ライセンス生産せいさん

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ダイハツハイゼットイタリアピアッジオしゃによって「ピアッジオ・ポーター」、韓国かんこく亜細亜あじあ自動車じどうしゃ(げん起亜きあ自動車じどうしゃ)によって「アジア/キア・タウナー」としてライセンス生産せいさんされた。(写真しゃしんはピアッジオのもの)

ライセンス生産せいさん(ライセンスせいさん)とは、企業きぎょう開発かいはつした製品せいひん設計せっけい製造せいぞう技術ぎじゅつを、べつ企業きぎょう許可きょかりょうライセンスりょうロイヤリティ)を支払しはらってそのまま使用しようし、その製品せいひん生産せいさんすることである。医薬品いやくひん航空機こうくうき自動車じどうしゃ銃器じゅうきファッション業界ぎょうかいなどでよくおこなわれる[1]兵器へいきなどのライセンス国産こくさん業界ぎょうかいでは『ラこく』という略語りゃくご使つかわれることがある[2]

概要がいよう[編集へんしゅう]

企業きぎょうがライセンス生産せいさんおこなうメリットとしては、おも以下いかてんげられる[3]

  • ライセンスをあたえる企業きぎょうは、みずからは生産せいさんせずにロイヤリティを収益しゅうえきとしてることができるため、自社じしゃ生産せいさん労働ろうどうしゃ直接ちょくせつ賃金ちんぎん支払しはらわずにすむ。
  • ライセンスをあたえられた企業きぎょうは、よりおおくの仕事しごと確保かくほすることができる。
  • あたえられた企業きぎょうは、企業きぎょう製品せいひん生産せいさんすることにより、あたえる企業きぎょうっている技術ぎじゅつやノウハウを獲得かくとくすることができ、それにより企業きぎょう技術ぎじゅつりょく維持いじ向上こうじょうはかり、将来しょうらい製品せいひん開発かいはつ役立やくだてることができる。

ファッションブランドなどのライセンス生産せいさん[編集へんしゅう]

欧米おうべいのファッションブランドは直輸入ちょくゆにゅうされて販売はんばいされることがおおいが、ライセンス生産せいさん生産せいさんされそのくに販売はんばいされることもめずらしくない。日本にっぽん場合ばあいゴールドウイン欧米おうべいかくアウトドアブランドをライセンス契約けいやくのかたちで生産せいさんをしており、アメリカのアウトドアブランドである、OUTDOOR PRODUCTS伊藤忠商事いとうちゅうしょうじがアジアでの商標しょうひょうけん取得しゅとくしている[4]

メーカーとしては自社じしゃ生産せいさんせずにブランドめいだけし、使用しようりょう(ロイヤリティ)がはい仕組しくみになるが、契約けいやくられることもあり、三陽商会さんようしょうかいは40ねんわたりイギリスのファッションブランドバーバリーとライセンス契約けいやくをしていたが2015ねん契約けいやく終了しゅうりょうすると発表はっぴょうした[5]過去かこにはアディダスデサントアニエス・ベーサザビーとライセンス契約けいやくしていたがその契約けいやく解消かいしょうされた[6]

自動車じどうしゃ航空機こうくうき兵器へいきなどのライセンス生産せいさん[編集へんしゅう]

外国がいこく企業きぎょうからライセンスをける場合ばあい国家こっかレベルであれば、つぎのようなメリットもあるといわれている。

  • いざというときの調達ちょうたつ容易よういになる[7]
たとえば、あるくに製品せいひん他国たこくから輸入ゆにゅうしている場合ばあい製品せいひん需要じゅようきゅうえて輸出ゆしゅつこく企業きぎょう生産せいさんいつかなくなったり、輸出ゆしゅつこく自国じこくとの関係かんけい不安定ふあんていになったりすると、輸入ゆにゅうがストップしてしまい、痛手いたでこうむることになる。しかし、ライセンス生産せいさんをしている場合ばあいであれば、このような事態じたいになっても対処たいしょ容易よういとなり、結果けっかとしてけるダメージはすくなくてむ。ただし、これには、そのような事態じたい予測よそくして、はやいうちから生産せいさん調達ちょうたつ備蓄びちくおよび技術ぎじゅつ・ノウハウの修得しゅうとくはじめる必要ひつようがある。
  • 必需ひつじゅ製品せいひん他国たこくから輸入ゆにゅうしている場合ばあいであれば、その製品せいひん兵器へいきではその製品せいひんのサポートめんとうも)を外交がいこうカードにされてしまうおそれもてくるといわれるが、その製品せいひん輸入ゆにゅうではなくライセンス生産せいさん自国じこく調達ちょうたつしている場合ばあい、そのてんよわみをにぎられる可能かのうせいを(ゼロにすることはできないまでも)らすことができる。
相手あいてがわとの関係かんけい悪化あっかにより、ライセンス生産せいさんきんじられる場合ばあいかんがえられ、それを無視むしして生産せいさんつづければ、当然とうぜん生産せいさんすること自体じたいだい問題もんだいとなる(生産せいさんぶつ兵器へいきならば、戦争せんそう原因げんいんともなりる)。
兵器へいき部品ぶひん故障こしょうしたさい部品ぶひん調達ちょうたつ容易よういになる。とく軍用ぐんよう場合ばあい、1つの部品ぶひん大破たいはすると本国ほんごくおくかえして修理しゅうりするか部品ぶひんせることで飛行ひこう停止ていしとなり、ローテーションがめなくなることで訓練くんれん作戦さくせんなどに支障ししょうきた場合ばあいもあるためとく重要じゅうようされる事柄ことがらである。

