一条いちじょう忠頼ただより

凡例はんれい 一条いちじょう忠頼ただより
勝川かちがわ春はる亭てい画が『一條いちじょう治郎じろう忠頼ただより、能登のと守まもる教きょう経けい』
時代じだい	平安へいあん時代じだい末期まっき
生誕せいたん	不明ふめい
死没しぼつ	元もと暦こよみ元年がんねん6月16日にち（1184年ねん7月がつ25日にち）
別名べつめい	次郎じろう
墓所はかしょ	山梨やまなし県けん南巨摩みなみこま郡ぐん富士川ふじかわ町まち舂うす米まい（妙楽寺みょうらくじ跡あと）
官位かんい	武蔵むさし守もり
氏族しぞく	甲斐かい源はじめ氏し武田たけだ氏し支流しりゅう一条いちじょう氏し
父母ちちはは	父ちち：武田たけだ信義のぶよし
兄弟きょうだい	忠頼ただより、板垣いたがき兼けん信しん、武田たけだ有ゆう義よし、武田たけだ信光のぶみつ、他た
子こ	甘利あまり行忠ゆきただ、中原なかはら秋あき通どおり 継承けいしょう者しゃ：信長のぶなが（武田たけだ信光のぶみつの五ご男なん）

一条いちじょう 忠頼ただより（いちじょう ただより）は、平安へいあん時代じだい末期まっきの武将ぶしょう。甲斐かい国こく山梨やまなし郡ぐん一条いちじょう郷きょうを領りょうし、一条いちじょう氏しと名乗なのった。

経歴けいれき

甲斐かい源はじめ氏しの武田たけだ信義のぶよしの嫡男ちゃくなんとして誕生たんじょう。治ち承うけたまわ4年ねん（1180年ねん）8月がつ、武田たけだ信義のぶよしを棟梁とうりょうとする甲斐かい源はじめ氏しが挙兵きょへいする。甲斐かい源はじめ氏しは隣国りんごくである信濃しなの国こくの平たいら氏し家人かじんや駿河するが国こく目代もくだいを攻撃こうげきして勢力せいりょくを拡大かくだいし、10月には平たいら氏しが送おくり込こんだ追討ついとう軍ぐんを富士川ふじかわの戦たたかいで撃破げきはして、駿河するが・遠江とおとうみ国こくを制圧せいあつした。

『吾妻あづま鏡きょう』における忠頼ただよりの初はつ見みは9月がつ10日とおか条じょうの諏訪すわ攻撃こうげきの記事きじで、板垣いたがき兼けん信しん・武田たけだ有ゆう義よし・武田たけだ信光のぶみつら他たの兄弟きょうだいよりも早はやい。内乱ないらん前まえは任官にんかん歴れきがあり、源みなもと氏しの通つう字じ「義よし」を継ついだ有ゆう義ぎが嫡流ちゃくりゅうだったと思おもわれるが、内乱ないらん期きは忠頼ただよりが甲斐かい源はじめ氏しの中心ちゅうしんとして活躍かつやくすることになる。富士川ふじかわの戦たたかいの後のち、忠頼ただよりは暫しばらく史料しりょうから姿すがたを消けすため詳くわしい動向どうこうは不明ふめいだが、父ちちの代理だいりとして新あらたに勢力せいりょく圏けんとなった駿河するがの在地ざいち支配しはいを行おこなっていたと考かんがえられる。

寿ことぶき永ひさし2年ねん（1183年ねん）7月がつ、木曾きそ義仲よしなかは京きょうへ進撃しんげきして平たいら氏しを西国さいこくへ追おいやった。『愚ぐ管かん抄しょう』はこの時ときに「東国とうごくの武田たけだ」も入京にゅうきょうしたとするが、『吉きち記き』7月がつ30日にち条じょうの京きょう中ちゅう守護しゅご諸しょ将しょうの中なかに信義しんぎ・忠頼ただより父子ふしの名なはなく、甲斐かい源はじめ氏しは安田やすだ義よし定じょうのみである。遠江とおとうみを実効じっこう支配しはいして半なかば自立じりつしていた義よし定じょうは独自どくじの判断はんだんで入京にゅうきょうしたと思おもわれるが、これは甲斐かい源はじめ氏しの結束けっそくが弱よわまり一枚岩いちまいいわではなくなっていたことを示しめすものといえる。義仲よしなかは治安ちあん回復かいふくの失敗しっぱい・皇位こうい継承けいしょう問題もんだいへの介入かいにゅう・法ほう住じゅう寺てら合戦かっせんによる後こう白河しらかわ法皇ほうおう幽閉ゆうへいなどで孤立こりつし、翌よく寿ことぶき永ひさし3年ねん（1184年ねん）正月しょうがつ20日にち、源範頼みなもとののりより・義経よしつね軍ぐんの攻撃こうげきで敗はい死しした。

