劉りゅう安やすし

劉りゅう 安やすし（りゅう あん、紀元前きげんぜん179年ねん - 紀元前きげんぜん122年ねん）は、前漢ぜんかんの皇族こうぞく・学者がくしゃである。淮南ワイナン王おうに封ふうじられた。『淮南ワイナン子こ』の主著しゅちょ者しゃ。後世こうせい、劉りゅう安やすしに関かんする多おおくの伝説でんせつが生うまれた。

生涯しょうがい

漢かんの高祖こうそ劉邦りゅうほうの七なな男なんの淮南ワイナン厲王劉りゅう長おさむの長男ちょうなん。劉りゅう不ふ害がい（劉りゅう建けんの父ちち）・劉りゅう遷の父ちち。

紀元前きげんぜん174年ねん、父ちちの劉りゅう長ちょうは柴しば奇きの謀反むほんに加くわわったとして流罪るざいとなりその地ちで絶食ぜっしょく死ししたが、劉りゅう長ちょうの4人にんの子こは文ぶん帝みかどによってすべて列侯れっこうに封ふうぜられた。劉りゅう安やすしも紀元前きげんぜん172年ねんに阜陵侯こうとなり、ついで紀元前きげんぜん164年ねんには淮南ワイナン王おうに転てんじた。

景けい帝みかどの即位そくい後ご、紀元前きげんぜん154年ねんに呉ご楚すわえ七なな国こくの乱らんが発生はっせいするとこれに同調どうちょうしようとしたが、景けい帝みかどが派遣はけんした丞相じょうしょうの張ちょう釈しゃく之これに「私わたしが王おうの軍勢ぐんぜいを率ひきいて、指揮しきを執とりとうございます」と述のべて、自身じしんが淮南ワイナン王おうの軍勢ぐんぜいを指揮しきして反乱はんらん軍ぐんに加担かたんしないように手配てはいをしたため、劉りゅう安やすしは呉ご楚すわえ七なな国こくの乱らんに巻まき込こまれずに未遂みすいに終おわった。

しかし、劉りゅう安やすしは以後いごも数すう千せんの兵へいを雇やとい、武備ぶびをかため、太子たいし劉りゅう遷らとしばしば反乱はんらんを企図きとする。劉りゅう安やすしは景けい帝みかどを継ついだ武たけ帝みかどの匈奴きょうど討伐とうばつに反対はんたいで、武たけ帝みかどの徴兵ちょうへい策さくに消極しょうきょく的てきにしか応おうじていなかった。これが武たけ帝みかどの政策せいさくに逆さからうものとして2県けんの所領しょりょうを削減さくげんされたことで、劉りゅう安やすしは臣下しんかの伍ご被ひらと計はからい反乱はんらんの計画けいかくを練ねったが、伍ご被ひの密告みっこくにより露顕ろけんし、劉りゅう安やすしは自害じがいし、一族いちぞくはことごとく処刑しょけいされた。

劉りゅう安やすしの著書ちょしょ『淮南ワイナン子こ』の「泰たい族ぞく訓くん」には「桀紂を王おうとはしない。湯ゆ武たけを放伐ほうばつしたとはしない」という記述きじゅつがある。これは殷いん周しゅう革命かくめいを肯定こうていする孟子もうしの説せつと同様どうようである。続つづく文章ぶんしょうでも君主くんしゅの無道むどうを武力ぶりょくで諫めることの正統せいとう性せいを主張しゅちょうしていた。

劉りゅう安やすしは学問がくもんを愛あいし、書しょや琴きんを好このんだ。多おおくの食客しょっきゃくを抱かかえ、方術ほうじゅつの士しを招まねいたという。彼かれらとともに道家みちや・儒家じゅか・法家ほうか・陰陽いんよう家かのなどの諸説しょせつ・思想しそうを収集しゅうしゅうして編纂へんさんし、内うち書しょ21篇へん、中書ちゅうしょ8篇へん、外そと書しょ23篇へんを著あらわして「鴻おおとり烈れつ」と命名めいめいした。そのうちの内うち書しょが今日きょう『淮南ワイナン子こ』として知しられる。

伝説でんせつ

一人ひとり得道とくどう、鶏にわとり犬いぬ昇天しょうてん

劉りゅう安やすしは、中国ちゅうごくのことわざ「一人ひとりが道みちを得えれば、鶏にわとりや犬いぬも天てんに昇のぼる」の出典しゅってんとしても知しられる。王おう充たかしの『論ろん衡』道みち虚きょ篇へんによると、劉りゅう安やすしは神仙しんせんの術じゅつを求もとめ、霊薬れいやくを自みずから調合ちょうごうし、それを服用ふくようすると、身体しんたいが空そらに浮うき上あがった。それどころか、家いえで飼かっていた鶏にわとりや犬いぬまでもが天てんに昇のぼったという（自害じがいした劉りゅう安やすしは鶏にわとりと犬いぬを伴ともなって仙人せんにんとなって昇天しょうてんしたと伝つたえられていた）。なお、合理ごうり主義しゅぎ者しゃの王おう充たかしはもちろんこれを虚言きょげんとして否定ひていしている。

現在げんざいでは「一族いちぞくのうち一いち人にんでも出世しゅっせすれば、能力のうりょくもない親戚しんせきや側近そっきんまで地位ちいが上あがる」という意味いみで用もちいられる。

八はち公おおやけ仙せん

劉りゅう安やすしは仙人せんにんを招まねいて宴うたげを催もよおすのを好このんでいた。ある日ひ八はち人にんの老人ろうじんが現あらわれて劉りゅう安やすしに会あいたいと言いったが、劉りゅう安やすしはその見みた目めから「不老ふろう長寿ちょうじゅの術じゅつすら身みにつけていないようだ」と判断はんだんし断だってしまう。すると八はち人にんの老人ろうじんは瞬またたく間まに14～15歳さいの黒髪くろかみに桃色ももいろの頬ほおをした子供こどもに姿すがたを変かえて見みせたため、劉りゅう安やすしはあわてて8人にんを招まねき入いれ、料理りょうりと自みずから琴きんを手てに取とり歌うたいもてなしたと『捜さがせ神かみ記き』にある。

現在げんざい劉りゅう安やすしの墓はかとされている六ろく安やす遺跡いせきは八はち公おおやけ山麓さんろくにある。

豆腐とうふ

劉りゅう安やすしはしばしば豆腐とうふの発明はつめい者しゃとされる。

朱子しゅしの豆腐とうふ詩しに淮南ワイナン王おうが豆腐とうふを作つくったことをうたっており、すでに宋そう代だいにこの伝説でんせつが存在そんざいしたことがわかる。明あきらの李り時じ珍めずらし『本草ほんぞう綱目こうもく』でも豆腐とうふを劉りゅう安やすしの発明はつめいとしている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『史記しき』巻まき118 淮南ワイナン衡山列伝れつでん
• 『漢書かんしょ』巻まき44 淮南ワイナン衡山済ずみ北きた王おう伝つたえ
• 『捜さがせ神かみ記き』巻まき1 淮南ワイナン八はち公おおやけ歌か15