くる病びょう

くる病びょう（くるびょう、独どく: Rachitis、佝僂病くるびょう、痀瘻病びょう）とは、ビタミンD欠乏けつぼうや、何なんらかの代謝たいしゃ異常いじょうによって発症はっしょうした、骨ほねの石灰せっかい化か障害しょうがいである。典型てんけい的てきな病態びょうたいは乳幼児にゅうようじの骨格こっかく異常いじょうで、小児しょうに期きの病態びょうたいを「くる病びょう（rickets）」、骨ほね端はし線せん閉鎖へいさが完了かんりょうした後のちの病態びょうたいを「骨ほね軟化なんか症しょう（osteomalacia）」と呼よび、区別くべつする^[1]。語源ごげんはギリシャ語ごの背骨せぼねを意味いみする rhakhis に由来ゆらいする。

解説かいせつ

主おもに黒色こくしょく人種じんしゅが、日射にっしゃ量りょうの少すくない高緯度こういど地域ちいきに移住いじゅうした場合ばあいで、かつ、食品しょくひんからビタミンDの摂取せっしゅ量りょうが充分じゅうぶんではない場合ばあいに、低てい緯度いど地域ちいきとは異ことなり太陽たいようから受うける紫外線しがいせんの量りょうが相対そうたい的てきに不足ふそくし、皮膚ひふで充分じゅうぶんな量りょうのビタミンDが生成せいせいしない結果けっか、乳幼児にゅうようじにくる病びょうが発生はっせいし得うる^{[注釈ちゅうしゃく 1]}。紫外線しがいせんを美容びようのために避さける妊にん婦ふ、母親ははおや、その母親ははおやから母乳ぼにゅう栄養えいようを与あたえられる乳幼児にゅうようじ、紫外線しがいせんを皮膚ひふで吸収きゅうしゅうしやすい有色ゆうしょく人種じんしゅでも発生はっせいしやすい^[2]^[3]。また、ヒトだけでなく、イヌ・ネコ・ネズミ・トカゲなど若年じゃくねんの脊椎動物せきついどうぶつでも起おこり得える。

くる病びょうは17世紀せいきのイギリスで初はじめて報告ほうこくされた。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん前まえの日本にっぽんでは、背せむし（背せ虫ちゅう、傴僂せむし）とも呼よばれていたが、現代げんだいでは差別さべつ用語ようごとして認識にんしきされている^[4]。

くる病びょうを発症はっしょうした小児しょうには、骨ほね端はし部ぶ (epiphysis) 成長せいちょう板ばん (growth plate) 軟骨なんこつの骨ほね化か (endochondral ossification) 障害しょうがいを起おこし、見みた目めの変化へんかとして、脊椎せきついや四肢しし骨こつの弯曲や変形へんけいが起おこる。なお、骨ほねの成長せいちょうが終おわった後のちに発症はっしょうした同様どうようの病態びょうたいを、骨ほね軟化なんか症しょうと言いう。骨ほね軟化なんか症しょうは、骨粗鬆症こつそしょうしょうを合併がっぺいする可能かのう性せいも有ある。

ヒトにおける、くる病びょうも骨ほね軟化なんか症しょうも、その原因げんいんは幾いくつか考かんがえられる。例たとえば、ビタミンDの欠乏けつぼう^[5]^[6]、腎じん障害しょうがいや肝かん障害しょうがいなどに伴ともなうビタミンDの活性かっせい化か障害しょうがいのような^[7]、ビタミンDに関連かんれんした原因げんいんが挙あげられ、この場合ばあいには、活性かっせい化かされたビタミンDの不足ふそくにより、腸管ちょうかんからのカルシウムの吸収きゅうしゅう障害しょうがいが起おこり、くる病びょうや骨ほね軟化なんか症しょうの原因げんいんになり得える。また、手術しゅじゅつなどによって、消化しょうか管かんの大だい規模きぼな切除せつじょを行おこなった場合ばあいにも、カルシウムなどの吸収きゅうしゅう障害しょうがいが発生はっせいし、くる病びょうや骨ほね軟化なんか症しょうが起おこる場合ばあいもある^[6]。他たに、腎じん疾患しっかんにより、腎臓じんぞうで原はら尿にょうからのカルシウムの再さい吸収きゅうしゅうに障害しょうがいが起おき続つづけている場合ばあいなどのように、腎じん障害しょうがいが原因げんいんで、くる病びょうや骨ほね軟化なんか症しょうが続発ぞくはつする場合ばあいもある^[6]。このように、原因げんいんが異ことなる、くる病びょうや骨ほね軟化なんか症しょうが存在そんざいするため、その治療ちりょうは、原因げんいんに応おうじて適切てきせつに選択せんたくする必要ひつようがある。

