エミリー・ブロンテ

兄あにのブランウェルが描えがいたブロンテ姉妹しまいの肖像しょうぞう画がの中なかのエミリー・ブロンテ

エミリー・ジェーン・ブロンテ（Emily Jane Brontë、1818年ねん7月がつ30日にち - 1848年ねん12月19日にち）は、イギリスの小説しょうせつ家か。ヨークシャーのソーントンに牧師ぼくしパトリック・ブロンテの子ことして生うまれた。ブロンテ三さん姉妹しまいの一人ひとりとして知しられる（実際じっさいは兄あにブランウェルも著作ちょさくがある）。エリス・ベルのペンネームで、唯一ゆいいつの長編ちょうへん小説しょうせつ『嵐あらしが丘おか』（1847年ねん）を出版しゅっぱんした。この作品さくひんは当初とうしょ酷評こくひょうされたが、没後ぼつごに評価ひょうかが高たかまった。

生涯しょうがい

1818年ねん7月がつ30日にち、イギリスのヨークシャーのソーントンの牧師ぼくし館かんに、牧師ぼくしパトリック・ブロンテとマリア・ブランウェルの間あいだに、マリア、エリザベス、シャーロット、ブランウェルに続つづく第だい五ご子し、四よん女じょとして生うまれた。1820年ねんに妹いもうとのアンが生うまれている。

1820年ねん、一家いっかはハワースに移うつり住すみ、翌年よくねん母ははマリアが病没びょうぼつ。1824年ねん、姉あね3人にんがランカシャーのカウアン・ブリッジ校こうに入はいったため、11月の終おわりにエミリーもここに入学にゅうがくした。だがこの学校がっこうは低地ていちにあり非常ひじょうに不衛生ふえいせいで、マリアは翌年よくねん5月がつ、肺結核はいけっかくで死亡しぼうし、さらに1ヶ月かげつ後ごの6月がつにはエリザベスもやはり肺結核はいけっかくで後のちを追おうように亡なくなる。長女ちょうじょと次女じじょが十じゅう歳さい余あまりで死亡しぼうし、エミリーは事実じじつ上じょう次女じじょとなった。二人ふたりの死しを受うけ、シャーロットとエミリーは急遽きゅうきょ帰宅きたくすることになる。牧師ぼくし館かんでは家事かじを任まかされ、一ひとつ年下とししたのアンと協力きょうりょくした。

1826年ねんに父ちちがブランウェルに、所用しょようで出でかけたリーズの土産みやげに兵隊へいたいなどの1ダースのおもちゃを贈おくり、子供こどもたちは「もの書かきゲーム」をして遊あそぶようになり、「若者わかものたち」「島しまの人々ひとびと」という空想くうそう世界せかい（パラコズム）を作つくり、これがブロンテきょうだいのシェアード・ワールドのファンタジー世界せかい「グラス・タウン」へと発展はってんした。

ゴンダルの詩しが書かかれたエミリーの原稿げんこう

1831年ねんよりシャーロットがロウ・ヘッド校こうで学まなぶようになり、エミリーとアンは、シャーロットが帰かえる度たびに教おしえを受うけた。

シャーロットが家いえから出でたことで、きょうだいの空想くうそう世界せかいは、シャーロットとブラウンウェルの「アングリア」と、エミリーとアンの「ゴンダル」に分裂ぶんれつした（エミリー13歳さい）。それまできょうだいの遊あそびのリーダーはシャーロットで、エミリーは姉あねの影響えいきょう下かを逃のがれたゴンダルで、自由じゆうに自分じぶんの世界せかいを展開てんかいすることができ、主導しゅどう的てきに創作そうさく活動かつどうを進すすめ、想像そうぞう力りょくに磨みがきをかけた。ゴンダルは詩しと散文さんぶんから成なる物語ものがたり世界せかいで、二ふたつの島しまを舞台ぶたいに、恋愛れんあいと戦争せんそうの物語ものがたりを描えがいた。1836年ねん、17歳さいで詩しを書かき始はじめたと考かんがえられている。

シャーロットが私塾しじゅくで教師きょうしに採用さいようされ、エミリーは17歳さいでそこの生徒せいととなるが、3か月げつ後ご、アンと入いれ替かわりにハワースへ帰かえった。

ブロンテ家かにはさほど貯たくわえもなく、きょうだいは自分じぶんの生活せいかつ費ひを稼かせぐ必要ひつようがあった。当時とうじ、知的ちてき女性じょせいが就つける職業しょくぎょうは限かぎられ、教師きょうしやガヴァネス（家庭かてい教師きょうし）くらいであったが、ガヴァネスの仕事しごとは過酷かこくで、召使めしつかい同然どうぜんの扱あつかいを受うけるのが普通ふつうであり、きょうだいは四よん人にんともガヴァネスとして辛酸しんさんを舐なめている。1838年ねん、ハリファクス近郊きんこうのローヒルで教師きょうしを勤つとめるが、長時間ちょうじかん労働ろうどうに苦くるしみ半年はんとしでやめる。私塾しじゅくを開ひらくことを計画けいかくし、1842年ねんには、姉あねのシャーロットと共ともにベルギーのブリュッセルのエジェ寄宿きしゅく学校がっこうへ留学りゅうがく、半年はんとし後ごシャーロットを残のこして帰国きこくする。1844年ねん、姉あねが帰国きこくすると私塾しじゅくを開ひらこうとしたが、片田舎かたいなかで生徒せいとが集あつまらず、失敗しっぱいに終おわった。

