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ガトー微分びぶん

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

数学すうがくにおけるガトー微分びぶん(ガトーびぶん、えい: Gâteaux differential, Gâteaux derivative)は、だいいち世界せかい大戦たいせんにおいて夭折ようせつしたフランス人数にんずう学者がくしゃルネ・ガトー英語えいごばんちなむ、微分びぶんがくにおける方向ほうこう微分びぶん概念がいねん一般いっぱんで、バナハ空間くうかんなどの局所きょくしょとつ位相いそう線型せんけい空間くうかんあいだ函数かんすうたいして定義ていぎされる。バナハ空間くうかんじょうフレシェ微分びぶん同様どうように、ガトー微分びぶんへんぶんほう物理ぶつりがくひろもちいられるひろし函数かんすう微分びぶん定式ていしきにしばしばもちいられる。

微分びぶんほうことなり、ガトー微分びぶんかならずしも線型せんけいでないが、ガトー微分びぶん定義ていぎにそれが連続れんぞく線型せんけい変換へんかんとなることも仮定かていすることがよくある。文献ぶんけんによっては、たとえば Tikhomirov (2001) は(線型せんけいかもしれない)ガトー微分びぶん係数けいすう (Gâteaux differential) と(かなら線型せんけいである)ガトーしるべ函数かんすう (Gâteaux derivative) をはっきりと区別くべつする。応用おうようさいして、連続れんぞく線型せんけいせいがそれぞれの状況じょうきょうにおいて自然しぜんされるもっと原始げんしてき条件じょうけんたとえば無限むげん次元じげん正則せいそく函数かんすうろん英語えいごばんにおける複素ふくそ微分びぶんせい線型せんけい解析かいせきがくにおける連続れんぞくてき微分びぶんせいなど、からしたがうということもおおい。

厳密げんみつ定義ていぎ

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XY局所きょくしょとつ位相いそう線型せんけい空間くうかんとし、UXひらけ集合しゅうごうF: XY とするとき、FuU における ψぷさいX 方向ほうこうへのガトー微分びぶん係数けいすう dF(u; ψぷさい)

として右辺うへん極限きょくげん存在そんざいするかぎりにおいてさだめる。この極限きょくげん任意にんいψぷさいXたいして存在そんざいするとき、Fu においてガトー微分びぶん可能かのう (Gâteaux differentiable) であるとう。

定義ていぎしき (1)あらわれる極限きょくげんかたY位相いそう関係かんけいする。X および Y がともに位相いそう線型せんけい空間くうかんならば、極限きょくげん実数じっすう τたうかんしてる。一方いっぽうX および Y複素ふくそ位相いそう線型せんけい空間くうかんならば上記じょうき複素ふくそ微分びぶんせい定義ていぎにおけると同様どうよう複素数ふくそすう平面へいめんにおいて τたう → 0 とする極限きょくげんかんがえるのが普通ふつうである。またつよ収斂しゅうれん極限きょくげんわりにじゃく収斂しゅうれん極限きょくげんることもあり、その場合ばあいじゃくガトー微分びぶん概念がいねんみちびかれる。

線型せんけいせい連続れんぞくせい

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かくてん uU においてガトー微分びぶんは、函数かんすう

さだめる。この函数かんすう任意にんいのスカラー αあるふぁたいして

たすという意味いみひとしいちだが、かならずしも加法かほうてきでなく、したがってガトー微分びぶん係数けいすう線型せんけいでないことがこりる(このてんではフレシェ微分びぶんことなる)。また、線型せんけいとなる場合ばあいであっても、XY無限むげん次元じげん場合ばあいには ψぷさいかんして連続れんぞくとならないことがしょうる。さらにえば、線型せんけいかつ連続れんぞくなるようなガトー微分びぶんがかりすうたいして、その連続れんぞくてき微分びぶん可能かのうせい定式ていしきにはたがいに同値どうちでないいくつかの方法ほうほう存在そんざいする。

