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Stx2 のモデル図 ず
ベロ毒素 どくそ (ベロどくそ、verotoxin)とは、一部 いちぶ の腸管 ちょうかん 出血 しゅっけつ 性 せい 大腸菌 だいちょうきん (EHEC , enterohaemorrhagic Escherichia coli )が産 さん 生 む し、菌 きん 体外 たいがい に分泌 ぶんぴつ する毒素 どくそ タンパク質 たんぱくしつ (外 そと 毒素 どくそ )で、VT (= V ero cell T oxin) の省略形 しょうりゃくけい 。一部 いちぶ の赤痢 せきり 菌 きん (志賀 しが 赤痢 せきり 菌 きん 、Shigella dysenteria 1)が産 さん 生 せい する志賀 しが 毒素 どくそ (しがどくそ、シガトキシン)と同一 どういつ のものであり、志賀 しが 様 さま 毒素 どくそ (しがようどくそ、shiga-like toxin)とも呼 よ ばれる。真 ま 核 かく 細胞 さいぼう のリボソーム に作用 さよう して、タンパク質 たんぱくしつ 合成 ごうせい を阻害 そがい する働 はたら きを持 も つ。影響 えいきょう を強 つよ く受 う ける臓器 ぞうき は大腸 だいちょう 、脳 のう 、腎臓 じんぞう で、出血 しゅっけつ 性 せい の下痢 げり 、急性 きゅうせい 脳症 のうしょう 、溶血 ようけつ 性 せい 尿毒症 にょうどくしょう 症候群 しょうこうぐん (HUS)などのさまざまな病態 びょうたい の直接 ちょくせつ の原因 げんいん となる病原 びょうげん 因子 いんし である。なお、シガテラ 食中毒 しょくちゅうどく の原因 げんいん 物質 ぶっしつ のひとつであるシガトキシン (ciguatoxin) とは別 べつ の物質 ぶっしつ である。
EHECの病原 びょうげん 因子 いんし を探索 たんさく する過程 かてい で不死 ふし 化 か 細胞 さいぼう のベロ細胞 さいぼう (Vero細胞 さいぼう 、アフリカミドリザル Cercopithecus aethiops の腎臓 じんぞう 上皮 じょうひ 由来 ゆらい の動物 どうぶつ 培養 ばいよう 細胞 さいぼう の一種 いっしゅ で、経 けい 代 だい 培養 ばいよう でも老化 ろうか しないので化 か 感染 かんせん 実験 じっけん や毒性 どくせい 実験 じっけん などに汎用 はんよう される)に対 たい して致死 ちし 性 せい の細胞 さいぼう 毒性 どくせい を持 も つものとして発見 はっけん された[ 1] ことから命名 めいめい された。
VT2(Stx2)のリボンモデル
EHECが細胞 さいぼう 内 ない で産 さん 生 む し、菌 きん 体外 たいがい に分泌 ぶんぴつ するタンパク質 たんぱくしつ 性 せい の外 そと 毒素 どくそ であり、互 たが いによく似 に た構造 こうぞう を持 も つベロ毒素 どくそ 1(VT1)とベロ毒素 どくそ 2(VT2)の2つが知 し られている。毒素 どくそ が産 さん 生 む される時期 じき と菌 きん 体外 たいがい への分泌 ぶんぴつ タイミングが異 こと なっている。
ベロ毒素 どくそ 1(Stx1) - すでに志賀 しが 赤痢 せきり 菌 きん が産 さん 生 せい する毒素 どくそ として知 し られていた志賀 しが 毒素 どくそ と同一 どういつ であったことが後 のち に判明 はんめい した。
ベロ毒素 どくそ 1は、毒素 どくそ としての活性 かっせい を持 も つ 315残 ざん 基 もと のアミノ酸 あみのさん からなる1分子 ぶんし のAサブユニット(Activeサブユニット)と、細胞 さいぼう との結合 けつごう 活性 かっせい を持 も つ 89残 ざん 基 もと のアミノ酸 あみのさん からなる5分子 ぶんし のBサブユニット(Bindingサブユニット)から構成 こうせい される、A1B5型 がた と呼 よ ばれる毒素 どくそ タンパク質 たんぱくしつ である。Bサブユニットによって宿主 しゅくしゅ の細胞 さいぼう に結合 けつごう した後 のち 、Aサブユニットが細胞 さいぼう 質 しつ 内 ない に輸送 ゆそう され、このAサブユニットが真 ま 核 かく 生物 せいぶつ のリボソームに結合 けつごう してタンパク質 たんぱくしつ 合成 ごうせい を不 ふ 可逆 かぎゃく 的 てき に阻害 そがい する。この作用 さよう によってタンパク質 たんぱくしつ の合成 ごうせい が出来 でき なくなった細胞 さいぼう は死 し に至 いた り、さまざまな組織 そしき で組織 そしき 傷害 しょうがい を生 しょう じる。
