ヴォラピュク (Volapük )[1] は、ヨハン・マルティン・シュライヤー によって創 つく られた人工 じんこう 言語 げんご である。ISO 639 による言語 げんご コードはvoとvol。
ヴォラピュクは1879年 ねん から1880年 ねん にドイツ のバーデン 出身 しゅっしん のカトリック 神父 しんぷ 、ヨハン・マルティン・シュライヤー によって創 つく られた。
シュライヤーは夢 ゆめ の中 なか で国際 こくさい 語 ご を創 つく るように神 かみ からお告 つ げを受 う けてこの言語 げんご を創 つく ったとされる。ヴォラピュクの大会 たいかい は1884年 ねん にフリードリヒスハーフェン 、1887年 ねん にミュンヘン 、1889年 ねん にパリ で行 おこな われた。最初 さいしょ の2つの大会 たいかい ではドイツ語 ご が使 つか われたが、最後 さいご の大会 たいかい はヴォラピュクだけで行 おこな われた。1889年 ねん の段階 だんかい で283のクラブ、25の雑誌 ざっし 、25の言語 げんご で316の教科書 きょうかしょ が存在 そんざい した。
歴史 れきし
1879年 ねん 5月 がつ 、シュライヤーは自分 じぶん が編集 へんしゅう していたカトリックの雑誌 ざっし 『Sionsharfe 』にヴォラピュクの概要 がいよう を初 はじ めて載 の せた。1880年 ねん にはドイツ語 ご でヴォラピュクについての本 ほん を出 だ すことができた。シュライヤー自身 じしん はヴォラピュクの本 ほん をドイツ語 ご 以外 いがい で書 か けなかったが、すぐに協力 きょうりょく 者 しゃ がそのほかの言語 げんご で書 か いた。
フランドル地方 ちほう の暗号 あんごう 作成 さくせい 者 しゃ 、アウグスト・ケルクホフス は長年 ながねん ヴォラピュクの学士 がくし 院 いん の長 ちょう を務 つと め、各国 かっこく に運動 うんどう を広 ひろ げた。しかし、シュライヤーは免許 めんきょ を発行 はっこう した人 ひと 以外 いがい にヴォラピュクを教 おし えてはならないなど、言語 げんご に関 かん する運動 うんどう の権利 けんり や名誉 めいよ を保持 ほじ しようとしたため、学士 がくし 院 いん との間 あいだ に対立 たいりつ が生 う まれる。運動 うんどう は分裂 ぶんれつ し、ヴォラピュク使用 しよう 者 しゃ たちはシュライヤーが創 つく ったヴォラピュクに見切 みき りをつけてイディオム・ネウトラル や他 た の新 あたら しい国際 こくさい 語 ご に乗 の り換 か えるなどした。1887年 ねん 、エスペラント の最初 さいしょ の教科書 きょうかしょ 『Unua Libro 』が出版 しゅっぱん される。エスペラントの学習 がくしゅう はより容易 ようい だったので、多 おお くのヴォラピュクのクラブはエスペラントに乗 の り換 か えた。
1920年代 ねんだい 、アリー・デ・ヨング はヴォラピュクの使用 しよう 者 しゃ たちの同意 どうい を得 え て、ヴォラピュクの改造 かいぞう 版 ばん をつくって1931年 ねん に出版 しゅっぱん した。この改造 かいぞう 版 ばん はあまり受 う け入 い れられなかった。デ・ヨングは文法 ぶんぽう を簡単 かんたん にし、めったに使 つか わない動詞 どうし 変化 へんか を無 な くし、性 せい 差別 さべつ と思 おも われた代名詞 だいめいし と動詞 どうし の性 せい 変化 へんか を無 な くした。彼 かれ はまた音素 おんそ "r"を追加 ついか し、それをもとにより従来 じゅうらい "l"だった単語 たんご をよりわかりやすい形 かたち に変更 へんこう した。例 たと えば、英語 えいご の"rain "(雨 う )に由来 ゆらい する"lömib "は変更 へんこう の結果 けっか 、元々 もともと の英語 えいご の形 かたち に近 ちか い"rein "になった。
デ・ヨングの指導 しどう の下 した 、ヴォラピュクはつかの間 ま だったがオランダやドイツで再 ふたた び人気 にんき を得 え た。しかし、それらの国 くに ではナチス の支配 しはい が広 ひろ がり、エスペラントやその他 た の人工 じんこう 言語 げんご とともに抑圧 よくあつ され、復活 ふっかつ しなかった。
現在 げんざい 、世界 せかい でヴォラピュクの使用 しよう 者 しゃ は25から30人 にん いると見積 みつ もられている。
資料 しりょう の収蔵 しゅうぞう 機関 きかん
多 おお くのヴォラピュクの資料 しりょう がオーストリア 、ウィーン の国際 こくさい エスペラント博物館 はくぶつかん [2] 、スイス のラ・ショー=ド=フォン にある国際 こくさい 語 ご 資料 しりょう 調査 ちょうさ 機関 きかん (英語 えいご 版 ばん ) 、アメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく ペンシルベニア州 しゅう フィラデルフィア にあるアメリカ哲学 てつがく 協会 きょうかい などにある。
