政治せいじ小説しょうせつ

政治せいじ小説しょうせつ（せいじしょうせつ）とは、政治せいじやそれに関かかわる事物じぶつを主題しゅだいとする小説しょうせつ、もしくは特定とくていの政治せいじ思想しそうを鼓吹こすいすることを目的もくてきとして書かかれる小説しょうせつ。日本にっぽんでは特とくに明治めいじ時代じだいに国民こくみんの啓蒙けいもう、自由じゆう民権みんけん論ろんやナショナリズムを鼓舞こぶするために書かかれた小説しょうせつ。

概がい史し

西洋せいようでは19世紀せいきイギリスのベンジャミン・ディズレーリやフランスのヴィクトル・ユーゴーの作品さくひんが政治せいじ小説しょうせつとして知しられる。

日本にっぽんでは自由じゆう民権みんけん論ろんが盛さかんになった明治めいじ10年代ねんだいから20年代ねんだい初はじめまでは、自由じゆう民権みんけん論ろんを中心ちゅうしんに、作者さくしゃ個人こじんの主張しゅちょうの他ほかに当時とうじの自由党じゆうとう、立憲りっけん改あらため進しん党とう、立憲りっけん帝みかど政党せいとうなどの党派とうは的てき主張しゅちょうを盛もり込こんだ小説しょうせつが書かかれ、これらは民権みんけん小説しょうせつとも呼よばれる。この中なかにはユーゴーなどの翻訳ほんやく小説しょうせつも多おおく含ふくまれていた。

明治めいじ20年ねん頃ごろから経済けいざい力りょくの成長せいちょうを受うけて海外かいがい雄飛ゆうひ、国権こっけん拡張かくちょうを説とく国権こっけん小説しょうせつが広ひろがる。1890年ねん（明治めいじ23年ねん）に第だい1回かい帝国ていこく議会ぎかいが開催かいさいされた前後ぜんごから、議会ぎかい政治せいじへの落胆らくたんから、政治せいじ家かへの批判ひはんを訴うったえる暴露ばくろ小説しょうせつも現あらわれ、またこの時期じきには男女だんじょ同権どうけんを主張しゅちょうする女権じょけん小説しょうせつも書かかれた。経済けいざい発展はってん、特とくに日にち清しん戦争せんそう以後いごの社会しゃかいの変容へんようの中なかで、資本しほん主義しゅぎによる社会しゃかいの不平等ふびょうどうに対たいする社会しゃかい主義しゅぎ運動うんどうとともに、社会しゃかい主義しゅぎ小説しょうせつも生うまれ、文壇ぶんだんの写実しゃじつ主義しゅぎ文学ぶんがく者しゃも社会しゃかいに眼めを向むけた社会しゃかい小説しょうせつの作品さくひんを生うみ、深刻しんこく小説しょうせつ、悲惨ひさん小説しょうせつと呼よばれるものもあった。

中国ちゅうごくの清末きよすえには日本にっぽんの政治せいじ小説しょうせつが、時ときには中国ちゅうごく視点してんに変かえて多おおく訳やくされ、中華民国ちゅうかみんこく初年しょねんにかけて中国人ちゅうごくじん作者さくしゃによる政治せいじ小説しょうせつ、社会しゃかい小説しょうせつ、冒険ぼうけん小説しょうせつを生うんだ。

