悪役あくやく

漫画まんがなどで描えがかれる悪役あくやくのステレオタイプ

歌舞伎かぶきの有名ゆうめいな敵役かたきやく（悪形あくがた）、江戸えど兵衛ひょうえ（えどべえ）／画像がぞうは、東洲斎写楽とうしゅうさいしゃらくの役者やくしゃ大だい首くび絵え『三さん代目だいめ大谷おおや鬼おに次じの奴やつ江戸えど兵衛ひょうえ』で、主人公しゅじんこうから大金たいきんを奪うばい盗とろうとにじり寄よる悪人あくにん・江戸えど兵衛ひょうえを演えんじる歌舞伎かぶき役者やくしゃ・三さん代目だいめ大谷おおや鬼おに次じ（二に代目だいめ中村なかむら仲蔵なかぞう）を描えがいたもの。

悪役あくやく（あくやく）は、第一義だいいちぎには物語ものがたり性せいのある芝居しばいやその他たの作品さくひん全般ぜんぱんにおいて悪人あくにんを演えんじる役やく、また、その演者えんじゃをいう。 第二義だいにぎには、第一義だいいちぎから転てんじて比喩ひゆ的てきに憎にくまれ役やく（他者たしゃから憎にくまれる役回やくまわり）を指さす。 さらには、人間にんげんの織おりなす歴史れきしを物語ものがたりに譬たとえる概念がいねんの下した、特定とくていの価値かち観かんにおいて悪人あくにんと見みえる立たち回まわりの目立めだつ人物じんぶつを「悪役あくやく」呼よばわりすることもある。また、政治せいじ的てき意図いとをもって悪人あくにんもしくは悪役あくやくに仕立したてて上あげられる人物じんぶつがいるのも、歴史れきしである。

歌舞伎かぶきでは、「悪役あくやく」の第一義だいいちぎを指さして、悪あく人形にんぎょう/悪人あくにん方かた（あくにんがた）、悪形あくがた/悪方あくがた（あくがた）、悪方あくがた（いやがた）など、様々さまざまに呼よんでいたが、最終さいしゅう的てきには「悪役あくやく」とはニュアンスの異ことなる「敵役かたきやく（かたきやく）」というい回いまわしに落おち着ついた。

概要がいよう

悪役あくやくは特とくに勧善懲悪かんぜんちょうあくなどの要素ようそを含ふくむ物語ものがたりでは必要ひつよう不可欠ふかけつの要素ようそである。悪役あくやくがふてぶてしく立たち回まわることにより主人公しゅじんこうの存在そんざい感かんをより鮮明せんめいにし、また主人公しゅじんこうやその仲間なかまに倒たおされることで、見みる者ものにカタルシス（浄化じょうか作用さよう）を与あたえる。基本きほん的てきには物語ものがたりの根底こんていを彩いろどり、主役しゅやくたちを引ひきたせる重要じゅうような存在そんざいである。したがって、悪役あくやくが魅力みりょく的てきであればあるほど物語ものがたりの完成かんせい度どは高たかくなる。

古典こてん文学ぶんがく

古典こてん文学ぶんがくでは、悪役あくやくのキャラクターは、近代きんだいやポストモダンの作品さくひんに登場とうじょうするものとは必かならずしも同おなじではない。というのも、道徳どうとく観かんの境界きょうかい線せんが曖昧あいまいな感覚かんかくを示しめすためにぼかされたり、歴史れきし的てき背景はいけいや文化ぶんか的てきな考かんがえ方かたに影響えいきょうされたりすることが多おおいからである。古典こてん文学ぶんがくにおいてヒーローとヴィランの定義ていぎは、はっきりしないことがよくある。

ウィリアム・シェイクスピアは、悪役あくやくの原型げんけいを三さん次元じげん的てきな特徴とくちょうを持もつようにモデル化かし、現代げんだい文学ぶんがくで悪役あくやくが見みせる複雑ふくざつな性質せいしつに道みちを開ひらいた。しかし、シェイクスピアが歴史れきし上じょうの人物じんぶつを描写びょうしゃする際さいには、チューダー朝あさの情報じょうほう源げんからもたらされるプロパガンダ作品さくひんの影響えいきょうを受うけており（彼かれの作品さくひんにはそのような偏かたよりが見みられる）、彼かれらの評判ひょうばんを落おとすことが多おおかった。例たとえば、シェイクスピアはリチャード3世せいを、腹立はらだち紛まぎれに一族いちぞくを滅ほろぼした醜みにくい怪物かいぶつとして描えがいたことで有名ゆうめいである。

