ユイピの儀式ぎしき

「ユイピの儀式ぎしき」は、アメリカインディアンのスー族ぞくの呪術じゅじゅつ師しが行おこなう儀式ぎしきの一ひとつ。

概略がいりゃく

「ユイピ」は、石いし（スー族ぞくの言葉ことばで「インヤン」、または「ツンカ」）の持もつ力ちからを借かりて行おこなう、治癒ちゆ祈願きがん、喪失そうしつ物ぶつの捜索そうさく、探求たんきゅうの儀式ぎしき。「石いしの祭まつり」、「犬いぬの祭まつり」でもある。

インディアンにとって「インヤン」（石いし）は古代こだいの知識ちしきを蓄たくわえた超ちょう自然しぜんの存在そんざいとされ、しばしば「ツンカ」とも呼よばれる。「ツンカ」は創造そうぞう主ぬしのことでもあり、「ワカンタンカ」（大おおいなる神秘しんぴ）とも関連かんれんされる言葉ことばである。「石いし」に「神秘しんぴな力ちから」や「命いのち」が宿やどっている、として神聖しんせい視しするのは、全ぜん世界せかいの民族みんぞく共通きょうつうのものである。

ラコタ・スー族ぞくの伝つたえる女神めがみ「白しろいバッファローの子こ牛うしの女おんな」は、スー族ぞくの前まえに現あらわれたときに、丸まるい石いしを持もっていた。この石いしには、スー族ぞくが生いき抜ぬいていくための7つの儀式ぎしきが記しるされていた。クレイジーホースは、耳みみの後うしろに神聖しんせいな小石こいしを挟はさんでいて、おかげで戦せんに出でてもいつも無傷むきずだったと伝つたえられている。スー族ぞくが儀式ぎしきに使つかう「聖せいなるパイプ」である「チャヌンパ」の火皿ひざらは、「インヤン・シャ」（赤あかい石いし）で出来できており、この「赤あかい石いし」はインディアンの血ちが固かたまって出来できたものと言いわれる。スー族ぞくの呪のろい師しターカ・イシテ（レイムディアー）は、これら神聖しんせいな石いしたちについて、次つぎのように述のべている。

石いしたちが丸まるいのは、ワカンタンカ（宇宙うちゅうの真理しんり）と同おなじことだ。始はじまりが無なければ終おわりもない。こうした石いしたちは偉大いだいな力ちからを宿やどしていて、神聖しんせいな話はなしをしてくれる。

また、タタンカ・オイチタ（勇敢ゆうかんなバッファロー）というスー族ぞくは、白人はくじん人類じんるい学者がくしゃフランシス･デンズモアにこう語かたっている。

こうした石いしたちが丸まるいのは、太陽たいようや月つきが丸まるいのと同おなじことだ。丸まるいものはどんなものでもすべて互たがいに繋つながりがある。これらの石いしは長ながい間あいだ、太陽たいようを見上みあげてきたのだ。ワキンヤン（サンダーバード）もこの神聖しんせいな石いしに関係かんけいがある。私わたしは常つねに石いしたちが求もとめるまま誠実せいじつに生いきてきた。石いしたちはいつでも私わたしを助たすけてくれた。

インディアンは「大おおいなる神秘しんぴ」（宇宙うちゅうの真理しんり）のもとに、すべての事ことどもが「繋つながっている」と考かんがえる。スー族ぞくの場合ばあいは「ミタクエ」（繋つながっている）という言葉ことばでこれを現あらわす。「ユイピ」には、蟻塚ありづかから採とれる細こまかい水晶すいしょうなどの小石こいしが使つかわれる。これはすなわち、これを集あつめた蟻ありの力ちからも借かりるということである。