日本にっぽんの政治せいじ小説しょうせつ

民権みんけん小説しょうせつ

明治めいじ以来いらい仮名垣魯文かながきろぶんなど政治せいじ的てき題材だいざいの小説しょうせつも書かかれており、詩歌しかまで視野しやに入いれれば維新いしんの志士ししによる漢詩かんしも政治せいじ文学ぶんがくと言いえる。1874年ねんの板垣いたがき退助たいすけらによる民選みんせん議員ぎいん設立せつりつ建白けんぱく以来いらいの自由じゆう民権みんけん運動うんどうが広ひろがり、1877年ねん（明治めいじ10年ねん）に設立せつりつされた立志りっし社しゃの活動かつどうの中なかでは民権みんけん歌謡かようという新あたらしい歌うたが作つくられていた。1880年ねん（明治めいじ13年ねん）4月がつに集会しゅうかい条例じょうれいによる弾圧だんあつが開始かいしされる中なか、6月がつに自由じゆう民権みんけん論ろんを主題しゅだいにした政治せいじ小説しょうせつとして最初さいしょとなる、戸田とだ欽堂きんどうの『民権みんけん演義えんぎ情じょう海うみ波瀾はらん』が書かかれた。江戸えど時代じだいの人情本にんじょうぼんの流ながれを汲くみ、明治めいじ政府せいふと民衆みんしゅうを芸者げいしゃを争あらそう2人ふたりの男おとこに見立みたてて、対立たいりつから和解わかいに向むかう姿すがたを描えがいており、当時とうじ期待きたいされた「官民かんみん調和ちょうわ」の色合いろあいを強つよく残のこしている。だが、明治めいじ十じゅう四よん年ねんの政変せいへんを機きに板垣いたがきが自由党じゆうとう、大隈おおくま重信しげのぶが立憲りっけん改あらため進しん党とうを結成けっせいすると状況じょうきょうは大おおきく変化へんかすることになる。1882年ねんに自由党じゆうとうが機関きかん紙し（自由じゆう新聞しんぶん及および絵え入にゅう自由じゆう新聞しんぶん）を創刊そうかん、立憲りっけん改あらため進しん党とうの参加さんか者しゃであった矢野やの龍渓りゅうけいは官かんを辞じして自分じぶんがかつて副ふく主筆しゅひつを務つとめていた郵便ゆうびん報知ほうち新聞しんぶんに復帰ふっきしてその社主しゃしゅに就任しゅうにん、その影響えいきょうによって事実じじつ上じょうの立憲りっけん改あらため進しん党とう機関きかん紙しの役目やくめを果はたすようになった。これらの新聞しんぶんでは自じ派はの主張しゅちょうを分わかりやすく民衆みんしゅうに伝つたえるために政治せいじ小説しょうせつが執筆しっぴつ・連載れんさいされた（なお、こうした経緯けいいからこれら機関きかん紙しの記者きしゃが兼業けんぎょうで執筆しっぴつする例れいが多おおかった）。

代表だいひょう的てきな作品さくひんとしては、立憲りっけん改あらため進しん党とうの矢野やの龍渓りゅうけい『経国けいこく美談びだん』（1883年ねん）、自由党じゆうとう系けいではフランス革命かくめいの初期しょきを扱あつかった歴史れきし小説しょうせつである大だいデュマ『一いち医師いしの回想かいそう録ろく』(Mémoires d'un médecin）を意訳いやくした、自由党じゆうとうの思想しそうを表あらわしたとされる桜田さくらだ百衛ももえ『西洋せいよう血潮ちしお小しょう暴風ぼうふう』（1883年ねん）、ステプニャク『地底ちていのロシヤ』を元もとに1881年ねんのナロードニキによるアレクサンドル2世せい暗殺あんさつと悲劇ひげき的てきな結末けつまつを描えがいた宮崎みやざき夢柳むりゅう『虚無きょむ党とう実じつ伝記でんき 鬼おに啾啾しゅうしゅう』（1885年ねん）、小室こむろ案外堂あんがいどう『東洋とうよう民権みんけん百ひゃく家伝かでん』、末広鉄腸すえひろてっちょう『雪ゆき中ちゅう梅うめ』（1886年ねん）、などが挙あげられる。他たに東海とうかい散士さんしの『佳人かじん之の奇遇きぐう』（1885-97年ねん）は会津あいづの遺のこ民みんたる作者さくしゃ散士さんしがイスパニアの政治せいじ家かの令嬢れいじょう、アイルランド独立どくりつ闘士とうしの娘むすめとの出会であいに端はしを発はっする物語ものがたりで、自由じゆう民権みんけんから始はじまり、ナショナリズム、国権こっけん拡張かくちょうをテーマとしており、中村なかむら光夫みつおは「当時とうじの日本にっぽんにつたへられた物語ものがたりの伝統でんとうと、新あたらしく眼め醒さめた世界せかい認識にんしきとの見事みごとな調和ちょうわがあった」と評ひょうしている。

特とくに『経国けいこく美談びだん』『佳人かじん之の奇遇きぐう』は当時とうじの若者わかものに強つよい支持しじを受うけ、『雪ゆき中ちゅう梅うめ』の写実しゃじつ主義しゅぎ的てきな筆致ひっちは後世こうせいの文学ぶんがくにも少すくなからず影響えいきょうを与あたえた。当時とうじの人気にんきは北村きたむら透谷とうこくが「『雪ゆき中ちゅう梅うめ』は空前くうぜんの大だい著述ちょじゅつと賞しょうへられ、『佳人かじんの奇遇きぐう』は世界せかいの一大いちだい奇書きしょと唫ぜらる」（『女おんな学がく雑誌ざっし』1890年ねん1月がつ「当世とうせい文学ぶんがくの潮しお模様もよう」）と揶揄やゆするほどだった。坪内つぼうち逍遥しょうようは立憲りっけん改あらため進しん党とうの作家さっかとして『概がい世よ士し伝でん』（翻訳ほんやく）、『諷誡京わらんべ』などを発表はっぴょうしたが、やがて政治せいじ的てきな文学ぶんがくから離はなれて写実しゃじつ的てき芸術げいじゅつ小説しょうせつに進すすんだ。

