嫪アイ

嫪 毐（ろう あい、拼音：Lào Ǎi、? - 紀元前きげんぜん238年ねん）は、中国ちゅうごくの秦はたの偽にせ宦官かんがん。当初とうしょは呂りょ不ふ韋の食客しょっきゃくであったが、秦はた王政おうせい（後ごの始皇帝しこうてい）の母ははの趙ちょう姫ひめ（太ふとし后きさき）と関係かんけいを持もち、一時いちじは権勢けんせいを誇ほこった。

生涯しょうがい

『史記しき』呂りょ不ふ韋列伝でんによると、嫪毐は巨きょ根ねで知しられ、宴会えんかいの余興よきょうとして自みずからの一物いちもつを軸じくに馬車ばしゃの車輪しゃりんを回まわして見みせたという。その特長とくちょうゆえに、秦はたの宰相さいしょう呂りょ不ふ韋に見出みいだされた。

呂りょ不ふ韋は秦はた王政おうせいの母ははの趙ちょう姫ひめ（太ふとし后きさき）と長年ながねん不倫ふりん関係かんけいを続つづけていたが、淫乱いんらんな太ふとし后きさきを老年ろうねんに差さし掛かかった彼かれが満足まんぞくさせることは難むずかしくなり、同時どうじにその関係かんけいは非常ひじょうに危険きけんなことであった。そこで関係かんけいを清算せいさんしたがっていた呂りょ不ふ韋は、自身じしんの身代みがわりとして彼かれを後宮こうきゅうに送おくり込こんだ。王おう以外いがいの男性だんせいで後宮こうきゅうに出入でいりできるのは、男性だんせい器きを切除せつじょした宦官かんがんのみであり、巨きょ根ねが売うり物ものの嫪毐が性器せいきを切除せつじょしないまま後宮こうきゅうに入いれるにあたり、髭ひげを抜ぬき取とるなどして宦官かんがんのような容貌ようぼうに変かえさせ、さらに宮刑きゅうけいを執行しっこうされたという記録きろくをでっちあげるなどの裏うら工作こうさくをした。

呂りょ不ふ韋の思惑おもわく通どおり、嫪毐は後宮こうきゅうに入はいって太ふとし后きさきの寵愛ちょうあいを受うけ、2人ふたりの息子むすこを儲もうけた。やがて、太ふとし后きさきの後うしろ盾たてをもとに次第しだいに権勢けんせいを握にぎり、紀元前きげんぜん239年ねんに嫪毐は山陽さんようを封土ほうどとして長信ながのぶ侯こうに封ふうじられた。また、多おおくの食客しょっきゃくを擁ようするようになり、呂りょ不ふ韋に次つぐ権勢けんせいを誇ほこった。また、河西かさいおよび太ふとし原はらも領りょうした。

だが、房事ぼうじでの出世しゅっせは周囲しゅういの評判ひょうばんが悪わるく、密告みっこくにより政せいに知しられることになって、内偵ないていにより太ふとし后きさきとの密通みっつうが露見ろけんした。そこで嫪毐は御璽ぎょじおよび太ふとし后きさきの印璽いんじを盗ぬすみ出だして、兵へいを集あつめて反乱はんらんを起おこそうとした。

しかし、既すでにそれに備そなえていた秦はた王政おうせいの命いのちを受うけた楚すわえの公子こうしである昌平しょうへい君くんと昌文まさふみ君くんの叔甥によって、咸陽で返かえり討うちに会あった。嫪毐は逃亡とうぼうしたものの、捕とらえられて車くるま裂さきの刑けいに処しょされ、その一族いちぞくや太ふとし后きさきとの間あいだのふたりの息子むすこもことごとく処刑しょけいされた。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『史記しきIII 独裁どくさいの虚実きょじつ』丸山まるやま松まつ幸みゆき,守屋もりや洋ひろし 訳わけ,徳間書店とくましょてん,1988 ISBN 4-19-263583-6

関連かんれん項目こうもく

• 『史記しき』秦はた始はじめ皇すめらぎ本紀ほんぎ・呂りょ不ふ韋列伝でん
• 道鏡どうきょう - 呂りょ不ふ韋・太ふとし后きさき・嫪毐が藤原仲麻呂ふじわらのなかまろ・称しょう徳とく天皇てんのう・道鏡どうきょうと重かさねあわされたために道鏡どうきょうが巨きょ根ねだという俗説ぞくせつが生うまれたという説せつがある。
• 樛斿 - 秦はたの初代しょだい相国しょうこく。嫪毐は樛斿に連つらなる人物じんぶつという説せつがある。
• キングダム (漫画まんが) - 原はら泰久やすひさによる漫画まんが。この作品さくひんでは本人ほんにんの意思いしに反はんして反乱はんらんの首魁しゅかいとして祭まつり上あげられたことになっている。