これらのメリットは薬品やくひん兵器へいきとう国家こっかレベルで必要ひつようになってくる必需ひつじゅ品等ひんとうではとく重要じゅうようになってくるとされ、日本にっぽん自衛隊じえいたい装備そうびのうち、国産こくさんでない装備そうびおおくがアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくひとしから完成かんせいひん輸入ゆにゅうするのではなく、たかいライセンスりょう支払しはらいライセンス生産せいさんする傾向けいこうにあるのは、これらのメリットがのぞめるためだとされている。

なお、このほか企業きぎょう生産せいさんされた製品せいひん主要しゅよう部品ぶひん輸入ゆにゅうして、現地げんち組立くみたておこなノックダウン生産せいさん方式ほうしき存在そんざいする。しかし、こちらの方式ほうしきでは生産せいさんがわ組立くみたて技術ぎじゅつ簡単かんたん整備せいびノウハウをるのみにまる。

デメリット[編集へんしゅう]

一方いっぽうで、デメリットも数多かずおおくあるとわれており、兵器へいきとうのライセンス生産せいさんにおいて影響えいきょう顕著けんちょにみられる。

  • ライセンスりょうはらって生産せいさんするため、価格かかくはそのぶんがる[7]人件じんけん材料ざいりょうなどすべおなじで為替かわせレート、輸送ゆそう関税かんぜいやす場合ばあい完成かんせいひん輸入ゆにゅうする場合ばあいくらべて高額こうがくになる。
  • くわえて先進せんしんこく相手あいて場合ばあい発展はってん途上とじょうこく相手あいて場合ばあい比較ひかくしてライセンスりょう高騰こうとうする(ライセンスりょうのみで輸入ゆにゅうする場合ばあい価格かかくえてしまうケースもある)。
  • 生産せいさん計画けいかくにはすで製品せいひん完成かんせい時間じかん経過けいかしている場合ばあいおおく、ライセンス生産せいさん開始かいしには旧式きゅうしきしていることもある[7]
  • ライセンス生産せいさんをするがわ技術ぎじゅつしゃつね受身うけみであり、自主じしゅせい独自どくじせいそなえた人材じんざいそだちにくくなるとの指摘してきもある。
製品せいひん故障こしょうなど不具合ふぐあいしょうじた場合ばあいつねにライセンスもとわせをして、ライセンス生産せいさんしゃみずからの判断はんだん修繕しゅうぜんこころみられなくなったり[7]製品せいひん使用しようしゃがライセンス生産せいさんしゃによる独自どくじ修繕しゅうぜんなどをみとめないなど、高額こうがくなライセンスりょうのわりには技術ぎじゅつ取得しゅとくさいしての不利益ふりえき甘受かんじゅせねばならないリスクもある[2]兵器へいきではないがDD54など)。
  • 航空機こうくうき兵器へいき分野ぶんやでは、技術ぎじゅつ高度こうどともない、その技術ぎじゅつ流出りゅうしゅつおそれてライセンス生産せいさん許可きょか慎重しんちょう傾向けいこうつよ[ちゅう 1][2]とく兵器へいき軍事ぐんじ転用てんよう可能かのう物品ぶっぴんかんしては、政府せいふ承認しょうにん必要ひつよう場合ばあい多々たたある。また重要じゅうよう部分ぶぶん生産せいさんには許可きょかあたえず「ブラックボックス」として完成かんせいひんおくってくる、あるいはその部分ぶぶん供与きょうよ自体じたいこば[ちゅう 2][ちゅう 3]こともおおいため、ライセンス生産せいさんのメリットがかならずしも発揮はっきされないという意見いけんもある。

技術ぎじゅつ獲得かくとくによる衝突しょうとつ[編集へんしゅう]

日本にっぽん1950ねんだいから1960ねんだい高度こうど経済けいざい成長せいちょう時代じだいから、アメリカから提供ていきょうされた兵器へいきのちにライセンス生産せいさん兵器へいき最新さいしん技術ぎじゅつ積極せっきょくてき民間みんかん製品せいひん転用てんようした。これをおもスピンオフといい、軍需ぐんじゅ産業さんぎょう確立かくりつしているアメリカでは禁止きんしされている行為こういであるが、日本にっぽんではぎゃく推奨すいしょうされている。これにより、1980ねんだい日本にっぽん製品せいひんのアメリカへの輸出ゆしゅつ攻勢こうせいはげしくなると、軍事ぐんじ技術ぎじゅつ民間みんかん製品せいひん転用てんようした製品せいひん輸出ゆしゅつされていることかり、つよジャパン・バッシング日本にっぽんはたき)をけたことは有名ゆうめいである。

