ヘラクレスの死し (スルバラン)

『ヘラクレスの死し』

スペイン語ご: Muerte de Hércules 英語えいご: The Death of Hercules
作者さくしゃ	フランシスコ・デ・スルバラン
製作せいさく年ねん	1634年ねん
種類しゅるい	キャンバス上うえに油彩ゆさい
寸法すんぽう	136 cm × 167 cm (54 in × 66 in)
所蔵しょぞう	プラド美術館びじゅつかん、マドリード

『ヘラクレスの死し』（ヘラクレスのし、西にし: Muerte de Hércules、英えい: The Death of Hercules）は、スペインのバロック絵画かいがの巨匠きょしょうフランシスコ・デ・スルバランが1634年ねんにキャンバス上うえに油彩ゆさいで制作せいさくした絵画かいがである。マドリードのプラド美術館びじゅつかんに所蔵しょぞうされている。ブエン・レティーロ宮殿きゅうでんの「諸しょ王国おうこくの間あいだ」のために画家がかが描えがいたギリシア神話しんわの「ヘラクレスの12の功業こうぎょう」を表あらわす1０点てんからなる連作れんさくのうちの1点てんである。スルバランの画業がぎょうにおいてこれら神話しんわ画がは、同おなじく「諸しょ王国おうこくの間あいだ」のために描えがかれた歴史れきし画が『カディスの防衛ぼうえい』 (プラド美術館びじゅつかん) とともに例外れいがい的てきであり、貴重きちょうな作例さくれいである。

作品さくひん

ギリシア神話しんわの英雄えいゆうヘラクレスは並外なみはずれた怪力かいりきを誇ほこった半はん神かみ半はん人にんで、数々かずかずの難行なんぎょうを果はたした後のち、死しによってオリュンポス山さんに迎むかえ入いれられる。もとよりヘラクレスはスペイン王家おうけの神話しんわ的てきな創始そうし者しゃと考かんがえられており、本ほん作さくを委嘱いしょくしたフェリペ4世せい (スペイン王おう) の曽そ祖父そふカール5世せいもハプスブルク家かの力ちからの象徴しょうちょうとして用もちいた。とりわけ、プロテスタントやヨーロッパ諸国しょこくとの争あらそいの渦中かちゅうにあった17世紀せいきには、獣ししや怪物かいぶつを打うち倒たおすヘラクレスの姿すがたが戦争せんそうにおけるスペイン王国おうこくの勝利しょうりのイメージと重かさねられた。神話しんわの英雄えいゆうは、悪あくに打うち勝かつ君主くんしゅの力ちからと美徳びとくの象徴しょうちょうと見みなされたのである。

ヘラクレスはヘラの怒いかりを買かい、発狂はっきょうさせられてしまう。そして自分じぶんの子こを敵てきと思おもい、1人ひとり残のこらず殺ころしてしまうが、正気しょうきに返かえった後のち、自身じしんが犯おかした罪つみに愕然がくぜんとし、どうすれば罪つみを償つぐなえるかアポローンの神託しんたくに尋たずねた。すると「ティリュンス王おうエウリュステウスの臣下しんかとなり、王おうの命めいじる10の難行なんぎょうをやり遂とげよ」と命めいじられた。