「ユイピの儀式ぎしき」

ユイピの儀式ぎしきは、「病気びょうきの原因げんいん」であるとか、「行方ゆくえ不明ふめいになった人ひとの居場所いばしょ」などを知しりたい人ひとが、「ユイピ・マン」となる呪のろい師しに、「聖せいなるパイプ」やタバコを贈おくり、スポンサーとなってこれを依頼いらいする。「ユイピ・マン」は金銭きんせんの要求ようきゅうなどは決けっして行おこなわない。

まず、少女しょうじょたちが、色いろとりどりの小ちいさな四角しかくい布ぬのでタバコの葉はを包つつみ、これを405個こ用意よういする。それぞれを糸いとで縛しばって、順々じゅんじゅんに「繋つないでいく」。これは「タバコ・タイ」（スー族ぞくの言葉ことばで「チャンリ」）と呼よばれる。

儀式ぎしきに使つかう部屋へやは家具かぐや装飾そうしょく物ぶつをとりのけ、セージを敷しきつめて清きよめられる。儀式ぎしきは完全かんぜんな暗闇くらやみの中なかで執とり行おこなわれるため、窓まどや隙間すきまを毛布もうふで覆おおい、鏡かがみは裏返うらがえすか布ぬので覆おおう。部屋へやの四よっつの壁際かべぎわが参加さんか者しゃの席せきとなり、宝石ほうせき、腕時計うでどけい、眼鏡めがねなど反射はんしゃ材ざいは外はずされる。

部屋へやの中央ちゅうおうには「チャンリ」の輪わで仕切しきられ、この内側うちがわが「ユイピ・マン」の儀式ぎしきの場ばとなる。土どを盛もった祭壇さいだんと、「聖せいなるパイプ」を立たてかけたバッファローの頭蓋骨ずがいこつの祭壇さいだんが置おかれ、黄色きいろい線せんを境さかいに赤あかと黒くろに塗ぬり分わけた神聖しんせいな旗竿はたざおが立たてられる。この旗竿はたざおの上うえ半分はんぶんには鷲わしの羽はねが結むすびつけられ、下した半分はんぶんには鹿しかの尻尾しっぽが結ゆわえつけられる。その周まわりの四よん方向ほうこうに赤あか（西にし）、白しろ（北きた）、黄き（東ひがし）、黒くろ（南みなみ）の旗はたが立たてられる。土どの祭壇さいだんに「チャンリ」を円まるく置おき、この中なかに精霊せいれいの印しるしを描えがく。神聖しんせいな丸まるいインヤン（石いし）が二ふたつと、蟻塚ありづかから採とった小石こいしを入いれたワグムハ（瓢箪ひょうたんのガラガラ）が用意よういされる。

儀式ぎしきの参加さんか者しゃたちは、めいめいが精霊せいれいの声こえが聞きこえるよう、神聖しんせいなセージを耳みみの後うしろに挟はさむ。こうして準備じゅんびが終おわったら、「ユイピ」が始はじめられる。

「ユイピ・マン」となった呪のろい師しは、神聖しんせいな「チャンリ」の輪わの中なかに入はいり、別べつの呪のろい師しによって後手ごての姿勢しせいで手首てくびと指ゆびの一本いっぽん一本いっぽんを生皮なまかわの紐ひもで縛しばられ、大おおきな「スター・ブランケット」で全身ぜんしんをまるでミイラのようにきつく包つつまれる。それから、生皮なまかわの紐ひもでさらに全身ぜんしんを緊縛きんばくされる。こうすると、呪のろい師しの全身ぜんしんはすっぽりとキルトに包つつまれて、全まったく見みえなくなる。ユイピの呪のろい師しは、そのままうつ伏ぶせになって横よこたわる。これは呼吸こきゅうもままならないほどの状態じょうたいである。

「革かわ紐ひもで緊縛きんばくする」という行為こういは、先述せんじゅつしたインヤンやツンカと同おなじ意味いみを持もっている。レイムディアーはこの行為こういについてこう説明せつめいしている。

