聖せいウーゴと食卓しょくたくの奇蹟きせき

『聖せいウーゴと食卓しょくたくの奇蹟きせき』

スペイン語ご: San Hugo en el refectorio de los cartujos 英語えいご: St Hugh in the Carthusian Refectory
作者さくしゃ	フランシスコ・デ・スルバラン
製作せいさく年ねん	1655年ねん
種類しゅるい	キャンバス上うえに油彩ゆさい
寸法すんぽう	267 cm × 320 cm (105 in × 130 in)
所蔵しょぞう	セビーリャ美術館びじゅつかん

『聖せいウーゴと食卓しょくたくの奇蹟きせき』（せいウーゴとしょくたくのきせき、西にし: San Hugo en el refectorio de los cartujos, 英えい: St Hugh in the Carthusian Refectory）は、スペインのバロック絵画かいがの巨匠きょしょうフランシスコ・デ・スルバランが1655年ねんにキャンバス上うえに油彩ゆさいで制作せいさくした絵画かいがである。セビーリャのカルトジオ会かい所属しょぞくのサンタ・マリア・デ・ラス・クエバス修道院しゅうどういんために画家がかが描えがいた3点てんの絵画かいがのうちの1点てんで、カルトジオ会かいの肉食にくしょく禁止きんしの掟おきてに関かんする逸話いつわを描えがいたものである。作品さくひんは修道院しゅうどういんの食堂しょくどうに掛かけられていたと思おもわれる。現在げんざい、スペインのセビーリャ美術館びじゅつかんに所蔵しょぞうされている。

歴史れきし

カルトジオ会かいの最初さいしょの修道院しゅうどういんは、1084年ねん、ケルンのブルーノと他たの6人にんの修道しゅうどう士したちにより、グルノーブルの司教しきょうシャトーヌフのウーゴが寄贈きぞうした同市どうし付近ふきんのアルプス山脈あるぷすさんみゃくにある小ちいさな荒あれ地ちに創設そうせつされた。修道しゅうどう士したちの生活せいかつ方式ほうしきは初期しょきキリスト教きりすときょう時代じだいの隠かくれ修士しゅうしの苦行くぎょう例れいに倣ならったもので、私語しごは禁止きんしされ、静しずかな雰囲気ふんいきの中なかで手仕事てしごとと祈いのりをすべしというものであった。彼かれらの食事しょくじはごく簡素かんそなもので、肉食にくしょくは厳格げんかくに禁きんじられていた。本ほん作さくは、この肉食にくしょく禁止きんしの起源きげんを描えがいたものである。

カルトジオ会かいの創設そうせつ当初とうしょ、上述じょうじゅつの6人にんの食事しょくじは、司教しきょうの聖せいウーゴが提供ていきょうしていた。復活ふっかつ祭さいの50日にち前まえ、すなわち四よん旬しゅん節ぶし前まえの日曜日にちようびに、ウーゴは修道しゅうどう士したちにわずかな肉にくを届とどけさせた。肉食にくしょく禁止きんしの掟おきてはまだ公式こうしきに決きめられたものではなかったからである。修道しゅうどう士したちは、肉にくを食しょくすのが正ただしいかどうか議論ぎろんしているうちに恍惚こうこつ的てきな夢ゆめに陥おちいった。45日にち後ご、聖せいウーゴは使つかいを送おくって、修道しゅうどう士したちに会あいにやってくると伝言でんごんを送おくったが、使つかいは戻もどってきて、肉食にくしょくが禁きんじられている四よん旬しゅん節ぶしであるにもかかわらず、彼かれらがまだ食卓しょくたくの肉にくの前まえに座ざしていると報告ほうこくした。聖せいウーゴが彼かれらの修道院しゅうどういんにやってきた時とき、修道しゅうどう士したちは目覚めざめ、聖せいウーゴはブルーノに教会きょうかい歴れきの当日とうじつの日付ひづけを尋たずねた。ブルーノは45日にち前まえの四よん旬しゅん節ぶし前まえの日曜日にちようびの日付ひづけ述のべ、受うけ取とった肉にくを食しょくすか否ひかについての彼かれらの議論ぎろんについて説明せつめいした。その後ご、聖せいウーゴの目めの前まえで肉にくは灰はいに変かわった。かくして、修道しゅうどう士したちは自分じぶんたちの肉食にくしょくを禁きんじる規則きそくには決けっして例外れいがいはないのだという結論けつろんに至いたった。