本ほん作さく『ヘラクレスの死し』は、10点てんの「ヘラクレスの功業こうぎょう」連作れんさく中ちゅうでも目立めだった挿話そうわの1つである。ケンタウロス族ぞくの1人ひとりネッソスはヘラクレスの妻つまデーイアネイラ誘拐ゆうかいしようとしたとき、ヘラクレスによりヒュドラの毒どくに浸ひたした矢やで殺ころされた。画面がめんの背景はいけいには、今いままさに矢やに射いられたネッソスのおぼろげな姿すがたが見みえる。ネッソスは死しの間際まぎわ、デイアネイラに「ヘラクレスが浮気うわきをしたときは、私わたしの血ちを彼かれの肌着はだぎに塗ぬって着きせるといい。そうすれば、彼かれの愛情あいじょうは必かならず取とり戻もどせるだろう」といった。その後ご、ヘラクレスはオイカレアの女王じょおうイオレーを愛人あいじんとした。これを嘆なげいたディアネイラはネッソスの言葉ことばを思おもい起おこし、ネッソスの血ちをヘラクレスの肌着はだぎに塗ぬった。その血ちにはヒュドラの毒どくが入はいっていたため、肌着はだぎを知しらずに身みに着つけたヘラクレスの身体しんたいにはたちまち毒どくが回まわり、彼かれは激はげしい苦くるしみに襲おそわれた。最後さいごの時ときを悟さとった彼かれはオイタ山さんの頂上ちょうじょうに赴おもむき、そこで自みずからを火葬かそうに処しょした。 火ひはヘラクレスの中なかの人間にんげんの部分ぶぶんを殺ころしたが、ユーピテルの命いのちと他たのすべての神かみ々の同意どういにより彼かれは天国てんごくであるオリュンポス山さん (オリュンポス十じゅう二に神かみの居所きょしょ) に昇のぼり、神かみとなった。

ヘラクレスの白しろい衣服いふくはスルバランが精緻せいちに描えがいた宗教しゅうきょう的てき衣服いふくを想起そうきさせる。また、本ほん作さくが「諸しょ王国おうこくの間あいだ」の床ゆかからから3メートルの高たかさに掛かけられたということを考慮こうりょすれば、ヘラクレスの頭部とうぶの細部さいぶ描写びょうしゃには驚おどろくべきものがある。スルバランは、ヘラクレスの断末魔だんまつまの苦くるしみを16世紀せいきのフランスの画家がかガブリエル・サルモン (Gabriel Salmon) の同どう主題しゅだいの木版もくはん画がにもとづいて表あらわしている。しかし、彼かれは様々さまざまな方法ほうほうでサルモンの図式ずしき的てきな版画はんがに生気せいきを吹ふき込こんでいる。特とくに重要じゅうようなのは色彩しきさいの利用りようである。背景はいけいとなっている暗くら緑色みどりいろは、ヘラクレスの燃もえる衣服いふくの黄色きいろがかったオレンジ色しょくを見事みごとに引ひき立たてている。さらにヘラクレスの身体しんたいを正面しょうめんから斜ななめ向むきに変かえているため、彼かれの絶望ぜつぼう的てきな身振みぶりの激はげしさはいっそう強つよめられている。この身体しんたいの向むきの変更へんこうは、スルバランが明暗めいあんのコントラストを利用りようして場面ばめんの効果こうかを高たかめることを可能かのうにした。画家がかは劇的げきてきなものに思おもいがけない才能さいのうを発揮はっきして、新あたらしい課題かだいの挑戦ちょうせんに応こたえている。

参考さんこう文献ぶんけん

• ジョナサン・ブラウン　神吉かんき敬三けいぞう訳わけ『世界せかいの巨匠きょしょうシリーズ　スルバラン』、美術びじゅつ出版しゅっぱん社しゃ、1976年ねん刊行かんこう　ISBN 4-568-16038-3
• プラド美術館びじゅつかん展てん　ベラスケスと絵画かいがの栄光えいこう、国立こくりつ西洋せいよう美術館びじゅつかん、プラド美術館びじゅつかん、読売新聞社よみうりしんぶんしゃ、日本テレビ放送網にほんてれびほうそうもう、BS日本にっぽんテレ、2018年ねん刊行かんこう ISBN 978-4-907442-21-7
• 吉田よしだ敦彦あつひこ『名画めいがで読よみ解とく「ギリシア神話しんわ」、世界文化社せかいぶんかしゃ、2013年ねん刊行かんこう　ISBN 978-4-418-13224-9

外部がいぶリンク

• プラド美術館びじゅつかん公式こうしきサイト、スルバラン『ヘラクレスの死し』 （英語えいご）