民話みんわや童話どうわ

ロシアの童話どうわ

ロシアの童話どうわを分析ぶんせきしたウラジーミル・プロップは、大だい部分ぶぶんの物語ものがたりには8つの「ドラマチス・ペルソナ」しかなく、そのうちの1つは悪役あくやくであると結論けつろんづけている。この分析ぶんせきは、ロシア以外いがいの物語ものがたりにも広ひろく適用てきようできると考かんがえられている。悪役あくやくの領域りょういきに該当がいとうする行為こういは以下いかの通とおりである。

• 物語ものがたりの発端ほったんとなる悪事あくじや悪行あくぎょうで、悪役あくやくが主人公しゅじんこうやその家族かぞくに危害きがいを加くわえるもの
• 主人公しゅじんこうと悪役あくやくの間あいだの対立たいりつ、また、戦たたかいやその他たの競きそい合あい
• 主人公しゅじんこうが戦たたかいに勝利しょうりしたり、悪役あくやくから何なにかを得えることに成功せいこうした後のちに、主人公しゅじんこうを追おいかける。

これらの特徴とくちょうを持もつキャラクターは、必かならずしも童話どうわというジャンルに特有とくゆうの比喩ひゆ的てきな存在そんざいではないが、特定とくていの行為こういを行おこなう者ものが悪役あくやくであることを意味いみしている。そのため、悪役あくやくは、物語ものがたりの冒頭ぼうとうで登場とうじょうする場合ばあいと、主人公しゅじんこうが探さがし求もとめる人物じんぶつとして登場とうじょうする場合ばあいと、1つの物語ものがたりの中なかで2回かい登場とうじょうし、一定いっていの役割やくわりを果はたすことになる。

ウラジーミル・プロップの分析ぶんせきと一致いっちする行動こうどうや特徴とくちょうを持もったキャラクターは、純粋じゅんすいな悪役あくやくとして認識にんしきされることになる。民話みんわやおとぎ話ばなしの悪役あくやくは、物語ものがたりに影響えいきょうを与あたえたり、進すすめたりする無数むすうの役割やくわりを果はたすこともある。童話どうわでは、悪役あくやくが影響えいきょう力りょくのある役割やくわりを果はたすことがある。例たとえば、主人公しゅじんこうと戦たたかって逃にげた魔女まじょを主人公しゅじんこうが追おいかけるのは、魔女まじょが「導みちびき手しゅ」の役割やくわりを果はたしていることにもなり、結果けっか的てきに手助てだすけする者ものとしての役割やくわりを果はたしていることになる。

また、プロップは、物語ものがたりの中なかでの悪役あくやくの役割やくわりについて、より一般いっぱん的てきな意味いみで悪党あくとうっぽく描えがくことを可能かのうにする別べつの2つの原型げんけいを提示ていじした。一ひとつ目めは、「偽いつわりの主人公しゅじんこう」である。このキャラクターは常つねに極悪ごくあくであり、ハッピーエンドのために主人公しゅじんこうは打破だはされなければならないという誤あやまった主張しゅちょうを提示ていじする。この特徴とくちょうを示しめし、物語ものがたりの主人公しゅじんこうの成功せいこうを妨害ぼうがいするキャラクターの例れいとしては、靴くつに合あわせるために足あしの一部いちぶを切きり落おとした『シンデレラ』の醜みにくい義姉ぎしたちが挙あげられる。

悪役あくやくのもう一ひとつの役割やくわりは、主人公しゅじんこうをクエストに送おくり出だす「派遣はけん者しゃ」である。物語ものがたりの最初さいしょの段階だんかいでは、彼かれらの依頼いらいは善意ぜんいや無邪気むじゃきなものに見みえるかもしれないが、派遣はけん者しゃの本当ほんとうの意図いとは、彼かれらを排除はいじょすることを望のぞんで主人公しゅじんこうを旅たびに送おくることかもしれない。

また、悪役あくやくが物語ものがたりに与あたえる役割やくわりや影響えいきょうは、他たのキャラクターに引ひき継つがれることもあり、他たのキャラクターを通とおして物語ものがたりの中なかでその役割やくわりを継続けいぞくさせることができる。悪役あくやくの遺産いさんはしばしば血統けっとうのもの（家族かぞく）や献身けんしん的てきな支持しじ者しゃによって引ひき継つがれることが多おおい。例たとえば、ドラゴンが悪役あくやくを演えんじていたが主人公しゅじんこうに殺ころされてしまった場合ばあい、別べつのキャラクター（ドラゴンの妹いもうとなど）が前まえの悪役あくやくの遺産いさんを受うけ継つぎ、復讐ふくしゅうのために主人公しゅじんこうを追おいかけるかもしれない。