『吾妻あづま鏡きょう』正月しょうがつ20日はつか条じょうには「一条次郎忠頼已下の勇士ゆうし、諸方しょほうに競きそえひ走はしり」とあり、忠頼ただよりが軍勢ぐんぜいを率ひきいて義仲よしなか追討ついとう戦せんに参加さんかしていたことが確認かくにんできる。特とくに粟津あわづの戦たたかいでは都落みやこおちした木曾きそ義仲よしなか軍ぐんを撃破げきはし、追おい詰つめた。しかし、続つづく一ノ谷いちのやの戦たたかいでは安田やすだ義よし定じょうは『吾妻あづま鏡きょう』に範はん頼よりゆき・義経よしつねと同格どうかくの扱あつかいで記載きさいされているが、忠頼ただよりの名なはない。京都きょうとに留とどまって治安ちあん維持いじの役割やくわりを担になっていたとも考かんがえられる。

平たいら氏しの屋島やしまへの撤退てったいにより軍事ぐんじ的てき脅威きょういはひとまず去さり、一部いちぶの残留ざんりゅう兵力へいりょくを残のこして遠征えんせい軍ぐんの大半たいはんは東国とうごくに帰還きかんした。忠頼ただよりもこの時ときに東国とうごくに戻もどったと思おもわれる。それからまもなくの6月がつ16日にち（『延のべ慶けい本ほん平家へいけ物語ものがたり』では4月がつ26日にち）、鎌倉かまくらに招まねかれた忠頼ただよりは酒宴しゅえんの最中さいちゅうに、頼朝よりともの命いのちを受うけた天野あまの遠景えんけいによって暗殺あんさつされた。

一条いちじょう氏しの家督かとくは、頼朝よりともに協力きょうりょくした弟おとうと・武田たけだ信光のぶみつの次男じなんである一条いちじょう信長のぶながが継承けいしょうした。忠頼ただよりは一いち条じょう郷きょうのうち一いち条じょう小山こやまに居館きょかんを構かまえ、後のちに時宗じしゅう寺院じいんの一いち蓮はちす寺てらが創建そうけんされる。

忠頼ただより謀殺ぼうさつの背景はいけい

『吾妻あづま鏡きょう』は忠頼ただより殺害さつがいの理由りゆうについて「威勢いせいを振ふふの余あまりに、世よを濫る志こころざしを挿む」（6月がつ16日にち条じょう）と書かくだけで具体ぐたい的てきな説明せつめいに乏とぼしく、どうして頼朝よりともが忠頼ただより殺害さつがいに踏ふみ切きったのか判然はんぜんとしない。直前ちょくぜんの政治せいじ状況じょうきょうを見みてみると、義仲よしなか滅亡めつぼうにより鎌倉かまくら軍ぐんが初はじめて畿内きないに進出しんしゅつし、京きょうと鎌倉かまくらの間あいだでは様々さまざまな政治せいじ交渉こうしょうが始はじまっていた。両者りょうしゃは平たいら氏し追討ついとうという目的もくてきでは一致いっちしていたが、個々ここの問題もんだいでは思惑おもわくに差さがあった。朝廷ちょうていにすれば寿ことぶき永ひさし二に年ねん十じゅう月がつ宣旨せんじを下くだしたものの、内心ないしんではこれ以上いじょうの大幅おおはばな権限けんげん委譲いじょうは避さけたかったと思おもわれる。交渉こうしょうの結果けっか、後こう白河しらかわ法皇ほうおうは平家ひらか没ぼつ官かん領りょうを頼朝よりともに与あたえ、3月27日にちの除目じもくで正せい四よん位い下かに叙じょした。

なおこの除目じもくの下名かめいには、辞退じたいの項目こうもくに「左衛門尉さえもんのじょう源みなもと惟義これよし」、すなわち信濃しなの源はじめ氏しの大内おおうち惟義これよしの名ながある（『吉きち記き』4月がつ2日にち条じょう）。惟義これよしは『延のべ慶けい本ほん平家へいけ物語ものがたり』では義仲よしなか追討ついとう戦せん、『吾妻あづま鏡きょう』では一ノ谷いちのたにの戦たたかいが初はつ見みであり、左衛門尉さえもんのじょうにいつ任官にんかんしたか不明ふめいだが、朝廷ちょうていは戦後せんご処理しょりが片付かたづかなければ人事じんじを行おこなう暇ひまはなかったはずで、頼朝よりともと同おなじ3月がつ27日にちの除目じもくで任にんじられたが、すぐに辞任じにんしたという解釈かいしゃくが妥当だとうである。

