催涙さいるいスプレー

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催涙さいるいスプレー(さいるいスプレー)とは、暴漢ぼうかん野生やせい動物どうぶつ顔面がんめんけて催涙さいるいガスを噴射ふんしゃすることにより、対象たいしょうがひるんだすき避難ひなんするための護身ごしん防犯ぼうはん装備そうびである。

  • 暴徒ぼうとテロ集団しゅうだん制圧せいあつするための強力きょうりょく催涙さいるいスプレー・催涙さいるいだん兵器へいきとしての催涙さいるいざい存在そんざいするが、ほんこうでは護身ごしん道具どうぐとしての催涙さいるいスプレーについて記述きじゅつする。

概要がいよう[編集へんしゅう]

一般いっぱんてき市販しはんされている催涙さいるいスプレーのほとんどは、オレオレジン・カプシカム(OCガス=トウガラシスプレー)が主成分しゅせいぶんであり、一部いちぶクロロアセトフェノン(CNガス)のものがある(一部いちぶには以上いじょうのガスを複数ふくすう混合こんごうしたモデルもある)。とくにOCガスは麻薬まやく中毒ちゅうどく状態じょうたいにあるもの泥酔でいすいしゃにも一定いってい効果こうかがあるとされ、またクマなどの野生やせい動物どうぶつ撃退げきたいようものられる。

護身ごしん用具ようぐであることから、日本にっぽん国内こくないでも一般いっぱん防犯ぼうはんあつか商店しょうてん通信つうしん販売はんばいなどで入手にゅうしゅ可能かのうとなっている。登山とざんとうをするひとがクマじょけとして携帯けいたいする催涙さいるいスプレーは、アウトドアショップでもられる。小型こがたものではライター程度ていどおおきさのものから、大型おおがたものでは小型こがた消火しょうかほどのおおきさのものまで存在そんざいしている。またかたち純粋じゅんすいなスプレーかんがた以外いがい取扱とりあつかいの容易たやすさやあやましゃ防止ぼうし(とっさにしたさい、ガスの噴射ふんしゃこう自分じぶんほういているといったことによる事故じこ)と(おそらくは)外見がいけんによる威嚇いかく効果こうか期待きたいした拳銃けんじゅうかた警棒けいぼうかたものや、安全あんぜん装置そうちがついているものも存在そんざいする。

カプサイシンを主成分しゅせいぶんとするOC(Oleoresin Capsicum)ガスは、常温じょうおんではおも油状ゆじょう液体えきたいで、スプレーかんよりいきおいよく噴射ふんしゃされる。これを顔面がんめんにスプレーされると皮膚ひふ粘膜ねんまくにヒリヒリとしたいたみがはしり、んだりなみだまらなくなるなどといった症状しょうじょうあらわれる。

小型こがたものでも5~10びょう程度ていど連続れんぞく噴射ふんしゃ可能かのうだが、至近しきん距離きょりからきちんとねらえば0.5~1びょう程度ていど噴射ふんしゃでもはげしいせきはなすいまらなくなり、すうじゅうふん行動こうどう困難こんなん状態じょうたいとなる。暴漢ぼうかん1~2にん程度ていどなら、小型こがた製品せいひん充分じゅうぶん対応たいおう可能かのうで、きずりの犯行はんこうなどとったケースでは、そのような軽度けいど反撃はんげきでも充分じゅうぶん相手あいて気勢きせい威嚇いかくできる可能かのうせいたかい。

30~40ふんほど効果こうか持続じぞくしたのち完全かんぜん正常せいじょう状態じょうたいもどるには数時間すうじかんほどの時間じかんようする。顔面がんめん命中めいちゅうさせなくても、がるエアロゾル周囲しゅういただよ吸引きゅういんしてしまうため、たとえ相手あいてがオートバイようフルフェイス・ヘルメット着用ちゃくようしていても、くびやベンチレーター付近ふきんけるだけで、一定いってい効果こうかられる。

このほか暴漢ぼうかん逮捕たいほ容易よういとするために、染料せんりょうふくまれる製品せいひんおおく、噴射ふんしゃされた相手あいて橙色だいだいいろまる製品せいひんおおい。これらでは顔面がんめんなどの効果こうかてき部分ぶぶん命中めいちゅうしなくとも着衣ちゃくい皮膚ひふ染色せんしょくし、たとえみず石鹸せっけんあらっても簡単かんたんちないようになっている。また実際じっさいいろかないもののUV塗料とりょうふくまれている製品せいひんもあり、ブラックライトらせば発光はっこうする。

はなくちなどの粘膜ねんまく付着ふちゃくすることではげしいけるようないたみをあたえ、なみだはなすいまらなくなるが、これは性器せいきであってもおなじことで、ストリーキング露出ろしゅつきょう露出ろしゅつした下半身かはんしん噴射ふんしゃされ、さえられたり撃退げきたいされた事例じれいかれる。