その秋あきに、シャーロットはエミリーの詩し稿こうを発見はっけんし、「普通ふつう、女性じょせいが書かく詩しとはまったく違ちがっているという深ふかい確信かくしん」を持もち、自分じぶんとエミリー、アンで詩集ししゅうを出版しゅっぱんしないかと持もち掛かけた。エミリーは完全かんぜんに秘密ひみつ主義しゅぎ者しゃで、シャーロットと違ちがって詩しを出版しゅっぱんしようと思おもっておらず、詩しを盗ぬすみ見みされ激怒げきどしたが、シャーロットの根気こんき強つよい説得せっとくに応おうじ、しぶしぶ詩しの出版しゅっぱんに同意どういし、『カラー、エリス、アクトン・ベルの詩集ししゅう』（1846年ねん）として自費じひ出版しゅっぱんされた。エミリーが出版しゅっぱんに妥協だきょうしたのは、ブロンテ家かの経済けいざい的てき問題もんだいがあったことがうかがわれる。当時とうじの女性じょせい作家さっかへの偏見へんけんから、「エリス・ベル」という男性だんせい風ふうの筆名ひつめいを使用しようして出版しゅっぱんした。これはまったく売うれずに終おわった。同年どうねん10月がつに、アンがゴンダルから手てを引ひいているが、エミリーは生涯しょうがいゴンダルの創作そうさくを続つづけた。

『嵐あらしが丘おか』初版しょはんのタイトルページ

シャーロットの説得せっとくを受うけて、小説しょうせつ『嵐あらしが丘おか』を執筆しっぴつ。出版しゅっぱん社しゃに引ひき取とってはもらえたものの、出版しゅっぱんには1年ねんほどかかり、その間あいだは父ちちの看病かんびょうをしたり詩しを書かいたりした。1847年ねん、『嵐あらしが丘おか』はアンの『アグネス・グレイ』とともに1847年ねんに刊行かんこうされたが、評価ひょうかは厳きびしく、それより姉あねの『ジェーン・エア』のほうがよく注目ちゅうもくされた。『嵐あらしが丘おか』の評価ひょうかが高たかまったのは、彼女かのじょの没後ぼつごのことであった。

1848年ねん9月がつ、ブランウェルが過度かどの飲酒いんしゅがもとで急死きゅうし。その葬儀そうぎの際さいに風邪かぜをひき、これがもとで結核けっかくを患わずらった。しかし、エミリーは自分じぶんが結核けっかくであることを認みとめようとせず、最後さいごまで医者いしゃを拒こばみ続つづけ、12月19日にちに30歳さいで死去しきょした。墓所はかしょはハワースの聖ひじりマイケル教会きょうかいの地下ちか納骨のうこつ堂どう。

作品さくひん

詩し

1836年ねん頃ごろから詩しを書かき始はじめた。1846年ねんに姉妹しまいとともにペンネームで『カラー、エリス、アクトン・ベルの詩集ししゅう』出版しゅっぱんし、これも全まったく売うれなかったが、現在げんざいは後期こうきロマン派はの詩人しじんとしても評価ひょうかが高たかい。

エミリーがアンとともに書かいていた日誌にっしは楽天的らくてんてきな調子ちょうしだが、詩しは対照たいしょう的てきに陰鬱いんうつなもので、その多おおくは、大西おおにし洋上ようじょうにある架空かくうの島しまゴンダルとガールダインでの政争せいそうや恋愛れんあいを描えがいた「ゴンダル物語ものがたり」に属ぞくする詩しであることが分わかっている。ゴンダルの世界せかいはアンとのシェアード・ワールドだが、創作そうさくはエミリーが主導しゅどうし、アンが付つき合あう形かたちだったようである。ゴンダル物語ものがたりの散文さんぶん小説しょうせつは現存げんそんしておらず、この世界せかいを舞台ぶたいにした詩しが残のこされている（いわゆる「ゴンダル詩し」）。

「ゴンダル詩し」以外いがいで有名ゆうめいなものに、「私わたしの魂たましいは怯懦きょうだ(きょうだ)ではない(No Coward Soul is Mine)」などがある。姉あねの権威けんいによってシャーロットによる書かき直なおしがあるという。

詩作しさく全体ぜんたいからは、厭世えんせい主義しゅぎから克己こっき主義しゅぎ、そして神かみに対たいする確信かくしんに至いたるまでの、魂たましいの軌跡きせきを見みることができる。

• カラー、エリス、アクトン・ベルの詩集ししゅう（1846年ねん、Poems by Currer, Ellis and Acton Bell）
• 『詩集ししゅう　ブロンテ全集ぜんしゅう10』 森もり松まつ健介けんすけほか訳やく（みすず書房しょぼう）- 全ぜん12巻かん（ブロンテ一家かずやの作品さくひんを集あつめた）

小説しょうせつ

• 嵐あらしが丘おか（1847年ねん、Wuthering Heights）- ※下記かき以外いがいはリンク先さき参照さんしょう
  • 『ブロンテ全集ぜんしゅう7』 中岡なかおか洋ひろし・芦澤あしざわ久江ひさえ訳やく（みすず書房しょぼう）

  また若わかき日ひに書かかれた『ブロンテ姉妹しまいエッセイ全集ぜんしゅう　ベルジャン・エッセイズ』（彩いろどり流りゅう社しゃ）がある

参考さんこう文献ぶんけん

• 芦澤あしざわ久江ひさえ「エミリ・ブロンテの詩しについて」『言語げんご文化ぶんか』第だい19巻かん、明治学院大学めいじがくいんだいがく言語げんご文化ぶんか研究所けんきゅうじょ、2002年ねん3月がつ、35-43頁ぺーじ、NAID 40005510575。 

関連かんれん項目こうもく

• エミリー・ブロンテ (小惑星しょうわくせい)

外部がいぶリンク

• 日本にっぽんブロンテ協会きょうかい
• A Hyper-Concordance to the Works of the Brontë Sisters（英語えいご）