ナザレの家いえのキリストと聖母せいぼマリア

『ナザレの家いえのキリストと聖母せいぼマリア』
	スペイン語ご: La casa de Nazaret; 英語えいご: The House in Nazareth
作者さくしゃ	フランシスコ・デ・スルバラン
製作せいさく年ねん	1640年ねんごろ
種類しゅるい	キャンバス上うえに油彩ゆさい
寸法すんぽう	165 cm × 218.2 cm (65 in × 85.9 in)
所蔵しょぞう	クリーブランド美術館びじゅつかん

『ナザレの家いえのキリストと聖母せいぼマリア』（ナザレのいえのきりすととせいぼマリア、西にし: La casa de Nazaret, 英えい: The House in Nazareth）は、スペインのバロック絵画かいがの巨匠きょしょうフランシスコ・デ・スルバランが1640年ねんごろ^[1]、キャンバス上うえに油彩ゆさいで制作せいさくした絵画かいがである。画家がかは類似るいじした構図こうずで他ほかにも2点てんの同どう主題しゅだい作さくを描えがいている。本ほん作さくは1960年ねん以来いらい、米国べいこくオハイオ州しゅうのクリーブランド美術館びじゅつかんに所蔵しょぞうされている^[1]^[2]^[3]。

作品さくひんの主題しゅだいは、17世紀せいきにカトリック信仰しんこうを一般いっぱんに広ひろめる運動うんどうの一環いっかんとして再生さいせいさせられた数すう限かぎりない『外伝がいでん』の1つから採とられている。宗教しゅうきょう関係かんけいの著述ちょじゅつ家かたちは古ふるい伝説でんせつを復活ふっかつさせると同時どうじに、一般いっぱん大衆たいしゅうに容易よういに理解りかいされるイエス・キリストの幼年ようねん期きの話はなしを概おおむね逸話いつわ風ふうに作つくり上あげるという新あたらしい伝統でんとうを発明はつめいした^[1]^[3]。本ほん作さくについては、スルバラン自身じしんが描えがかれている主題しゅだいを発案はつあんしたようである。画面がめんと人物じんぶつ像ぞうの大おおきさにもかかわらず、静しずけさと親したしみやすさが強調きょうちょうされている作品さくひんとなっている^[1]。

作品さくひん[編集へんしゅう]

本ほん作さくは、左側ひだりがわに小ちいさなイバラの冠かんむりを編あんでいる幼子おさなごキリストを描えがいている。イバラのトゲが彼かれの指ゆびに刺ささったところであり、それは彼かれの将来しょうらいの受難じゅなんを示唆しさする^[1]^[3]。右側みぎがわには、縫物ぬいものをしているマリアが白百合しらゆりとバラ (聖母せいぼの無垢むくさの象徴しょうちょう) の入はいっている花瓶かびんとともに描えがかれている^[3]^[4]が、彼女かのじょはキリストの指ゆびに刺ささったトゲを見み、悲かなしみのうちに彼かれの受難じゅなんを予見よけんする。彼女かのじょの苦悶くもんは、赤あかく腫はれた両目りょうめから頬ほおを伝つたわり落おちる涙なみだとして表現ひょうげんされている^[3]。

どちらの人物じんぶつにも光輪こうりんが描えがかれていないが、画面がめん上部じょうぶ左側ひだりがわの智さとし天使てんしの頭部とうぶは天国てんごくの眩まばゆい輝かがやきの中なかに登場とうじょうしている。画面がめんに描えがかれている白しろい布ぬのはキリストと聖母せいぼの純潔じゅんけつを、ハトは人間にんげんの魂たましい (キリストの将来しょうらいの受難じゅなんがその復活ふっかつをもたらす) 表あらわし、キリストの足元あしもとにある水みずの入はいった壺つぼは洗礼せんれいを示唆しさする。机つくえの上うえには開ひらかれた本ほん (『ヘブライ語ご聖書せいしょ』にあるメシアの預言よげんを示唆しさする) とナシ (キリストの人類じんるいへの愛あいと救済きゅうさいを象徴しょうちょうする) がある^[5]。

