普請ふしん

普請ふしん（ふしん）とは、普あまねく（あまねく）請こう（こう）とも読よみ広ひろく平等びょうどうに奉仕ほうし（資金しきん・労力ろうりょく・資金しきんの提供ていきょう）を願ねがう事ことであり、社会しゃかい基盤きばんを地域ちいき住民じゅうみんで作つくり維持いじしていく事ことを指さし、現在げんざいでは公共こうきょうの社会しゃかい基盤きばんを受益じゅえきする共同きょうどうの人々ひとびとまたは公共こうきょう事業じぎょうにより建設けんせつ（建築けんちくと土木どぼくを併あわせ建設けんせつという）および修繕しゅうぜん、維持いじする事こと。

概要がいよう

端はし的てきにいえば互助ごじょ活動かつどうや相互そうご扶助ふじょや自治じちとしての建設けんせつ（修繕しゅうぜん、模様替もようがえも含ふくまれる）の為ための労力ろうりょくや資金しきんの提供ていきょうを求もとめる事ことをさす。建設けんせつと言いう言葉ことば自体じたいが明治めいじ時代じだいに外来がいらい語ごを翻訳ほんやくした時ときに出来できた和製わせい熟語じゅくごでありそれ以前いぜんは普請ふしんと言いった。

相互そうご扶助ふじょとしての普請ふしん（結ゆいともいう）: 貨幣かへい経済けいざいの発達はったつ前まえには、近隣きんりんの協力きょうりょくを得えて家屋かおくを立たてたことから、現在げんざいにおいても家いえを建たてることを普請ふしんするともいうが、具体ぐたい的てきには「家いえ普請ふしん」といい、地域ちいきの事情じじょうにより古ふるくから大工だいくと言いう職業しょくぎょうが多数たすう存在そんざいする地域ちいきもあったが、自治じち単位たんいの人口じんこうの少すくないところでは、十分じゅうぶんの付つき合あい（相互そうご扶助ふじょのこと村八分むらはちぶと言いう言葉ことばで知しられる）の一ひとつとして建前たてまえ（上棟じょうとう）には人手ひとでがいるためお互たがい様さまとして地域ちいき住民じゅうみんが積極せっきょく的てきに手伝てつだう事ことが当然とうぜんであった。現在げんざいでもその風習ふうしゅうが残のこっているところも多おおく存在そんざいする。また結ゆい普請ふしんの参加さんか者しゃを詳細しょうさいに記録きろくしたものを「普請ふしん帳ちょう」といった。

その他たの現在げんざいでも残のこる例れいとしては萱かや普請ふしん（屋根やね普請ふしん）や溝みぞ普請ふしんがあり、萱かや普請ふしんは萱かや葺ふき屋根やねの葺ふき替かえを近隣きんりんに無償むしょうにて作業さぎょうしてもらう事ことである。溝みぞ普請ふしんは用水路ようすいろや排水はいすい路ろ（どぶ）などを地域ちいき住民じゅうみんで清掃せいそうすることが一般いっぱん的てきに知しられている。なお様々さまざまな理由りゆうで参加さんかできない者ものは炊たき出だしなどの費用ひようとして金銭きんせんを支払しはらうなどとする所ところもある。ごみ集積しゅうせき場じょうの清掃せいそう作業さぎょうの持もち回まわりも新あらたに出来できた普請ふしん（結ゆい）といえるだろう。

公共こうきょう事業じぎょうとしての普請ふしんや自治じちとしての普請ふしん: 自治じちとしては江戸えど時代じだいの町奉行まちぶぎょうの設立せつりつにより、町まち単位たんいで自治じちが認みとめられそれに伴ともない社会しゃかい基盤きばんは自前じまえで行おこなう範囲はんいが発生はっせいした資金しきんを町人ちょうにん（現在げんざいの地方ちほう議員ぎいんと金持かねもちを兼かねた様ような存在そんざい）を始はじめとする大だい店みせ（おおだな）などが負担ふたんし、おもに大工だいく、鳶とんび、木材もくざい商しょうなどに従事じゅうじする者ものが行おこなった。具体ぐたい的てきには、道みちや石垣いしがき、井戸いどや上水道じょうすいどうの木管もっかんの敷設ふせつや排水溝はいすいこう（どぶ）の布設ふせつ、鯨くじら舟ぶね鞘さや廻まわり御用ごようでの橋梁きょうりょう建設けんせつや町火消まちびけしでの消火しょうか活動かつどうなどが挙あげられる。

村むらや町まちにおいても自治じちの政せい（祭まつり、政治せいじの事こと）の中心ちゅうしん的てきな存在そんざいとして寺社じしゃがありその普請ふしんを寺社じしゃ普請ふしんといい、管轄かんかつや由来ゆらいによっては御上おかみが行おこなう寺社じしゃ普請ふしんも数多かずおおく存在そんざいした。

農林のうりん水産すいさん業ぎょうなどが基幹きかん産業さんぎょうである地域ちいきで自治じちや公共こうきょう事業じぎょうとして灌漑かんがい用水路ようすいろや溜池ためいけ、林道りんどうや筏場いかだば、港湾こうわんや防波堤ぼうはていなどの普請ふしんが行おこなわれてきた。

