ユニモジュラ行列ぎょうれつ

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数学すうがく分野ぶんやにおいて、ある正方せいほう行列ぎょうれつ Mユニモジュラ行列ぎょうれつ(ユニモジュラぎょうれつ、えい: unimodular matrix; たん行列ぎょうれつ)であるとは、それが整数せいすう行列ぎょうれつで、その行列ぎょうれつしきが +1 あるいは −1 であることをう。また同値どうちであるが、整数せいすうについて可逆かぎゃくであるような整数せいすう行列ぎょうれつ、すなわち、ぎゃく行列ぎょうれつ N整数せいすう行列ぎょうれつであるような整数せいすう行列ぎょうれつのことも、ユニモジュラ行列ぎょうれつう。これらふたつの定義ていぎ同値どうちであることは、クラメルの公式こうしきよりしたがう。したがって、いずれの成分せいぶん整数せいすうであるような行列ぎょうれつ M とベクトル bたいする方程式ほうていしき Mx = b には、M がユニモジュラ行列ぎょうれつであるとき、整数せいすうかい存在そんざいする。すうn のユニモジュラ行列ぎょうれつぐんし、それは 表記ひょうきされる。

ユニモジュラ行列ぎょうれつれい[編集へんしゅう]

ユニモジュラ行列ぎょうれつ行列ぎょうれつせきした一般いっぱん線型せんけいぐん部分ぶぶんぐんす。すなわち、つぎげる行列ぎょうれつはすべてユニモジュラ行列ぎょうれつである:

さらに、つぎ成立せいりつする:

  • ふたつのユニモジュラ行列ぎょうれつクロネッカーせきもまたユニモジュラ行列ぎょうれつである。このことは、つぎ等式とうしきによりしたがう:
ここで pq はそれぞれ行列ぎょうれつ AB次元じげんあらわす。

ユニモジュラ行列ぎょうれつ具体ぐたいれいとしては、つぎげられる:

ぜんユニモジュラせい[編集へんしゅう]

ぜんユニモジュラ行列ぎょうれつ(totally unimodular matrix, TU 行列ぎょうれつ[注釈ちゅうしゃく 1]とは、その非特異ひとくいなすべての正方せいほう部分ぶぶん行列ぎょうれつがユニモジュラ行列ぎょうれつであるような行列ぎょうれつのことをう。したがって、ぜんユニモジュラ行列ぎょうれつは、かならずしもそれ自身じしん正方せいほう行列ぎょうれつでなくてもよい。定義ていぎより、任意にんいぜんユニモジュラ行列ぎょうれつ成分せいぶんは 0、+1 あるいは −1 でしかありないことがかる。

ぜんユニモジュラ行列ぎょうれつは、ある線型せんけい計画けいかく整数せいすう計画けいかくであることをたしかめるための迅速じんそく方法ほうほう提供ていきょうするため、多面体ためんたいてき組合くみあわろん英語えいごばん組合くみあわ最適さいてきにおいてきわめて重要じゅうよう概念がいねんとなる。とくに、Aぜんユニモジュラ行列ぎょうれつb整数せいすうベクトルとしたとき、 あるいは のような形状けいじょう線型せんけい計画けいかくは、任意にんいcたいして、整数せいすう最適さいてきかいつ。したがって、Aぜんユニモジュラ行列ぎょうれつb整数せいすうベクトルであるなら、実行じっこう可能かのう領域りょういきたとえば、)のすべてのきょくてん整数せいすうであり、したがってその実行じっこう可能かのう領域りょういき整数せいすう多面体ためんたいとなる。

よくあるぜんユニモジュラ行列ぎょうれつ[編集へんしゅう]

1. 2グラフの2マッチングたいする係数けいすう行列ぎょうれつとしてられるむかい接続せつぞく行列ぎょうれつ(unoriented incidence matrix)は、ぜんユニモジュラ行列ぎょうれつである。一方いっぽう2グラフのこう接続せつぞく行列ぎょうれつは、ぜんユニモジュラ行列ぎょうれつではない。より一般いっぱんに、Heller と Tompkins の論文ろんぶん [1]補遺ほいにおいて、A.J. Hoffman と D. Gale はつぎ証明しょうめいした。 を、各行かくこうふたつの集合しゅうごう 区分くぶんできるようなある m×n 行列ぎょうれつとする。このとき、以下いかよっつの条件じょうけんわせて Aぜんユニモジュラ行列ぎょうれつであるための十分じゅうぶん条件じょうけんとなる:

  • のすべてのれつには、ゼロでない成分せいぶん高々たかだかふたつしか存在そんざいしない;
  • のすべての成分せいぶんは 0、+1 あるいは −1 のいずれかである;
  • のあるれつふたつのゼロでない成分せいぶん符号ふごう同一どういつであるなら、そのひとつのくだりぞくし、もうひとつのくだりぞくす;
  • のあるれつふたつのゼロでない成分せいぶん符号ふごうことなるなら、それら両方りょうほうくだり あるいは のいずれかにぞくす。

のちに、これらの条件じょうけんは、ある均衡きんこう符号ふごうづけグラフ英語えいごばん接続せつぞく行列ぎょうれつ定義ていぎすることがられた。したがってこのれいは、符号ふごうづけグラフの接続せつぞく行列ぎょうれつぜんユニモジュラ行列ぎょうれつであるための十分じゅうぶん条件じょうけんは、その符号ふごうづけグラフが均衡きんこうグラフであること、ということについてべたものである。そのぎゃくは、はんあたり(half edge)をふくまない符号ふごうづけグラフにたいしては成立せいりつする(これはグラフのこう接続せつぞく行列ぎょうれつ性質せいしつ一般いっぱんしたものである)[2]

2. 最大さいだいフロー最小さいしょう費用ひようフロー問題もんだい英語えいごばん制約せいやく条件じょうけんは、これらの性質せいしつそなえる係数けいすう行列ぎょうれつ(およびそら集合しゅうごうである C)をみちびく。したがってそのような、有界ゆうかい整数せいすう容量ようりょうそなえるネットワークフロー問題もんだいには、整数せいすう最適さいてき存在そんざいする。ここで、この事実じじつは、有界ゆうかい整数せいすう容量ようりょうたいしても分数ぶんすう最適さいてきつことがあり品種ひんしゅフロー問題もんだい英語えいごばんには適用てきようされないことに注意ちゅういされたい。

3. 連続れんぞくてきな 1 の性質せいしつ:もし A が、各行かくこうにおいて 1 が連続れんぞくてきあらわれるような 0-1 行列ぎょうれつである(あるいは、そのような行列ぎょうれつ置換ちかんされる)なら、Aぜんユニモジュラ行列ぎょうれつである(ぜんユニモジュラ行列ぎょうれつ転置てんちはふたたびぜんユニモジュラ行列ぎょうれつであるため、れつたいしても同様どうようのことが成立せいりつする)。

4. すべてのネットワーク行列ぎょうれつぜんユニモジュラ行列ぎょうれつである。ネットワーク行列ぎょうれつくだりは、かく任意にんい方向ほうこうかっているようなある T=(V,R) に対応たいおうする(このrつあるいは r からびるような、頂点ちょうてん rかならずしも存在そんざいしない)。れつは、おな頂点ちょうてん集合しゅうごう V うえべつ集合しゅうごう C対応たいおうする。くだり R およびれつ C=st成分せいぶん計算けいさんするために、T うちs から t へのみち P着目ちゃくもくする。このとき、その成分せいぶんつぎのように決定けっていされる:

  • RP において前方ぜんぽういているなら、+1;
  • RP において後方こうほういているなら、-1;
  • RPあらわれないなら、0.

詳細しょうさいについては、Schrijver (2003) を参照さんしょうされたい。

5. Ghouila-Houri は、ある行列ぎょうれつぜんユニモジュラ行列ぎょうれつであるための必要ひつようじゅうふん条件じょうけんは、くだりすべての部分ぶぶん集合しゅうごう Rたいして、くだり符号ふごうてる関数かんすう でその (これは、そのかんがえている行列ぎょうれつひとしいはばくだりベクトル)が すべての成分せいぶんつようなものが存在そんざいすること(すなわち、そのくだり部分ぶぶん行列ぎょうれつ高々たかだかひとつの discrenpacy をつこと)であることを証明しょうめいした。このことと、のいくつかの同値どうちせいのための条件じょうけんは、Schrijver (2003) においてしめされている。

6. Hoffman と Kruskal[3] は、つぎ定理ていり証明しょうめいした。 はどのような 2-dicycle もふくまない有向ゆうこうグラフであるとし、 うちのすべての dipaths の集合しゅうごうであるとし、たいする の 0-1 接続せつぞく行列ぎょうれつであるとする。このとき、ぜんユニモジュラ行列ぎょうれつであるための必要ひつようじゅうふん条件じょうけんは、 うち任意にんい方向ほうこうへのすべてのたん閉路へいろが、前方ぜんぽう後方こうほうへの交互こうごふくむことである。