この絵画かいがの着想ちゃくそうそのものは、バロック絵画かいがのいくつかの大仰おおぎょうな様式ようしきとは隔へだたっている。二分にぶんされる構図こうずは非常ひじょうに簡素かんそである。とはいえ、聖母せいぼとキリストは同おなじ部屋へやにいながら、それぞれが自分じぶん自身じしんの世界せかいに没入ぼつにゅうしてしまっている。その間あいだに合あって、静物せいぶつが異常いじょうな明快めいかいさを持もっている^[3]。陶製とうせいの器うつわ、裁縫さいほう用ようの籠かご、本ほんや果物くだものを置おいた机つくえなどの日常にちじょう的てき事物じぶつの物質ぶっしつ的てき特徴とくちょうとそれらの個別こべつ化かへの執着しゅうちゃくには驚おどろくべきものがあるが、疑うたがいもなくスルバランの静物せいぶつ画がへの献身けんしん的てき態度たいどにより容易よういに達成たっせいされている。

テネブリズムに非常ひじょうに典型てんけい的てきな光ひかりと闇やみの対比たいひにより。絵画かいがには舞台劇ぶたいげきのような様相ようそうが与あたえられ、イタリア・バロック絵画かいがの巨匠きょしょうカラヴァッジョの作品さくひんを想起そうきさせる^[6]。色彩しきさいは圧倒的あっとうてきで、聖母せいぼの衣服いふくの鮮あざやかなルビー色いろ、キリストの長ちょう衣ころもの真珠しんじゅ色しょくを帯おびた青あお灰色はいいろ、晒さらし切きったような白色はくしょく、黄金おうごん色しょくに染そまる茶色ちゃいろが明快めいかいさと深ふかさを達成たっせいしている^[3]。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

^ ^a ^b ^c ^d ^e “Christ and the Virgin in the House at Nazareth”. クリーブランド美術館びじゅつかん公式こうしきサイト (英語えいご). 2023年ねん12月29日にち閲覧えつらん。
^ “Artehistoria entry”. 2008年ねん2月がつ2日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2023年ねん12月29日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ジョナサン・ブラウン　1976年ねん、80頁ぺーじ。
^ Baticle, Jeannine; Bottineau, Yves (1987) (英語えいご). Zurbarán. Metropolitan Museum of Art. ISBN 978-0-87099-502-6
^ Harris, Ann Sutherland (2005) (英語えいご). Seventeenth-century Art and Architecture. Laurence King Publishing. ISBN 978-1-85669-415-5
^ “ARTEHISTORIA - Genios de la Pintura - Ficha Casa de Nazareth” (2008年ねん2月がつ2日にち). 2008年ねん2月がつ2日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2022年ねん4月がつ1日にち閲覧えつらん。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

ジョナサン・ブラウン　神吉かんき敬三けいぞう訳わけ『世界せかいの巨匠きょしょうシリーズ　スルバラン』、美術びじゅつ出版しゅっぱん社しゃ、1976年ねん刊行かんこう　ISBN 4-568-16038-3

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

[CM-1] “Christ and the Virgin in the House at Nazareth”. クリーブランド美術館びじゅつかん公式こうしきサイト (英語えいご). 2023年ねん12月29日にち閲覧えつらん。

[2] “Artehistoria entry”. 2008年ねん2月がつ2日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2023年ねん12月29日にち閲覧えつらん。

[JB-3] ^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ジョナサン・ブラウン　1976年ねん、80頁ぺーじ。

[4] Baticle, Jeannine; Bottineau, Yves (1987) (英語えいご). Zurbarán. Metropolitan Museum of Art. ISBN 978-0-87099-502-6

[5] Harris, Ann Sutherland (2005) (英語えいご). Seventeenth-century Art and Architecture. Laurence King Publishing. ISBN 978-1-85669-415-5