縛しばり上あげること、生なま革かわの紐ひも、「チャンリ」を結むすぶ紐ひも、これらすべてが、我々われわれ全員ぜんいんが「一ひとつに結むすばれる」という深ふかい意味いみを持もっており、ばらばらになった孤独こどくに終止符しゅうしふを打うち、「大おおいなる神秘しんぴ」に「繋つながっていく」ことを意味いみしている。縛しばり上あげる紐ひもはパワーを伝つたえ、縛しばられた人間にんげんは精霊せいれいの言葉ことばを伝つたえる。紐ひもは人々ひとびとを繋つないで教おしえを伝つたえるのだ。

「ユイピマン」が緊縛きんばくされたらランプの明あかりが消けされて、真しんの暗闇くらやみになる。儀式ぎしきの歌うたい手てが太鼓たいこを叩はたきながら「ユイピの歌うた」を唄うたい、ワグムハ（ガラガラ）を振ふる。やがて、ユイピの儀式ぎしきの体験たいけん者しゃが口くちを揃そろえて証言しょうげんする神秘しんぴ現象げんしょうが始はじまる。暗闇くらやみの中なかに小ちいさな光ひかりが漂ただよい、チャヌンパ（聖せいなるパイプ）やワグムハが宙ちゅうを舞まう。何者なにものかがつねってきたり、家いえ全体ぜんたいが揺ゆれることもある。これらはすべて、呼よび出だされた精霊せいれいによるものと説明せつめいされる。

儀式ぎしきは数時間すうじかん続つづけられ、最後さいごに「別わかれの歌うた」が唄うたわれると、精霊せいれいたちが去さっていき、儀式ぎしきは終おわる。灯あかりが着つけられると、ブランケットや革かわ紐ひもは傍かたわらにまとめられ、「チャンリ」の中央ちゅうおうに「ユイピマン」が緊縛きんばくから解とかれた姿すがたで座すわっている。この呪術じゅじゅつ師しの緊縛きんばくを伴ともなう探求たんきゅうの儀式ぎしきは、スー族ぞくだけでなく、エスキモーやイヌイットにも見みられるものである。彼かれらの場合ばあいも、一瞬いっしゅんにして緊縛きんばくから解放かいほうされた呪のろい師しが現あらわれる、という不思議ふしぎな現象げんしょうが共通きょうつうしている。

「ユイピマン」は、この儀式ぎしきの間あいだに精霊せいれいが伝つたえた事ことを参加さんか者しゃたちに話はなし、参加さんか者しゃたちは聖せいなるパイプを時計とけい回まわりに回まわし飲のみして祈いのりを捧ささげる。この際さい、パイプは四よん回かいずつ吸すわれる。

「犬いぬの儀式ぎしき」

「ユイピ」を依頼いらいした「スポンサー」は、儀式ぎしきに参加さんかした人ひとたち全員ぜんいんに食たべ物ものをごちそうしなければならない。儀式ぎしきが終おわったら、「ウォジャビ」（イチゴのスープ）のほか、犬いぬの料理りょうりが饗きょうされる。「ユイピ」は「犬いぬの儀式ぎしき」でもある。

犬いぬ（スー族ぞくの言葉ことばでは「シュンカ」）は、かつて人間にんげんにとってなくてはならない労働ろうどう力りょくだった。ユイピではこの犬いぬを生贄いけにえとする。自分じぶんの犬いぬを生贄いけにえに選えらばれた場合ばあい、これを断ことわることはできない。そのかわり、飼かい主ぬしと犬いぬには栄誉えいよが与あたえられる。生贄いけにえの犬いぬは清きよめられて、背中せなかに赤あかい模様もようを描えがかれ、首くびの骨ほねを折おって安楽あんらく死しさせる。屠ほふった犬いぬは大だい鍋なべに入いれられて煮にられ、参加さんか者しゃ全員ぜんいんでこの犬いぬの肉にくを食たべる。それからハーブ茶ちゃやコーヒーを飲のんで儀式ぎしきは終おわる。