ベロ毒素 どくそ 2(Stx2) - ベロ毒素 どくそ 1と生物 せいぶつ 学 がく 的 てき 症状 しょうじょう が似 に ているが、免疫 めんえき 学 がく 的 てき 性状 せいじょう 、物理 ぶつり 化学 かがく 的 てき 性状 せいじょう が異 こと なる。重症 じゅうしょう 化 か に影響 えいきょう を与 あた えている[ 2] 。
ベロ毒素 どくそ 2は、毒素 どくそ としての活性 かっせい を持 も つ 319残 ざん 基 もと のアミノ酸 あみのさん からなる1分子 ぶんし のAサブユニット(Activeサブユニット)と、細胞 さいぼう との結合 けつごう 活性 かっせい を持 も つ 89残 ざん 基 もと のアミノ酸 あみのさん からなる5分子 ぶんし のBサブユニット(Bindingサブユニット)から構成 こうせい される、A1B5型 がた と呼 よ ばれる毒素 どくそ タンパク質 たんぱくしつ である。
もともと毒素 どくそ 産 さん 生 せい 能 のう を有 ゆう していなかった大腸菌 だいちょうきん や赤痢 せきり 菌 きん がベロ毒素 どくそ の産 さん 生 せい 能力 のうりょく を獲得 かくとく したのは、細菌 さいきん が薬剤 やくざい 耐 たい 性 せい を獲得 かくとく するのと同一 どういつ の「水平 すいへい 伝播 でんぱ 」と云 い うメカニズムによって行 おこな われたとされる[ 3] 。これは、ベロ毒素 どくそ に関連 かんれん する遺伝 いでん 情報 じょうほう がファージ 上 うえ の遺伝子 いでんし に組 く み込 こ まれていることから、EHECは赤痢 せきり 菌 きん からはファージを介 かい して伝達 でんたつ された可能 かのう 性 せい が高 たか いと考 かんが えられている[ 2] [ 3] 。
1977年 ねん Konowalchuk らが、ある種 しゅ の大腸菌 だいちょうきん がベロ細胞 さいぼう に対 たい して毒性 どくせい の高 たか い実態 じったい が不明 ふめい の毒素 どくそ を産 さん 生 む していることを報告 ほうこく 。始 はじ めて Vero cell cytotoxin(VT)と命名 めいめい [ 1] 。
1983年 ねん O'Brien らは、VT が志賀 しが 赤痢 せきり 菌 きん の産 さん 生 せい する志賀 しが 毒素 どくそ と免疫 めんえき 学 がく 的 てき に共通 きょうつう 性 せい があることを報告 ほうこく し、志賀 しが 毒素 どくそ 様 さま 毒素 どくそ (Shiga-like toxin, SLT)と呼 よ んだ[ 4] 。同 どう 時期 じき に Scotlandらは、VT遺伝子 いでんし がバクテリオファージによって水平 すいへい 伝達 でんたつ されることを示唆 しさ した[ 5] 。
1985年 ねん Scotlandら は,VTには志賀 しが 赤痢 せきり 菌 きん の産 さん 生 せい する志賀 しが 毒素 どくそ に対 たい する抗体 こうたい によって中和 ちゅうわ されないものもあることを示 しめ した。志賀 しが 毒素 どくそ と免疫 めんえき 学 がく 的 てき に同一 どういつ なものをVT1、免疫 めんえき 学的 がくてき に異 こと なるものをVT2と呼 よ んだ[ 5] 。
1997年 ねん 米国 べいこく のボルチモア で行 おこな われた3rd International Symposium and Workshop on Shiga toxin (Verocytotoxin)-Producing Escherichia coli Infections (VTEC '97)において志賀 しが 赤痢 せきり 菌 きん の産 さん 生 せい する毒素 どくそ を志賀 しが 毒素 どくそ (Stx)、EHEC の産 さん 生 せい する毒素 どくそ を志賀 しが 毒素 どくそ 1(Stx1)と志賀 しが 毒素 どくそ 2(Stx2)とすることが提唱 ていしょう され、名称 めいしょう を統一 とういつ 化 か [ 2] 。
ベロ毒素 どくそ の作用 さよう メカニズム (1) 正常 せいじょう な細胞 さいぼう のタンパク合成 ごうせい 。(2) ベロ毒素 どくそ によるタンパク質 たんぱくしつ 合成 ごうせい 阻害 そがい 。詳細 しょうさい は本文 ほんぶん を参照 さんしょう