[6] “ARTEHISTORIA - Genios de la Pintura - Ficha Casa de Nazareth” (2008年ねん2月がつ2日にち). 2008年ねん2月がつ2日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2022年ねん4月がつ1日にち閲覧えつらん。

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表ひょう話はなし編へん歴れきフランシスコ・デ・スルバラン
宗教しゅうきょう画が	『十字架じゅうじか上じょうのキリスト (シカゴ美術館びじゅつかん)』（1627年ねん）『聖せいペドロ・ノラスコの幻視げんし』（1629年ねん）『聖せいペドロ・ノラスコに現あらわれる聖せいペテロ』（1629年ねん）『聖せいボナヴェントゥーラの遺体いたい安置あんち』（1629年ねん）『聖せいアロンソ・ロドリゲスの幻視げんし』（1630年ねん）『聖せいトマス・アクィナスの神格しんかく化か』（1631年ねん）『無む原罪げんざいの御ご宿やどり (カタルーニャ美術館びじゅつかん)』（1632年ねん）『エル・ソティーリョにおけるキリスト教徒きりすときょうととムーア人じんの戦たたかい』（1637-1639年ねん頃ごろ）『受胎じゅたい告知こくち (グルノーブル美術館びじゅつかん)』（1638-1639年ねん）『東方とうほう三さん博士はかせの礼拝れいはい』（1638-1639年ねん）『ナザレの家いえのキリストと聖母せいぼマリア』（1640年ねん頃ごろ）『聖せいヒエロニムスの誘惑ゆうわく』（1640年代ねんだい）『磔刑たっけいを描えがく聖ひじりルカ』（1650年ねん頃ごろ）『聖せいウーゴと食卓しょくたくの奇蹟きせき』（1655年ねん）
単身たんしん聖人せいじん画が	『聖せいセラピオン』（1628年ねん）『アンティオキアの聖せいマルガリタ』（1631年ねん頃ごろ）『大だい天使てんしガブリエル』（1631-1632年ねん）『幼おさない聖母せいぼマリア (メトロポリタン美術館びじゅつかん)』（1632-1633年ねん頃ごろ）『聖せいアポロニア』（1634年ねん）『ポルトガルの聖せいイサベル』（1630-1635年ねん）『聖せいカシルダ』（1630-1635年ねん頃ごろ）『聖せいラウレンティウス (エルミタージュ美術館びじゅつかん)』（1636-1639年ねん）『瞑想めいそうする聖せいフランチェスコ (ロンドン)』（1639年ねん）『福ぶく者しゃハインリッヒ・ゾイゼ』（1641-1642年ねん）『祈いのる聖せいフランチェスコ (プラド美術館びじゅつかん)』（1659年ねん）『聖せいフランチェスコ (リヨン美術館びじゅつかん)』（1650-1660年ねん）『祈いのる幼おさない聖母せいぼマリア (エルミタージュ美術館びじゅつかん)』（1658-1660年ねん）『恍惚こうこつの聖せいフランチェスコ (ミュンヘン)』（1658-1660年ねん）
神話しんわ画が・歴史れきし画が	『ネメアのライオンと闘たたかうヘラクレス』（1634年ねん）『ヘラクレスとヒュドラ』（1634年ねん）『ヘラクレスとクレタの牡おす牛うし』（1634年ねん）『ヘラクレスとケルベロス』（1634年ねん）『ヘラクレスの死し』（1634年ねん）『カディスの防衛ぼうえい』（1634年ねん）
静物せいぶつ画が	『銀ぎんの皿さらに載のる水みずのコップと薔薇ばらの花はな』（1630年ねん頃ごろ）『レモン、オレンジ、バラのある静物せいぶつ』（1633年ねん）『神かみの仔こ羊ひつじ (プラド美術館びじゅつかん)]』（1635-1640年ねん）『壺つぼのある静物せいぶつ』（1658-1654年ねん）