悪役あくやくのアーキタイプ

おとぎ話ばなしのジャンルでは、物語ものがたりを推おし進すすめ、主人公しゅじんこうの旅たびに影響えいきょうを与あたえる重要じゅうような要素ようそとして悪役あくやくが登場とうじょうする。これらは、他たの文学ぶんがく作品さくひんに登場とうじょうするような洗練せんれんされたものではないが、アーキタイプとして知しられている。アーキタイプの悪役あくやくは、このジャンルではよく登場とうじょうし、主人公しゅじんこうや物語ものがたりに異ことなる影響えいきょうを与あたえる様々さまざまなカテゴリーに分類ぶんるいされる。

偽にせのドナー（贈与ぞうよ者しゃ）

偽にせのドナーとは、目的もくてきを達成たっせいするために策略さくりゃくを用もちいる悪役あくやくである。多おおくの場合ばあい、偽にせのドナーは善意ぜんいの人物じんぶつを装よそおい、主人公しゅじんこう（またはその関係かんけい者しゃ）に影響えいきょうを与あたえ、取引とりひきを持もちかける。その取引とりひきは、それを受うけ入いれた者ものに短期たんき的てきな解決かいけつ策さくや利益りえきを提示ていじし、その代かわりに長期ちょうき的てきには悪役あくやくに利益りえきをもたらす。物語ものがたりのクライマックスでは、主人公しゅじんこうは悪役あくやくを倒たおすために、あるいはハッピーエンドを達成たっせいするために、お互たがいの合意ごういを修正しゅうせいする方法ほうほうを見みつけなければならないことが多おおい。

同様どうように、悪魔あくまのアーキタイプもまた、主人公しゅじんこう（またはその関係かんけい者しゃ）に申もうし出でをして、そのニーズや欲望よくぼうに訴うったえかけるものである。しかし、悪魔あくまはその意図いとを主人公しゅじんこうに隠かくすことはない。その後ごのストーリーでは、被害ひがいが拡大かくだいする前まえに合意ごういを破棄はき/取とり消けししようとする主人公しゅじんこうの旅たびが描えがかれることが多おおい。

ビースト（野獣やじゅう）

ビーストとは、自みずからの目的もくてきを達成たっせいするために、本能ほんのうや破壊はかいを引ひき起おこす能力のうりょくに頼たよるキャラクターのことである。彼かれらの行動こうどうの悪意あくいは、他者たしゃ（または他者たしゃの幸福こうふく）への配慮はいりょや繊細せんさいさを欠かいた行動こうどうであるため、容易よういに識別しきべつできることが多おおい。暴あばれまわる悪役あくやくは、非常ひじょうに強力きょうりょくな個人こじんや暴あばれまわる獣ししの形態けいたいをしているが、破壊はかいとの親和しんわ性せいのため、より危険きけんな悪役あくやくの典型てんけいの一ひとつとなっている。

オーソリティ・フィギュア

オーソリティ・フィギュアとは、すでに一定いっていの地位ちいと権力けんりょくを獲得かくとくしているが、常つねにそれ以上いじょうのものを求もとめている人物じんぶつである。彼かれらは、物質ぶっしつ的てきな豊ゆたかさや著名ちょめいな地位ちい、強大きょうだいな権力けんりょくへの欲求よっきゅうに駆かられ、君主くんしゅやコーポレーションのトップ、その他たの権力けんりょく者しゃとして登場とうじょうすることがよくある。彼かれらの最終さいしゅう的てきな目標もくひょうは、神秘しんぴ的てきな手段しゅだんや政治せいじ的てき工作こうさくによって、企業きぎょう、国家こっか、または世界せかいを完全かんぜんに支配しはいすることである。多おおくの場合ばあい、この悪役あくやくは自分じぶんの欲よくやプライド、傲慢ごうまんさによって倒たおされることになる。

トレイター（裏切うらぎり者もの）

トレイターは、目的もくてきを達成たっせいするために、策略さくりゃく、裏うら工作こうさく、欺瞞ぎまんの特性とくせいを強調きょうちょうする悪役あくやくである。その目的もくてきは、多おおくの場合ばあい、自みずからの自由じゆうや安全あんぜんと引ひき換かえに主人公しゅじんこうの敵対てきたい者しゃに情報じょうほうを提供ていきょうし、彼かれらの旅たびを止とめることにある。トレイターの目的もくてきは必かならずしも悪あくではないが、その目的もくてきを達成たっせいするために行おこなう行動こうどうは本質ほんしつ的てきに悪あくであると考かんがえられている。

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