数学 すうがく におけるノルム線型 せんけい 空間 くうかん (ノルムせんけいくうかん、英 えい : normed vector space ; ノルム付 つ きベクトル空間 くうかん 、ノルム付 つ き線型 せんけい 空間 くうかん )または短 みじか くノルム空間 くうかん は、ノルム の定義 ていぎ されたベクトル空間 くうかん を言 い う[ 1] 。
各 かく 成分 せいぶん が実数 じっすう の、二 に 次元 じげん あるいは三 さん 次元 じげん のベクトル からなる空間 くうかん では、直観 ちょっかん 的 てき にベクトルの「大 おお きさ」(長 なが さ)の概念 がいねん が定義 ていぎ できる。この直観 ちょっかん 的 てき アイデアを任意 にんい 有限 ゆうげん 次元 じげん の実 み 数 かず ベクトル空間 くうかん R n に拡張 かくちょう するのは容易 たやす い。ベクトル空間 くうかん におけるそのようなベクトルの大 おお きさは以下 いか のような性質 せいしつ を持 も つ:
零 れい ベクトル 0 は大 おお きさ零 れい 、そのほかのベクトルは正 せい の大 おお きさを持 も つ。
ベクトルを正数 せいすう 倍 ばい すると、向 む きはそのままに大 おお きさだけが変化 へんか する。
三角 さんかく 不等式 ふとうしき を満足 まんぞく する。つまり、ベクトルの大 おお きさを距離 きょり と見 み て、点 てん A から点 てん B を経由 けいゆ しての点 てん C まで行 い くときの距離 きょり は直接 ちょくせつ A から C まで行 い く距離 きょり よりも短 みじか くなることはない(任意 にんい の二 に 点 てん 間 あいだ の最短 さいたん 距離 きょり は直線 ちょくせん 距離 きょり である)。
これらの三 さん 性質 せいしつ をより抽象 ちゅうしょう 的 てき なベクトル空間 くうかん へ一般 いっぱん 化 か することでノルム の概念 がいねん は与 あた えられる。ノルム空間 くうかん (および半 はん ノルム空間 くうかん )は線型 せんけい 代数 だいすう 学 がく および函数 かんすう 解析 かいせき 学 がく の研究 けんきゅう の中核 ちゅうかく である。
ノルム体 たい K 上 うえ のノルム線型 せんけい 空間 くうかん とは、K -線型 せんけい 空間 くうかん V と V 上 うえ のノルム ‖ • ‖ の組 くみ (V , ‖ • ‖) を言 い う。ノルムは以下 いか の性質 せいしつ
半 はん 正 せい 値 ち 性 せい :
‖
x
‖
≥
0
(
∀
x
∈
V
)
,
‖
x
‖
=
0
⟺
x
=
0
{\displaystyle \|x\|\geq 0\ (\forall x\in V),\quad \|x\|=0\iff x=0}
斉 ひとし 次 つぎ 性 せい :
‖
α あるふぁ
x
‖
=
|
α あるふぁ
|
‖
x
‖
(
∀
x
∈
V
,
α あるふぁ
∈
K
)
{\displaystyle \|\alpha x\|=|\alpha |\|x\|\quad (\forall x\in V,\alpha \in K)}
劣 れつ 加法 かほう 性 せい (三角 さんかく 不等式 ふとうしき ):
‖
x
+
y
‖
≤
‖
x
‖
+
‖
y
‖
(
∀
x
,
y
∈
V
)
{\displaystyle \|x+y\|\leq \|x\|+\|y\|\quad (\forall x,y\in V)}
を満 み たす実 じつ 数値 すうち 函数 かんすう ‖ • ‖: V → R であった。またこの三 さん 条件 じょうけん を、最初 さいしょ の条件 じょうけん のうち ‖ x ‖ = 0 ⇒ x = 0 を除 のぞ いてすべて満足 まんぞく するものは半 はん ノルム と呼 よ ばれ、V と半 はん ノルム p との組 くみ (V , p ) は同様 どうよう に半 はん ノルム空間 くうかん と呼 よ ばれる(半 はん ノルム空間 くうかん についての詳細 しょうさい は半 はん ノルム および局所 きょくしょ 凸 とつ 空間 くうかん も参照 さんしょう のこと)。
文脈 ぶんみゃく 上 じょう 、どの(半 はん )ノルムを考 かんが えているか明 あき らかで紛 まぎ れのおそれの無 な い場合 ばあい には、‖ • ‖ や p を落 お として、単 たん に(半 はん )ノルム空間 くうかん V のように書 か く。
三角 さんかく 不等式 ふとうしき に関 かん して、以下 いか のような変形 へんけい 版 ばん
逆 ぎゃく 向 む きの三角 さんかく 不等式 ふとうしき :
‖
x
−
y
‖
≥
|
‖
x
‖
−
‖
y
‖
|
{\displaystyle \|x-y\|\geq {\bigl |}\,\|x\|-\|y\|\,{\bigr |}}