正常 せいじょう な細胞 さいぼう では、DNA から転写 てんしゃ されたmRNA は、リボソーム において読 よ み取 と られ、アミノ酸 あみのさん が結合 けつごう したtRNA (アミノアシルtRNA)の働 はたら きによって、mRNAの配列 はいれつ に応 おう じてアミノ酸 あみのさん の鎖 くさり が伸長 しんちょう していき、ペプチド からタンパク質 たんぱくしつ に翻訳 ほんやく される。
EHECから分泌 ぶんぴつ されたベロ毒素 どくそ は、5つのBサブユニットによって、宿主 しゅくしゅ 細胞 さいぼう の細胞 さいぼう 膜 まく にあるガングリオシド の一 ひと つであるGb3(Gal-Gal-Glc-セラミド)に結合 けつごう し、エンドサイトーシス によって細胞 さいぼう 内 ない に取 と り込 こ まれた後 のち 、Aサブユニットだけが細胞 さいぼう 質 しつ に入 はい り込 こ む。Aサブユニットは、真 ま 核 かく 細胞 さいぼう のリボソームに含 ふく まれる28SリボソームRNA のうち、4324番目 ばんめ のアデノシン に作用 さよう して、その糖 とう 鎖 くさり を切断 せつだん しアデニン を切 き り出 だ す活性 かっせい (N-グリコシダーゼ活性 かっせい )を持 も つ。わずか1塩基 えんき の変化 へんか であるが、28SリボソームRNAのこの領域 りょういき はリボソームにとって重要 じゅうよう な領域 りょういき であり、この1塩基 えんき の変化 へんか で、新 あたら しいアミノアシルtRNA がリボソームに結合 けつごう できなくなる。このため、タンパク質 たんぱくしつ の伸長 しんちょう ができなくなってタンパク質 たんぱくしつ 合成 ごうせい が阻害 そがい され、最終 さいしゅう 的 てき に細胞 さいぼう はアポトーシス を誘導 ゆうどう [ 6] され死滅 しめつ する。
このベロ毒素 どくそ の作用 さよう は、ヒマ 種子 しゅし に含 ふく まれる猛毒 もうどく の植物 しょくぶつ タンパク質 たんぱくしつ として知 し られるリシン と共通 きょうつう するものである。リシンの活性 かっせい サブユニットもまたN-グリコシダーゼ活性 かっせい によって28SリボソームRNAの4324番目 ばんめ のアデニン切断 せつだん によるタンパク質 たんぱくしつ 合成 ごうせい 阻害 そがい を行 おこな うが、リシンの場合 ばあい はA1B5からなるベロ毒素 どくそ と異 こと なり、1つの活性 かっせい サブユニット鎖 くさり とジスルフィド結合 けつごう した1つの結合 けつごう サブユニット鎖 くさり から構成 こうせい されており、細胞 さいぼう 内 ない に輸送 ゆそう される過程 かてい がベロ毒素 どくそ とは異 こと なる。
EHECや赤痢 せきり 菌 きん が主 おも に腸 ちょう 内 ない で産 さん 生 む したベロ毒素 どくそ は腸管 ちょうかん 上皮 じょうひ 細胞 さいぼう に作用 さよう して出血 しゅっけつ 性 せい の下痢 げり を起 お こすだけでなく、その一部 いちぶ は血液 けつえき 中 なか に吸収 きゅうしゅう されて全身 ぜんしん に移行 いこう する。ベロ毒素 どくそ の受容 じゅよう 体 たい であるGb3ガングリオシドは、特 とく に内皮 ないひ 系 けい の細胞 さいぼう に多 おお いことが知 し られており、これらの細胞 さいぼう が多 おお く、また毒素 どくそ 排出 はいしゅつ に重要 じゅうよう な機能 きのう を担 にな っている腎臓 じんぞう にベロ毒素 どくそ が作用 さよう すると、溶血 ようけつ 性 せい 尿毒症 にょうどくしょう 症候群 しょうこうぐん (HUS)を起 お こす原因 げんいん になるほか、脳 のう では急性 きゅうせい 脳症 のうしょう が引 ひ き起 お こされる。
