対称たいしょうせいやぶ

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対称たいしょうせいやぶれを説明せつめいする簡単かんたんうえしめされた、中央ちゅうおうやまうえにボールがっているけいは、初期しょき状態じょうたいでは左右さゆう対称たいしょうである。しかし、このボールは不安定ふあんていであり、摂動せつどうによって左右さゆうどちらかにころがりちたとき対称たいしょうせいうしなわれる。

対称たいしょうせいやぶ(たいしょうせいのやぶれ, Symmetry breaking, Symmetry violation)とは、物理ぶつりがくにおいて、対象たいしょう対称たいしょうせいうしなわれることをいう[1]

概要がいよう[編集へんしゅう]

無秩序むちつじょけいは、どの方向ほうこうからても同様どうよう無秩序むちつじょであるという意味いみで、たか対称たいしょうせいをもつ(ひとしかたてきである)とかんがえることできる。ここで、そういったたか対称たいしょうせいをもつ無秩序むちつじょけいが、より規則きそくてきで、より対称たいしょうせいひく状態じょうたいへとわることを、対称たいしょうせいやぶれという。対称たいしょうせいやぶれは、臨界りんかいてん交差こうさしてけい作用さようする摂動せつどうが、けい分岐ぶんき方向ほうこう決定けっていする現象げんしょうであり、パターン形成けいせいにおいて主要しゅよう役割やくわりになうとかんがえられている。

1972ねんノーベルしょう受賞じゅしょうしゃフィリップ・アンダーソンは、還元かんげん主義しゅぎのいくつかの欠点けってんしめすためにMore is differentというタイトルのサイエンス論文ろんぶん[2]で、対称たいしょうせいやぶれの概念がいねんもちいた。

対称たいしょうせいやぶれには、おおきくけてつぎさん種類しゅるいられている。

  • 明示めいじてき対称たいしょうせいやぶ
  • 自発じはつてき対称たいしょうせいやぶ
  • 量子りょうし異常いじょうによる対称たいしょうせいやぶ

明示めいじてき対称たいしょうせいやぶ[編集へんしゅう]

理論りろんには対称たいしょうせいたか精度せいど存在そんざいするが、ラグランジアンおよび運動うんどう方程式ほうていしき対称たいしょうせいやぶちいさなこうふくまれていることをす。対称たいしょうせいたすとして理論りろん計算けいさんしたところを出発しゅっぱつてんとした摂動せつどうによってけい理解りかいすることが出来できる。明示めいじてき対称たいしょうせいやぶれは、けい記述きじゅつしている法則ほうそくがそれ自身じしん問題もんだいになっている対称たいしょうせいした不変ふへんではないときこる。

標準ひょうじゅんモデルにおける「CP対称たいしょうせいやぶ」がこのいちれいである。1981ねんにおいて最新さいしん観測かんそく結果けっかであったボトムクォーク寿命じゅみょう理論りろん予測よそくよりもおおきいという事実じじつもとづき、B中間子ちゅうかんしけい観察かんさつできるということが、A.B.Carterと三田みた一郎いちろうによって指摘してきされた。これによって、B中間子ちゅうかんしけいがクォーク混合こんごうとCP対称たいしょうせいやぶれを観測かんそくするには重要じゅうようであると認識にんしきされることとなった。なお、クォーク混合こんごうかんしては、理論りろんから予測よそくされるよりもかずすくない太陽たいようニュートリノ減少げんしょう説明せつめいできるニュートリノ振動しんどうとも密接みっせつつながりを現象げんしょうである。

自発じはつてき対称たいしょうせいやぶ[編集へんしゅう]

自発じはつてき対称たいしょうせいやぶは、理論りろんのラグランジアンや運動うんどう方程式ほうていしき自体じたい対称たいしょうせいつが、真空しんくう対称たいしょうせいやぶっている場合ばあいう。このとき、けい背景はいけい真空しんくう)が不変ふへんであるため、けい法則ほうそく不変ふへんだがけい自体じたい不変ふへんでないようにえる。そのような対称たいしょうせいやぶれは秩序ちつじょパラメータによってパラメータされる。自発じはつてき対称たいしょうせいやぶれの特別とくべつなものが力学りきがくてき対称たいしょうせいやぶである。

ワインのびん回転かいてん対称たいしょうであるが、けいがもっともていエネルギーのてんさがした結果けっか、ワインのびんそこいちてんちると、そのてん回転かいてん対称たいしょうでないことを想像そうぞうすればイメージがつかみやすい。そのさい、ワインそこ沿ってちいさなエネルギーでころがることが出来できるが、これを量子りょうしした粒子りゅうし南部なんぶゴールドストーン・ボソンう。

ヒッグス機構きこうは、この南部なんぶゴールドストーンボソンがゲージじょう結合けつごうして質量しつりょうのあるベクトル粒子りゅうしとなる機構きこうである。

量子りょうし異常いじょうによる対称たいしょうせいやぶ[編集へんしゅう]

古典こてんろん段階だんかいでは理論りろんラグランジアン対称たいしょうせいがあるが、量子りょうしともなってその対称たいしょうせいうしなわれてしまう現象げんしょう量子りょうし異常いじょうによる対称たいしょうせいやぶう。代表だいひょうてきれいとして、古典こてんてきには中間子ちゅうかんしふたつの光子こうしには対称たいしょうせいのため崩壊ほうかいできないが、量子りょうしろんでは崩壊ほうかいできることがしめされ実験じっけん一致いっちしている。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょ(ニッポニカ),デジタル大辞泉だいじせん. “対称たいしょうせいやぶれとは”. コトバンク. 2022ねん1がつ2にち閲覧えつらん
  2. ^ Anderson, P.W. (1972). “More is Different”. Science 177 (4047): 393–396. doi:10.1126/science.177.4047.393. PMID 17796623. http://www.isnature.org/Files/Anderson_More_is_Different.pdf. 

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]