主要しゅよう都市としの公共こうきょう事業じぎょうとしては幕府ばくふが行おこなった海運かいうん荷役にやくや人口じんこう増加ぞうかの為ための埋うめ立たてや治水ちすいや河川かせん荷役にやくの為ための護岸ごがん工事こうじを始はじめとし、埋立うめたて地ちや護岸ごがんの締しめ固かためを目的もくてきとした桜さくらの植樹しょくじゅや花火はなびの打うち上あげの奨励しょうれいや遊廓ゆうかくの設置せっちなども広義こうぎでは普請ふしんと言いえるだろう。

国くにや地方自治体ちほうじちたいが行おこなう公営こうえい賭博とばくや宝たからくじも、歴史れきし的てきに見みれば寺社じしゃ普請ふしんを真似まねた上うえに、国くにや地方自治体ちほうじちたいが独占どくせんした普請ふしんの手段しゅだんと言いえる。

歴史れきし

起源きげん

由来ゆらい: 普請ふしんは仏教ぶっきょう用語ようごで、ふしんの読よみ仮名がなは禅宗ぜんしゅうが伝つたえた為ため、唐音とういんが使つかわれる（燃もえ燈とう仏ほとけなどを参照さんしょう）。類語るいごに勧進かんじん（かんじん）がある。
意味いみ: 普ひろし（あまね）く人々ひとびとに請（こ）うことであり、禅宗ぜんしゅうの信者しんじゃが力ちからを合あわせて作業さぎょうに従事じゅうじするという意味いみであったが、後のちには寺社じしゃ普請ふしんとしてまたは、集落しゅうらくにおいて受益じゅえき者しゃが合意ごういして作業さぎょうに従事じゅうじすることも指さすようになった。

役職やくしょくとしての普請ふしん

室町むろまち幕府ばくふ、江戸えど幕府ばくふなどで、築城ちくじょうなどの役務えきむ・役職やくしょく名めいとして普請ふしんも用もちいられた。これは本来ほんらいの用法ようほうである自みずからの意思いしに基もとづく社会しゃかい参加さんかとは意いをことにするものであるが、幕府ばくふによる景気けいき対策たいさくや生活せいかつ困窮こんきゅう者しゃの救済きゅうさい措置そちである側面そくめんを持もつ。ちなみに幕府ばくふによる、棒ぼう手しゅ売うり（街まち商しょうや物売ものうりのこと）の鑑札かんさつの発行はっこうも弱者じゃくしゃ優先ゆうせんであり生活せいかつ困窮こんきゅう者しゃの救済きゅうさいの政策せいさくであった。

勘定かんじょう奉行ぶぎょう（かんじょうぶぎょう） - 税ぜいの徴収ちょうしゅうや訴訟そしょうを扱あつかう公事こうじ方かたに対たいし、「勝手かって方かた」という部署ぶしょが河川かせんの橋梁きょうりょうなどの普請ふしんを取とり仕切しきっていた。
用水ようすい奉行ぶぎょう（ようすいぶぎょう） - 河川かせんやそれに架かかる橋はし、洪水こうずい、水田すいでんや用水路ようすいろに係かかわる普請ふしんを行おこなった。地域ちいきによっては普請ふしん奉行ぶぎょうが兼かねたり含ふくまれたりする場合ばあいもある。
下した三さん奉行ぶぎょう
- 作事さくじ奉行ぶぎょう（さくじぶぎょう） - 幕府ばくふ管轄かんかつの建築けんちく物ぶつの造営ぞうえいや修理しゅうりをした。作事さくじが建築けんちくを表あらわす言葉ことばである事ことが解ほどける。
- 普請ふしん奉行ぶぎょう（ふしんぶぎょう） - 城下じょうかや城しろの石垣いしがきや堀ほり、土木どぼくや建築けんちく物ぶつの地ち縄張なわばりや基礎きそ工事こうじおよび上水道じょうすいどうの管理かんり。
- 小普請こぶしん奉行ぶぎょう（こぶしぶぎょう） - 城しろやそれに付随ふずいする建物たてものの修理しゅうり、営繕えいぜん。
小普請こぶしん - 役職やくしょくに就ついていない御家人ごけにんや旗本はたもと。
小普請こぶしん支配しはい（こぶしんしはい） - 小普請こぶしんの御家人ごけにんや旗本はたもとを支配しはいする役職やくしょく。

救済きゅうさい措置そちとしての普請ふしん

町屋まちや普請ふしん - 大火たいかの後のちに実施じっしすることもあり、京都きょうとにおける天明てんめい大火たいかの町屋まちや普請ふしんなどが知しられる。
大名だいみょう手伝てつだえ普請ふしん - 関東かんとうにおける寛ひろし保ほ洪水こうずいの後のちに行おこなわれた各かく大名だいみょうに負担ふたんさせた洪水こうずいの復興ふっこうや修繕しゅうぜんの為ための普請ふしん。
小普請こぶしん - 収入しゅうにゅうが少すくなく職しょくの無ない下級かきゅう武士ぶしの救済きゅうさいでもあった。
御ご救すくい普請ふしん - 景気けいき対策たいさくや生活せいかつ困窮こんきゅう者しゃを助たすける為ために幕府ばくふが行おこなった公共こうきょう事業じぎょうである。江戸えど幕府ばくふの基本きほん政策せいさくである埋うめ立たてや治水ちすいのための護岸ごがん工事こうじがこれにあたる。