ハロルド・ラスキ

ハロルド・ジョセフ・ラスキ

人物じんぶつ情報じょうほう
生誕せいたん	(1893-06-30) 1893年ねん6月30日にち イギリスマンチェスター
死没しぼつ	1950年ねん3月24日にち(1950-03-24)（56歳さい没ぼつ）
出身しゅっしん校こう	オックスフォおっくすふぉード大学どだいがく
学問がくもん
研究けんきゅう分野ぶんや	政治せいじ学がく
研究けんきゅう機関きかん	オックスフォおっくすふぉード大学どだいがく・マギル大学だいがく・ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

ハロルド・ジョセフ・ラスキ（Harold Joseph Laski、1893年ねん6月30日にち - 1950年ねん3月24日にち）は、多元的たげんてき国家こっか論ろんを唱となえた英国えいこくの政治せいじ学者がくしゃ。労働党ろうどうとうの幹部かんぶでもあった。

経歴けいれき

1893年ねん、マンチェスターでポーランド系けいユダヤ人じんの家庭かていに生うまれる。オックスフォおっくすふぉード大学どだいがくで学まなぶ。カナダ・マギル大学だいがく、ハーヴァード大学だいがく、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（LSE）などで教鞭きょうべんをとる。　

1912年ねん、フェビアン協会きょうかいを通つうじて、労働党ろうどうとうに入党にゅうとう。1934年ねんのソ連それん訪問ほうもん後ご、マルクス主義まるくすしゅぎに傾倒けいとう。英国えいこくでは戦時せんじ中ちゅう極きわめて評価ひょうかが高たかく、戦後せんごにはロンドン・スクール・オブ・エコノミクス政治せいじ科学かがく部長ぶちょうを務つとめた。党とう規約きやくでは最もっとも地位ちいが高たかい労働党ろうどうとう全国ぜんこく執行しっこう委員いいん長ちょうとして大おおきな力ちからを持もった。ジャワハルラール・ネルーにも影響えいきょうを与あたえている。

1950年ねん3月24日にち、ロンドンにて56歳さいで死去しきょした。

政治せいじ信条しんじょう

初期しょきの著作ちょさくにおいてラスキは、多元たげん主義しゅぎを標榜ひょうぼうしている。国家こっかは最高さいこう権力けんりょくとはみなされず、個人こじんはまず、地方ちほう公共こうきょう団体だんたいやより専門せんもん的てきに分化ぶんかしたクラブや労働ろうどう組合くみあいなど、それぞれの小規模しょうきぼな組織そしきに帰属きぞくするものとする。その上うえで国家こっかは、そのような個人こじんとより周縁しゅうえん的てきな組織そしきとの関係かんけいを尊重そんちょうしなければならない、として多元たげん主義しゅぎと分権ぶんけん化かを提唱ていしょうした。

