ジャンゴ・ラインハルト

ジャンゴ・ラインハルト Django Reinhardt
ジャンゴ・ラインハルト（1946年ねん）
基本きほん情報じょうほう
出生しゅっしょう名めい	Jean Baptiste Reinhardt
生誕せいたん	1910年ねん1月がつ23日にち
出身しゅっしん地ち	ベルギー リベルシー
死没しぼつ	(1953-05-16) 1953年ねん5月16日にち（43歳さい没ぼつ）
ジャンル	ジャズ ロマ音楽おんがく ジプシー・スウィング（マヌーシュ・スウィング）
職業しょくぎょう	ギタリスト 作曲さっきょく家か
担当たんとう楽器がっき	ギター バンジョー
活動かつどう期間きかん	1928年ねん - 1953年ねん
共同きょうどう作業さぎょう者しゃ	ステファン・グラッペリ フランス・ホット・クラブ五ご重奏じゅうそう団だん
著名ちょめい使用しよう楽器がっき
セルマー・ギター

ジャンゴ・ラインハルト (Django Reinhardt、1910年ねん1月がつ23日にち - 1953年ねん5月16日にち)は、ベルギーのギタリスト。英語えいご読よみで、ジャンゴ・レナルトとも表記ひょうきされる。

ロマ音楽おんがくとスウィング・ジャズを融合ゆうごうさせたジプシー・スウィング（マヌーシュ・スウィング）の創始そうし者しゃとして知しられる。また、しばしば「ヨーロッパ初はつの偉大いだいなジャズ・ミュージシャン」とも評ひょうされる。短みじかい生涯しょうがいの中なかで後世こうせいのミュージシャンに多大ただいな影響えいきょうを与あたえる多おおくの傑作けっさくを発表はっぴょうした。

女性じょせい歌手かしゅ・ギタリストのドッチー・ラインハルトは遠縁とおえんにあたる。

来歴らいれき

生おい立たち

出生しゅっしょう届とどけに書かかれたフルネームはジャン・バティスト・ラインハルト（Jean Baptiste Reinhardt）。「ジャンゴ」というニックネームは、ロマ語ごで「私わたしは目覚めざめる」という意味いみ。両親りょうしんはロマの旅芸人たびげいにんの一座いちざにおり、ベルギーのリベルシーに滞在たいざいしていた時ときにジャンゴが生うまれた。

幼少ようしょうの頃ころから家族かぞくと共ともにヨーロッパ各地かくちを旅たびして過すごし、ギターやヴァイオリンの演奏えんそうを身みにつけて育そだった。1920年ねんからは、主おもにフランス・パリ周辺しゅうへんで生活せいかつするようになる。

10代前半ぜんはんよりパリのダンスホールで音楽おんがく活動かつどうを始はじめる。この頃ころは主おもにバンジョーを弾ひいていた。ジャンゴ自身じしんによると、1926年ねんに行いった歌手かしゅの伴奏ばんそうが初はつのレコーディングということである。1926年ねんにビリー・アーノルドのバンドの演奏えんそうを聴きいて、ジャンゴはジャズに傾倒けいとうするようになった。

1928年ねん - 1945年ねん

1928年ねんになると、ジャンゴはフランス・グラモフォンやIdeal等とうのレーベルでレコーディングを行おこなうようになる。しかし、この年としの10月26日にち未明みめい、ジャンゴはキャラバンの火事かじを消けそうとして、半身はんしんに大だいやけどを負おう。その結果けっか、彼かれの右足みぎあしは麻痺まひし、左手ひだりての薬指くすりゆびと小指こゆびには障害しょうがいが残のこった。彼かれを診察しんさつした医師いしがギターの演奏えんそうは二度にどと無理むりだと思おもうほどの怪我けがであったが、ジャンゴは練習れんしゅうによって独自どくじの奏法そうほうを確立かくりつし、ハンディキャップを克服こくふくした。

1931年ねん、後のちに盟友めいゆうとなるフランス人じんヴァイオリニスト、ステファン・グラッペリと出会であう。1934年ねんにはグラッペリらと共ともに、弦楽器げんがっきのみで構成こうせいされるバンド、フランス・ホット・クラブ五ご重奏じゅうそう団だんを結成けっせい。1935年ねんには、フランスを訪おとずれていたコールマン・ホーキンスと共演きょうえん。同年どうねんの夏なつから、ジャンゴのトレード・マークとして知しられるセルマー・ギターを使つかい始はじめる。