原因げんいん

遺伝いでん性せい、後天こうてん性せい、薬剤やくざい性せいに大別たいべつできる。

遺伝いでん性せい

ビタミンD依存いぞん型がたくる病びょうI型がた・II型がた、低ていリン血ち症しょう性せいくる病びょうが有ある^[8]。

ビタミンD依存いぞん型がたくる病びょうI型がた・II型がた - 常つね染色せんしょく体たい劣性れっせい遺伝いでん形式けいしき
低ていリン血ち症しょう性せいくる病びょうは - X染色せんしょく体たい優性ゆうせい遺伝いでん

X染色せんしょく体たい異常いじょうによる低ていリン血ち症しょう性せい骨こつ軟化なんか症しょうが最もっとも多おおく^[9]、遺伝いでん性せいのファンコーニ症候群しょうこうぐんと呼よばれる。遺伝いでん性せいビタミンD依存いぞん性せいくる病びょうが複数ふくすうタイプ存在そんざいしている^[1]。

後天こうてん性せい

後天的こうてんてき要因よういんの典型てんけい的てきな原因げんいんは、不適切ふてきせつな食しょく習慣しゅうかんで、ビタミンDやカルシウムなどの摂取せっしゅ不足ふそくが起おきた場合ばあいである。なお、骨ほね塩しおの成分せいぶんの摂取せっしゅ不足ふそくは補おぎなえないものの、ビタミンDの場合ばあいは、皮膚ひふが紫外線しがいせんを受うけた事ことで補おぎなえる。ヒトの場合ばあい、プロビタミンD₃ (7-dehydrocholesterol) と波長はちょう290 nmから315 nmの紫外線しがいせんによって、皮膚ひふでビタミンDが生成せいせいする^{[注釈ちゅうしゃく 2]}。しかしながら、仮かりに皮膚ひふでビタミンDが生成せいせいしても、何なんらかの理由りゆうで肝臓かんぞうや腎臓じんぞうでのビタミンD活性かっせい化かが充分じゅうぶんに行おこなえなくなった場合ばあいには、この方法ほうほうでは補おぎなえない。他ほかにも、様々さまざまな要因よういんが有ある。

食しょく習慣しゅうかん（栄養えいよう型がた） - カルシウムの摂取せっしゅ不足ふそく。ビタミンDの摂取せっしゅ不足ふそく。
- 臨床りんしょう症状しょうじょうの発症はっしょうに至いたる場合ばあい、通常つうじょうは紫外線しがいせん（日光にっこう）への暴露ばくろおよびビタミンD摂取せっしゅが不充分ふじゅうぶんな状態じょうたいが同時どうじに起おきている。
吸収きゅうしゅう障害しょうがい
- 体内たいないでの活性かっせい化かされたビタミンDの不足ふそく以外いがいに、消化しょうか管かんに障害しょうがいを有ゆうするためにカルシウムなどを充分じゅうぶんに吸収きゅうしゅうできない事ことが原因げんいんの場合ばあいもある^[6]。
代謝たいしゃ異常いじょう^[10]による吸収きゅうしゅう低下ていかやリン酸さん排泄はいせつ量りょうの過剰かじょう、ビタミンD効果こうかへの抵抗ていこう性せい、
- 腎じん尿にょう細管さいかん疾患しっかん、低ていリン酸さん血ち症しょう^[11]、慢性まんせい代謝たいしゃアシドーシス、副ふく甲状腺こうじょうせん機能きのう亢進こうしん症しょう^[12]、ファンコーニ症候群しょうこうぐん
妊娠にんしん
- 妊にん婦ふは、胎児たいじへ骨ほね塩しおも供給きょうきゅうするために、骨ほね軟化なんか症しょうが起おこり得える^{[注釈ちゅうしゃく 3]}。
低てい出生しゅっしょう体重たいじゅう児じ - 1000 g以下いかの低てい出生しゅっしょう体重たいじゅう児じや1500 g以下いかの極小きょくしょう未熟みじゅく児じにおいても頻発ひんぱつする^[13]。
薬剤やくざい性せい
- 抗こうてんかん薬やくの副作用ふくさよう^[14]^[15]^[16]、抗こうB型がた肝炎かんえんウイルス薬やく^[17]、貧血ひんけつに対たいする鉄剤てつざい^[18]などで報告ほうこくされている。

