遊廓ゆうかく

明治めいじ5年ねん（1872年ねん）ごろの東京とうきょうの吉原よしはら遊廓ゆうかく

遊廓ゆうかく（ゆうかく）は、公許こうきょの遊女ゆうじょ屋や（女郎じょろう屋や）を集あつめ、周囲しゅういを塀へいや堀ほりなどで囲かこった区画くかくのこと。遊郭ゆうかくとも。

成立せいりつ

遊廓ゆうかくの成立せいりつは、安土あづち桃山ももやま時代じだいにさかのぼる。別称べっしょうとして廓くるわ（くるわ）、傾城けいせい町まち（けいせいまち）ともいう。広義こうぎには、芸妓げいぎを含ふくんだ花街はなまち（はなまち、かがい）や、色里いろざと（いろさと）、遊里ゆうり（ゆうり）、色町いろまち（いろまち）など私娼ししょう街まちも含ふくめた通称つうしょうである。「廓くるわ」は、「城郭じょうかく」と同おなじで囲かこわれた区画くかくを意味いみする語かたりである。一いち区画くかくにまとめられたのは、人ひとの行いき来きを制限せいげんして治安ちあんを守まもり風紀ふうきを統制とうせいすることが目的もくてきだった。江戸えど吉原よしわらの「お歯黒はぐろどぶ」が有名ゆうめいである。近代きんだいの遊廓ゆうかくは、必かならずしも大おおきな物理ぶつり的てき障壁しょうへきで囲かこまれていたわけではなく、目印めじるし程度ていどの境界きょうかいであることもあった。

その他た、江戸えど時代じだいに公許こうきょの遊廓ゆうかく以外いがいで遊女ゆうじょ（女郎じょろう）の集あつまる場所ばしょに宿場しゅくば町まちの飯盛めしもり旅籠はたご（めしもり はたご）（飯盛めしもり女おんなを参照さんしょう）や門前もんぜ町まちなどの岡場所おかばしょ（おかばしょ）があった。

明治めいじ期きにおいては、1900年ねん（明治めいじ33年ねん）に娼妓しょうぎの居住きょじゅう地ちと貸座敷かしざしき（遊女ゆうじょ屋や）の営業えいぎょう地ちが同どう一いち地区ちくに指定していされ、この指定していされた公娼こうしょう街がいを俗ぞくに遊廓ゆうかくと呼よんだ。

前史ぜんし

古代こだいから女性じょせいによる接客せっきゃくは存在そんざいした。遠方えんぽうから神社じんじゃ仏閣ぶっかくに参詣さんけいする観光かんこう客きゃく向むけに宿場しゅくば町まちが形成けいせいされ、そこに客きゃくを接待せったいする遊女ゆうじょが置おかれたと考かんがえられる。

平安へいあん時代じだいには大阪おおさか湾わん、淀川よどがわ流域りゅういきの江口えぐち、神崎かんざきのように港みなとや宿場しゅくばで遊女ゆうじょが多おおく集あつまる地域ちいきがあった。また、この時期じきの遊女ゆうじょは自由じゆう業ぎょうであり、遊廓ゆうかくなどの決きまった場所ばしょで営業えいぎょうすることもなく、自分じぶんで客きゃくを取とる形態けいたいの遊女ゆうじょもあった。しかし次第しだいに遊女ゆうじょを取とり締しまる動うごきが起おこる。室町むろまち時代ときよには、足利あしかが将軍家しょうぐんけが京都きょうとの傾城けいせい屋やから税金ぜいきんを徴収ちょうしゅうしていた。1528年ねん（大だい永ひさし8年ねん／享とおる禄ろく元年がんねん）には傾城けいせい局きょくが設置せっちされ、遊女ゆうじょは室町むろまち幕府ばくふが定さだめた制度せいどのもとに営業えいぎょうするようになった。

遊廓ゆうかくの成立せいりつ

権力けんりょくの統制とうせいと保護ほごを受うけ、遊廓ゆうかくとして1箇所かしょに集あつめられるのは、近世きんせい以降いこうのことである。豊臣とよとみ秀吉ひでよしの治世ちせいに、遊廓ゆうかくを設もうけるため京きょうの原はら三郎さぶろう左衛門さえもんと林はやし又一郎またいちろうが願ねがい出でを秀吉ひでよしにしており許可きょかを得えている。今いまの大阪おおさかの道頓堀どうとんぼり川がわ北岸ほくがんにも遊廓ゆうかくがつくられた。その5年ねん後ごの1589年ねん（天正てんしょう17年ねん）には京都きょうと・二条にじょう柳やなぎ町まちに遊廓ゆうかくが作つくられた。1589年ねん（天正てんしょう17年ねん）に秀吉ひでよしによって開ひらかれた京都きょうとの柳原やなぎはら遊廓ゆうかくをもって遊廓ゆうかくの始はじまりとする説せつもある。大阪おおさかと京都きょうとの遊廓ゆうかくは17世紀せいき前半ぜんはんに、それぞれ新町しんまち（新町しんまち遊廓ゆうかく）と朱雀すざく野の（島原しまばら遊廓ゆうかく）に移転いてんした。