も有用 ゆうよう である。これはベクトルのノルムが連続 れんぞく 写像 しゃぞう であることも示 しめ している。
注意 ちゅうい すべきは、条件 じょうけん 2. は係数 けいすう 体 たい 上 じょう の「ノルム」の取 と り方 かた に依存 いぞん することである。係数 けいすう 体 たい が実数 じっすう 体 からだ R (やより一般 いっぱん に複素数 ふくそすう 体 からだ C の部分 ぶぶん 体 たい )であるときには、普通 ふつう は通常 つうじょう の絶対 ぜったい 値 ち をとるが、ほかの選択 せんたく も可能 かのう である。例 たと えば Q -線型 せんけい 空間 くうかん 上 じょう で |•| を p -進 すすむ ノルム とすることができ、異 こと なるノルム空間 くうかん のクラス(p -進 すすむ ノルム空間 くうかん )が生 しょう じる。
(V , ‖ • ‖) がノルム空間 くうかん ならば、ノルム ‖ • ‖ は距離 きょり 函数 かんすう (および距離 きょり の概念 がいねん )を誘導 ゆうどう し、V 上 うえ の位相 いそう を定義 ていぎ する。この距離 きょり 函数 かんすう は自然 しぜん な仕方 しかた で定義 ていぎ される(すなわち、二 ふた つのベクトル u, v の絶対 ぜったい 差 さ ‖ u − v ‖ で与 あた えられる)。この位相 いそう は、ちょうど ‖ • ‖ を連続 れんぞく にする最 さい 弱 じゃく の位相 いそう であり、以下 いか の性質 せいしつ
ベクトルの加法 かほう (英語 えいご 版 ばん ) +: V × V → V はこの位相 いそう に関 かん して二 に 変数 へんすう の連続 れんぞく 写像 しゃぞう である(これは三角 さんかく 不等式 ふとうしき から直接 ちょくせつ に従 したが う)。
スカラー乗法 じょうほう ⋅: K × V → V はこの位相 いそう に関 かん して二 に 変数 へんすう の連続 れんぞく 写像 しゃぞう である(これは三角 さんかく 不等式 ふとうしき とノルムの斉 ひとし 次 つぎ 性 せい から従 したが う)。ここに K は V の係数 けいすう 体 たい とする。
が成 な り立 た つという意味 いみ で V の線型 せんけい 構造 こうぞう とも両立 りょうりつ する。
同様 どうよう に、半 はん ノルム空間 くうかん においても p (u − v ) とおけば擬 なずらえ 距離 きょり 空間 くうかん の構造 こうぞう が入 はい り、連続 れんぞく 性 せい や極限 きょくげん などの概念 がいねん を定義 ていぎ することができるようになる。もう少 すこ し抽象 ちゅうしょう 的 てき に言 い えば、任意 にんい の半 はん ノルム空間 くうかん は位相 いそう 線型 せんけい 空間 くうかん であり、半 はん ノルムの誘導 ゆうどう する位相 いそう 構造 こうぞう が入 はい る。
特別 とくべつ な興味 きょうみ がもたれるのは完備 かんび なノルム空間 くうかん で、バナッハ空間 くうかん と呼 よ ばれる。任意 にんい のノルム線型 せんけい 空間 くうかん V は適当 てきとう なバナッハ空間 くうかん に稠密 ちゅうみつ 部分 ぶぶん 空間 くうかん として含 ふく まれる。そのようなバナッハ空間 くうかん は V に対 たい して本質 ほんしつ 的 てき に一意 いちい に定 さだ まり、V の完備 かんび 化 か と呼 よ ばれる。
有限 ゆうげん 次元 じげん 線型 せんけい 空間 くうかん の全 すべ てのノルムは、それが同 おな じ位相 いそう を誘導 ゆうどう するという位相 いそう 的 てき な観点 かんてん から同値 どうち である(ただし、得 え られる距離 きょり 空間 くうかん は同 おな じとは限 かぎ らない)[ 2] 。また、任意 にんい のユークリッド空間 くうかん は完備 かんび であるから、任意 にんい の有限 ゆうげん 次元 じげん ノルム空間 くうかん がバナッハであることが帰結 きけつ できる。ノルム空間 くうかん V が局所 きょくしょ コンパクト となるための必要 ひつよう 十 じゅう 分 ふん 条件 じょうけん は、単位 たんい 球体 きゅうたい B = {x : ‖ x ‖ ≤ 1} がコンパクト となることであり、それはまた V が有限 ゆうげん 次元 じげん であることと同値 どうち である(これはリースの補題 ほだい の帰結 きけつ である)。実 じつ はより一般 いっぱん の結果 けっか として「位相 いそう 線型 せんけい 空間 くうかん が局所 きょくしょ コンパクトとなるための必要 ひつよう 十 じゅう 分 ふん 条件 じょうけん は、それが有限 ゆうげん 次元 じげん となることである」が成 な り立 た つ。