噴射ふんしゃされる液体えきたいはだ付着ふちゃくすると浸透しんとうするため、噴射ふんしゃのち使用しようしゃはなをこすっても効果こうかることもある。

液剤えきざい化学かがく薬品やくひんやスパイスなどとおなじく、長期ちょうき保存ほぞんによって性質せいしつ劣化れっかする可能かのうせいがある。さらに圧力あつりょくかんスプレーは構造こうぞうじょう長期間ちょうきかん保管ほかんすると圧力あつりょく低下ていかこるため、原則げんそくてきかく製品せいひんには使用しよう期限きげんもうけられている。これは製造せいぞうからすうねん程度ていど一般いっぱんてきである。

類似るいじ製品せいひんとして、粘着ねんちゃくざい噴射ふんしゃして犯人はんにん身動みうごきをれなくするスプレーが「ポリススプレー」という製品せいひんめい販売はんばいされている。

アメリカの警察けいさつでは、拳銃けんじゅう警棒けいぼうくまでもない(あばれる相手あいて武器ぶきや、得物えもの鈍器どんきまったっていない)場合ばあいに、抵抗ていこう抑止よくしためもちいられる。イギリスの警察けいさつでは、凶悪きょうあくはん射殺しゃさつする強力きょうりょく特殊とくしゅ部隊ぶたいゆうする一方いっぽうで、拳銃けんじゅう所持しょじすることなく催涙さいるいスプレーを携行けいこうして治安ちあん維持いじにあたる警察官けいさつかん大勢おおぜいいることで有名ゆうめいである。

噴射ふんしゃ形状けいじょう[編集へんしゅう]

噴射ふんしゃされる液剤えきざいかたにはおおきくけて3種類しゅるいある。きりじょうタイプ(コーンミストタイプ・フォッガータイプ)のもの噴射ふんしゃこうからとおくなるほど拡散かくさんするかたをする。水鉄砲みずでっぽうタイプ(ストレートタイプ)は、とおくまで一直線いっちょくせんぶ。あわじょうタイプ(フォームタイプ)は、あわじょう液剤えきざい噴射ふんしゃされる。

きりじょうタイプは、ひろ拡散かくさんするのであまり正確せいかくねらわなくても命中めいちゅうし、目標もくひょう多数たすうでも効果こうかてきであるという利点りてんがあるが、逆風ぎゃくふう使つかえず実用じつよう使用しよう距離きょりは1m以下いかである。せま室内しつないでは自分じぶんむことになり、ちかくにいる人物じんぶつにも被害ひがいるという欠点けってんがある。

水鉄砲みずでっぽうタイプは、逆風ぎゃくふうにも安心あんしんして使用しようができ、せま室内しつないでも他人たにん被害ひがいすくないという利点りてんがあるが、とおくの目標もくひょうには命中めいちゅうさせにくいという欠点けってんがある。

あわじょうタイプは、せま室内しつないでの使用しよう自分じぶん被害ひがいがでにくく、てんきりじょうよりも噴射ふんしゃ範囲はんいせまく、逆風ぎゃくふうにある程度ていどつよいなど、きりじょうタイプと水鉄砲みずでっぽうタイプのなかあいだてき性質せいしつである。

これ以外いがいにも、粉末ふんまつ薬剤やくざい液化えきか炭酸たんさんガスで拡散かくさんさせる(というよりもばす)強力きょうりょくなタイプのものも存在そんざいする。このタイプは有効ゆうこう射程しゃてい15mという拳銃けんじゅうみの射程しゃていほこり、かつて日本にっぽん国内こくないでも市販しはんされていたが、隠匿いんとくむずかしい大型おおがたサイズのため一般いっぱん市民しみんへの普及ふきゅうはしておらず、まったく例外れいがいてき存在そんざいえる。

使用しようほう[編集へんしゅう]

デモンストレーションによる催涙さいるいスプレーの使用しよう

噴射ふんしゃ距離きょり大体だいたい2~4メートルだが、危険きけん察知さっちした時点じてんで、相手あいて気付きづかれないように催涙さいるいスプレーをち、すぐに使用しよう可能かのう状態じょうたいとする。安全あんぜん装置そうちがあるものは、これも解除かいじょするとよい。そして実際じっさい襲撃しゅうげきけた場合ばあい催涙さいるいスプレーをっているうで相手あいてのほうにすようにばし、可能かのうかぎ自分じぶん催涙さいるいスプレーがかからないように配慮はいりょしつつ、確実かくじつ相手あいて顔面がんめんけて噴射ふんしゃする。

相手あいてがひるんだすきげ、周囲しゅういたすけをもとめたり警察けいさつ通報つうほうしてなんのがれる。防犯ぼうはんブザーとの併用へいよう推奨すいしょうされている。

訓練くんれん[編集へんしゅう]

催涙さいるいスプレーの噴射ふんしゃ方式ほうしき距離きょり製品せいひんによってがあるため、実際じっさい使用しよう戸惑とまどわずにすむように事前じぜんためげきちをすることがのぞましい。ただし、製品せいひんによっては噴射ふんしゃいちかいかぎりの使つかての製品せいひんがあったり、一度いちど噴射ふんしゃしたものは液体えきたい噴射ふんしゃこうかたまってしまい、実際じっさい使用しよう噴射ふんしゃできなくなるという危険きけんせいもあるので、かく商品しょうひん説明せつめいしょ熟読じゅくどくし、噴射ふんしゃはシャワーでよく洗浄せんじょうすべきである。