たとえば、変数へんすうじつ数値すうち函数かんすう F

さだめると、これは (0, 0) においてガトー微分びぶん可能かのうで、その微分びぶん係数けいすう

となり、しかしこれは引数ひきすう (a, b)かんして連続れんぞくだが線型せんけいでない。無限むげん次元じげん場合ばあいX うえ任意にんい不連続線ふれんぞくせんがたひろし函数かんすうがガトー微分びぶん可能かのうとなるが、その 0 におけるガトー微分びぶん係数けいすう線型せんけいであり、かつ連続れんぞくでない。

フレシェ微分びぶんとの関係かんけい
Fフレシェ微分びぶん可能かのうならば、F はまたガトー微分びぶん可能かのうであり、そのフレシェしるべ函数かんすうとガトーしるべ函数かんすうとは一致いっちする。ぎゃくあきらかにしんでないことは、ガトーしるべ函数かんすう線型せんけい連続れんぞくでないことがあることからかるが、じつはガトーしるべ函数かんすう線型せんけいかつ連続れんぞくである場合ばあいにも、フレシェしるべ函数かんすう存在そんざいしないことがありる。
にもかかわらず、複素ふくそバナハ空間くうかん X からべつのバナハ空間くうかん Y への函数かんすう Fたいして、ガトーしるべ函数かんすうは(ただし、定義ていぎにおける極限きょくげん複素ふくそ変数へんすう τたうかんしてるものとすると)、自動的じどうてき線型せんけいになる(Zorn (1945)定理ていり)。さらに Fかくてん uU において(複素ふくそ)ガトー微分びぶん可能かのうで、そのしるべ函数かんすうDF(u): ψぷさいdF(u; ψぷさい) とすると、FU うえでフレシェ微分びぶん可能かのうであり、そのフレシェしるべ函数かんすうDF になる (Zorn 1946)。このことは、古典こてんてき複素ふくそ解析かいせきにおいてひらき集合しゅうごうじょう複素ふくそ微分びぶん任意にんい函数かんすう解析かいせきてきとなるという結果けっか類似るいじ対応たいおうぶつであり、無限むげん次元じげん正則せいそく函数かんすうろん英語えいごばん基本きほんてき結果けっかひとつである。
連続れんぞくてき微分びぶん可能かのうせい
連続れんぞくてきガトー微分びぶん可能かのうせいおおきくふたつの方法ほうほう定義ていぎすることができる。以下いか函数かんすう F: UYひらけ集合しゅうごう Uかくてんガトー微分びぶん可能かのう仮定かていする。U における連続れんぞくてき微分びぶん可能かのうせい概念がいねんひとつは、直積ちょくせき空間くうかんうえ写像しゃぞう dF: U × XY連続れんぞくであることをすものである。この場合ばあい線型せんけいせい仮定かていする必要ひつようはなく、XY がともにフレシェ空間くうかんならば dF(u; •)任意にんいuかんして自動的じどうてき有界ゆうかいかつ線型せんけいである (Hamilton 1982)。
よりつよ意味いみでの連続れんぞくてき微分びぶん可能かのうせいuDF(u)U から、X から Y への連続れんぞく線型せんけい写像しゃぞう全体ぜんたい空間くうかん L(x, y) への写像しゃぞうとして連続れんぞくであることをすものである。すなわち、DF: UL(X,Y); uDF(u)連続れんぞくせいう。ここで、DF(u) 自体じたい連続れんぞくであることはすで前提ぜんていとしていることに注意ちゅうい
技術ぎじゅつてき便宜上べんぎじょうX, Y がバナハ空間くうかんであるときは、後者こうしゃ意味いみでの連続れんぞくてき微分びぶん可能かのうせいかんがえるのが典型てんけいてき(だがいつも (universal) というわけではない)である。これは L(X, Y) もまたバナハであり、したがって函数かんすう解析かいせきがくにおける標準ひょうじゅんてき結果けっかをそこでもちいることができるという理由りゆうによる。前者ぜんしゃのほうは、線型せんけい解析かいせきではより一般いっぱんてきもちいられる定義ていぎであり、この分野ぶんやでは函数かんすう空間くうかんかならずしもバナハでない。たとえば、フレシェ空間くうかんにおける微分びぶんほう英語えいごばんは、しばしば微分びぶん多様たようたいうえなめらかな函数かんすうからなる意味いみのある函数かんすう空間くうかんにおいて、ナッシュ-モーザーのぎゃく写像しゃぞう定理ていり英語えいごばんなどで応用おうようされる。


