ふきだし

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ふきだしのれい

ふきだし吹(き)噴出ふんしゅつ)は、おも漫画まんが登場とうじょう人物じんぶつセリフ表現ひょうげんするために、なかもうけられる空間くうかんのこと。「し」ともく。英語えいごでは"Speech balloon"という。

概要がいよう[編集へんしゅう]

通常つうじょう楕円だえんがた三角形さんかっけいがくっついたようなかたち1)をしており、楕円だえんがたなかセリフえがき、三角形さんかっけい尖端せんたん部分ぶぶん方向ほうこう人物じんぶつがそのセリフをはっしていることをあらわす。この三角形さんかっけい部分ぶぶんはツノやしっぽとばれている。

おもにふきだしはセリフをはっしている人物じんぶつちかいところに配置はいちされ、たてではみぎからひだりまれる。また、みやすくするために文節ぶんせつ改行かいぎょうされ、ながいセリフはふたつのふきだしにける工夫くふうがされている。

ふきだしのなかのセリフには句読点くとうてんはつけないのが普通ふつうであるが、疑問符ぎもんふ感嘆かんたんなどは頻繁ひんぱん使用しようされる。小学館しょうがくかんなど句読点くとうてん使用しようする出版しゅっぱんしゃ少数しょうすうながら存在そんざいする。

基本きほんてきに、日本語にほんごなどのたてきをする言語げんごではそれでかれることが大半たいはんだが、言語げんごでしゃべっていることあらわとうため併用へいようして横書よこがきが使用しようされるれいもある。

現代げんだい漫画まんがにとって「し」は不可欠ふかけつのものだが、黎明れいめい漫画まんがしより日本にっぽん美術びじゅつ絵画かいがなが歴史れきしっていた説明せつめいぶん(コマのよこえる物語ものがたりのプロットを説明せつめいする言葉ことば)のほうが圧倒的あっとうてきおお使つかわれていた[1]。しかし、ふきだしをもちいる西洋せいよう漫画まんが影響えいきょうけた4コマ漫画まんがただしチャンの冒険ぼうけん』(1923ねんアサヒグラフ)が日本にっぽんはじめてしをもちいた漫画まんがとされている[2]どう作品さくひん説明せつめいぶんからしにへわる過渡かとてき作品さくひんであり、説明せつめいぶん位置いちしにかれるセリフの言葉ことばなどの形式けいしき定着ていちゃくするまで試行錯誤しこうさくごかさねた。

また、日本にっぽん新聞しんぶんもっとはやあらわれたしのみをもちいる連載れんさい漫画まんがは『のんきなとうさん』(1923ねん報知ほうち新聞しんぶん)である。

ふきだしの種類しゅるい[編集へんしゅう]

楕円だえんがた1)のふきだしは一般いっぱんてき発話はつわ日常にちじょう会話かいわあらわす。まわりを楕円だえんがたでなくギザギザにする(2)と大声おおごえはなしていることや力強ちからづよ印象いんしょうあらわし、楕円だえんがた点線てんせんえがいたり、ちいさくえがいたりすると小声こごえやかすれごえはなしていることをあらわし、長方形ちょうほうけいにすると読者どくしゃへの説明せつめいやナレーションなど俯瞰ふかんてきなものをあらわす。ツノが二股ふたまたになっていると二重唱にじゅうしょうはなしていることになる。

楕円だえんがたわりに雲形くもがた空間くうかんつくって、三角形さんかっけいわりに連続れんぞくするちいさな楕円だえん使つかう(3)と、ちいさな楕円だえんかうさきにいる人物じんぶつ雲形くもがた空間くうかんはいっているセリフをしんなかおもっていることをあらわす(場面ばめんによっては小声こごえはなしていることをあらわ場合ばあいもある)。このふきだしをしばしば、モノローグということもある。角張かくばったふきだし(4)は冷淡れいたん抑揚よくようのない印象いんしょうあらわし、テレビや電話でんわなどからこえるこえコンピューターによるこえなどを意味いみする。また外国がいこくはなしていることを形式けいしきてき表現ひょうげんする(昭和しょうわごろはあわせて、せりふ部分ぶぶん漢字かんじカタカナじりで表記ひょうきするれいがみられた)こともあり、ふきだしの付加ふかする意味いみ漫画まんが文脈ぶんみゃくとも密接みっせつかかわっている。

作者さくしゃごとのスタイル[編集へんしゅう]

ひだり:手塚てづかスタイル、みぎ:長谷川はせがわスタイル

基本きほんの“セリフ”を意味いみするふきだしにかぎっても、その形状けいじょう漫画まんがによってかなりことなる。また、おな作家さっかでも時期じきによる変化へんかもあれば、作品さくひんによってえている場合ばあいもある。ここで図示ずししたのは日本にっぽん代表だいひょうする漫画まんがれいで、ひだり手塚てづか治虫おさむの、みぎ長谷川はせがわ町子まちこ使つかっていたふきだしのいちれいである。手塚てづか自身じしん日記にっきなかで、これはかれ以前いぜん作家さっか使つかっていた形状けいじょう由来ゆらいする、といている。

使用しようされる書体しょたい[編集へんしゅう]

