭まんじゅうを始はじめとする関連かんれん商品しょうひんの販売はんばいなどが行おこなわれる。また、周辺しゅうへんでは地域ちいきの特産とくさん品ひんを生いかした肴さかなが販売はんばいされるなど、造つくり酒屋ざかやにとって一ひとつの区切くぎりであると同時どうじに、地域ちいきにとっても一大いちだい行事ぎょうじとなっている。