シチャング・スー族ぞくの呪のろい師しヘンリー・クロウドッグ、レオナルド・クロウドッグは「ユイピマン」としても知しられている。彼かれらがニューヨーク市しにある白人はくじんの友人ゆうじんリチャード・アードスの自宅じたくを訪たずねた際さい、ユイピの儀式ぎしきを行おこなったが、生贄いけにえの犬いぬがいなかった。ヘンリーは窓まどから犬いぬを連つれた男おとこを見みて、「あの犬いぬを貰もらってきてくれないか」とリチャードに頼たのんだが、リチャードは「ニューヨークの犬いぬに栄誉えいよなんかないよ」と答こたえた。結局けっきょく、この時ときは牛肉ぎゅうにくを使つかったということである。

またレオナルドは別べつの機会きかいに頼たのまれてニューヨークで「ユイピ」を行おこなったことがあるが、このときは道具どうぐ以外いがいは犬いぬの生贄いけにえも儀式ぎしきの歌うたい手てもいなかった。仕方しかたがないのでレオナルドは儀式ぎしきの録音ろくおんテープを使つかって儀式ぎしきを行おこなったが、精霊せいれいはちゃんと現あらわれたという。

「ユイピ」の神秘しんぴ

1970年代ねんだいにスー族ぞく呪のろい師しの長老ちょうろうだったビル・イーグルフェザーは、「ユイピ」について、「この世よのものではない声こえが聞きこえる儀式ぎしきであり、すべてが神秘しんぴのなかにある」と語かたっている。

他たのインディアンの儀式ぎしき同様どうよう、「ユイピ」もまた白人はくじんのキリスト教きりすときょう宣教師せんきょうしによって弾圧だんあつを受うけ続つづけてきた。上述じょうじゅつしたように、「ユイピ」では信しんじがたいような神秘しんぴ現象げんしょうがいろいろと起おこるが、白人はくじんたちは「ユイピ」を「いかさま、奇術きじゅつ」として、その神秘しんぴ現象げんしょうを暴あばこうとした。

BIA（インディアン管理かんり局きょく）員いんだったスティーブン・フェラカは1940年代ねんだいに、「ユイピ」の「トリック」を解明かいめいしようと、ホーンチップスというシチャング・スー族ぞくの「ユイピマン」に大勢おおぜいの白人はくじんや宣教師せんきょうしの前まえでユイピを行おこなわせたことがあった。BIA警察官けいさつかんがホーンチップスの指ゆびを縛しばり、ブランケットで包つつみ、生皮なまかわの紐ひもで緊縛きんばくした。結果けっか、白人はくじんたちの目前もくぜんで灯あかりが明滅めいめつし、ガラガラが飛とびまわった。これを見みて、大勢おおぜいのインディアンがキリスト教きりすときょうを捨すててインディアンの伝統でんとうに戻もどったという。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『The Yuwipi cult of the Oglala and Sicangu Teton Sioux』,Stephen E Feraca .Plains Anthropologist 1961
• 『Lame Deer Seeker of Visions. Simon and Schuster』,Lame Deer, John (Fire) and Richard Erdoes. New York, New York, 1972
• 『Lakota Woman』（Mary Crowdog,Richard Eadoes,Grove Weidenfeld.1990
• 『Crow Dog, Leonard and Richard Erdoes Crow Dog: Four Generations of Sioux Medicine Men』. New York: HarperCollins. 1995
• 『インディアンという生いき方かた』リチャード・アードス、グリーンアロー社しゃ、2001年ねん
• 『イーグルに訊きけ』衛藤えとう信之のぶゆき、飛鳥新社あすかしんしゃ、2003年ねん
• 『Ojibwa Warrior: Dennis Banks and the Rise of the American Indian Movement』（Dennis Banks,Richard Eadoes,University of Oklahoma Press.2004年ねん）