直積ちょくせき (ベクトル)

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線型せんけい代数だいすうがくにおける直積ちょくせき(ちょくせき、えい: direct product[1])あるいは外積がいせき(がいせき、えい: outer product)は典型てんけいてきにはふたつのベクトルテンソルせきう。座標ざひょうベクトル英語えいごばん外積がいせきをとった結果けっか行列ぎょうれつになる。外積がいせき名称めいしょう内積ないせき対照たいしょうするもので、内積ないせきはベクトルのたいスカラーにする。外積がいせきは、クロスせき意味いみ使つかわれることもあるため、どちらの意味いみ使つかわれているか注意ちゅうい必要ひつようである。


ベクトル同士どうし外積がいせき行列ぎょうれつクロネッカーせき特別とくべつ場合ばあいである。

「テンソルの外積がいせき」を「テンソルせき」の同義語どうぎごとしてもちいる文献ぶんけんもある。外積がいせきR, APL, Mathematica などいくつかの計算けいさんプログラム言語げんごでは高階たかしな函数かんすうでもある。

定義ていぎ[編集へんしゅう]

行列ぎょうれつ表現ひょうげん[編集へんしゅう]

ふたつのベクトル u, v外積がいせき uv は、um × 1 れつベクトルvn × 1 れつベクトル(したがって vこうベクトル)としたときの行列ぎょうれつせき uv等価とうかである[2]成分せいぶんもちいて

けば、外積がいせき uvm × n 行列ぎょうれつ Aかく成分せいぶんuかく成分せいぶんvかく成分せいぶんせきであたえられ[3][4]

あらわされる。

複素ふくそベクトルの場合ばあいには、これをすこえて、v転置てんちわりに共軛きょうやく転置てんち vもちい、

とする。つまりられる行列ぎょうれつ Auかく成分せいぶんvかく成分せいぶん複素ふくそ共軛きょうやくとのせき成分せいぶんとするものになる。

内積ないせきとの対比たいひ
m = n のときはべつ仕方しかた行列ぎょうれつせきほどこしてスカラー(1 × 1 行列ぎょうれつ)がられる。つまり、かずベクトル空間くうかん標準ひょうじゅん内積ないせきてんじょうせきu, v⟩ = uv である。内積ないせき外積がいせきトレースひとしい。
行列ぎょうれつとしての階数かいすう
u, v がともにれいならば、外積がいせき uv行列ぎょうれつとしての階数かいすうつね1 である。このことをるにはベクトル xけて (uv)x = u(vx) とすればよい。これはベクトル u のスカラー vx-ばいならない。
("行列ぎょうれつ階数かいすう" をテンソルの階数かいすう ("order" / "degree") と混同こんどうしてはならない)。

テンソルの外積がいせき[編集へんしゅう]

テンソルにたいする外積がいせきはふつうテンソルせきばれる。テンソル a階数かいすう qかく次元じげん (i1, …, iq), b階数かいすう rかく次元じげん(j1, …, jr) とすれば、これらの外積がいせき c階数かいすう q + rかく次元じげん (k1, …, kq+r)さきi次元じげんならべたのちj次元じげんならべたものになる。これを もちいた座標ざひょう依存いぞんしない表記ひょうきき、その成分せいぶん添字そえじ表記ひょうきけば

となる[5]高階たかしなテンソルの場合ばあい同様どうようで、たとえば

などとける。

たとえば Aさんかいかく次元じげん(3, 5, 7), Bかいかく次元じげん(10, 100) ならば、それらの外積がいせき Cかいかく次元じげん(3, 5, 7, 10, 100) となる。またたとえば A成分せいぶん a2,2,4 = 11 および B成分せいぶん b8,88 = 13対応たいおうする外積がいせき C成分せいぶんとして c2,2,4,8,88 = 11*13 = 143まる。

外積がいせき行列ぎょうれつとしての定義ていぎをテンソルせき言葉ことば理解りかいするには:

