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空間くうかんベクトル

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

空間くうかんベクトル(くうかんベクトル、ドイツ: Vektor, 英語えいご: vector, ラテン語らてんご: vector, 「運搬うんぱんしゃはこぶもの」より)は、おおきさときをったりょうである。ベクタベクターともいう。漢字かんじでは有向ゆうこうりょう表記ひょうきされる。ベクトルであらわされるりょうベクトルりょうぶ。

たとえば、速度そくど加速度かそくどちからはベクトルである。平面へいめんじょう空間くうかんない矢印やじるし有向ゆうこう線分せんぶん)として幾何きかがくてきにイメージされる。ベクトルという用語ようごハミルトンによってスカラーなどの用語ようごとともに導入どうにゅうされた。スカラーはベクトルとは対比たいひ意味いみつ。

この記事きじでは、ユークリッド空間くうかんうち幾何きかベクトル、とくに3次元じげんのものについてあつかい、部分ぶぶんてき一般いっぱん抽象ちゅうしょうされた場合ばあいについて言及げんきゅうする。ほん項目こうもくとくことわ空間くうかんぶときは、3次元じげんじつユークリッド空間くうかんのことをす。

数学すうがくてき記述きじゅつ

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てん S を始点してんとし、てん T を終点しゅうてんとする有向ゆうこう線分せんぶん

空間くうかんないふたつのてん ST をとり、S から Tかう線分せんぶん有向ゆうこう線分せんぶんぶ。S始点してん(してん、initial point, source, しっぽ)、T終点しゅうてん(しゅうてん、terminal point, target, あたま)とび、きの区別くべつのために終点しゅうてん Tがわはしやまいて線分せんぶん矢印やじるしにする。

たがいにおなきに平行へいこうながさのひとしい有向ゆうこう線分せんぶん対応たいおうするベクトルはたがいにひとしい

あるてん Sきとおおきさをったりょう v作用さようしているとき、v作用さようおなきで、ながさが v作用さようおおきさに比例ひれいするように有向ゆうこう線分せんぶん をとって v

表現ひょうげんする。

べつてん S′ におなじように v作用さようき、おおきさにあわせて有向ゆうこう線分せんぶん をつくるとこれらはたがいに平行へいこう になるが、これももとりょう vあらわすものとして

しるし、おなじものとみなすというのがきとおおきさをったりょうというベクトル概念がいねん幾何きかがくてき表現ひょうげん幾何きかがくてきベクトル)である。

ベクトルのスカラーばい

あるベクトル aおな方向ほうこうおおきさの比率ひりつスカラー)が k であるようなベクトルを kaあらわす。また、aおなおおきさでぎゃくきをつベクトルは −aあらわす。同様どうように、aぎゃくきをおおきさの比率ひりつk であるようなベクトルは −kaしるす。これをベクトル a のスカラー k ばいあるいはたんスカラーばい(スカラー乗法じょうほう)とぶ。

ベクトルの

ふたつのベクトル a, b a + b を、それらの始点してんわせたときにできる平行四辺形へいこうしへんけいの(始点してん共有きょうゆうする)対角線たいかくせん対応たいおうするベクトルとさだめる(みっ以上いじょうのベクトルのも、ふたつのをとる演算えんざんから帰納的きのうてきさだめる)。a, b がどんなものであっても a + b = b + aっていることに注意ちゅういされたい。

またぎゃくに、あるベクトルをふたつ(以上いじょう)のことなるベクトルの分解ぶんかいすることができる。とくxyz-空間くうかんかくじく方向ほうこうながさ 1 の有向ゆうこう線分せんぶん対応たいおうするベクトル(基本きほんベクトル単位たんいベクトル)を x, y, zかくじくでそれぞれ i, j, kくと、任意にんいのベクトル v

かたちあらわせる。

ここで、ピタゴラスの定理ていりもちいると、ベクトル vおおきさ ||v|| は

によってもとまる。

ベクトルの始点してんxyz-座標ざひょうけい原点げんてんわせると、任意にんいのベクトルはその終点しゅうてん座標ざひょうによって一意的いちいてきあらわすことができる。