7. 0-(1) 成分せいぶんのある行列ぎょうれつが、かくれつにおいてその成分せいぶんうえからした減少げんしょう(すなわち、すべての -1 は一番いちばんじょうにあり、そのつぎに 0 があり、一番いちばんには 1 があるという具合ぐあい)であると仮定かていする。このとき、Fujishige [4]は、この行列ぎょうれつぜんユニモジュラ行列ぎょうれつであるための必要ひつようじゅうふん条件じょうけんは、そのすべての 2 × 2 部分ぶぶん行列ぎょうれつ行列ぎょうれつしき であることであることを証明しょうめいした。

8. Seymour (1980) は、ここで非公式ひこうしきてきべたぜんユニモジュラ行列ぎょうれつのすべての特徴とくちょうについて証明しょうめいした。Seymour の定理ていりでは、ある行列ぎょうれつぜんユニモジュラ行列ぎょうれつであるための必要ひつようじゅうふん条件じょうけんは、それがあるネットワーク行列ぎょうれつ自然しぜんわせであり、ある 5 × 5 ぜんユニモジュラ行列ぎょうれつのコピーであること、ということがべられている。

具体ぐたいれい[編集へんしゅう]

1. 以下いか行列ぎょうれつぜんユニモジュラ行列ぎょうれつである:

この行列ぎょうれつは、以下いかのネットワークにかんする最大さいだいフロー問題もんだい線型せんけい計画けいかくほうにおける制約せいやく条件じょうけんたいする係数けいすう行列ぎょうれつとしてられるものである:

2. つぎ形状けいじょう任意にんい行列ぎょうれつは、ぜんユニモジュラ行列ぎょうれつではない:

なぜならば、このような行列ぎょうれつには行列ぎょうれつしきが -2 であるような正方せいほう部分ぶぶん行列ぎょうれつ存在そんざいするからである。

抽象ちゅうしょう線型せんけい代数だいすうがく[編集へんしゅう]

抽象ちゅうしょう線型せんけい代数だいすうがくにおいては、整数せいすうかぎらず、任意にんいかわたまきからの成分せいぶんによる行列ぎょうれつかんがえる。この文脈ぶんみゃくにおいて、ユニモジュラ行列ぎょうれつとはそのたまきじょう可逆かぎゃく行列ぎょうれつ、すなわち行列ぎょうれつしき単元たんげんとなる行列ぎょうれつのことをう。このぐん表記ひょうきされる。

からだうえ行列ぎょうれつかんしてえば、ユニモジュラ非特異ひとくいおな意味いみになる。この場合ばあい「ユニモジュラ」は、たまき(しばしば整数せいすうたまき)に係数けいすうをとる行列ぎょうれつがそのたまきじょう可逆かぎゃくであることを意味いみするためにもちい、「非特異ひとくい」はからだじょう可逆かぎゃく行列ぎょうれつあらわすものとして使つかけられることがおおい。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ このかたりClaude Bergeによってつくられた。Hoffman, A.J.; Kruskal, J. (2010), “Introduction to Integral Boundary Points of Convex Polyhedra”, in M. Jünger et al. (eds.), 50 Years of Integer Programming, 1958-2008, Springer-Verlag, pp. 49–50 参照さんしょう

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ Heller, I.; Tompkins, C.B.Gh (1956), “An Extension of a Theorem of Dantzig's”, in Kuhn, H.W.; Tucker, A.W., Linear Inequalities and Related Systems, Annals of Mathematics Studies, 38, Princeton (NJ): Princeton University Press, pp. 247–254 
  2. ^ T. Zaslavsky (1982), "Signed graphs," Discrete Applied Mathematics 4, pp. 401–406.
  3. ^ Hoffman, A.J.; Kruskal, J.B. (1956), “Integral Boundary Points of Convex Polyhedra”, in Kuhn, H.W.; Tucker, A.W., Linear Inequalities and Related Systems, Annals of Mathematics Studies, 38, Princeton (NJ): Princeton University Press, pp. 223–246 
  4. ^ Fujishige, Satoru (1984), “A System of Linear inequalities with a Submodular Function on (0, +/-1) Vectors”, Linear Algebra and Its Applications 63: 253–266 

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • Papadimitriou, Christos H.; Steiglitz, Kenneth (1998), Combinatorial Optimization: Algorithms and Complexity, Mineola, N.Y.: Dover Publications (Section 13.2) 
  • Alexander Schrijver (1998), Theory of Linear and Integer Programming. John Wiley & Sons, ISBN 0-471-98232-6 (mathematical)
  • Alexander Schrijver (2003), Combinatorial Optimization: Polyhedra and Efficiency, Springer 

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]