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ハーン–バナッハの定理ていり

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
ハーン・バナッハの定理ていりから転送てんそう

数学すうがくにおけるハーン–バナッハの定理ていり(ハーン–バナッハのていり、えい: Hahn–Banach theorem)は、関数かんすう解析かいせきがく分野ぶんやにおける中心ちゅうしんてき道具どうぐで、ベクトル空間くうかん部分ぶぶん空間くうかんじょう定義ていぎされる有界ゆうかい線形せんけいひろし関数かんすうぜん空間くうかん拡張かくちょうできることについてべたものである。これにより、どのようなノルム線形せんけい空間くうかんにおいても、そのうえ定義ていぎされる連続れんぞく線形せんけいひろし関数かんすうが、双対そうつい空間くうかん研究けんきゅうを「面白おもしろい」ものにするに「十分じゅうぶん」なほどたくさんあることがわかる。ハーン-バナッハの定理ていりべつ形態けいたいのものとして、ハーン–バナッハの分離ぶんり定理ていりあるいは分離ぶんりちょう平面へいめん定理ていりばれるものがあり、とつ幾何きかがく英語えいごばん分野ぶんやおおもちいられている。

定理ていり名前なまえ由来ゆらいは、1920年代ねんだい後半こうはんにそれぞれ独立どくりつにこの定理ていり証明しょうめいしたハンス・ハーンステファン・バナッハである。定理ていり特別とくべつ場合ばあい[1]については、よりはや段階だんかい(1912ねん)でエードゥアルト・ヘリーによって証明しょうめいされており[2]、またこの定理ていり導出みちびきだされるようなある一般いっぱん拡張かくちょう定理ていりが、1923ねんマルツェル・リースによって証明しょうめいされていた[3]

定式ていしき

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定理ていりもっと一般いっぱん定式ていしきにおいては、いくつかの準備じゅんび必要ひつようとされる。実数じっすうからだ R うえベクトル空間くうかん Vたいし、関数かんすう ƒ : VRれつ線形せんけい英語えいごばんであるとは、

任意にんい および x ∈ Vたいして   が成立せいりつする(せいどうつぎせい
任意にんいxy ∈ Vたいして   が成立せいりつする(れつ加法かほうせい

成立せいりつすることをう。

V うえのすべてのはんノルムとくに、V うえのすべてのノルム)はれつ線形せんけいである。れつ線形せんけい関数かんすうとくとつ集合しゅうごうミンコフスキーひろし関数かんすうなども同様どうよう有用ゆうようなものとなりうる。

ハーン-バナッハの定理ていりつぎのようなものである: れつ線形せんけい関数かんすうで、φふぁい: UR線形せんけい部分ぶぶん空間くうかん UV うえ線形せんけいひろし関数かんすうであり、U うえでは φふぁい によって支配しはいされるようなもの、すなわち

成立せいりつするようなものとする。このとき、φふぁい にはぜん空間くうかん V へのある線形せんけい拡張かくちょう ψぷさい: VR存在そんざいする。すなわち、つぎたすような線形せんけいひろし関数かんすう ψぷさい存在そんざいする:

および

(Rudin 1991, Th. 3.2)

ハーン–バナッハの定理ていりべつ形態けいたいつぎのようなものである: V係数けいすうたい K実数じっすう R あるいは複素数ふくそすう Cじょうのベクトル空間くうかんとし、はんノルムとし、φふぁい: UKVK-線形せんけい部分ぶぶん空間くうかん U うえK-線形せんけいひろし関数かんすうとし、U うえではその絶対ぜったい によって支配しはいされるもの、すなわち

成立せいりつするものとする。このとき、φふぁい にはぜん空間くうかん V への線形せんけい拡張かくちょう ψぷさい: VK存在そんざいする。すなわち、つぎたすような K-線形せんけいひろし関数かんすう ψぷさい存在そんざいする:

および

この定理ていり複素数ふくそすう場合ばあいにおいて C-線形せんけいせい仮定かていとして要求ようきゅうするということは、実数じっすう場合ばあいでの仮定かていに、すべてのベクトル x ∈ Uたいして、ベクトル i xUぞくし、φふぁい(i x) = i φふぁい(x)成立せいりつするという仮定かていくわえて要求ようきゅうするということである。

一般いっぱんには、拡張かくちょう ψぷさいφふぁい によって一意いちいさだまるものではなく、また、定理ていり証明しょうめいても ψぷさいつける明示めいじてき方法ほうほうからない。無限むげん次元じげん空間くうかん V場合ばあいには、選択せんたく公理こうりいち形態けいたいであるツォルンの補題ほだいが、証明しょうめい必要ひつようとされる。

(Reed & Simon 1980)によれば、たいするれつ線形せんけいせい条件じょうけんは、条件じょうけん

に、すこよわめることが出来できる。この条件じょうけんは、ハーン–バナッハの定理ていりとつせいあいだふか関係かんけいあきらかにするものである。

Mizarプロジェクトは、ハーン–バナッハの定理ていり完全かんぜん定式ていしき自動じどう検証けんしょうされた証明しょうめいHAHNBAN fileゆうしている。

重要じゅうよう帰結きけつ

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この定理ていりにはいくつかの重要じゅうよう帰結きけつ存在そんざいし、しばしばそれらも「ハーン–バナッハの定理ていり」とばれることがある。

  • V をノルム線型せんけい空間くうかんU をその線形せんけい部分ぶぶん空間くうかんかならずしも閉ではない)とし、作用素さようそ φふぁい: UK連続れんぞくかつ線型せんけいであるとする。このとき、φふぁい には連続れんぞくかつ線型せんけい拡張かくちょう ψぷさい: VK存在そんざいし、そのノルムは φふぁいひとしいものとなる(線型せんけい写像しゃぞうのノルムについては「バナッハ空間くうかん」を参照さんしょうされたい)。これはすなわち、ノルム線型せんけい空間くうかんけんにおいて、空間くうかん K入射にゅうしゃてき対象たいしょうであることを意味いみする。
  • V をノルム線型せんけい空間くうかんU をその線型せんけい部分ぶぶん空間くうかんかならずしも閉ではない)とし、z を、U閉包へいほうふくまれないような Vもととする。このとき、すべての Uもと xたいしては ψぷさい(x) = 0 であり、ψぷさい(z) = 1 および ǁψぷさいǁ = 1 ⁄ dist(z, U)たすような連続れんぞく線型せんけい作用素さようそ ψぷさい: VK存在そんざいする。
  • とくに、ノルム線型せんけい空間くうかん V任意にんいもと zたいして、

ψぷさい(z) = ǁzǁ かつ ǁψぷさいǁ ≤ 1たすような連続れんぞく線型せんけい作用素さようそ ψぷさい: VKかなら存在そんざいする。このことは、ノルム線型せんけい空間くうかん V からそのじゅう双対そうつい V ′′ への自然しぜんたんひとしちょう写像しゃぞうであるということを意味いみする。

ハーン–バナッハの分離ぶんり定理ていり

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ハーン–バナッハの定理ていりべつ形態けいたいのものとして、ハーン–バナッハの分離ぶんり定理ていりというものがられている[4] 。この定理ていりとつ幾何きかがく英語えいごばん[5]最適さいてき理論りろん経済けいざいがく分野ぶんや幅広はばひろもちいられている。

定理ていり.
V を、K (= ℝ または ℂ) にたいする位相いそうベクトル空間くうかんとし、A および B を、Vそらでないとつ部分ぶぶん集合しゅうごうとし、AB = ∅ とする。このとき、つぎ成立せいりつする:
  1. Aひらけならば、ある連続れんぞく線型せんけい作用素さようそ λらむだ: VK および実数じっすう tR存在そんざいして、Re λらむだ(a) < t ≤ Re λらむだ(b) がすべての aA, bBたいして成立せいりつする。
  2. V局所きょくしょとつA がコンパクトで、B が閉ならば、ある連続れんぞく線型せんけい作用素さようそ λらむだ: VK および実数じっすう s, tR存在そんざいして、Re λらむだ(a) < t < s < Re λらむだ(b) がすべての aA, bBたいして成立せいりつする。

