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ヤブノウサギ

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ヤブノウサギ
ヤブノウサギ
保全ほぜんじょうきょう評価ひょうか[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類ぶんるい
ドメイン : かく生物せいぶつ Eukaryota
さかい : 動物界どうぶつかい Animalia
もん : 脊索せきさく動物どうぶつもん Chordata
もん : 脊椎動物せきついどうぶつもん Vertebrata
つな : 哺乳ほにゅうつな Mammalia
上目うわめ : おもかじ上目うわめ Euarchontoglires
大目おおめ : グリレス大目おおめ Glires
: ウサギ Lagomorpha
: ウサギ Leporidae
ぞく : ノウサギぞく Lepus
たね : ヤブノウサギ L. europaeus
学名がくめい
L. europaeus
Pallas1778
和名わみょう
ヤブノウサギ
ヨーロッパノウサギ
英名えいめい
European hare
ヤブノウサギの分布ぶんぷいき(赤色あかいろ - 在来ざいらいしゅ 赤色あかいろ - 外来がいらいしゅ)

ヤブノウサギ(ヨーロッパノウサギ、学名がくめい: Lepus europaeus)は、ヨーロッパやアジアの一部いちぶ生息せいそくするウサギウサギノウサギぞくぞくする生物せいぶつ一種いっしゅである。英語えいごけんではbrown hareばれている。ノウサギぞく最大さいだいたねであり、温暖おんだん広原こうげん適応てきおうしたしゅである。草食そうしょくせいおもくさべるが、とくふゆには補助ほじょてきしょうえだ樹皮じゅひ農作物のうさくもつべる。天敵てんてき猛禽もうきんるいイヌネコ動物どうぶつである。天敵てんてきからはや速度そくどのがれるためにながつよあしおおきな鼻腔びこうつ。

普段ふだん夜行やこうせい警戒けいかいしんつよいが、はるには白昼はくちゅういかけいをしていることもある。はるには興奮こうふん時折ときおりぜんあしなぐかたちでボクシングをすることがある。これは同士どうしあらそいではなく、めすがつがいになる準備じゅんびができていないことをしめすため、またはゆう決意けついはかるためにめすゆうなぐっているのである。めすあなというよりは地面じめん窪地くぼちにあるかたちのものがおおい。幼体ようたいまれてすぐに活発かっぱつ活動かつどうする。繁殖はんしょくは1がつから8がつまでで、めすは3 - 4ひきごもるが、いちねん出産しゅっさんできるのは3ひきまでである。

たね小名しょうみょうeuropaeusラテン語らてんごで「ヨーロッパの」のである。

分類ぶんるい遺伝いでん

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ヤブノウサギの分類ぶんるいがくてき記載きさいは、1778ねんにドイツの動物どうぶつ学者がくしゃペーター・ジーモン・パラスによっておこなわれた[2]ぞくめいLepusラテン語らてんごウサギを意味いみし、に31しゅふく[3][4]。ノウサギぞくながあしひろ鼻孔びこう、そしてまれてすぐ行動こうどうできる(なりせい)といった特徴とくちょうのウサギ動物どうぶつ区別くべつされる[5]。ヨーロッパに生息せいそくするたねにはコルシカノウサギグラナダノウサギなどがあり、これらはヤブノウサギの亜種あしゅとされたこともあるが、DNAシークエンシング形態けいたいがくてき分析ぶんせきでは別種べっしゅであることが支持しじされている[6][7]

ヤブノウサギとケープノウサギ同種どうしゅであるかどうかについては議論ぎろんがある。かく遺伝子いでんしプールもちいた研究けんきゅうでは、2しゅ同種どうしゅであることが示唆しさされたが[8]一方いっぽうミトコンドリアDNA研究けんきゅうでは別種べっしゅとみなしてよいほど遺伝いでんてき差異さいがあるとされた[9]。2008ねん研究けんきゅうでは、ノウサギぞくでは急速きゅうそく進化しんかのため、ミトコンドリアDNAだけではなくかく遺伝子いでんしプールもまえてたねさだめるべきであるとされている。2しゅ遺伝いでんてきちがいはたね分化ぶんかというよりも地理ちりてき分断ぶんだんによっている可能かのうせいがある。近東きんとうでは遺伝子いでんし流動りゅうどう原因げんいんちゅうあいだがたられるとかんがえられている[10]。2008ねんべつ研究けんきゅうでは、たねふく合体がったいになっているかを結論けつろんけるにはさらなる研究けんきゅう必要ひつようであるとしており[11]反証はんしょうるまではヤブノウサギ1しゅとしてあつかわれる[1]

