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スペクトラム拡散かくさん

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
周波数しゅうはすうホッピングから転送てんそう
無線むせんLAN、Bluetoothのスペクトラム拡散かくさん

スペクトラム拡散かくさん(スペクトラムかくさん、英語えいご: spread spectrumSS)は、通信つうしん信号しんごう本来ほんらいよりもひろ帯域たいいき拡散かくさんして通信つうしんする技術ぎじゅつ無線むせん通信つうしんおおもちいられる。「スペクトル拡散かくさん」、「周波数しゅうはすう拡散かくさん」ともう。

概要がいよう

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スペクトラム拡散かくさん代表だいひょうてき方式ほうしきには、周波数しゅうはすうホッピングと、直接ちょくせつ拡散かくさんとがあり、いずれもノイズ干渉かんしょうつよく、秘匿ひとくせいすぐれるとされている。

元々もともと軍事ぐんじ無線むせんのため、技術ぎじゅつ開発かいはつすす民生みんせいよう機器ききへの応用おうようひろがり[1]CDMA方式ほうしき携帯けいたい電話でんわや、無線むせんLANIEEE 802.11シリーズ、Wi-Fi)、無線むせんアクセスGPS[2]親子おやこ電話でんわ接続せつぞくなどにもちいられている。

スペクトラム拡散かくさんクロックジェネレータ英語えいごばん電子でんしデバイスのクロック生成せいせいする電子でんし部品ぶひん)でももちいられる。スペクトラム拡散かくさんクロックジェネレータ英語えいごばん(SSCG、英語えいご: spread spectrum clock generation)は、クロック信号しんごうたいして意図いとてきジッター(ゆらぎ)をくわえて特定とくてい周波数しゅうはすうにエネルギーが集中しゅうちゅうしないようにする。これにより、電波でんぱ障害しょうがい(EMI)の原因げんいんとなる特定とくてい周波数しゅうはすうへのエネルギー集中しゅうちゅう緩和かんわし、妨害ぼうがい軽減けいげんする。本質ほんしつてきには通信つうしん使つかわれている技術ぎじゅつ同質どうしつである。

なおスペクトラム拡散かくさんとはただたん通信つうしん方法ほうほうではなく、情報じょうほう変換へんかん方法ほうほう一方いっぽうしきである。したがってスペクトラム拡散かくさん様々さまざま分野ぶんや応用おうよう可能かのうである。たとえば「画像がぞうのデジタル処理しょり」などの場合ばあいにも、ある情報じょうほうをスペクトラム拡散かくさんとくに「直接ちょくせつシーケンス」方式ほうしきにより変換へんかんし、てもからない程度ていど画像がぞう色調しきちょうなどの変化へんかとして画像がぞうなか多重たじゅうすることが可能かのうである(ステガノグラフィー)。

周波数しゅうはすうホッピング

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周波数しゅうはすうホッピング(しゅうはすう―、英語えいご: frequency-hoppingFH)は、周波数しゅうはすう一定いってい規則きそくしたが高速こうそくえ、送受信そうじゅしんあいだ通信つうしんおこなう、スペクトラム拡散かくさん一方いっぽうしき周波数しゅうはすうホッピング・スペクトラム拡散かくさん英語えいご: frequency hopping spread spectrumFHSS)ともう。

送信そうしんがわ受信じゅしんがわでホッピング・シーケンスやホッピング・パターンと一定いってい規則きそく規定きていし、それにしたがって一定いってい通信つうしん帯域たいいきなか高速こうそく通信つうしん周波数しゅうはすうえて、通信つうしんおこなう。ホップする周波数しゅうはすうをホッピング・チャンネルとび、これがおおいほど妨害ぼうがい干渉かんしょう傍受ぼうじゅつよくなる。ホッピング・チャンネルの一部いちぶにノイズが局在きょくざいした場合ばあいでも、高速こうそく周波数しゅうはすう切替きりかえするおかげで実際じっさい妨害ぼうがいけるかくりつ低減ていげんされる。よってノイズにつよいとされ、またホッピング・シーケンスがからなければ通信つうしん傍受ぼうじゅしにくいため、ある程度ていど通信つうしん秘匿ひとくせいにもすぐれているとされる。

無線むせんきょくごとにことなるホッピング・シーケンスを適用てきようすると、多元たげん接続せつぞく可能かのうとなる。戦術せんじゅつ無線むせんではFHの使用しようおおい。

なお、この技術ぎじゅつ基礎きそてき発明はつめい女優じょゆうヘディ・ラマー音楽家おんがくかジョージ・アンタイルによってなされた[3][4]