EHECによる感染 かんせん 時 じ には、体内 たいない から速 すみ やかにベロ毒素 どくそ を除去 じょきょ することが重要 じゅうよう である。この目的 もくてき で活性炭 かっせいたん を経口 けいこう 投与 とうよ し、腸 ちょう 内 ない に分泌 ぶんぴつ されたベロ毒素 どくそ を吸着 きゅうちゃく して取 と り除 のぞ く治療 ちりょう が行 おこな われている。HUSによる人工 じんこう 透析 とうせき を実施 じっし している場合 ばあい には、血 ち 中 ちゅう からの毒素 どくそ 除去 じょきょ も行 おこな われる。一方 いっぽう 、感染 かんせん 症 しょう の治療 ちりょう 法 ほう として一般 いっぱん 的 てき な抗生 こうせい 物質 ぶっしつ の投与 とうよ については、腸管 ちょうかん 内 ない でEHECが死滅 しめつ する際 さい に大量 たいりょう のベロ毒素 どくそ を放出 ほうしゅつ するとの考 かんが えから、使用 しよう すべきでないという意見 いけん がある。
^ a b Konowalchuk J; Speirs J; Stavric S (1977). “Vero response to a cytotoxin of Escherichia coli” . Infect. Immun. 18 (3): 775–9. PMC 421302 . PMID 338490 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC421302/ .
^ a b c 清水 しみず 健 けん 、「腸管 ちょうかん 出血 しゅっけつ 性 せい 大腸菌 だいちょうきん が産 さん 生 せい する志賀 しが 毒素 どくそ の発現 はつげん 様式 ようしき と菌 きん 体外 たいがい への放出 ほうしゅつ 機構 きこう -志賀 しが 毒素 どくそ 転換 てんかん ファージの構造 こうぞう と機能 きのう からの考察 こうさつ - 」『日本 にっぽん 細菌 さいきん 学 がく 雑誌 ざっし 』 2010年 ねん 65巻 かん 2号 ごう p.297-308, doi :10.3412/jsb.65.297 , 日本 にっぽん 細菌 さいきん 学会 がっかい
^ a b 牧野 まきの 耕三 こうぞう 、品川 しながわ 日出夫 ひでお 、「遺伝子 いでんし の再 さい 編成 へんせい と水平 すいへい 伝播 でんぱ による細菌 さいきん の病原 びょうげん 性 せい 獲得 かくとく 『化学 かがく と生物 せいぶつ 』 2000年 ねん 38巻 かん 2号 ごう p.83-92, doi :10.1271/kagakutoseibutsu1962.38.83 , 日本 にっぽん 農芸 のうげい 化 か 学会 がっかい
^ O'Brien, A.O., Lively, T.A., Chen, M.E., Rothman, S.W., Formal, S.B. (1983): Escherichia coli O157:H7 strains associated with haemorrhagic colitis in the United States produce a Shigella dysenteriae 1 (SHIGA) like cytotoxin. Lancet 1, 702.
^ a b Scotland, S.M., Smith, H.R., Willshaw, G.A., Rowe, B. (1983): Vero cytotoxin production in strain of Escherichia coli is determined by genes carried on bacteriophage. Lancet 2, 216., doi :10.1016/S0140-6736(02)93043-6
^
藤井 ふじい 潤 じゅん 、「【細菌 さいきん タンパク毒素 どくそ の新 あら たな理解 りかい へ向 む けて】 ベロ毒素 どくそ に関 かん する新 あら たな知見 ちけん 」化学 かがく 療法 りょうほう の領域 りょういき . 25, (5), pp.755-764, 2009-04. (株 かぶ )医薬 いやく ジャーナル社 しゃ , ISBN 978-4-7532-8029-2
山崎 やまざき 伸二 しんじ 、竹田 たけだ 美文 よしふみ 、「Vero 毒素 どくそ の構造 こうぞう と生物 せいぶつ 活性 かっせい 」『臨床 りんしょう と微生物 びせいぶつ 』 23, 785-799, 1996-12-24, NAID 10016087775
竹田 たけだ 美文 よしふみ 、「志賀 しが 毒素 どくそ とvero毒素 どくそ (志賀 しが 毒素 どくそ 様 さま 毒素 どくそ ):構造 こうぞう と作用 さよう 機 き 序 じょ 」『臨床 りんしょう と微生物 びせいぶつ 』 16, 67-75, 1989, NAID 80004395190