  1. ベクトル vいちかいM-次元じげんテンソルとして解釈かいしゃくできる。同様どうようuいちかいN-次元じげんテンソルである。これらのテンソルせき結果けっかかい(M, N)-テンソルになる。
  2. q-かいおよび r-かいふたつのテンソルの内積ないせき結果けっかは、階数かいすうq + r − 2 または 0おおきいほうになる。ふたつの行列ぎょうれつ内積ないせきふたつのベクトルの外積がいせき(テンソルせき)と階数かいすう一致いっちする。
  3. テンソルの構造こうぞうえることなくテンソルの先頭せんとうまたは末尾まつびにひとつずついくらでも次元じげん追加ついかすることができる。これら追加ついかされた次元じげんによってテンソルにたいする演算えんざんかたわるため、られるしきあいだ同値どうちせい明示めいじてきべる必要ひつようがある。
  4. ふたつの行列ぎょうれつ V次元じげん (d, e), U次元じげん (e, f) とするとこれらの内積ないせき
    である。e = 1場合ばあいにはこの自明じめいである(ひとつのこうしかない)。
  5. 次元じげん (m, n)行列ぎょうれつ V次元じげん (p, q)行列ぎょうれつ U外積がいせき

抽象ちゅうしょうてき定義ていぎ[編集へんしゅう]

ベクトル空間くうかん V, WWW双対そうつい空間くうかんとする。 ベクトル xV および yWたいしてテンソルせき yx

あたえられる写像しゃぞう A: W → V対応たいおうする。ここで y(w)線型せんけいひろし函数かんすう y(これは W双対そうつい空間くうかんもと)をベクトル wW において評価ひょうかしたである。これはスカラーであり、これを最終さいしゅうてきVもとである xけたものがテンソルせきである。

ベクトル空間くうかん V, W有限ゆうげん次元じげんならば、W から V への線型せんけい変換へんかん全体ぜんたい空間くうかん Hom(W, V)外積がいせき生成せいせいされる。じつ行列ぎょうれつ階数かいすうは、外積がいせきとしてあらわすために必要ひつようこう最小さいしょうすう行列ぎょうれつのテンソル階数かいすう)に一致いっちする。いま場合ばあいHom(W, V)WV線型せんけい同型どうけいである。

双対そうついせい内積ないせきとの対比たいひ
W = V のとき、ベクトル wV とベクトル vV とを写像しゃぞう (w, v) ↦ w(v)とおしてたいにすることができる。これは V とその双対そうつい空間くうかんとのあいださだまる双対そうついせいあらわ内積ないせきである。

応用おうよう[編集へんしゅう]

外積がいせき物理ぶつりりょうたとえば慣性かんせいテンソルなど)の計算けいさんや、デジタル信号しんごう処理しょりデジタル画像がぞう処理しょりにおける変形へんけい操作そうさおこなうのに有用ゆうようである。また統計とうけいてき解析かいせきにおいても、ふたつのかくりつ変数へんすうきょう分散ぶんさんおよび自己じこども分散ぶんさん行列ぎょうれつ計算けいさん有用ゆうようである。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

乗法じょうほう[編集へんしゅう]

双対そうついせい[編集へんしゅう]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ Rowland, Todd and Weisstein, Eric W. "Tensor Direct Product". mathworld.wolfram.com (英語えいご).
  2. ^ Linear Algebra (4th Edition), S. Lipcshutz, M. Lipson, Schaum’s Outlines, McGraw Hill (USA), 2009, ISBN 978-0-07-154352-1
  3. ^ Weisstein, Eric W. "Kronecker Product". mathworld.wolfram.com (英語えいご).
  4. ^ Encyclopaedia of Physics (2nd Edition), R.G. Lerner, G.L. Trigg, VHC publishers, 1991, (Verlagsgesellschaft) 3-527-26954-1, (VHC Inc.) 0-89573-752-3
  5. ^ Mathematical methods for physics and engineering, K.F. Riley, M.P. Hobson, S.J. Bence, Cambridge University Press, 2010, ISBN 978-0-521-86153-3

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 矢野やの健太郎けんたろう幾何きかがく部門ぶもん報告ほうこく」『数学すうがくだい23かんだい2ごう日本にっぽんすう学会がっかい、1971ねん、101-106ぺーじCRID 1390001205067286016doi:10.11429/sugaku1947.23.101ISSN 0039470X に「リッチ計算けいさんほう」とかれているためこのわけ採用さいよう