分岐ぶんき分類ぶんるいがくてき研究けんきゅうでは、現在げんざいのヤブノウサギは更新こうしん最終さいしゅうごおりイタリア半島はんとうバルカン半島ばるかんはんとうしょうアジアにいたヤブノウサギの子孫しそんとされる。中央ちゅうおうヨーロッパへの進出しんしゅつ人類じんるいによる環境かんきょう変化へんかによってはじまったとかんがえられている[12]現在げんざい集団しゅうだんでは遺伝いでんてき多様たようせいたかく、近親きんしん交配こうはい兆候ちょうこうられない。遺伝子いでんし流動りゅうどうゆうたいしてよりおおきいが、集団しゅうだん母系ぼけいてき構成こうせいされている。遺伝いでんてき多様たようせいはドイツのノルトライン=ヴェストファーレンとくたかいが、遺伝子いでんし流動りゅうどう制限せいげんによって孤立こりつした集団しゅうだんないでの遺伝いでんてき多様たようせい減少げんしょうする可能かのうせいがある[13]

特徴とくちょう

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Skull of a hare
頭蓋骨ずがいこつ

ウサギぞく同様どうよう陸生りくせいはやはしることのできる哺乳類ほにゅうるいである。あたま比較的ひかくてきたか位置いちがあり、ながみみ柔軟じゅうなんくびつ。なく成長せいちょうし、手前てまえがわ門歯もんし植物しょくぶつむために発達はったつしているが、おく門歯もんしはクギのようなかたちをしているもののはたらきはない。門歯もんし奥歯おくば間隔かんかくいており、奥歯おくば植物しょくぶつ咀嚼そしゃくするのにとくしている[14][15]広原こうげんはやはしるためにあし筋肉質きんにくしつ発達はったつ[5][16]鼻腔びこうひろく、心臓しんぞうおおきい[5]。ウサギなか最大さいだいしゅであり、あたまから尻尾しっぽまでのながさは60 - 75センチメートルにもなる。尻尾しっぽながさは7 - 11センチメートルである。体重たいじゅう普通ふつう、3 - 5キログラムである[17]みみながさは9 - 11センチメートルでのちあしは14 - 16センチメートル[18]背中せなか毛皮けがわなが白黒しろくろじった黄色きいろがかった茶色ちゃいろである。かたあしくび、のどは赤褐色せきかっしょくである。はらがわ白色はくしょくで、尻尾しっぽみみ先端せんたん白色はくしょくである[18][5]ふゆ完全かんぜん白色はくしょくにはならない[18]。しかし、頭部とうぶ白色はくしょくになりやすく、灰色はいいろになることもある[5]

生息せいそく

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ヨーロッパ大陸たいりくやアジアの一部いちぶ在来ざいらいしている。生息せいそくスペイン北部ほくぶからスカンディナヴィア半島はんとう南部なんぶシベリアにまでひろがる[5]。ブリテンとうにはやく2,000ねんまえごろまれたとされる。このころには、地中海ちちゅうかい島々しまじまにもまれたと推定すいていされている[19]ジビエのための狩猟しゅりょう動物どうぶつとして,アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくオンタリオしゅうニューヨークしゅうみなみアメリカの南部なんぶオーストラリアニュージーランドなど生息せいそく以外いがいまれた地域ちいきもある[5][18][20]本来ほんらい、ノウサギは広野こうやしょうえだなどでつくるが、農耕のうこうにもつくることがある[5]。チェコでなされた研究けんきゅうによれば、おも生息せいそく標高ひょうこう200メートル以下いかで、年間ねんかんで40 - 60にちゆきおおわれ、とし降水こうすいりょうは450 - 750ミリメートル、とし平均へいきん気温きおん10℃程度ていど地域ちいきとされる[21]

生態せいたい

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夜行やこうせいで、活動かつどうの3ぶんの1はえささがすことに使つかわれる[5]にちちゅう地面じめんのくぼみにかくれている。時速じそく70キロメートルではしることができ、捕食ほしょくしゃ遭遇そうぐうしたとき広野こうやむ。また集団しゅうだん行動こうどうをしており、300ヘクタールの行動こうどう圏内けんないではのウサギの縄張なわばりにのウサギがはいむことはない。視覚しかくてき合図あいず動作どうさでコミュニケーションをっている。たとえば、片耳かたみみをあげて、もう片耳かたみみっていないときは、相手あいてちかづかないよう警告けいこくしている。のウサギとたたかときぜんあしたたきつける。一方いっぽうで、うしあし捕食ほしょくしゃ仲間なかまつたえるために使つかわれる。きずついたとき恐怖きょうふかんじたとき金切かなきごえをあげ、めすどもをせるときのどからこえ[18]寿命じゅみょうは12ねんである[1]