選択せんたく公理こうりとの関係かんけい

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上述じょうじゅつのように、選択せんたく公理こうりからハーン–バナッハの定理ていりしたがうが、そのぎゃくしんではない。このことをしめひとつの方法ほうほうとしては、選択せんたく公理こうりよりもしんよわウルトラフィルターの補題ほだい英語えいごばんからハーン・バナッハの定理ていり証明しょうめいすることができるが、この場合ばあいそのぎゃくりたないということに着目ちゃくもくすればよい。ハーン–バナッハの定理ていりは、じつは、ウルトラフィルターの補題ほだいよりもさらによわ仮定かていもちいて証明しょうめいすることも出来でき[6]さらに、ブラウンとシンプソンは、じゃくケーニヒの補題ほだい公理こうりひとつとするかい算術さんじゅつ英語えいごばん部分ぶぶん体系たいけいWKL0 から可分かぶんバナッハ空間くうかんうえ有界ゆうかい線型せんけいひろし関数かんすうたいするハーン-バナッハの定理ていりがしたがう、ということを証明しょうめいした[7]

C[a, b]双対そうつい空間くうかん

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ハーン–バナッハの定理ていり帰結きけつとして、つぎのようなものも存在そんざいする。

命題めいだい.
−∞ < a < b < ∞ のとき、FC[a, b] であるための必要ひつようじゅうふん条件じょうけんは、有界ゆうかい変動へんどう関数かんすう ρろー: [a, b] → R存在そんざいして
がすべての uC[a, b]たいして成立せいりつすることである。
さらに、ρろーぜん変動へんどう V(ρろー) にたいし、ǁFǁ = V(ρろー) が成立せいりつする。

関連かんれん項目こうもく

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ ある区間くかん [ab] じょう連続れんぞく関数かんすうからなる空間くうかんC[ab] の場合ばあい
  2. ^ O'Connor, John J.; Robertson, Edmund F., “ハーン–バナッハの定理ていり, MacTutor History of Mathematics archive, University of St Andrews, https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Helly/ .
  3. ^ リースの拡張かくちょう定理ていり参照さんしょうされたい。Gȧrding, L. (1970). “Marcel Riesz in memoriam”. Acta Math. 124 (1): I–XI. MR0256837. によれば、1918ねんにはすでにリースはこの定理ていり内容ないようについてっていたとされる。
  4. ^ Gabriel Nagy, Real Analysis lecture notes
  5. ^ Harvey, R.; Lawson, H. B. (1983). “An intrinsic characterisation of Kahler manifolds”. Invent. Math 74 (2): 169–198. doi:10.1007/BF01394312. 
  6. ^ Pincus, D. (1974). “The strength of Hahn–Banach's Theorem”. Victoria Symposium on Non-standard Analysis. Lecture notes in Math.. 369. New York: Springer. pp. 203–248. ISBN 0-387-06656-X  Citation from Foreman, M.; Wehrung, F. (1991). “The Hahn–Banach theorem implies the existence of a non-Lebesgue measurable set”. Fundamenta Mathematicae 138: 13–19. http://matwbn.icm.edu.pl/ksiazki/fm/fm138/fm13812.pdf. 
  7. ^ Brown, D. K.; Simpson, S. G. (1986). “Which set existence axioms are needed to prove the separable Hahn–Banach theorem?”. Annals of Pure and Applied Logic 31: 123–144. doi:10.1016/0168-0072(86)90066-7.  Source of citation.

参考さんこう文献ぶんけん

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