民間みんかんへの技術ぎじゅつ転用てんようがどうしてもおくれてしまうアメリカがわからすれば、最新さいしん技術ぎじゅつぐに転用てんようした日本にっぽん製品せいひんしつたかいのはたりまえとするかんがえ(日本にっぽん製品せいひんこのまれるのはそれだけの理由りゆうではないが)がまれるのは当然とうぜんであった。F-2戦闘せんとう自国じこく開発かいはつにアメリカが横槍よこやりれたのは、この問題もんだいがあったために日本にっぽん旅客機りょかくきなどへのスピンオフを警戒けいかいしたためとの意見いけんもある[9]

かりやすいれいげるなら、アメリカで開発かいはつされた形状けいじょう記憶きおく合金ごうきんである。アメリカでは戦闘せんとうのエンジン部分ぶぶんのパーツとして使つかわれるのみであったが、日本にっぽんでは衣服いふくたとえば女性じょせい下着したぎブラジャーのワイヤーや、背広せびろなどのかたパッド)の一部いちぶとして使つかわれはじめ、ひろ普及ふきゅうした。チタン合金ごうきんも、戦闘せんとう胴体どうたい使用しようしたものを日本人にっぽんじん台所だいどころなべなどの調理ちょうり器具きぐ使つかい、戦闘せんとうブレーキ新幹線しんかんせん自動車じどうしゃのブレーキへと姿すがたえた。こういったれいかぞれないほどある。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ F-2戦闘せんとうのエンジン生産せいさんでは先端せんたん技術ぎじゅつ移転いてん禁止きんしされ、国産こくさん比率ひりつ生産せいさん期間きかん全体ぜんたいやく60%、最後さいごには76%であった[8]
  2. ^ F-2戦闘せんとう場合ばあい飛行ひこう制御せいぎょコンピューターのソースコードがアメリカからられなかったことから日本にっぽん独自どくじのものを開発かいはつすることになった。
  3. ^ さんしき戦闘せんとうようにDB601エンジンをライセンス生産せいさんしようとした川崎かわさき航空機こうくうきにおいてもエンジンは生産せいさん許可きょかりたものの、燃料ねんりょう噴射ふんしゃ装置そうち生産せいさん許可きょかりず三菱みつびしせい従来じゅうらいひん改良かいりょうして使つかった。おなじDB601を海軍かいぐんけにライセンス生産せいさんした愛知あいち航空機こうくうきいたっては燃料ねんりょう噴射ふんしゃ装置そうち無断むだんコピーしていたという。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ がっちりマンデー ゴールドウィンもうかりの秘密ひみつとは!?
  2. ^ a b c 戦闘せんとう生産せいさん技術ぎじゅつ基盤きばんかたかんする懇談こんだんかい ちゅうあいだりまとめ(参考さんこう資料しりょう”. 防衛ぼうえいしょう. pp. 27-28. 2021ねん3がつ1にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2020ねん9がつ15にち閲覧えつらん
  3. ^ 日本にっぽん政策せいさく金融きんゆう公庫こうこ 総合そうごう研究所けんきゅうじょ中小ちゅうしょう企業きぎょうの「生産せいさん拠点きょてんたない海外かいがい展開てんかい戦略せんりゃく日本にっぽん公庫こうこ総研そうけんレポートNo.2012-2. 2012ねん6がつ29にち. 13ぺーじ
  4. ^ デイパックの代名詞だいめいしアウトドアプロダクツが国内こくない攻勢こうせい アジアはつ総合そうごう展示てんじかい開催かいさいFashion News
  5. ^ 三陽商会さんようしょうかい、40ねんにわたる「バーバリー」ライセンス事業じぎょう2015ねんはるなつ終了しゅうりょうFashion News
  6. ^ 日本にっぽんのアパレルをて、直営ちょくえいする欧米おうべいブランド東洋とうよう経済けいざいONLINE
  7. ^ a b c d 防衛ぼうえいしょう自衛隊じえいたい:(資料しりょう7)装備そうびひん取得しゅとく方法ほうほうべつ長所ちょうしょ短所たんしょ”. www.mod.go.jp. 防衛ぼうえいしょう. 2020ねん9がつ15にち閲覧えつらん
  8. ^ (英語えいご) U.S.-JAPAN FIGHTER AIRCRAFT Agreement on F-2 Production. 米国べいこく会計検査院かいけいけんさいん. (1997-2). p. 10. https://www.gao.gov/assets/230/223705.pdf 
  9. ^ 加藤かとう健二郎けんじろう「いまこそりたい自衛隊じえいたいのしくみ」日本にっぽん実業じつぎょう出版しゅっぱんしゃ ISBN 4534036957

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]