カーゾン線せん

カーゾン線せん（カーゾンせん、英語えいご: Curzon Line）は、第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん後ご、イギリスの外務がいむ大臣だいじんジョージ・カーゾン卿きょうによって提唱ていしょうされた、ポーランドとソビエト・ロシアの境界きょうかい線せんのことである。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごのポーランドの東部とうぶ国境こっきょうは、ほぼこの線せんの位置いちにある。

概要がいよう[編集へんしゅう]

第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん後ご、戦勝せんしょう国こくは、ドイツ帝国ていこく、ソビエト連邦れんぽう、およびオーストリア・ハンガリー二に重じゅう帝国ていこくの領域りょういき内ないに独立どくりつしたポーランド国家こっかを樹立じゅりつすることを合意ごういしたが、ポーランドの東方とうほうはポーランド人じん、ウクライナ人じん、ベラルーシ人じん、リトアニア人じん、ユダヤ人じんが多おおく住すむ混こん住じゅう地域ちいきであり、国境こっきょうの画定かくていは難航なんこうした。ヴェルサイユ条約じょうやくではポーランド東部とうぶ国境こっきょうは「後日ごじつ決定けっていする」とされた。

1919年ねんにイギリスの外務がいむ大臣だいじんジョージ・カーゾン卿きょうによってポーランドとソビエト・ロシアの東部とうぶ国境こっきょう線せんの案あんが提唱ていしょうされた。これがカーゾン線せんである。カーゾン線せんは、イギリスがかつて承認しょうにんした、第だい三さん次じポーランド分割ぶんかつ後ごのプロイセンとロシアの境界きょうかいに近ちかいものであった。カーゾンの案あんにはA案あんとB案あんがあり、B案あんではリヴィウをポーランド領りょうとする案あんになっていた^[1]。またこれはカーゾンの意図いとしないことだったが、この線せんの西側にしがわはローマ・カトリックを信仰しんこうするポーランド人じんが多数たすう派はを占しめ、一方いっぽうこの線せんの東側ひがしがわではポーランド人じん以外いがいの住民じゅうみんが半数はんすうを上回うわまわり正教会せいきょうかいが主おもに信仰しんこうされる地域ちいきとなっていた。

提唱ていしょうされた時点じてんにおいては、関係かんけい国こく間あいだの対立たいりつによって受うけ入いれられなかった。特とくにポーランドは分割ぶんかつ以前いぜんの領土りょうど回復かいふくを主張しゅちょうしてカーゾン線せんの受うけ入いれを拒否きょひし、ソビエト・ロシアとの間あいだで武力ぶりょく衝突しょうとつが発生はっせいした（ポーランド・ソビエト戦争せんそう）。1921年ねんにリガにおいて結むすばれた講和こうわ条約じょうやくでは、ポーランドの軍事ぐんじ的てき勝利しょうりもあって、カーゾン線せんより200km東ひがしにポーランドの東部とうぶ国境こっきょうが制定せいていされた。

その後ご[編集へんしゅう]

しかし、カーゾン線せんはソビエト・ロシアにとって意味いみを持もつようになり、1939年ねんのナチス・ドイツとソビエト間あいだの秘密ひみつ協定きょうてい・モロトフ＝リッベントロップ協定きょうていでは、ポーランドの分割ぶんかつ占領せんりょう線せんと規定きていされ、同年どうねんにポーランドは両国りょうこくによって、北部ほくぶを除のぞきほぼこの線せんで分割ぶんかつ占領せんりょうされた。またヨシフ・スターリンは、テヘラン会談かいだんなど連合れんごう国こくとの協議きょうぎにおいても、カーゾン線せんを境界きょうかいとすることを主張しゅちょうし、連合れんごう国こく首脳しゅのうに承認しょうにんされた。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごのポーランドの東部とうぶ国境こっきょうは、大体だいたいカーゾン線せんの位置いちにある。

カーゾン線せんの東側ひがしがわでは、1939年ねんのソ連それんによる占領せんりょうの時点じてんで、地域ちいき人口じんこう1,300万まん人にんのうちポーランド人じんは500万まんから600万まんに達たっしたが、うち数すう十じゅう万まん人にんがソ連それんにより中央ちゅうおうアジアに強制きょうせい移送いそうされた。また100万まん人にん以上いじょういたユダヤ人じんの多おおくが、ソ連それんによる迫害はくがいやドイツ軍ぐん侵入しんにゅうにより逃亡とうぼうするか殺害さつがいされた。1945年ねん以後いごはカーゾン線せんの東ひがしに住すんでいたポーランド人じんの多おおくはポーランドに移住いじゅうし、ポーランドがドイツから得えたオーデル・ナイセ線せん東部とうぶの新しん領土りょうど（「回復かいふく領りょう」。旧きゅうドイツ領りょうのポメラニアやシレジア、東ひがしプロイセン南部なんぶ）に定住ていじゅうしたが、現在げんざいでもベラルーシに50万まん人にん近ちかく、ウクライナに15万まん人にんほど、ロシアに10万まん人にん以上いじょうのポーランド人じんが居住きょじゅうしている。カーゾン線せんの西側にしがわにも農村のうそん地帯ちたいなどにウクライナ人じんやベラルーシ人じんが多おおく住すむ地域ちいきが点在てんざいしていたが、これらの民族みんぞくも第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ご、ポーランド政府せいふによる「ヴィスワ作戦さくせん」などで、ソ連それん国境こっきょうから遠とおい旧きゅうドイツ領りょう（回復かいふく領りょう）に強制きょうせい移住いじゅうさせられている。