1936年ねん秋あきから冬ふゆにかけて、ジャンゴはかつてのような放浪ほうろう生活せいかつを懐なつかしむようになり、フランス・ホット・クラブ五ご重奏じゅうそう団だんの公演こうえんをすっぽかしたこともあった。1937年ねん、CBSのラジオ番組ばんぐみ『サタデイ・ナイト・スウィング・クラブ』を通つうじて、フランス・ホット・クラブ五ご重奏じゅうそう団だんの演奏えんそうがイギリスやアメリカでも放送ほうそうされたが、司会しかいのエドワード・R・マローが、ジャンゴとステファンが共きょう作さくした「ジャンゴロジー」をステファン・グラッペリ作曲さっきょくと紹介しょうかいしてしまい、激怒げきどしたジャンゴが演奏えんそうを拒否きょひしようとしたというハプニングもあった。1938年ねんには初はつのイギリス公演こうえんを行おこなう。

1939年ねん夏なつに行おこなわれたイギリス・ツアーの最中さいちゅうに第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんが勃発ぼっぱつ。ジャンゴらは残のこりの公演こうえんをキャンセルして9月がつ初頭しょとうにフランスへ戻もどるが、ステファン・グラッペリはロンドンに残のこることを決意けついし、フランス・ホット・クラブ五ご重奏じゅうそう団だんは解散かいさん。ジャンゴとステファンは1946年ねんに至いたるまで袂たもとを分わかつこととなった。

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんでフランスがナチス・ドイツに占領せんりょうされてからも、ジャンゴは音楽おんがく活動かつどうを続つづけた。1940年ねん12月13日にちに録音ろくおんされた自作じさく曲きょく「Nuages」は、10万まん枚まい以上いじょうを売うり上あげる大だいヒット曲きょくとなる。エマニュエル・スデュー（1938年ねんよりジャンゴと活動かつどうを共ともにしたベーシスト）は、2003年ねんに行おこなわれたマイケル・ドレーニによるインタビューにおいて、「ヌアージュ」は「占領せんりょう下かのフランスでは即席そくせきのフランス賛歌さんかのように人々ひとびとに愛あいされた」と回想かいそうしている。

1942年ねん、ジャンゴはモーリス・ラヴェルやクロード・ドビュッシーに影響えいきょうを受うけ、交響曲こうきょうきょく「Manoir de Mes Rêves」を作曲さっきょくするが、ABC劇場げきじょうの指揮しき者しゃから難色なんしょくを示しめされ、オーケストラ演奏えんそうはされずじまいとなる。翌年よくねん2月がつ、ジャンゴは同どう曲きょくのメロディを抜粋ばっすいしてジャズ・アレンジでの録音ろくおんを行おこなった。

1946年ねん - 1953年ねん

ジャンゴ・ラインハルトの銘板めいばん（フランス、セーヌ＝エ＝マルヌ県けん）

1946年ねん1月がつ、ジャンゴはイギリスに渡わたり、再ふたたびステファン・グラッペリと共演きょうえんする。同年どうねん、ジャンゴはデューク・エリントンに招まねかれて、初はつのアメリカ・ツアーを行おこなった。11月4日にちにエリントンと初はつのリハーサルを行おこなった際さい、エリントンの「1曲きょく目めのキーは何なににする?」という質問しつもんに対たいし、ジャンゴは「キーなんてない」と答こたえてエリントンを戸惑とまどわせたが、見事みごとにエリントンの演奏えんそうについていったという。また、11月24日にちにカーネギー・ホールで行おこなわれたエリントンとの共演きょうえんコンサートでは、ジャンゴが大幅おおはばに遅刻ちこくしてしまい、エリントンはジャンゴが出演しゅつえんできなくなったとアナウンスしたが、終演しゅうえんぎりぎりにジャンゴが到着とうちゃくしたというエピソードがある。エリントンと共ともに行いったツアーのうち、シカゴ公演こうえんでの共演きょうえんは録音ろくおんも残のこされている。

1949年ねん初頭しょとう、盟友めいゆうステファン・グラッペリと共ともにローマに渡わたり、現地げんちのミュージシャンと共ともにクラブで演奏えんそう。この時ときの録音ろくおんは、1961年ねんに『ジャンゴロジー』というLPにまとめられた。同どう作さくは、録音ろくおん状態じょうたいは悪わるいながらもジャンゴとステファンの作品さくひんの中なかでも特とくによく知しられた一いち枚まいとされている。その後ごジャンゴは家いえを売うって、キャラバンを牽引けんいんするためのリンカーンを購入こうにゅうし、しばらくル・ブルジェ周辺しゅうへんでキャラバン生活せいかつをするようになる。1951年ねんからはセーヌ＝エ＝マルヌ県けんで家いえを借かりる。