その後ご、ラスキは次第しだいにマルクス主義まるくすしゅぎに傾倒けいとうするようになり、生産せいさん手段しゅだんの国有こくゆう化かに基もとづく計画けいかく経済けいざいを主張しゅちょうするようになる。強圧きょうあつ的てきな国家こっか権力けんりょくに代かわって、国際こくさい的てきな連帯れんたいによる協同きょうどう社会しゃかいが発展はってんしてゆくことを通つうじて、社会しゃかい福祉ふくしの重要じゅうよう性せいを説といた。また、資本しほん家か階級かいきゅうが譲歩じょうほすることがないとすれば、暴力ぼうりょくという手段しゅだんによってしか国際こくさい的てきな協同きょうどう社会しゃかいに到達とうたつすることはできないとも考かんがえた。しかし同時どうじに、ラスキは個人こじんの自由じゆうや表現ひょうげん・言論げんろんの自由じゆう、代議だいぎ制せいによる民主みんしゅ主義しゅぎも擁護ようごした。当初とうしょ、ラスキは国際こくさい連盟れんめいが民主みんしゅ主義しゅぎによる平和へいわな国際こくさい社会しゃかいをもたらすものと期待きたいしていた。しかし1920年代ねんだい後半こうはん以降いこう、彼かれの政治せいじ信条しんじょうは次第しだいに過激かげき化かしてゆき、既存きそんの主権しゅけん国家こっかによる国際こくさい秩序ちつじょを超越ちょうえつしてゆくためには、資本しほん主義しゅぎそのものを乗のり越こえる以外いがいに方法ほうほうはないと考かんがえるようになった。1932年ねんには、イギリス労働党ろうどうとう内うちの左派さは派閥はばつである「社会しゃかい主義しゅぎ者しゃ連盟れんめい Socialist League」に加入かにゅうし、イギリスの研究けんきゅう者しゃや教育きょういく者しゃらを社会しゃかい主義しゅぎの大義たいぎに向むけて動員どういんしようと試こころみた。ラスキは、1939年ねん8月がつに締結ていけつされた独どくソ不可侵ふかしん条約じょうやくに失望しつぼうし、1941年ねんにイギリスのLeft Book Clubから出版しゅっぱんされた評論ひょうろん集しゅう「左翼さよくの裏切うらぎり Betrayal of the Left」(編者へんしゃヴィクター・ゴランツやジョージ・オーウェルらが寄稿きこう)に序文じょぶんを寄よせ、無念むねんを表明ひょうめいした。

1939年ねんに第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんが始はじまり、1941年ねんにアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくが参戦さんせんすると、ラスキはアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの連合れんごう国こくへの貢献こうけんを強力きょうりょくに声援せいえんする多おおくの評論ひょうろんや記事きじを執筆しっぴつ・投稿とうこうした。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく内うち各地かくちを移動いどうしながら精力せいりょく的てきに講義こうぎ・講演こうえんを行おこない、その間あいだにアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの法学ほうがく者しゃフェリックス・フランクファーターやジャーナリストのエドワード・R・マローやエリック・セヴァライドらに大おおきな影響えいきょうを与あたえた。晩年ばんねんのラスキは、1948年ねんのチェコスロバキア政変せいへんなどに象徴しょうちょうされる東西とうざい冷戦れいせんに幻滅げんめつすることになった。イギリスの作家さっかジョージ・オーウェルは、ラスキを「忠誠ちゅうせい心しんにおいて社会しゃかい主義しゅぎ者ものであり、気質きしつにおいて自由じゆう主義しゅぎ者もの」であると評ひょうした。

シオニズムと反はんカトリシズム

ラスキはユダヤ人じんとして常つねに一貫いっかんしてシオニストであり、ユダヤ人じんであることを自覚じかくしていたが、しかし伝統でんとう的てきなユダヤ教きょうは抑圧よくあつ的てきであると感かんじていた。1946年ねん、ラスキはラジオ番組ばんぐみの中なかで、カトリック教会きょうかいは民主みんしゅ主義しゅぎに反はんするという見解けんかいを示しめし、「ローマ・カトリック教会きょうかいと和解わかいするなんて不可能ふかのうだ。人類じんるいの精神せいしんにふさわしい全すべてのものにとって、永遠えいえんの敵てきの一ひとつだ」とコメントした。