また板垣いたがき退助たいすけが1882年ねんにヨーロッパを歴遊れきゆうした際さいにユゴーと会談かいだんし、当時とうじのフランスやイギリスの政治せいじ・歴史れきしものを新聞しんぶんに翻訳ほんやく掲載けいさいすることを勧すすめられて多おおくの小説しょうせつを買かって帰かえり、坂崎さかざき紫瀾しらん、栗原くりはら亮一りょういち、塚原渋柿園つかはらじゅうしえんらによって翻訳ほんやく、翻案ほんあんされた。

これらの多おおくは旧態きゅうたい依然いぜんの古風こふうな漢文かんぶんくずしの文章ぶんしょうで類型るいけい的てきな人物じんぶつ描写びょうしゃであったために、坪内つぼうちらによる近代きんだい文学ぶんがくへの革新かくしんを促うながす動うごきにはつながらなかったが、当時とうじの青年せいねん達たちには魅力みりょく的てきであり、近代きんだい的てき人間像にんげんぞうを目指めざすロマンチックな心情しんじょうを捉とらえた。またこれまで小説しょうせつを卑いやしいものと捉とらえてきた知識ちしき人じん階層かいそうが政治せいじ・社会しゃかい問題もんだいを題材だいざいとして小説しょうせつを書かいたことが、小説しょうせつおよび文学ぶんがくが人生じんせいにおいて正面しょうめんから取とり組くむ問題もんだいとした意義いぎも認みとめられる（中村なかむら光夫みつお『日本にっぽんの近代きんだい小説しょうせつ』）。また『経国けいこく美談びだん』は凡例はんれいにて、正史せいしを元もとにしながら「人情にんじょう滑稽こっけいを加くわえて小説しょうせつ体たいと為なす」としているのに対たいし、ウォルター・スコット『アイヴァンホー』の翻訳ほんやくである牛山うしやま鶴つる堂どう『梅うめ蕾つぼみ余あまり薫かおる』（1887年ねん）自序じじょでは「政治せいじト人情にんじょうトヲ兼けんネ加かフルニ」苦心くしんしたというように、坪内つぼうちの『小説しょうせつ神髄しんずい』の小説しょうせつ論ろんの影響えいきょうを受うけるようになっていく。

明治めいじ中期ちゅうき以降いこう

国会こっかい開設かいせつがなされ自由じゆう民権みんけん運動うんどうが収束しゅうそくする1890年ねん頃ころには民権みんけん小説しょうせつは形かたちを変かえ、かつて立憲りっけん帝みかど政党せいとうを作つくり政治せいじ家かでもあった福地桜痴ふくちおうちは未来みらい小説しょうせつの体裁ていさいで風刺ふうし的てきな『もしや草子そうし』（1888年ねん）、政界せいかい暴露ばくろ的てきな『買収ばいしゅう政略せいりゃく大だい策士さくし』（1897年ねん）などを書かいた。須藤すとう南翠なんすい『雨あめ牕漫筆ひつ緑みどり簑みの談だん』（1886年ねん）は地方ちほう問題もんだいについて立憲りっけん改あらため進しん党とう的てき立場たちばを示しめしている。女権じょけん拡張かくちょうを題材だいざいとした作品さくひんには、小室こむろ案外堂あんがいどう『自由じゆう艶つや舌した女おんな文章ぶんしょう』（1885年ねん）、南みなみ柯亭夢ゆめ筆ひつ『女権じょけん美談びだん文明ぶんめい之の花はな』（1987年ねん）、広津ひろつ柳浪りゅうろう『女子じょし参政さんせい蜃中楼ろう』（1887年ねん）などがある。天香てんこう外史がいし『涙なみだの谷たに』（1888年ねん）は、政治せいじ制度せいどの狭間はざまで苦境くきょうに陥おちいる人々ひとびとを描えがいて、柳田やなぎだ泉いずみは「明治めいじ小説しょうせつ史上しじょう新旧しんきゅう過渡かと期きの際さいにおける最もっとも注目ちゅうもくすべき小説しょうせつの一いち」と論評ろんぴょうし、人情にんじょう世態せたい小説しょうせつにして政治せいじ小説しょうせつたる作品さくひんとされる。