1953年ねん3月、ジャンゴはディジー・ガレスピーのブリュッセル公演こうえんにゲスト参加さんかした。旧知きゅうちのプロモーターから依頼いらいを受うけたジャンゴは、最初さいしょは乗のり気きでなかったが、出演しゅつえん者しゃがディジーであることを知しると態度たいどを変かえ、すぐに滞在たいざい先さきのホテルから公演こうえん会場かいじょうへ向むかったという。5月、スイス公演こうえんを行おこなっていたジャンゴは指ゆびの障害しょうがいや頭痛ずつうに悩なやまされるようになるが、診察しんさつを受うけることは拒否きょひし続つづけた。この頃ころ、ビング・クロスビーがジャンゴをスカウトするためにフランスを訪おとずれているが、ジャンゴに会あえずじまいのまま帰国きこくしており、フランスへ戻もどる途中とちゅうでそのことを知しったジャンゴは「自分じぶんにはもう運うんは向むいてこない」と感かんじたという。

フランスへ戻もどった翌日よくじつの5月がつ16日にち、ジャンゴは友人ゆうじんの経営けいえいする店みせで突然とつぜん倒たおれ、その日ひの夕方ゆうがたには死去しきょ。死因しいんは脳出血のうしゅっけつとされた。

奏法そうほう

やけどの影響えいきょうで左手ひだりてに麻痺まひが残のこったため、メロディを弾ひく時ときは主おもに人差ひとさし指ゆびと中指なかゆびで弦つるを押おさえ、薬指くすりゆびと小指こゆびはコードを弾ひく際さいに高音こうおん弦つるを押おさえるのに用もちいる程度ていどであった。ジャンゴの演奏えんそうを記録きろくした映像えいぞうを見みると、薬指くすりゆびと小指こゆびの2本ほんの指ゆびを深ふかく曲まげたまま、残のこりの指ゆびのみで演奏えんそうしているのがわかる。盟友めいゆうのステファン・グラッペリは、『メロディ・メイカー』誌し1954年ねん3月がつ13号ごうで、ジャンゴはその特殊とくしゅな奏法そうほうから、独特どくとくのコード進行しんこうを導入どうにゅうするに至いたったという分析ぶんせきをしている。

ジャンゴの演奏えんそうは、技巧ぎこうの面めんだけでなく表現ひょうげん力りょくの面めんでも評価ひょうかが高たかい。『Guitar World』2008年ねん7月がつ号ごうの記事きじ「50 Fastest Guitarists of All Time」において、ジャンゴのフィンガー・ビブラートは「ギター界かいで最もっとも叙情じょじょう的てき」と評ひょうされた。

影響えいきょう

ジャズの分野ぶんやでは主おもに伴奏ばんそう楽器がっきとして使つかわれていたギターを、ソロ楽器がっきとして使用しようした先駆さきがけであり、アメリカでジャズ・ギターの開祖かいそとされることの多おおいチャーリー・クリスチャンよりもはるかに早はやい時期じきから、ギターを主役しゅやくとした即興そっきょう演奏えんそうを行おこなっていた。ギブソン・レスポールの開発かいはつ者しゃとして知しられるレス・ポールは、早はやくからジャンゴの音楽おんがくに強つよく影響えいきょうを受うけ、1930年代ねんだい中期ちゅうきにはジャンゴに近ちかいスタイルで演奏えんそうしていたという。

また、ロマ音楽おんがくとジャズを融合ゆうごうした音楽おんがく性せいから、ジプシー・ジャズの開祖かいそとされる。ジャンゴの音楽おんがく性せいの継承けいしょう者しゃとしては、やはり出自しゅつじがロマであるフランス人じんギタリスト、ビレリ・ラグレーン等ひとしが知しられる。1992年ねん、ジャンゴにちなんだ音楽おんがく賞しょうである「DjangodOr」がフランスで創設そうせつされた。

アメリカのジャズ・ミュージシャンにも、ジャンゴの音楽おんがくを愛あいする者ものは多おおく、多おおくのトリビュート作品さくひんが作つくられた。著名ちょめいなものとしては、モダン・ジャズ・カルテットの楽曲がっきょく「ジャンゴ」（1953年ねん初演しょえん）、ジョー・パスのアルバム『フォー・ジャンゴ』（1964年ねん）等とうが挙あげられる。ジャズ以外いがいの分野ぶんやでは、オールマン・ブラザーズ・バンドのディッキー・ベッツがジャンゴの奏法そうほうにインスパイアされて作曲さっきょくしたインストゥルメンタル「ジェシカ」（オールマン・ブラザーズ・バンドのアルバム『ブラザーズ・アンド・シスターズ』収録しゅうろく）等とうが知しられる。

日本にっぽんではゴンチチがジャンゴからの影響えいきょうを公言こうげんしており、2003年ねんにはゴンチチが選曲せんきょくを担当たんとうした日本にっぽん企画きかくのコンピレーション・アルバム『GONTITI recommneds Django』がリリースされた。

映画えいが『ギター弾びきの恋こい』の主人公しゅじんこうエメット・レイは、「自分じぶんは世界せかいでもジャンゴ・ラインハルトに次つぐギタリストだ」と信しんじているという設定せっていになっている。