著書ちょしょ

• 『共産きょうさん主義しゅぎ論ろん』（聚英閣かく、1928年ねん）
• 『政治せいじ学がく範はん典てん』（春秋しゅんじゅう社しゃ, 1932年ねん）
• 『現代げんだい革命かくめいの考察こうさつ （上うえ・下した）』（みすず書房しょぼう, 1950年ねん）
• 『近代きんだい国家こっかにおける自由じゆう』（岩波書店いわなみしょてん, 1951年ねん／岩波いわなみ文庫ぶんこ, 1974年ねん）
• 『共産党きょうさんとう宣言せんげんへの歴史れきし的てき序説じょせつ』（法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく, 1951年ねん）
• 『ヨーロッパ自由じゆう主義しゅぎの発達はったつ』（みすず書房しょぼう, 1951年ねん）
• 『カール・マルクス』（理想りそう社しゃ, 1952年ねん）
• 『政治せいじ学がく大綱たいこう （上うえ・下した）』（法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく, 1952年ねん、新版しんぱん1981年ねんほか）
• 『国家こっか――理論りろんと現実げんじつ』（岩波書店いわなみしょてん, 1952年ねん、復刊ふっかん1992年ねんほか）
• 『アメリカ・デモクラシー』（みすず書房しょぼう, 1952年ねん）
• 『フランス革命かくめいと社会しゃかい主義しゅぎ』（創そう文ぶん社しゃ, 1956年ねん）
• 『危機ききにたつ民主みんしゅ主義しゅぎ』（ミネルみねるヴァ書房ぁしょぼう, 1957年ねん）
• 『信仰しんこう・理性りせい・文明ぶんめい――ある歴史れきし的てき分析ぶんせきの試こころみとして』（岩波書店いわなみしょてん, 1957年ねん、復刊ふっかん1992年ねんほか）
• 『議会ぎかい・内閣ないかく・公務員こうむいん制せい』（岩波書店いわなみしょてん, 1959年ねん）
• 『政治せいじ学がく入門にゅうもん』（東京とうきょう創そう元もと社しゃ, 1960年ねん、新版しんぱん1986年ねん）
• 『岐路きろに立たつ現代げんだい――歴史れきし的てき論考ろんこう』（法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく, 1960年ねん）
• 『危機ききのなかの議会ぎかい政治せいじ』（法律文化社ほうりつぶんかしゃ, 1964年ねん）
• 『マルクスと現代げんだい』（ミネルヴア書房しょぼう, 1969年ねん）
• 『議会ぎかい政治せいじの崩壊ほうかいと社会しゃかい主義しゅぎ』（法律文化社ほうりつぶんかしゃ, 1978年ねん）
• 『イギリスの議会ぎかい政治せいじ――1つの評釈ひょうしゃく』（日本にっぽん評論ひょうろん社しゃ, 1990年ねん）
• 『ファシズムを超こえて』（早稲田大学わせだだいがく出版しゅっぱん部ぶ, 2000年ねん、新版しんぱん2009年ねん）

参考さんこう文献ぶんけん

• Jose Harris(柏野かしの健三けんぞう訳わけ)『ウィリアム　ベヴァリッジ　その生涯しょうがい(中なか)』ふくろう出版しゅっぱん、1997年ねん
• 辻つじ清明きよあき・責任せきにん編集へんしゅう　世界せかいの名著めいちょ 72 『バジョット・ラスキ・マッキーヴァー』(中公ちゅうこうバックス)　中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ、1980年ねん
• Gollancz, Victor ed., "Betrayal of the Left : an Examination and Refutation of Communist Policy from October 1939 to January 1941: with Suggestions for an Alternative and an Epilogue on Political Morality" (Left Book Club, London, 1941).
• Schlesinger, Jr., Arthur. "Harold Laski: A Life on the Left", Washington Monthly (1 November 1993)

関連かんれん項目こうもく

• ジョセフ・P・ケネディ・ジュニア
• ジョン・F・ケネディ
• ピエール・トルドー
• オリバー・ウェンデル・ホームズ・ジュニア - 交流こうりゅうがあった
  　訳書やくしょに『ホームズ―ラスキ往復おうふく書簡しょかん集しゅう』（M.D.ハウ編へん、 鵜飼うかい信成のぶなり訳わけ、岩波書店いわなみしょてん「岩波いわなみ現代げんだい選書せんしょ」、1981年ねん）
• 人民戦線じんみんせんせん
• 蠟山政道せいどう
• 関せき嘉彦よしひこ - 各かく・日本にっぽんにおける民主みんしゅ社会しゃかい主義しゅぎ研究けんきゅう者しゃ