症状しょうじょう

全ぜん年齢ねんれい層そうで、筋肉きんにく痛つう、筋力きんりょく低下ていか、骨ほねの痛いたみなどが起おきる可能かのう性せいがある。

骨ほね変形へんけい
- 頭部とうぶ - 頭蓋とうがい癆（頭蓋骨ずがいこつの軟化なんか）、大泉おおいずみ門もん解離かいり・閉鎖へいさ不全ふぜん
- 胸部きょうぶ - くる病びょう数珠じゅず（肋骨あばらぼねの骨ほね軟骨なんこつ結合けつごう部ぶの拡大かくだい）、漏斗ろうと胸むね、鳩胸はとむね
- 四肢しし - O脚あし、X脚あし
- 脊柱せきちゅう - 側がわ彎、前ぜん彎、後こう彎
- 歯は - エナメル質しつの形成けいせい不全ふぜん。
低ていカルシウム血ち症しょう
- 副ふく甲状腺こうじょうせん機能きのう亢進こうしん症しょう - 低ていカルシウム血ち症しょうを改善かいぜんすべく副ふく甲状腺こうじょうせんが活性かっせい化かし、骨ほねからのカルシウム動員どういんを盛さかんにする。放置ほうちすると骨ほね軟化なんか症しょうは悪化あっかする。
- テタニー - 低ていカルシウム血ち症しょうに伴ともなう痙攣けいれん。
- 筋すじ緊張きんちょう低下ていか - 筋肉きんにくの収縮しゅうしゅくにはカルシウムイオンが欠かかせない。

その他たに、低てい成長せいちょう、蛙かえる腹はら、不穏ふおんなどの症状しょうじょうを引ひき起おこす場合ばあいもある。

診断しんだん

触診しょくしん - 例れいを挙あげると、乳児にゅうじでは頭蓋骨ずがいこつ全体ぜんたいが軟化なんか（頭蓋とうがい癆）するため、後こう頭あたまおよび頭頂とうちょう骨こつ後方こうほうが柔やわらかく感かんじる。
血清けっせい中ちゅうの 25-ヒドロキシビタミン D 濃度のうどの測定そくてい^[19]。25OHD などとも略記りゃっきされる。検査けんさ法ほうによる差違さいも指摘してきされているが、日本にっぽん小児しょうに内分泌ないぶんぴつ学会がっかいによる『ビタミン D 欠乏けつぼう性せいくる病びょう・低ていカルシウム血ち症しょうの診断しんだんの手引てびき』では 25OHD が 20 ng/mL (50 nmol/L) 以下いかの場合ばあいを血清けっせい 25OHD 値ち低てい値ねとしている^[20]。

治療ちりょう

基本きほん的てきには、食事しょくじ指導しどうなども行おこなった上うえで、ビタミンD製剤せいざいと、カルシウム含有がんゆう製剤せいざいの投与とうよを行おこなう。ただし、乳幼児にゅうようじの場合ばあいは、22,000 (IU/日にち)を超こえるビタミンDの投与とうよは、危険きけん性せいが有あると指摘してきされている^[10]。また、ビタミンDの活性かっせい化か障害しょうがいが原因げんいんである場合ばあいには、体内たいないでの活性かっせい化かが不要ふような、活性かっせい型がたのビタミンDを投与とうよする必要ひつようがあるなど、原因げんいんによって治療ちりょう法ほうが異ことなる場合ばあいもある。