条約じょうやく改正かいせいが日本にっぽんの大おおきな課題かだいとなり、朝鮮ちょうせん、中国ちゅうごくに進出しんしゅつして西洋せいように対抗たいこうしようという意識いしきに基もとづく国権こっけん小説しょうせつとして、須藤すとう南翠なんすい『春暁しゅんぎょう撹眠痴ち人じん之の夢ゆめ』（1887年ねん）、大隈おおくま重信しげのぶを描えがく春はる屋や主人しゅじん（坪内つぼうち逍遥しょうよう）『外務がいむ大臣だいじん』（1888年ねん）、塚原つかはら渋柿しぶがき『条約じょうやく改正かいせい』（1889年ねん）、末広鉄腸すえひろてっちょうの政治せいじ主張しゅちょうそのままにロシアとの対抗たいこうを説とく『明治めいじ四よん十じゅう年ねんの日本にっぽん』（1903年ねん）などが現あらわれる。

日にち清しん戦争せんそう以降いこうには、内田魯庵うちだろあん「政治せいじ小説しょうせつを作つくるべき動機どうき」などの政治せいじ小説しょうせつ論ろんが現あらわれ、巖谷いわや小波さざなみ『蝸牛かぎゅう』（1895年ねん）、内田うちだ『鐡道國有こくゆう』（1900年ねん）などが生うまれ、また社会しゃかい悪あくを衝つく川上かわかみ眉山びざん『書記官しょきかん』（1895年ねん）や、社会しゃかいの底辺ていへんを描えがく広津ひろつ柳浪りゅうろう『黒くろ蜥蜴とかげ』（1895年ねん）など深刻しんこく小説しょうせつ、悲惨ひさん小説しょうせつとも呼よばれる社会しゃかい小説しょうせつが書かかれた。社会しゃかい主義しゅぎ運動うんどう家かでもあった堺さかい利彦としひこ訳わけのエミール・ゾラ『労働ろうどう問題もんだい』（1904年ねん）など翻訳ほんやくものの他ほか、木下きのした尚江なおえ『火ひの柱はしら』（1904年ねん）などは社会しゃかいの非ひ人間にんげん性せいを訴うったえ、大正たいしょう期き以降いこうのプロレタリア文学ぶんがくへと繋つながっていく。

また日本にっぽんの政治せいじ小説しょうせつに学まなんだ梁りょう啓あきら超ちょうは『新しん中国ちゅうごく未来みらい記き』（1902年ねん）を執筆しっぴつし、『経国けいこく美談びだん』『佳人かじん之の奇遇きぐう』の中国語ちゅうごくご訳やくも試こころみた。

政治せいじ講談こうだんの流ながれ

自由じゆう民権みんけん運動うんどうの高たかまりにより1878年ねん頃ごろから政談せいだん演説えんぜつが盛さかんに行おこなわれるようになったが、1880年ねんの集会しゅうかい条令じょうれいにより弾圧だんあつが加くわえられると、演説えんぜつを禁止きんしされた坂崎さかざき紫瀾しらんは馬鹿ばかげ林はやし純じゅん翁おきなを名乗なのって民権みんけん講釈こうしゃくなるものを興おこし、続つづいて福島ふくしまの岡野おかの知とも荘そう、松本まつもとの竜野たつの周一郎しゅういちろうなど各地かくちで民権みんけん運動うんどう家かによる政治せいじ講談こうだん（民権みんけん講談こうだん ）が、自由党じゆうとうが解散かいさんになる1885年ねん頃ごろにかけて行おこなわれ、『東洋とうよう民権みんけん百ひゃく家伝かでん』『経国けいこく美談びだん』なども題材だいざいにされた。その後ごも少すくなくはあるが伊藤痴遊いとうちゆうなどが活躍かつやくした。これらは明治めいじ30年代ねんだいの岡おか千代彦ちよひこ、原はら霞外かがいらの平民へいみん講談こうだん、大正たいしょう期きの堺さかい利彦としひこ、白柳しらやなぎ秀湖しゅうこらによる社会しゃかい講談こうだんへの継承けいしょうされる。