高階たかしなしるべ函数かんすう

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高階たかしなのフレシェしるべ函数かんすうが、同型どうけい Ln(X, Y) = L(X, Ln−1(X, Y))反復はんぷく適用てきようによって、多重たじゅう線型せんけい写像しゃぞうとして自然しぜん定義ていぎされるのにはんして、高階たかしなガトーしるべ函数かんすうはこの方法ほうほう定義ていぎすることはできない。そのわり、Xひらき集合しゅうごう U うえ函数かんすう F: UYh-方向ほうこうへの n-かいガトーしるべ函数かんすう

(2)

定義ていぎされる。つまりこれは、多重たじゅう線型せんけい写像しゃぞうではなくて、hかんする n-つぎひとし函数かんすうになる。

あるいはまた、すくなくとも F がスカラー函数かんすうである特別とくべつ場合ばあいには、高階たかしなしるべ函数かんすうべつ候補こうほとして、Fへんぶんとしての函数かんすう

(3)

が、へんぶんほうにおいて自然しぜんしょうじてくるが、しかしこの方法ほうほうだと h および k のそれぞれにかんしてひとしつぎになることをのぞけば、まともな性質せいしつまった保証ほしょうされない。D2F(u){h, k}hkかんする対称たいしょうそう線型せんけい写像しゃぞうとなること、およびその対称たいしょうそう線型せんけい写像しゃぞうdnFきょく形式けいしき英語えいごばん一致いっちすること、を保証ほしょうする十分じゅうぶん条件じょうけんつことがのぞましい。

たとえば、以下いかのようなじゅうふん条件じょうけんげられる (Hamilton 1982)。F写像しゃぞう DF: U × XYせき位相いそうかんして連続れんぞくであるという意味いみC1-きゅうであるとし、さらに定義ていぎしき (3)さだめるへんぶんD2F: U × X × XY連続れんぞくとなるという意味いみ連続れんぞく仮定かていする。このとき D2F(u){h, k}h, kかんしてそう線型せんけいかつ対称たいしょうである。そう線型せんけいせいのおかげで、きょく恒等こうとうしき

たされ、へんぶん D2F(u)微分びぶん係数けいすう d2F(u; −)関連付かんれんづけられる。同様どうようのことが高階たかしなしるべ函数かんすうかんしても成立せいりつする。

性質せいしつ

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函数かんすう F十分じゅうぶん連続れんぞくてき微分びぶん可能かのう仮定かていすると、F のガトー微分びぶんかんして微分びぶん積分せきぶんがく基本きほん定理ていり一種いっしゅ成立せいりつする。具体ぐたいてきけば、

F: XY はガトー微分びぶん dF: U × XY連続れんぞく函数かんすうであるという意味いみC1-きゅうとすると、任意にんいuU および hXかんして
つ。ただし、積分せきぶんゲルファント-ペティス積分せきぶんじゃく積分せきぶん)の意味いみる。

これにより、よくられた微分びぶん性質せいしつおおくをガトー微分びぶんたす(たとえば、高階たかしなしるべ函数かんすうじゅう線型せんけいせい交換こうかんせい)。基本きほん定理ていり帰結きけつとしてほかにも、

連鎖れんさりつ
任意にんいuU , xXたいして つ。
剰余じょうよこうテイラーの定理ていり
uUu + hむす線分せんぶんがまったく Uふくまれると仮定かていする。FCk-きゅうならば
つ。ただし剰余じょうよこう
あたえられる。

などが成立せいりつする。

空間くうかん Xユークリッド空間くうかん RNルベーグはか集合しゅうごう Ωおめが うえ自乗じじょう積分せきぶん函数かんすう全体ぜんたいヒルベルト空間くうかんとする。FF' = f なるじつ変数へんすうじつ数値すうち函数かんすうで、uΩおめが うえじつ数値すうち函数かんすうとするとき、ひろし函数かんすう E: XR

さだめると、これはガトーしるべ函数かんすう

つ。実際じっさい

となるから、τたう → 0 としてガトーしるべ函数かんすう

すなわち、内積ないせき f, ψぷさい となる。

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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