『吉きち記き』の3月がつ分ぶんが残のこっていないため、除目じもくの詳細しょうさいは明あきらかでない。しかし3月がつ27日にちの除目じもくが頼朝よりともに限定げんていされず義仲よしなか追討ついとうに参加さんかした諸しょ将しょうが対象たいしょうであったとすると、忠頼ただよりも任官にんかんの栄さかえに浴よくした可能かのう性せいが高たかい。その場合ばあい、前年ぜんねんに安田やすだ義よし定じょうが遠江とおとうみ守まもるに補任ほにんされていることから、受領じゅりょうクラスの任官にんかんが想定そうていされる。『尊卑そんぴ分脈ぶんみゃく』の忠頼ただより傍注ぼうちゅうには「武蔵むさし守もり」とあり、この記述きじゅつのみで忠頼ただよりが武蔵むさし守もりに補任ほにんされたと確定かくていするのは無理むりであるが、朝廷ちょうていに頼朝よりともの対抗たいこう勢力せいりょくとして甲斐かい源はじめ氏しを懐柔かいじゅうしようという意図いとがあり、忠頼ただよりにも甲斐かいの隣国りんごくである武蔵むさしに進出しんしゅつしたいという思惑おもわくがあれば、不自然ふしぜんな人事じんじではなく蓋然性がいぜんせいは高たかくなる。しかし頼朝よりともにすれば武蔵むさしの実効じっこう支配しはいを否定ひていされたも同おなじであり、到底とうてい容認ようにんできるものではなかったと推測すいそくされる。

『延のべ慶けい本ほん平家へいけ物語ものがたり』には「4月がつ26日にちに忠頼ただよりが討うたれ、安田やすだ義よし定じょうは武田たけだ信義のぶよし追討ついとうのために甲斐かいに下向げこうした」という『吾妻あづま鏡きょう』とは異ことなる記述きじゅつがある。『延のべ慶けい本ほん平家へいけ物語ものがたり』の日付ひづけに従したがえば、忠頼ただよりの武蔵むさし守もり補任ほにん（3月がつ27日にち）⇒忠頼ただより謀殺ぼうさつ（4月がつ26日にち）⇒源みなもと広ひろ綱つな・平賀ひらが義信よしのぶの駿河するが守まもる・武蔵むさし守もり補任ほにん（6月がつ5日にち）という流ながれとなる。駿河するがは忠頼ただよりが国務こくむを掌握しょうあくしていた国くにであり、忠頼ただより殺害さつがいで頼朝よりともがその支配しはい権けんを奪取だっしゅしたことになる。

『吾妻あづま鏡きょう』5月がつ1日にち条じょうは義仲よしなかの遺児いじ・源みなもと義高よしたか誅殺ちゅうさつを受うけて、その与党よとう追討ついとうのために鎌倉かまくらから軍勢ぐんぜいが発向はっこうした記事きじであるが、下総しもうさ以外いがいの鎌倉かまくら政権せいけん下かの国くにの御家人ごけにんが召集しょうしゅうされるなど残党ざんとう狩かりにしては規模きぼが大おおきく、しかも足利あしかが義兼よしかね・小笠原おがさわら長ちょう清きよしの軍勢ぐんぜいは甲斐かいに進攻しんこうしている。『延のべ慶けい本ほん平家へいけ物語ものがたり』にある安田やすだ義よし定じょうの甲斐かい下向げこうの記事きじも合あわせると、忠頼ただより謀殺ぼうさつと同時どうじに開始かいしされた甲斐かい源はじめ氏し制圧せいあつのための軍事ぐんじ行動こうどうとも考かんがえられる。

画像がぞう集しゅう

• 
  一条いちじょう忠頼ただより公おおやけの墓はか全体ぜんたい像ぞう（山梨やまなし県けん南巨摩みなみこま郡ぐん富士川ふじかわ町まち舂米つきよね,妙楽寺みょうらくじ跡あと)
• 
  一條いちじょう忠頼ただより公こう之の墓はか、解説かいせつ板付いたづけ（身延線みのぶせん鰍沢口かじかざわぐちか市川大門いちかわだいもん駅えきから）
• 
  一条いちじょう忠頼ただより公おおやけの墓はか後方こうほうから展望てんぼう（前方ぜんぽうに広ひろがるのは甲府盆地こうふぼんち）

関連かんれん作品さくひん

• 『鎌倉かまくら殿どのの13人にん』（2022年ねんNHK大河たいがドラマ、演えんじ：前原まえはら滉ひろし）

出典しゅってん

• 金澤かなざわ正大せいだい「甲斐かい源はじめ氏し棟梁とうりょう一条忠頼鎌倉営中謀殺の史的してき意義いぎ（Ⅰ）」（『政治せいじ経済けいざい史学しがく』272号ごう、1988年ねん）
• 金澤かなざわ正大せいだい「甲斐かい源はじめ氏し棟梁とうりょう一条忠頼鎌倉営中謀殺の史的してき意義いぎ（Ⅱ）」（『政治せいじ経済けいざい史学しがく』446号ごう、2003年ねん）

関連かんれん項目こうもく

• 甲斐かい源はじめ氏し
• 甲斐かい一条いちじょう氏し
• 甘利あまり氏し（一条いちじょう行忠ゆきただが巨摩こま郡ぐん甘利あまり荘そうを領りょうし、甘利あまり氏しを称しょうする）

先代せんだい -

甲斐かい一条いちじょう氏し初代しょだい当主とうしゅ ? - 1184年ねん

次代じだい 一条いちじょう信長のぶなが