評価ひょうか・研究けんきゅう

日本にっぽんで政治せいじ小説しょうせつは永ながく非ひ文壇ぶんだん文学ぶんがく、大衆たいしゅう小説しょうせつの一いち系列けいれつとして軽視けいしされて来きた。明治めいじ20年代ねんだいに矢野やの龍渓りゅうけいと内田魯庵うちだろあんの論争ろんそうがあり、矢野やのは文学ぶんがくは国民こくみんを楽たのしませる国民こくみん文学ぶんがく的てきなものでなければならないと主張しゅちょうし、これが文壇ぶんだん文学ぶんがくと大衆たいしゅう文学ぶんがくの分化ぶんかの原型げんけいとなった。柳田やなぎだ泉いずみ『政治せいじ小説しょうせつ研究けんきゅう』（1935-39年ねん）以来いらい徐々じょじょに評価ひょうかの対象たいしょうとされるようになり、柳田やなぎだは『座談ざだん会かい 明治めいじ文学ぶんがく史し』（1961年ねん）では、国民こくみんが日本にっぽんの将来しょうらいに対たいする夢ゆめを託たくすべき国民こくみん文学ぶんがくであるべきだったと述のべ、中村なかむら光夫みつおも「「新日本しんにほん」の建設けんせつに携たずさわった当時とうじの青年せいねんたちの心しんを後世こうせいに比ひを見みぬほど広ひろく深ふかく捕とらえた」「ひとつの特異とくいなロマン派は文学ぶんがくとして再さい評価ひょうかすべき」として、徳富とくとみ蘆花ろか「思おもえ出での記き」の「時代じだいは潮しおの漲みなぎる如ごとく変かわって来きた。」「僕ぼくらは今いま『西洋せいよう血ち風ふう小嵐こあらし』『自由じゆう之の凱歌がいか』などという小説しょうせつに余念よねんもなく喰くえひ入はいる時ときとなった。」といった心情しんじょうを挙あげている。

佐藤さとう春夫はるおはこれらの作品さくひんについて、ジョージ・ゴードン・バイロンの『チャイルド・ハロルド』に見みられるバイロニズムの政治せいじ的てきな面めんの影響えいきょうを指摘してきしている。 飛鳥井あすかい雅道まさみちは「近代きんだい文学ぶんがくのはじまりを、はっきり自由じゆう民権みんけんの文学ぶんがくにおきたいと思おもう」とし、文学ぶんがくを遊あそびや性せいの限かぎられたジャンルから解放かいほうし、政治せいじや民族みんぞくを含ふくむ人間にんげんのあらゆる可能かのう性せいに関与かんよしたと評価ひょうかした。（『日本にっぽんの近代きんだい文学ぶんがく』1961年ねん）

参考さんこう文献ぶんけん

• 中村なかむら光夫みつお『日本にっぽんの近代きんだい小説しょうせつ』岩波書店いわなみしょてん 1954年ねん
• 尾崎おざき秀樹ひでき『大衆たいしゅう文学ぶんがく』紀伊國屋きのくにや書店しょてん 1964年ねん
• 『明治めいじ文學ぶんがく全集ぜんしゅう 5,6 明治めいじ政治せいじ小説しょうせつ集しゅう(1)(2)』柳田やなぎだ泉いずみ編へん 筑摩書房ちくましょぼう 1966-67年ねん
• 『明治めいじ文學ぶんがく全集ぜんしゅう 11 福地櫻痴ふくちおうち集しゅう』柳田やなぎだ泉いずみ編へん 筑摩書房ちくましょぼう 1966年ねん
• 平岡ひらおか敏夫としお『日本にっぽん近代きんだい文学ぶんがくの出発しゅっぱつ』紀伊國屋きのくにや書店しょてん 1973年ねん
• 紀田きだ順一郎じゅんいちろう「政治せいじ小説しょうせつの位相いそう」（『明治めいじへの視点してん 明治めいじ文學ぶんがく全集ぜんしゅう』月報げっぽうより』筑摩書房ちくましょぼう 2013年ねん）
• 前田まえだ愛あい 「政治せいじ小説しょうせつ」『国史こくし大だい辞典じてん 8』 吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1987年ねん ISBN 978-4-642-00508-1
• 前田まえだ愛あい 「政治せいじ小説しょうせつ」『日本にっぽん史し大だい事典じてん 4』 平凡社へいぼんしゃ、1993年ねん ISBN 978-4-582-13104-8

関連かんれん項目こうもく

• 日本にっぽんの近きん現代げんだい文学ぶんがく史し
• ポリティカル・フィクション