作品さくひん

静物せいぶつ (部分ぶぶん)

画面がめんは、聖せいウーゴとその使つかいが修道院しゅうどういんの食堂しょくどうに到着とうちゃくし、7人にんの修道しゅうどう士したちが長ながい眠ねむりから目覚めざめた瞬間しゅんかんを描えがいている。修道しゅうどう士したちは、まだ眠ねむりから覚さめやらず、視線しせんを合あわせられぬかのように見みえる。作品さくひんには清潔せいけつさと謹厳きんげんさがあるが、それは簡潔かんけつな構図こうずと灰色はいいろと白しろの調和ちょうわに由来ゆらいする。この画面がめんの明快めいかいさ、わかりやすさ、技巧ぎこうのなさは、カルトジオ会かいの肉食にくしょく禁止きんしという歴史れきし的てき瞬間しゅんかんを表現ひょうげんするには最もっとも理想りそう的てきな方法ほうほうである。

画面がめんのカルトジオ会かい士しの前まえには、肉にくとパンの入はいったテラコッタ製せいの器うつわが置おかれている。また、2つのテラコッタ製せいの水差みずさし、逆さかさまに伏ふせられた器うつわ、肉にくを切きるための2本ほんのナイフも置おかれている。スルバランは、目覚めざめたばかりの修道しゅうどう士したちの無感覚むかんかくな状態じょうたいをこれらの静物せいぶつと同おなじように静的せいてきに描えがいており、全体ぜんたいがほとんど静物せいぶつ画がであるかのような作品さくひんとなっている。この作品さくひんは、スルバランが静物せいぶつ画がに対たいする偉大いだいな才能さいのうを最初さいしょに発揮はっきした作品さくひんである。彼かれの独立どくりつした静物せいぶつ画がは『壺つぼのある静物せいぶつ』 (プラド美術館びじゅつかん) など少すくないが、本ほん作さくのように絵画かいがの一部いちぶとして小ちいさな事物じぶつが描えがきこまれ、静物せいぶつ以上いじょうの存在そんざいに高たかめられている例れいは枚挙まいきょにいとまがない。そうした事物じぶつは、主題しゅだいの人物じんぶつと同様どうようの細心さいしんさで描えがかれている。画面がめんの修道しゅうどう士したちが抽象ちゅうしょう的てきに描えがかれているのに対たいし、テーブル上じょうのパン、肉にく、皿さら、壺つぼなどの静物せいぶつは実在じつざい感かんと触覚しょっかく的てきな価値かちがうかがえる。陶器とうきの壺つぼは、17世紀せいき初頭しょとうにスペイン全土ぜんどで人気にんきのあったタベーラ産さんのものということができるほど綿密めんみつに描えがかれている。ハイライトのある伏ふせられた器うつわは1600年ねん以降いこうに作つくられた中国ちゅうごく製せい陶器とうきの模作もさくである。

人物じんぶつ群ぐんの背後はいごの壁かべには、金色きんいろと黒色こくしょくの額縁がくぶちにはめられた絵画かいがが見みえ、そこには聖母子せいぼしと洗礼せんれい者しゃヨハネが描えがかれている。この画が中ちゅう画がは単たんなる装飾そうしょく的てきなものではない。眠ねむっている幼子おさなごイエス・キリストは、絵画かいがの下したにいる修道しゅうどう士したちが聖せいウーゴが訪おとずれる前まえに眠ねむっていたことを示唆しさしているのである。また、聖母せいぼマリアと洗礼せんれい者しゃヨハネはカルトジオ会かいの守護しゅご聖人せいじんでもある。

参考さんこう文献ぶんけん

• ジョナサン・ブラウン　神吉かんき敬三けいぞう訳わけ『世界せかいの巨匠きょしょうシリーズ　スルバラン』、美術びじゅつ出版しゅっぱん社しゃ、1976年ねん刊行かんこう　ISBN 4-568-16038-3

外部がいぶリンク

• セビーリャ美術館びじゅつかん公式こうしきサイト、スルバラン『聖せいウーゴと食卓しょくたくの奇蹟きせき』 （スペイン語ご）