半 はん ノルム空間 くうかん の位相 いそう は多 おお くの良 よ い性質 せいしつ を満足 まんぞく する。零 れい ベクトル 0 の近傍 きんぼう 系 けい N (0) は、各 かく 点 てん x の近傍 きんぼう 系 けい を
N
(
x
)
=
x
+
N
(
0
)
:=
{
x
+
N
∣
N
∈
N
(
0
)
}
(
x
+
N
:=
{
x
+
n
∣
n
∈
N
}
)
{\displaystyle {\mathcal {N}}(x)=x+{\mathcal {N}}(0):=\{x+N\mid N\in {\mathcal {N}}(0)\}\quad (x+N:=\{x+n\mid n\in N\})}
とおくことにより構成 こうせい できる。さらに、併呑 へいどん 凸 とつ 集合 しゅうごう からなる 0 の近傍 きんぼう 基 もと が存在 そんざい する。この性質 せいしつ があることは函数 かんすう 解析 かいせき 学 がく において有用 ゆうよう であり、ノルム空間 くうかん を一般 いっぱん 化 か する概念 がいねん としてこの性質 せいしつ を満足 まんぞく するような位相 いそう 線型 せんけい 空間 くうかん を局所 きょくしょ 凸 とつ 空間 くうかん と呼 よ ぶ。
ノルム空間 くうかん の間 あいだ の写像 しゃぞう で最 もっと も重要 じゅうよう なのは、連続 れんぞく な線型 せんけい 写像 しゃぞう である。すべてのノルム空間 くうかん とそれらの間 あいだ のすべての連続 れんぞく 線型 せんけい 写像 しゃぞう は圏 けん を成 な す。
ノルムはそのベクトル空間 くうかん 上 じょう の連続 れんぞく 函数 かんすう であり、また有限 ゆうげん 次元 じげん 線型 せんけい 空間 くうかん の間 あいだ の任意 にんい の線型 せんけい 写像 しゃぞう は連続 れんぞく である。
二 ふた つのノルム空間 くうかん の間 あいだ の等 とう 距写像 ぞう (isometry ) は、線型 せんけい 写像 しゃぞう f でノルムを保 たも つものを言 い う(すなわち、‖ f (v ) ‖ = ‖ v ‖ (∀v ∈ V ) )。等 とう 距写像 ぞう は常 つね に連続 れんぞく かつ単 たん 射 い である。ノルム空間 くうかん V と W の間 あいだ の全 ぜん 射 い 等 とう 距写像 ぞう は等 とう 距同型 がた 写像 しゃぞう と言 い い、V と W とは互 たが いに等 とう 距同型 がた であると言 い う。等 とう 距同型 がた なノルム空間 くうかん は実用 じつよう 上 じょう は同 おな じものと考 かんが えられる。
ノルム空間 くうかん について考 かんが えるとき、双対 そうつい 空間 くうかん の概念 がいねん に関 かん する議論 ぎろん はそのノルムも勘案 かんあん した意味 いみ で言 い う。すなわち、ノルム空間 くうかん V の双対 そうつい 空間 くうかん V′ は V から係数 けいすう 体 たい (それは普通 ふつう 実数 じっすう 体 たい R または複素数 ふくそすう 体 たい C )への連続 れんぞく 線型 せんけい 写像 しゃぞう (この場合 ばあい 、線型 せんけい 写像 しゃぞう のことを(線型 せんけい )汎 ひろし 函数 かんすう と言 い う)。汎 ひろし 函数 かんすう φ ふぁい のノルムは、V の全 すべ ての単位 たんい ベクトル(ノルム 1 のベクトル)v に亙 わた って取 と った |φ ふぁい (x )| の上限 じょうげん (上限 じょうげん ノルム )として定義 ていぎ される。これにより双対 そうつい 空間 くうかん V′ はノルム空間 くうかん となる。ノルム空間 くうかん 上 じょう の連続 れんぞく 線型 せんけい 汎 ひろし 函数 かんすう に関 かん する重要 じゅうよう な定理 ていり に、ハーン–バナッハの定理 ていり がある。
多 おお くのノルム空間 くうかん (特 とく にバナッハ空間 くうかん )の定義 ていぎ として、まずベクトル空間 くうかん 上 じょう に半 はん ノルムを定義 ていぎ して、それから半 はん ノルム 0 の元 もと の成 な す部分 ぶぶん 空間 くうかん による商 しょう 空間 くうかん としてノルム空間 くうかん を作 つく るという方法 ほうほう が見 み られる。例 たと えば、Lp -空間 くうかん は
‖
f
‖
p
=
(
∫
|
f
(
x
)
|
p
d
x
)
1
/
p
{\displaystyle \|f\|_{p}={\Bigl (}\int |f(x)|^{p}\;dx{\Bigr )}^{1/p}}