催涙さいるいスプレーは液体えきたい噴射ふんしゃする構造こうぞうのため、それ自体じたい人間にんげん動物どうぶつ突進とっしんめるちからはない。実際じっさい使つかさいは、攻撃こうげきしゃとの間合まあいをたもちつつ噴射ふんしゃする必要ひつようがある。[1]

実際じっさいきた事件じけん[編集へんしゅう]

日本にっぽんでは、催涙さいるいスプレーを悪用あくようした異臭いしゅうさわぎなどのいたずらや、強盗ごうとう事件じけん傷害しょうがい事件じけんなどがたびたび報道ほうどうされ、問題もんだいとなっている[2]ふるくは、1995ねん4がつ19にち発生はっせいした横浜よこはまえき異臭いしゅう事件じけんでは668にんもの負傷ふしょうしゃし、地下鉄ちかてつサリン事件じけんのわずか1がつということもあり、おおきな社会しゃかい不安ふあんこした。また、2006ねん4がつ6にち西日暮里にしにっぽりえき韓国かんこくじん武装ぶそうすりだんえき構内こうない催涙さいるいスプレーをまきらし、22にん病院びょういん搬送はんそうされた事件じけん発生はっせいしたさいは、日本人にっぽんじん衝撃しょうげきあたえ、容疑ようぎしゃ本国ほんごくである大韓民国だいかんみんこくでも報道ほうどうされた[3]2023ねん6月14にちには、大阪おおさか大阪おおさか阪急はんきゅううめだ本店ほんてん女子じょしトイレ催涙さいるいスプレーがかれる事件じけん発生はっせいした[4]

このような事件じけん続発ぞくはつしたため、日本にっぽんでは司直しちょくきびしくまっている。近年きんねん催涙さいるいスプレーを犯罪はんざい目的もくてき使用しようしたり、いたずらをおかしたものは、刑事けいじ民事みんじ両面りょうめんから厳重げんじゅう処罰しょばつされる傾向けいこうにある。また、操作そうさミスであやました結果けっかとして他者たしゃ損害そんがいあたえた場合ばあいでも、犯罪はんざいとして処罰しょばつされるおそれがある。

有害ゆうがい玩具おもちゃ一種いっしゅとみなされることもある。これにより、警察官けいさつかん職務しょくむ質問しつもんなどのさい発見はっけんされた場合ばあい軽犯罪法けいはんざいほう違反いはん迷惑めいわく防止ぼうし条例じょうれい違反いはんうたがいをかけられる場合ばあいがある。実際じっさい2007ねん8がつ26にち未明みめいズボンポケット催涙さいるいスプレーをれていた男性だんせい職務しょくむ質問しつもんけ、軽犯罪法けいはんざいほう違反いはん容疑ようぎ新宿しんじゅく警察けいさつしょ任意にんい同行どうこう書類しょるい送検そうけんされている。しかし、2009ねん3月26にち最高裁判所さいこうさいばんしょは「被告人ひこくにんには前科ぜんかがなく、状況じょうきょうから催涙さいるいスプレーは防御ぼうぎょようかんがえられ、所持しょじ正当せいとう理由りゆうがある」として科料かりょう9,000えんとしたはら判決はんけつ破棄はき無罪むざいをいいわたし、催涙さいるいスプレーの携帯けいたいだけではただちに違法いほうとなるわけではないとの確定かくてい判決はんけつしめした[5]

殺虫さっちゅうざいわりに使用しようして、同室どうしつ全員ぜんいん苦痛くつうこうむった事例じれいもある。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 防犯ぼうはん護身ごしんじゅつ催涙さいるい防犯ぼうはんスプレーの効果こうかてき使つかかた&オススメ3しゅ動画どうがあり”. 一般社団法人暴犯被害相談センター (2020ねん9がつ11にち). 2022ねん3がつ25にち閲覧えつらん
  2. ^ 万引まんびきおとこ催涙さいるいスプレー【全国ぜんこく海外かいがいニュース/社会しゃかい”. 大分おおいた合同ごうどう新聞しんぶん. 2009ねん2がつ4にち閲覧えつらん
  3. ^ 韓国かんこくじんすりだん東京とうきょう地下鉄ちかてつ構内こうない催涙さいるいスプレー噴射ふんしゃ”. 朝鮮日報ちょうせんにっぽう. 2006ねん4がつ6にち閲覧えつらん
  4. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2023ねん6がつ15にち). “阪急はんきゅう梅田うめだ本店ほんてんでスプレー噴射ふんしゃおんな逮捕たいほ催涙さいるいスプレーふりかけたこと間違まちがいない」”. 産経さんけいニュース. 2023ねん6がつ15にち閲覧えつらん
  5. ^ 「スプレーは防御ぼうぎょようみとめる、男性だんせい最高裁さいこうさい逆転ぎゃくてん無罪むざい”. 読売新聞よみうりしんぶん. 2009ねん3がつ26にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]