文法 ぶんぽう
文字 もじ
ラテン文字 もじ のうちのQとW以外 いがい と、ドイツ語 ご 由来 ゆらい のウムラウト 付 つ き文字 もじ を使 つか う。デ・ヨングが1931年 ねん に改造 かいぞう するまで " r " はなかった。
文字 もじ
IPA
a
[a]
ä
[ɛ]
b
[b]
c
[dʒ] または [tʃ]
d
[d]
e
[e]
f
[f]
文字 もじ
IPA
g
[g]
h
[h]
i
[i]
j
[ʒ] または [ʃ]
k
[k]
l
[l]
m
[m]
文字 もじ
IPA
n
[n]
o
[o]
ö
[ø]
p
[p]
r
[r] (1931年 ねん に追加 ついか )
s
[s]
t
[t]
文字 もじ
IPA
u
[u]
ü
[y]
v
[v]
x
[gz] または [ks]
y
[j]
z
[dz] または [ts]
アクセントは最後 さいご の音節 おんせつ にくる。
単語 たんご
Menade bal, püki bal(1つの人類 じんるい に1つの言語 げんご を)
シュライヤーは単語 たんご をもっぱら英語 えいご から、少 すこ しドイツ語 ご やフランス語 ふらんすご から取 と り入 い れたが、元 もと の形 かたち が想像 そうぞう しにくいほど形 かたち を変 か えて使 つか った。例 たと えば、ヴォラピュクの"vol "(世界 せかい )と"pük "(言語 げんご )は英語 えいご の"world "と"speak "に由来 ゆらい する。言語 げんご 学 がく 的 てき に重要 じゅうよう でないこれらの単語 たんご の変化 へんか は、かなり冷 ひ ややかに受 う け取 と られた。
シュライヤーがこのように単語 たんご を変化 へんか させたのは主 おも に2つの理由 りゆう がある。一 ひと つは難 むずか しい子音 しいん が合 あ わさったつづりを避 さ けたこと。もう一 ひと つは"r"と"l"の区別 くべつ が苦手 にがて な中国人 ちゅうごくじん などに配慮 はいりょ して"r"を使 つか った単語 たんご を使 つか わなかったことである。
現在 げんざい 、「論理 ろんり 的 てき な」計画 けいかく 言語 げんご 、ロジバン は独自 どくじ の音声 おんせい 体系 たいけい に合 あ わせるため、似 に たような単語 たんご の変化 へんか をさせている。またヴォルリン は全 すべ ての単語 たんご の語幹 ごかん をCVCあるいはCVCVC(Cは子音 しいん 、Vは母音 ぼいん )にするため、やはり似 に たような変化 へんか をさせている。
形態 けいたい 論 ろん
文法 ぶんぽう はほぼインド・ヨーロッパ語族 ごぞく の言語 げんご に由来 ゆらい しているが、膠着 こうちゃく 的 てき な特徴 とくちょう を持 も ち、屈折 くっせつ 変化 へんか ではなく形 かたち を変 か えずに単語 たんご を組 く み合 あ わせることによって意味 いみ が変化 へんか する。
前置詞 ぜんちし には"-ü"、間投詞 かんとうし には"-ä"がついた。
名詞 めいし
単数 たんすう
複数 ふくすう
主格 しゅかく
fat - 父 ちち が
fats - 父 ちち たちが
属 ぞく 格 かく
fata - 父 ちち の
fatas - 父 ちち たちの
与格 よかく
fate - 父 ちち に
fates - 父 ちち たちに
対格 たいかく
fati - 父 ちち を
fatis - 父 ちち たちを
呼 よび 格 かく
O fat! - 父 ちち よ
O fats! - 父 ちち たちよ
ドイツ語 ご と同様 どうよう 、ヴォラピュクの名詞 めいし は主格 しゅかく 、属 ぞく 格 かく 、与格 よかく 、対格 たいかく の変化 へんか をする。2つ以上 いじょう の単語 たんご が結合 けつごう した語 かたり の、最初 さいしょ の部分 ぶぶん には属 ぞく 格 かく を表 あらわ す語尾 ごび "-a"が付 つ き、2番目 ばんめ の部分 ぶぶん と分 わ かれる。例 たと えば、"Vola-pük"は属 ぞく 格 かく になったvolがpükとくっついている。
人称 にんしょう 代名詞 だいめいし
単数 たんすう
複数 ふくすう
1人 ひとり 称 しょう
ob - 私 わたし
obs - 私 わたし たち
2人 ふたり 称 しょう
ol - あなたor - あなた(尊敬 そんけい )
ols - あなたたちors - あなたたち(尊敬 そんけい )
3人称 にんしょう
om - 彼 かれ of - 彼女 かのじょ on - それ
oms - 彼 かれ らofs - 彼女 かのじょ らons - それら
再帰 さいき 代名詞 だいめいし ok - 自身 じしん がある。