2002年ねんのコンピュータゲーム『Mafia: The City of Lost Heaven』のBGMには、ジャンゴの楽曲がっきょくが多用たようされている。

代表だいひょう作さく

楽曲がっきょく

• After You've Gone（ターナー・レイトン作曲さっきょく）
  • マリオン・ハリスの歌唱かしょうで1918年ねんにヒットした曲きょくのカヴァー。1934年ねん8月がつに初はつ録音ろくおん。アルバム『ジャンゴロジー』に収録しゅうろくされた1949年ねんの再さい録音ろくおんヴァージョンは、『Guitar World』2008年ねん7月がつ号ごうの記事きじ「50 Fastest Guitarists of All Time」において、ジャンゴの超絶ちょうぜつ技巧ぎこうを象徴しょうちょうする1曲きょくとして挙あげられた。
• Djangology（ステファン・グラッペリとの共とも作さく）
  • 1935年ねん9月がつに初はつ録音ろくおん。映画えいが『写真しゃしん家かの女おんなたち』（1999年ねん公開こうかい）のサウンドトラックで使用しようされた。
• Honeysuckle Rose（ファッツ・ウォーラーのカヴァー）
  • 1937年ねん4月がつ、コールマン・ホーキンスやベニー・カーターと共演きょうえんしたレコーディング・セッションで初はつ録音ろくおん。映画えいが『ニューヨークの恋人こいびと』（2001年ねん公開こうかい）のサウンドトラックで使用しようされた。
• Minor Swing（ステファン・グラッペリとの共とも作さく）
  • 1937年ねん11月に初はつ録音ろくおん。映画えいが『マトリックス』（1999年ねん公開こうかい）、『フォルテ』（2001年ねん公開こうかい）等とうのサウンドトラックで使用しようされた。
• Naguine
  • 1939年ねん6月がつにギター独奏どくそうという形かたちで初はつ録音ろくおん。映画えいが『サイドウォーク・オブ・ニューヨーク』（2001年ねん公開こうかい）のサウンドトラックで使用しようされた。
• Rhythme Futur
  • 1940年ねん10月がつに初はつ録音ろくおん。映画えいが『アビエイター』（2004年ねん公開こうかい）のサウンドトラックで使用しようされた。
• Nuages
  • 1940年ねん10月がつに初はつ録音ろくおん。同年どうねん12月がつに再さい録音ろくおんされたヴァージョンは、ジャンゴ最大さいだいのヒット曲きょくとなった。日本にっぽんでは「雲くも」と呼よばれることもある。映画えいが『マトリックス・レボリューションズ』（2003年ねん公開こうかい）のサウンドトラックで使用しようされた。アンディ・サマーズとジョン・エサリッジの連名れんめいによるアルバム『インビジブル・スレッズ - アンプラグド』（1993年ねん）に収録しゅうろくのヴァージョン等とう、多おおくのカヴァーが存在そんざい。
• Manoir de Mes Rêves
  • 1943年ねん2月がつに初はつ録音ろくおん。元々もともとは交響こうきょう曲きょくとして発表はっぴょうされる予定よていだった。英語えいご圏けんでは「Django's Castle」、日本にっぽんでは「夢ゆめの城しろ」というタイトルでも知しられ、チェット・アトキンス『Teensville』（1960年ねん）やジョー・パス『For Django』（1964年ねん）等とうでカヴァーされた。映画えいが『天才てんさいマックスの世界せかい』（1998年ねん公開こうかい）のサウンドトラックで使用しようされた。
• Mélodie au Crépuscule
  • 1943年ねん7月がつに初はつ録音ろくおん。日本にっぽんでは「たそがれのメロディ」というタイトルで知しられる。フィギュアスケート選手せんしゅのトマシュ・ベルネルがショート・プログラムで使用しようしていた。

アルバム

ジャンゴの存命ぞんめい時じはSPレコードが主流しゅりゅうであったため、ここではCDとして入手にゅうしゅしやすいコンピレーション・アルバムを挙あげる。

• In Memorium - イン・メモリアム
  • 1935年ねんから1939年ねんにかけての録音ろくおん。コールマン・ホーキンスとのレコーディング・セッションも含ふくむ。
• Djangology - ジャンゴロジー
  • 1949年ねんにローマで録音ろくおん。2002年ねんには、23曲きょく入いりのスペシャル・エディションがリリースされた。

関連かんれん項目こうもく

• ステファン・グラッペリ
• ロマ音楽おんがく
• 永遠えいえんのジャンゴ

外部がいぶリンク

• Django Reinhardt - オールミュージック
• Django Reinhardt - All About Jazz
• Django Reinhardt - Discogs
• ジャンゴ・ラインハルト - YouTube Music チャンネル