しょくせい

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Photograph of a group of feeding hares

草食そうしょくせいであり、普段ふだん野草やそうさがもとめるが、農作物のうさくもつべることがある[1]はるからなつにかけては豆類まめるいクローバーヒナゲシしょくすることがある[22][18]あきからふゆにかけてはふゆ小麦こむぎこのむが、テンサイニンジンこのむため、これらの農作物のうさくもつ狩猟しゅりょうさい使つかわれる[22]ふゆあいだしょうえだ低木ていぼく樹皮じゅひべる[18]。なお、繊維せんいしつものよりたか栄養えいようものこのむが、穀物こくもつはあまりこのまない[23]しょうえだべるときは、維管たば組織そしきない水溶すいようせい炭水化物たんすいかぶつにたどりつくため、樹皮じゅひ[24]。また、しょくくそおこなうことで、消化しょうかタンパク質たんぱくしつやビタミンを摂取せっしゅすることがある[17]

Photograph of fecal pellets
ヤブノウサギのくそ

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b c d Smith, A.T.; Johnston, C.H. (2008). Lepus europaeus. The IUCN Red List of Threatened Species (IUCN) 2008: e.T41280A10430693. doi:10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T41280A10430693.en. http://oldredlist.iucnredlist.org/details/41280/0 23 December 2017閲覧えつらん. 
  2. ^ Pallas, Peter Simon (1778) (Latin). Novae Species Quadrupedum e Glirium Ordine. Erlanger: Wolfgangi Waltheri. p. 30. https://www.biodiversitylibrary.org/page/15494839 
  3. ^ Lepus”. Online Etymology Dictionary. 15 September 2016閲覧えつらん
  4. ^ Hoffman, R.S.; Smith, A.T. (2005). "Genus Lepus". In Wilson, D.E. [in 英語えいご]; Reeder, D.M (eds.). Mammal Species of the World: A Taxonomic and Geographic Reference (3rd ed.). Johns Hopkins University Press. pp. 195–205. ISBN 978-0-8018-8221-0. OCLC 62265494
  5. ^ a b c d e f g h i Chapman, Joseph A.; Flux, John E. C. (1990). Rabbits, Hares and Pikas: Status Survey and Conservation Action Plan. IUCN. pp. 62, 76–78. ISBN 978-2-8317-0019-9. https://books.google.com/books?id=Q994k86i0zYC&pg=PA76 
  6. ^ Palacios, F. (1989). “Biometric and morphologic features of the species of the genus Lepus in Spain”. Mammalia 53 (2): 227–264. doi:10.1515/mamm.1989.53.2.227. 
  7. ^ Riga, F.; Trocchi, V.; Randi, E.; Toso, S. (2001). “Morphometric differentiation between the Italian hare (Lepus corsicanus De Winton, 1898) and the European brown hare (Lepus europaeus Pallas, 1778)”. Journal of Zoology 253 (2): 241–252. doi:10.1017/S0952836901000218. 
  8. ^ Ben Slimen, H.; Suchentrunk, F.; Memmi, A.; Ben Ammar Elgaaied, A. (2005). “Biochemical genetic relationships among Tunisian hares (Lepus sp.), South African Cape hares (L. capensis), and European brown hares (L. europaeus)”. Biochemical Genetics 43 (11–12): 577–596. doi:10.1007/s10528-005-9115-6. PMID 16382363. 
  9. ^ Ben Slimen, H.; Suchentrunk, F.; Memmi, A.; Sert, H.; Kryger, U.; Alves, P. C.; Elgaaied, A. B. A. (2006). “Evolutionary relationships among hares from North Africa (Lepus sp. or Lepus spp.), Cape Hares (L. capensis) from South Africa, and brown hares (L. europaeus), as inferred from mtDNA PCR-RFLP and allozyme data”. Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research 44 (1): 88–99. doi:10.1111/j.1439-0469.2005.00345.x. 
  10. ^ Ben Slimen, H.; Suchentrunk, F.; Ben Ammar Elgaaied, A. (2008). “On shortcomings of using mtDNA sequence divergence for the systematics of hares (genus Lepus): An example from Cape hares”. Mammalian Biology 73 (1): 25–32. doi:10.1016/j.mambio.2007.02.003. 
  11. ^ Ben Slimen, H.; Suchentrunk, F.; Stamatis, C.; Mamuris, Z.; Sert, H.; Alves, P. C.; Kryger, U.; Shahin, A. B. et al. (2008). “Population genetics of Cape and brown hares (Lepus capensis and L. europaeus): A test of Petter's hypothesis of conspecificity”. Biochemical Systematics and Ecology 36 (1): 22–39. doi:10.1016/j.bse.2007.06.014. 