アンチゴチのれい

商業しょうぎょうベースの漫画まんがにおいては、ふきだしないのセリフは種類しゅるい書体しょたいこんうえぜて使用しよう)されている。漢字かんじゴシックたいかなアンチックたい(antique=アンティークの)となっている(これをアンチゴチという)。日本にっぽん漫画まんが発展はってんなかで、可読かどくせい追求ついきゅうにより開発かいはつされてきた方法ほうほうえる。たいていの商業しょうぎょう使用しようされているゴシックたいは、主流しゅりゅうしんなどのモダンサンセリフではなく、ふでうごきをかんじさせる古風こふうな、しかしいた意匠いしょう書体しょたいである。これは石井いしいゴシックたいばれる書体しょたいで、写植しゃしょくメーカー大手おおてうつしけん創業そうぎょうしゃ石井いしい茂吉しげよしこしたもので、つねにスタンダードとして使つかわれており、うつしけん以外いがいのシステムを使つか場合ばあいにも雰囲気ふんいき書体しょたいえらばれることがおおい。出版しゅっぱんしゃによってはおな写植しゃしょくメーカーのモリサワ書体しょたい使用しようしている場合ばあいもある(講談社こうだんしゃなど)。

ネーム自力じりきつくっているような同人どうじんなどで、ワープロ専用せんようワープロソフトなどでこんうえ技術ぎじゅつてき困難こんなん場合ばあいすべてが明朝体みんちょうたいになっていたりもしたため、こんうえについてらない人間にんげんでもここから「同人どうじんっぽい」という印象いんしょうけることがある。21世紀せいき以降いこうパソコン社会しゃかいてき普及ふきゅうにより、ワープロソフト・あるいは漫画まんが製作せいさく支援しえんソフトをもちいることで、商業しょうぎょうちかかた容易よういになってきている。そういった需要じゅようまえて、一般いっぱんユーザーけにアンチックたい販売はんばいえてきているが、こんうええておこなわずともゴシックとアンチックをわせた「コミックフォント」というかたちでのフォント製品せいひん販売はんばい配布はいふされている。

また、ふきだしのなか文字もじ不気味ぶきみ書体しょたいしるしたいなど)であれば、こわ内容ないようしゃべっている・幽霊ゆうれい妖怪ようかいなどのちょうつねてき存在そんざいかたっているという表現ひょうげんになったり、かすれた文字もじにするとのどがしわがれた状態じょうたい老人ろうじんかたっていることあらわしたりと、書体しょたいちがいによる表現ひょうげん平成へいせい以降いこう一般いっぱんてきとなっている。商業しょうぎょうでこういった特殊とくしゅ表現ひょうげんこのんでもちいられる「ボカッシィ」や「イナクズレ」といった、独創どくそうてき書体しょたいおおくはうつしけんシステム専用せんようで、ほとんどはMacintoshベースのDTPでは現在げんざいのところ使用しようできない。うつしけん通常つうじょう500まんえん以上いじょうするため、パソコンとフォントのわせなどとちがって「漫画まんがのために個人こじん導入どうにゅうする」ことはかんがえづらい(写植しゃしょく会社かいしゃ発注はっちゅうする方法ほうほうもある)。

漫画まんがによっては印刷いんさつ書体しょたい手書てがきを使つかけたり、場合ばあいによっては全部ぜんぶセリフが手書てがきというケースもある。

ふきだしと翻訳ほんやく[編集へんしゅう]

アメコミ作品さくひんにおけるしの使用しようれい
(エース・コミックスが 1952ねん11月28にち刊行かんこうした"Atomic War!" #1の2コマより)

以上いじょう解説かいせつおも日本語にほんごけんにおけるふきだしの解説かいせつであるが、ふきだしのルールは地域ちいきによって若干じゃっかんことなり、漫画まんが国際こくさいてき流通りゅうつうさかんとなった21世紀せいき以降いこう翻訳ほんやくさいおおきな障壁しょうへきとなることがある。

アメコミをはじめ、英語えいごけんではふきだしを独立どくりつしてえがかず、コマの余白よはくか、コマのわくせん部分ぶぶんてき使つかったふきだしにセリフを独特どくとく手書てが文字もじえがくことがおおい。これを翻訳ほんやくして文字もじなおすことはさほど困難こんなん作業さぎょうではないが、一方いっぽう日本にっぽん漫画まんが英語えいご翻訳ほんやくするさいには、いくつかの障壁しょうへき存在そんざいする。だいいちに、たてきと横書よこがきでかたぎゃくになるため、コマの順番じゅんばんわる。このことについては原稿げんこうかがみぞうにしたり、いちコマずつはなしてさい構成こうせいしたうえで翻訳ほんやくし、かがみ文字もじになる擬音ぎおんなどのえが文字もじ強引ごういん修正しゅうせいする方法ほうほうひろくとられてきたが、近年きんねんでは原作げんさく尊重そんちょうするうごきから、あえてそのままの原稿げんこう横書よこがきに翻訳ほんやくし、すすめる方向ほうこう読者どくしゃ指示しじする解説かいせつページを最終さいしゅうページ(つまり現地げんち読者どくしゃにとって最初さいしょのページだとおもわれがちな部分ぶぶん)にえる編集へんしゅうスタイルがられるようになった。複雑ふくざつ配置はいちされたふきだしも、もと意図いと尊重そんちょうした翻訳ほんやくをすることができる。また、手書てが文字もじはある程度ていどのこされ、欄外らんがい注釈ちゅうしゃくえられる。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ じょ えん 「新聞しんぶん連載れんさいども漫画まんが表現ひょうげん形式けいしき変遷へんせん今日きょう表現ひょうげん形式けいしきはいかにして成立せいりつしたか―」『評論ひょうろん社会しゃかい科学かがく 89ごう』pp.111-pp.137 (どう支社ししゃ大学だいがく社会しゃかい学会がっかい 2009)
  2. ^ 日外にちがいアソシエーツ発行はっこう漫画まんが家人かじんめい事典じてん』(2003ねん2がつISBN 9784816917608、P89-90