一般 いっぱん 人称 にんしょう 代名詞 だいめいし oy - あるものがある。
1、2人 ふたり 称 しょう 代名詞 だいめいし og - 私 わたし 或 あるい はあなた、ogs - 私 わたし とあなたがある。
複数 ふくすう の人称 にんしょう 代名詞 だいめいし は単数 たんすう の人称 にんしょう 代名詞 だいめいし に"-s"をつけてつくった。1人 ひとり 称 しょう 単数 たんすう の"ob "(私 わたし )に"-s"をつけると1人称 にんしょう 複数 ふくすう の"obs "(私 わたし たち)になる。
動詞 どうし
動詞 どうし は、時制 じせい 、相 そう 、態 たい 、人称 にんしょう 、数 かず によって変化 へんか し、(3人称 にんしょう では)主格 しゅかく の性 せい によっても活用 かつよう した。
ヴォラピュクでは人称 にんしょう 代名詞 だいめいし を動詞 どうし の語尾 ごび に付 つ ければ、そのまま動詞 どうし の活用 かつよう 語尾 ごび になる。
単数 たんすう
複数 ふくすう
1人 ひとり 称 しょう
-ob - 私 わたし が〜する
-obs - 私 わたし たちが〜する
2人 ふたり 称 しょう
-ol - あなたが〜する
-ols - あなたたちが〜する
3人称 にんしょう
-om - 彼 かれ が〜する-of - 彼女 かのじょ が〜する-on - それが〜する
-oms - 彼 かれ らが〜する-ofs - 彼女 かのじょ らが〜する-ons - それらが〜する
能動態 のうどうたい の時制 じせい を表 あらわ すには、次 つぎ の字 じ を動詞 どうし の前 まえ につける。
過去 かこ
現在 げんざい
未来 みらい
未 み 完了 かんりょう
ä- - 過去 かこ
- - 現在 げんざい
o- - 未来 みらい
完了 かんりょう
i- - 過去 かこ 完了 かんりょう
e- - 現在 げんざい 完了 かんりょう
u- - 未来 みらい 完了 かんりょう
受動態 じゅどうたい の時制 じせい を表 あらわ すには、次 つぎ の字 じ を動詞 どうし の前 まえ につける。
過去 かこ
現在 げんざい
未来 みらい
未 み 完了 かんりょう
pä- - 過去 かこ
pa- - 現在 げんざい
po- - 未来 みらい
完了 かんりょう
pi- - 過去 かこ 完了 かんりょう
pe- - 現在 げんざい 完了 かんりょう
pu- - 未来 みらい 完了 かんりょう
形容詞 けいようし
形容詞 けいようし には接尾 せつび 辞 じ "-ik"がついて通常 つうじょう は名詞 めいし を修飾 しゅうしょく する。
形容詞 けいようし の比較 ひかく 級 きゅう は-ikumを付 つ けて表 あらわ す。
形容詞 けいようし の最上級 さいじょうきゅう は-ikünを付 つ けて表 あらわ す。
形容詞 けいようし は名詞 めいし の後 うし ろに付 つ いて修飾 しゅうしょく する。
副詞 ふくし
副詞 ふくし には接尾 せつび 辞 じ "-iko"がつき、動詞 どうし か形容詞 けいようし を修飾 しゅうしょく する。
副詞 ふくし の比較 ひかく 級 きゅう は-ikumoを付 つ けて表 あらわ す。
副詞 ふくし の最上級 さいじょうきゅう は-ikünoを付 つ けて表 あらわ す。
ヴォラピュクの副詞 ふくし にはオリジナルなものもある。
例文 れいぶん
以下 いか は「主 おも の祈 いの り 」のヴォラピュク訳 やく である。
O Fat obas, kel binol in süls, paisaludomöz nem ola!
Kömomöd monargän ola!
Jenomöz vil olik, äs in sül, i su tal!
Bodi obsik vädeliki govolös obes adelo!
E pardolös obes debis obsik,
äs id obs aipardobs debeles obas.
E no obis nindukolös in tendadi;
sod aidalivolös obis de bas.
Jenosöd!
用例 ようれい
フランス語 ふらんすご とエスペラント(フランス語 ふらんすご volapük に由来 ゆらい する)ではヴォラピュクが「不可解 ふかかい なことばの集合 しゅうごう 」や「ちんぷんかんぷん」の意味 いみ で使 つか われることがあったが[3] 、現代 げんだい では死語 しご となっている。
エスペラント界 かい ではヴォラピュクはけなされることが多 おお いが [要 よう 出典 しゅってん ] 、エスペラントの創案 そうあん 者 しゃ ザメンホフ は第 だい 1回 かい 世界 せかい エスペラント大会 たいかい の演説 えんぜつ でシュライヤーの功績 こうせき を称 とな えている。
脚注 きゃくちゅう
関連 かんれん 項目 こうもく
外部 がいぶ リンク