直接ちょくせつ拡散かくさん

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直接ちょくせつ拡散かくさん直接ちょくせつシーケンス(ちょくせつかくさん、ちょくせつ―、英語えいご: direct sequenceDS)は、送信そうしんデータよりもはるかにひろ周波数しゅうはすうにエネルギーを拡散かくさんして通信つうしんするスペクトラム拡散かくさん一方いっぽうしき送受信そうじゅしん双方そうほう保持ほじする「拡散かくさん符号ふごう」とばれるかぎもとづいて演算えんざんおこなう。直接ちょくせつシーケンス・スペクトラム拡散かくさん直接ちょくせつスペクトラム拡散かくさん英語えいご: direct sequence spread spectrumDSSS)ともう。

実際じっさいには、たとえば帯域たいいきはば1MHzだった明瞭めいりょう信号しんごう周波数しゅうはすう帯域たいいき100MHzにひろげると、かけじょう信号しんごう電圧でんあつが1/100にる。雑音ざつおんレベル以下いかになるので、信号しんごう自体じたい検出けんしゅつ困難こんなんになる。雑音ざつおんレベル以下いか信号しんごう強度きょうどいので、さらに出力しゅつりょく電力でんりょく受信じゅしん電圧でんあつ)を大幅おおはばげることができる。

SS方式ほうしきおう用例ようれいひとつとしてレーダーがげられる。通常つうじょうのレーダーでは、たか周波数しゅうはすうできわめておおきい送信そうしん電力でんりょくもちいていた。SS方式ほうしきをレーダーに導入どうにゅうすることで、通常つうじょうのレーダーと比較ひかくしてきわめてちいさな受信じゅしん電圧でんあつでも信号しんごう復元ふくげんすることが可能かのうとなるため、送信そうしん電力でんりょくちいさくすることができ、送受信そうじゅしん回路かいろおよ素子そし)を半導体はんどうたい小型こがたしょう電力でんりょく一体化いったいか長寿ちょうじゅいのちできる。また送信そうしん電力でんりょくちいさい[5]ので、レーダー検知けんち困難こんなんである[6]レーダー妨害ぼうがいはできるが、遅延ちえんおくって位置いち欺瞞ぎまんする方法ほうほう使つかえないため、防御ぼうぎょ効果こうかたかい。

この「受信じゅしん電圧でんあつ雑音ざつおん電圧でんあつよりひくくてい」というのが、画期的かっきてき技術ぎじゅつ革新かくしんとなった[7]

通常つうじょう電波でんぱ雑音ざつおん時間じかんてきたんかかったりランダムであるため、ひろ周波数しゅうはすう帯域たいいきの(比較的ひかくてきなが時間じかん特異とくいてき存在そんざいする信号しんごうたいして、おおきく影響えいきょうすることはすくない[8]

拡散かくさんのためのPN符号ふごう拡散かくさん符号ふごう)が自由じゆうえらべるので、拡散かくさん具合ぐあいがそれぞれことなり、暗号あんごうおなじことになる。暗号あんごうちがうのは、信号しんごう自体じたい検出けんしゅつ困難こんなんになることである。受信じゅしん場合ばあいは、暗号あんごう解読かいどく同様どうよう解読かいどくコード(ぎゃく拡散かくさん符号ふごう)を使つかって、ひろ周波数しゅうはすう範囲はんいから必要ひつよう信号しんごうかびがらせる。

技術ぎじゅつてきくわしくうと、送信そうしんがわでは送信そうしんデータにたいして拡散かくさん符号ふごうによる演算えんざんおこない、送信そうしんデータよりもひろ帯域たいいきにエネルギーを拡散かくさんして送信そうしんする。送信そうしんデータのすうじゅうばいすうせんばい帯域たいいきひろげる。拡散かくさん使用しようされる送信そうしんデータのビットを「チップ」とぶ。受信じゅしんがわでは、送信そうしんがわでの拡散かくさん符号ふごうっているのでぎゃく拡散かくさん符号ふごうつくり、受信じゅしんデータとぎゃく拡散かくさん符号ふごうとの演算えんざんにより送信そうしんデータを復号ふくごうする。拡散かくさん符号ふごう自己じこ相関そうかんちいさい符号ふごう系列けいれつである擬似ぎじランダム雑音ざつおん英語えいご: pseudo random noisePN)パターンが使つかわれる[9]。2種類しゅるいのPN系列けいれつ加算かさんしてられるGold系列けいれつ最長さいちょう系列けいれつ(M系列けいれつ)も拡散かくさん符号ふごう使つかわれる。拡散かくさんされた帯域たいいき一部いちぶにノイズが局在きょくざいしていても、その影響えいきょう拡散かくさんされるためノイズにつよくなる。また正当せいとうぎゃく拡散かくさん符号ふごうによって復号ふくごう演算えんざんおこなわなければノイズにしかこえず、ぎゃく拡散かくさん符号ふごうわからなければ通信つうしん傍受ぼうじゅできないので通信つうしん秘匿ひとくせいにもすぐれているとされる。