副作用ふくさよう

ビタミンD過剰かじょう症しょうとして、腎じん結石けっせき、高こうカルシウム血ち症しょう、高こうリン酸さん血ち症しょう
サルコイドーシス^[10]

後遺症こういしょう

骨粗鬆症こつそしょうしょう
1型がた糖尿とうにょう病びょう。乳児にゅうじ期きの一過いっか性せいの潜在せんざい性せいビタミンD欠乏症けつぼうしょうが、将来しょうらいの発症はっしょうリスクを3倍ばいに上昇じょうしょうさせるとする研究けんきゅうがある^[21]。

歴史れきし

1890年ねん（1892年ねん）に宣教師せんきょうし医師いしセオボールド・パームは、エディンバラ大学だいがくに北欧ほくおうの都市とし部ぶ、日本にっぽんや他たの熱帯ねったい諸国しょこくなどのくる病びょうの地域ちいき分布ぶんぷと日照ひでり量りょうの比較ひかくから、日光にっこうに当あたることで予防よぼうできるという報告ほうこくを行おこなった^[22]^[23]。1913年ねんにウィスコンシン大学だいがくのハリー・スティーンボック（英語えいご版ばん）やEdwin B. Hart（英語えいご版ばん）は、乳ちちしぼり用ようヤギの屋外おくがいと屋内おくないでの比較ひかくから日照ひでり量りょうが関係かんけいしているという確証かくしょうを得えた^[23]^[24]。

1919年ねん、ドイツの研究けんきゅう者しゃKurt Huldschinsky（英語えいご版ばん）は、人工じんこう的てきな紫外線しがいせんにより治療ちりょうを行おこなった^[23]。

栄養えいよう学がく的てきな研究けんきゅう

1824年ねん、D. Scheutteが、くる病びょう治療ちりょうにタラの肝油かんゆを与あたえて治療ちりょうを行おこなった^[25]。

1918年ねん、医師いしのエドワード・メランビー（英語えいご版ばん）は、屋内おくないで育そだてていた犬いぬがくる病びょうを起おこし、それをタラの肝油かんゆを与あたえて改善かいぜんすることを発見はっけんし、食料しょくりょうに起因きいんするものであると報告ほうこくした^[25]^[23]。この研究けんきゅうに興味きょうみを持もった、Elmer McCollum（英語えいご版ばん）とMarguerite Davis（英語えいご版ばん）は、1922年ねんに当初とうしょ改善かいぜんに効果こうかがあると考かんがえられたタラの肝油かんゆに含ふくまれるビタミンAではなく、改善かいぜんをもたらす栄養素えいようそにビタミンDと名前なまえを付つけ、ビタミンDがくる病びょうに効果こうかがあると報告ほうこくした^[23]^[25]。

日本にっぽんの歴史れきし

日本にっぽんにおいて、初はじめて系統的けいとうてきに調査ちょうさ・研究けんきゅうが行おこなわれるようになったのは、1906年ねんの富山とやま県けん氷見ひみ地方ちほうにおけるものであった^[3]。

2010年代ねんだいに入はいると乳児にゅうじや妊にん婦ふにビタミンD欠乏けつぼうから起おきるくる病びょうが多おおくみられるようになった。その理由りゆうとして、紫外線しがいせんによる皮膚ひふ癌がん発症はっしょうのリスク低減ていげんや美容びようを目的もくてきとして、過度かどに紫外線しがいせんを避さける生活せいかつ習慣しゅうかんが広ひろまったことが指摘してきされた^[21]。つまり、妊にん婦ふがビタミンD欠乏症けつぼうしょうであると、胎児たいじにも欠乏症けつぼうしょうが起おきる^[26]。

また、人工じんこう乳ちちを使用しようせずビタミンDが不足ふそくした母親ははおやから与あたえられる母乳ぼにゅうのみを利用りようした授乳じゅにゅう（完全かんぜん母乳ぼにゅう栄養えいよう）^[27]^[21]、アレルギー疾患しっかん対策たいさくとして不適切ふてきせつな除去じょきょ食しょく^[28]によって、ビタミンD摂取せっしゅ量りょうが不足ふそくする^[21]。また、未熟みじゅく児じを母乳ぼにゅうだけで育そだてた場合ばあいにも発生はっせいし易やすい^[13]。