このとき、空間くうかんないてん Qたいして Q = P(v) となるベクトル vてん Q位置いちベクトルぶ。

歴史れきし

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いわゆる矢印やじるしベクトルは物理ぶつりがく教育きょういくでは力学りきがく初歩しょほから導入どうにゅうされるため、ベクトルも古典こてん力学りきがく同時どうじ発生はっせいしたとおもわれるかもしれないが、じつはもっとの19世紀せいきになってあらわれたものである。いまでこそベクトルや行列ぎょうれつなどを使つかって、物理ぶつりがく幾何きか問題もんだいくといったことは常識じょうしきであるが、ベクトルが誕生たんじょうする以前いぜん数学すうがく物理ぶつりがくでは初等しょとう幾何きかがく解析かいせき幾何きかがくよんげんすうなどを利用りようしていた。今日きょう我々われわれっているベクトルの概念がいねんは、およそ200ねんもの時間じかんけて徐々じょじょ形成けいせいされてきたものである。そこではなんじゅうにんもの人々ひとびと重要じゅうよう役割やくわりたしてきた[1]。ベクトルの先祖せんぞよんげんすうであり、ハミルトンが1843ねん複素数ふくそすう一般いっぱんによって考案こうあんしたものである。ハミルトンは最初さいしょに、次元じげんにおける複素数ふくそすう複素ふくそ平面へいめんのような関係かんけいたすようなかずさん次元じげん空間くうかんにもいだそうとしたが失敗しっぱいし、なぜかみっつのかずくみでは次元じげん場合ばあい複素数ふくそすう複素ふくそ平面へいめんのようにさん次元じげん空間くうかん記述きじゅつできないことが判明はんめいした。

研究けんきゅう結果けっか最終さいしゅうてきよん次元じげんよんげんすうへとたどりくこととなった。さん次元じげん空間くうかん記述きじゅつするのに、かずさんくみでは記述きじゅつ不可能ふかのうでなぜかよんくみ必要ひつようだったのである。次元じげんでは、くみかずである複素数ふくそすうもちいることによって、複素ふくそ平面へいめん次元じげんユークリッド平面へいめん同等どうとうとみなすとベクトルに概念がいねん記述きじゅつできるというのに、さん次元じげん空間くうかん記述きじゅつするのによん次元じげんかず必要ひつようだったのである。ハミルトンは1846ねんよんげんすう複素数ふくそすうにおけるきょ相当そうとうするものとしてスカラーとベクトルという用語ようご導入どうにゅうした:

代数だいすうてききょ(ベクトル)は、幾何きかてきには直線ちょくせんまたは半径はんけいベクトルであり、それらは一般いっぱんてきには、各々おのおのよんげんすうによって決定けっていされ、空間くうかんにおけるきとながさがさだまり、それをきょまたはたんよんげんすうのベクトルと[2]

ベラヴィティス英語えいごばん、コーシー、グラスマン、メビウス、セイントベナント英語えいごばんマシュー・オブライエン英語えいごばんといったハミルトン以外いがい何人なんにんかの数学すうがくしゃたちはどう時期じきにベクトルに概念がいねん開発かいはつした。グラスマンの1840ねん論文ろんぶん減衰げんすいながれの理論りろん」は空間くうかん解析かいせき最初さいしょ体系たいけいであって、今日きょう体系たいけい類似るいじしたものであり、今日きょう外積がいせき内積ないせき、ベクトルの微分びぶん相当そうとうする概念がいねんふくまれていた。グラスマンの業績ぎょうせきは1870年代ねんだいまで不当ふとう無視むしされつづけていた[1]

ピーター・テイトはハミルトンののちよんげんすう基礎きそ確立かくりつした。テイトの1867ねんの「よんげんすう初等しょとうてき理論りろん」には今日きょうの∇(ナブラ)演算えんざん相当そうとうする概念がいねんふくまれていた。

ウィリアム・クリフォード英語えいごばんは1878ねん力学りきがく原論げんろん英語えいごばん出版しゅっぱんした。ここでクリフォードは完備かんびよんげんすうせきから今日きょうふたつのベクトルの外積がいせき内積ないせき相当そうとうする概念がいねん抽出ちゅうしゅつした。このアプローチはよん次元じげん実在じつざい疑念ぎねんいている技術ぎじゅつしゃなどの人々ひとびとにベクトル解析かいせきつうじてさん次元じげん空間くうかん解析かいせきおこな手段しゅだん提供ていきょうしたといえる。