無線むせんきょくごとにことなる拡散かくさん符号ふごう適用てきようすると、ひとつの周波数しゅうはすうおび)で複数ふくすう通信つうしんおこな多元たげん接続せつぞく可能かのうとなる。(符号ふごう分割ぶんかつ多元たげん接続せつぞく

正当せいとう受信じゅしんしゃではないものが解読かいどくする場合ばあいは、広帯域こうたいいき受信じゅしん使つか記録きろくし、色々いろいろ方法ほうほう[10]ぎゃく拡散かくさん符号ふごうてはめてみることによりできる(困難こんなんではあるが)。

ハイブリッド方式ほうしき

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ハイブリッド方式ほうしきはDSをおこない、さらにFHをおこな方式ほうしき必要ひつよう演算えんざん処理しょりりょうえるがDSのじゅうなりを半分はんぶんおこなったのちでFHをおこなうと、処理しょり利得りとくが3dBでしべる向上こうじょうする。処理しょり利得りとくは、拡散かくさん帯域たいいきはば送信そうしんデータの帯域たいいきはばあらわされる。

同期どうき遠近えんきん問題もんだい

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FHもDSも送受信そうじゅしんあいだ同期どうきまさしくれないと、期待きたいされた処理しょり利得りとくられない。同期どうきは2つの段階だんかいがある。同期どうき捕捉ほそく最初さいしょにとる同期どうきであり、一度いちどった同期どうき維持いじするのが同期どうき追跡ついせきである。

SSでは遠近えんきん問題もんだいばれる問題もんだいてんがある。SSではおな帯域たいいき複数ふくすう送受信そうじゅしんきょく使用しようする。強力きょうりょく送信そうしん出力しゅつりょくきょくちかくでは、よわきょく送信そうしん受信じゅしんきょく受信じゅしんできなくなる。この問題もんだいはDSで顕著けんちょである。送信そうしん出力しゅつりょく制御せいぎょによってつよすぎる送信そうしんきょくがなくなるようにすることで軽減けいげんできる。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 半導体はんどうたいによる「弾性だんせい表面ひょうめんコンボルバ」の大量たいりょう生産せいさんなどである。
  2. ^ GPSの基礎きそ Elements of the Global Positioning System 松永まつなが三郎さぶろう東京工業大学とうきょうこうぎょうだいがく工学こうがくいん
  3. ^ Patent #: US002292387”. 米国べいこく特許とっきょ商標しょうひょうちょう. 2016ねん2がつ6にち閲覧えつらん
  4. ^ 特許とっきょ US2292387 - Secret communication system”. グーグル特許とっきょ検索けんさく. 2016ねん2がつ6にち閲覧えつらん
  5. ^ 軍用ぐんようでも連続れんぞく(CW)1Wで実用じつようしている。従来じゅうらいはパルスすうkW以上いじょうだった。
  6. ^ 従来じゅうらい攻撃こうげきまえのレーダー照射しょうしゃ受信じゅしんして攻撃こうげき予測よそくできるが、SSでは電波でんぱよわいため探知たんちできない。
  7. ^ このかべやぶるために、冗長じょうちょうげたり重畳ちょうじょうして、限定げんていてき解決かいけつしていた。FMなみは、雑音ざつおんつよかった。
  8. ^ 信号しんごうたいする相関そうかん係数けいすうすくないからである。SS通信つうしん実用じつようまえには信号しんごう冗長じょうちょうして、あやまりをらしていた。軍事ぐんじようでは冗長じょうちょうぎゃく解読かいどく機会きかいやすことがある。
  9. ^ 軍用ぐんようなどでは、もっとランダムな雑音ざつおん2進数しんすうパターン)をもちいる。Gold系列けいれつもM系列けいれつ民生みんせいようはなしである。
  10. ^ 秘密ひみつ入手にゅうしゅバックドアじゃくかぎ(en)、そうあたり攻撃こうげきなど

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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