で定義 ていぎ される函数 かんすう を半 はん ノルムとする、右辺 うへん のルベーグ積分 せきぶん が定義 ていぎ されて有限 ゆうげん となる函数 かんすう 全体 ぜんたい の成 な す線型 せんけい 空間 くうかん である。ただし、ルベーグ測度 そくど に関 かん する零 れい 集合 しゅうごう 上 うえ に台 だい を持 も つ任意 にんい の函数 かんすう は、半 はん ノルム 0 である。そのような函数 かんすう の全体 ぜんたい は部分 ぶぶん 空間 くうかん を成 な すが、その部分 ぶぶん 空間 くうかん で「割 わ って」しまえば、それらの函数 かんすう は全 すべ て零 れい 函数 かんすう に同値 どうち とすることができる。
n 個 こ の半 はん ノルム空間 くうかん (Xi , qi ) が与 あた えられたとき、ノルム空間 くうかん としての直積 ちょくせき 空間 くうかん は、ベクトル空間 くうかん としては
X
:=
∏
i
=
1
n
X
i
=
X
1
×
X
2
×
⋯
×
X
n
{\displaystyle X:=\prod _{i=1}^{n}X_{i}=X_{1}\times X_{2}\times \dotsb \times X_{n}}
は元 もと ごとの和 わ
(
x
1
,
…
,
x
n
)
+
(
y
1
,
…
,
y
n
)
:=
(
x
1
+
y
1
,
…
,
x
n
+
y
n
)
{\displaystyle (x_{1},\ldots ,x_{n})+(y_{1},\ldots ,y_{n}):=(x_{1}+y_{1},\ldots ,x_{n}+y_{n})}
とスカラー倍 ばい
α あるふぁ
(
x
1
,
…
,
x
n
)
:=
(
α あるふぁ
x
1
,
…
,
α あるふぁ
x
n
)
{\displaystyle \alpha (x_{1},\ldots ,x_{n}):=(\alpha x_{1},\ldots ,\alpha x_{n})}
で与 あた えられる直積 ちょくせき である。さらにその上 うえ に函数 かんすう
q
:
X
→
R
{\displaystyle q\colon X\to \mathbb {R} }
を例 たと えば
q
:
(
x
1
,
…
,
x
n
)
↦
∑
i
=
1
n
q
i
(
x
i
)
{\displaystyle q\colon (x_{1},\ldots ,x_{n})\mapsto \sum _{i=1}^{n}q_{i}(x_{i})}
.
と定 さだ めれば、この q は X 上 うえ の半 はん ノルムとなる。これがノルムとなるための必要 ひつよう 十 じゅう 分 ふん 条件 じょうけん は、任意 にんい の qi がノルムとなることである。
より一般 いっぱん に、任意 にんい の実数 じっすう p ≥ 1 に対 たい して半 はん ノルム
q
:
(
x
1
,
…
,
x
n
)
→
(
∑
i
=
1
n
q
i
(
x
i
)
p
)
1
/
p
{\displaystyle q\colon (x_{1},\ldots ,x_{n})\to {\Bigl (}\sum _{i=1}^{n}q_{i}(x_{i})^{p}{\Bigr )}^{1/p}}
を得 え ることができる。どの p についてもこの半 はん ノルムから得 え られる位相 いそう 空間 くうかん は同 おな じである。
初等 しょとう 的 てき な線型 せんけい 代数 だいすう 学 がく の直接的 ちょくせつてき な議論 ぎろん により、自明 じめい な半 はん ノルムを備 そな えたノルム空間 くうかん の直積 ちょくせき 空間 くうかん として生 しょう じるノルム空間 くうかん は有限 ゆうげん 次元 じげん 半 はん ノルム空間 くうかん に限 かぎ ることが示 しめ せる。その帰結 きけつ として、半 はん ノルム空間 くうかん のより興味深 きょうみぶか い例 れい や応用 おうよう の多 おお くは無限 むげん 次元 じげん 線型 せんけい 空間 くうかん に対 たい して起 お きる。
Rolewicz, Stefan (1987), Functional analysis and control theory: Linear systems , Mathematics and its Applications (East European Series), 29 (Translated from the Polish by Ewa Bednarczuk ed.), Dordrecht; Warsaw: D. Reidel Publishing Co.; PWN—Polish Scientific Publishers, pp. xvi+524, ISBN 90-277-2186-6 , MR 920371 , OCLC 13064804