  12. ^ Fickel, J.; Hauffe, H. C.; Pecchioli, E.; Soriguer, R.; Vapa, L.; Pitra, C. (2008). “Cladogenesis of the European brown hare (Lepus europaeus Pallas, 1778)”. European Journal of Wildlife Research 54 (3): 495–510. doi:10.1007/s10344-008-0175-x. http://digital.csic.es/bitstream/10261/62899/1/european.pdf. 
  13. ^ Fickel, J.; Schmidt, A.; Putze, M.; Spittler, H.; Ludwig, A.; Streich, W. J.; Pitra, C. (2005). “Genetic structure of populations of European brown hare: Implications for management”. Journal of Wildlife Management 69 (2): 760–770. doi:10.2193/0022-541X(2005)069[0760:GSOPOE]2.0.CO;2. 
  14. ^ Alves, Paulo C.; Ferrand, Nuno; Hackländer, Klaus (2007). Lagomorph Biology: Evolution, Ecology, and Conservation. Springer Science & Business Media. p. 1. ISBN 978-3-540-72446-9. https://books.google.com/books?id=9d8_AAAAQBAJ&pg=PA1 
  15. ^ Michael Leach (2008). Hare. The Rosen Publishing Group. p. 4. ISBN 978-1-4358-4997-6. https://books.google.com/books?id=FMPD-1kTN1YC&pg=PA4 
  16. ^ Schnurr, D. L.; Thomas, V. G. (1984). “Histochemical properties of locomotory muscles of European hares and cottontail rabbits”. Canadian Journal of Zoology 62 (11): 2157–2163. doi:10.1139/z84-313. 
  17. ^ a b Lepus europaeus European hare”. Animal Diversity. University of Michigan. 11 May 2011閲覧えつらん
  18. ^ a b c d e f g Naughton, D. (2012). The Natural History of Canadian Mammals. University of Toronto Press. pp. 235–238. ISBN 1-4426-4483-4 
  19. ^ Corbet, G. B. (1986). “Relationships and origins of the European lagomorphs”. Mammal Review 16 (3–4): 105–110. doi:10.1111/j.1365-2907.1986.tb00029.x. 
  20. ^ Bonino, N. A.; Cossios, D.; Menegheti, J. (2010). “Dispersal of the European hare, Lepus europaeus in South America”. Folia Zoologica Praha 59 (1): 9–15. http://www.ivb.cz/folia_zoologica/archive/59_9-15.pdf. 
  21. ^ Pikula, J.; Beklová, M.; Holešovská, Z.; Treml, F. (2004). “Ecology of European brown hare and distribution of natural foci of Tularaemia in the Czech Republic”. Acta Veterinaria Brno 73 (2): 267–273. doi:10.2754/avb200473020267. 
  22. ^ a b Reichlin, T.; Klansek, E.; Hackländer, K. (2006). “Diet selection by hares (Lepus europaeus) in arable land and its implications for habitat management”. European Journal of Wildlife Research 52 (2): 109–118. doi:10.1007/s10344-005-0013-3. https://www.researchgate.net/profile/Thomas_Reichlin/publication/225809353_Diet_selection_by_hares_(_Lepus_europaeus_)_in_arable_land_and_its_implications_for_habitat_management/links/09e415064550c7c1f0000000.pdf. 
  23. ^ Schai-Braun, S.C.; Reichlin, T. S.; Ruf, T.; Klansek, E.; Tataruch, F.; Arnold, W.; Hackländer, K. (2015). “The European hare (Lepus europaeus): A picky herbivore searching for plant parts rich in fat”. PLoS ONE 10 (7): e0134278. doi:10.1371/journal.pone.0134278. PMC 4521881. PMID 26230115. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4521881/. 
  24. ^ Stott, P. (2008). “Comparisons of digestive function between the European hare (Lepus europaeus) and the European rabbit (Oryctolagus cuniculus): Mastication, gut passage, and digestibility”. Mammalian Biology - Zeitschrift für Säugetierkunde 73 (4): 276–286. doi:10.1016/j.mambio.2007.07.002.