アメリカの物理ぶつり学者がくしゃギブスは、現代げんだいてきなベクトル解析かいせきもちいたものによんげんすうベースでかれていたマクスウェル電磁気でんじきがく著書ちょしょ、「Treatise on Electricity and Magnetism」をなおした。電磁気でんじきがく数理すうりはベクトルが登場とうじょうするまではよんげんすうもちいられており、ニュートン力学りきがく初等しょとう幾何きかがくベースで後世こうせい科学かがくしゃらに現代げんだいふう解析かいせきがくもちいる数理すうりえられたのと同様どうよう、マクスウェルのオリジナルのものはよんげんすうベースであり今日きょうおしえられているベクトルベースの電磁気でんじきがくもまた後世こうせい科学かがくしゃらによってえられたものである。ギブスは自身じしんイェール大学だいがくでの講義こうぎもとにベクトル解析かいせき専門せんもんしょ「Elements of Vector Analysis」の最初さいしょ分冊ぶんさつを1881ねん出版しゅっぱんしたが、ここでは今日きょうもちいられているベクトル解析かいせき基本きほん概念がいねんおおむ確立かくりつされているといえる[1]。この講義こうぎろく英国えいこくヘヴィサイドにもおくられ評価ひょうかされた。おしエドウィン・ウィルソン英語えいごばんが1901ねん出版しゅっぱんした「Vector Analysis」はギブスの講義こうぎもとかれており、四元よつもとすう名残なごり完全かんぜん抹消まっしょう今日きょうのベクトル解析かいせき基礎きそ確立かくりつした最初さいしょ著作ちょさくであるといえる。

これ以降いこう理工りこうがくではベクトルの概念がいねんさかんにもちいられるようになり、四元よつもとすう一旦いったんすたれたものの、20世紀せいき後半こうはん以降いこうコンピュータの発達はったつによりさん次元じげん空間くうかんのプログラミングによんげんすう一部いちぶふたたもちいられている。

さらに20世紀せいきはいると線型せんけい代数だいすうがく発達はったつによりベクトルの概念がいねん抽象ちゅうしょうし、きをった直線ちょくせん矢印やじるしあらわせる具体ぐたいてき幾何きかベクトルのみならず線型せんけい空間くうかん関連かんれんした抽象ちゅうしょうてき存在そんざいとしても認識にんしきされるようになっていく。20世紀せいき後半こうはんになると線型せんけい代数だいすう教育きょういくにもれられるようになり、むかしながらの初等しょとう幾何きかがく解析かいせき幾何きかがくよりもベクトルや線型せんけい代数だいすうもちいて幾何きかがく物理ぶつりがく問題もんだい教育きょういくされるようになった。日本にっぽん大学だいがくでも戦後せんごから1970年代ねんだいぐらいまでのあいだ理系りけい学生がくせい必修ひっしゅう科目かもくとしての「解析かいせき幾何きかがく」や「代数だいすう幾何きか」が「行列ぎょうれつ行列ぎょうれつしき」、「線型せんけい代数だいすう」といった科目かもくってわられていった。現代げんだいではこれらは歴史れきしはほとんどおしえられずに適度てきど取捨選択しゅしゃせんたくしつつふくあいてき教育きょういくされているが、歴史れきしてきにはおおむ初等しょとう幾何きかがく解析かいせき幾何きかがく、ベクトル解析かいせき線型せんけい代数だいすう順番じゅんばん発達はったつしてきたものである。これにともなって解析かいせきがく物理ぶつり数学すうがく教育きょういく変遷へんせんし、20世紀せいき前半ぜんはん以前いぜんのものは解析かいせき幾何きかがくなどの幾何きかしょくつよいが、20世紀せいき後半こうはんのものはベクトルや線型せんけい代数だいすうれた抽象ちゅうしょうてきなものが主流しゅりゅうとなっていった。

参考さんこう文献ぶんけん

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  1. ^ a b c Michael J. Crowe, A History of Vector Analysis; see also his lecture notes on the subject.
  2. ^ W. R. Hamilton (1846) London, Edinburgh & Dublin Philosophical Magazine 3rd series 29 27

関連かんれん項目こうもく

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