各地かくちの遊廓ゆうかく

客きゃく待まちをする吉原よしわら遊廓ゆうかくの遊女ゆうじょ

屋内おくないから見みた遊女ゆうじょの後姿うしろすがた（東映太秦映画村とうえいうずまさえいがむら）

江戸えどに遊廓ゆうかくが誕生たんじょうしたのは1612年ねん（慶長けいちょう17年ねん）である。駿府すんぷ（今いまの静岡しずおか市し）の二に丁ちょう町まち遊廓ゆうかくから遊女ゆうじょ屋やを移うつして日本橋にほんばし人形にんぎょう町まち付近ふきんに遊廓ゆうかくがつくられ、これを吉原よしはら遊廓ゆうかくと呼よんだ。吉原よしはら遊廓ゆうかくは明あかり暦れきの大火たいかで焼失しょうしつ。その後ご浅草あさくさ山谷さんや付近ふきんに仮かり移転いてんの後のち、すぐに浅草あさくさ日本にっぽん堤つつみ付近ふきんに移転いてんした。人形町にんぎょうちょう付近ふきんにあった当時とうじのものを「元もと吉原よしわら」、日本にっぽん堤つつみ付近ふきんに新設しんせつされたものを「新しん吉原よしわら」とも言いう。

大坂おおさかの新町しんまち遊廓ゆうかく、京都きょうとの島原しまばら遊廓ゆうかく、江戸えどの吉原よしはら遊廓ゆうかくは、三さん大だい遊廓ゆうかくと呼よばれて大おおいに栄さかえた。これに伊勢いせ古市ふるいち（幕府ばくふ非ひ公認こうにん）、長崎ながさき丸山まるやまを加くわえたものが五大ごだい遊廓ゆうかくになる。新町しんまちの夕ゆう霧きり太夫たゆう、島原しまばらの吉野よしの太夫たゆう、吉原よしはらの高尾たかお太夫たゆうなどは名妓めいぎと言いわれ、有名ゆうめいである。この他ほかにも江戸えど時代じだいには、全国ぜんこく20数すう箇所かしょに公許こうきょの遊廓ゆうかくが存在そんざいした。最大さいだいの遊廓ゆうかくは江戸えどの吉原よしわらで、新しん吉原よしはらができたころには300軒けん近ちかい遊女ゆうじょ屋やがあったと言いわれている。

鎖国さこくの時代じだいになると、1639年ねん（寛永かんえい16年ねん）ごろには西洋せいようとの唯一ゆいいつの窓口まどぐちとして栄さかえた長崎ながさきに丸山まるやま遊廓ゆうかくが誕生たんじょうした。井原いはら西鶴さいかくは『日本にっぽん永代えいたい蔵ぞう』に「長崎ながさきに丸山まるやまという処ところなくば、上方かみがた銀ぎん無事ぶじに帰宅きたくすべし、爰通ひの商あきない、海上かいじょうの気遣きづかいの外そと、いつ時じを知しらぬ恋風こいかぜ恐おそろし」と記しるした。この丸山まるやまを三さん大だい遊廓ゆうかくに数かぞえる書しょもあるほどで、南蛮なんばん貿易ぼうえきで潤うるおった当時とうじの華はなやかさがうかがえる。

江戸えど幕府ばくふは島原しまばらの乱らんのころには、出島でじまや唐人とうじん屋敷やしきへの出入でいり資格しかくを制限せいげんしていたが、丸山まるやま遊廓ゆうかくの遊女ゆうじょは例外れいがいとして許ゆるされた。出島でじまへ赴おもむく遊女ゆうじょたちは「紅毛こうもう行ぎょう」、唐人とうじん屋敷やしきへ赴おもむく遊女ゆうじょたちは「唐人とうじん行ゆき」と称しょうされた。日本人にっぽんじん男性だんせい相手あいての「日本にっぽん行ゆき」の遊女ゆうじょとは明確めいかくに区別くべつされ、「唐人とうじん行ゆき」とはこの中国人ちゅうごくじんを相手あいてにする遊女ゆうじょらを指さしたものである。

「唐人とうじん行ゆき」の遊女ゆうじょたちの多おおくは、「鎖国さこく」時代じだいから長ながく中国人ちゅうごくじんのみを相手あいてにしてきた……日本人にっぽんじんの海外かいがい渡航とこうがいったん可能かのうになると、彼女かのじょたちがいち早はやく海外かいがいへ飛とび出だしたことは、むしろ自然しぜんのなりゆきといえよう。

江戸えど時代じだいのころ、長崎ながさきの唐人とうじん屋敷やしきの近隣きんりんにある島原しまばらのあたりでは「からゆき」という言葉ことばが生うまれ、これが「からゆきさん」の語源ごげんとなった。島原半島しまばらはんとう、天草諸島あまくさしょとうでは、島原しまばらの乱らん後のちに人口じんこうが激減げきげんしたため、幕府ばくふは各かく藩はんに天草てんぐさ・島原しまばらへの大だい規模きぼな農民のうみん移住いじゅうを命めいじていた。1643年ねんには5000人にん程度ていどだった天草諸島あまくさしょとうの人口じんこうは1659年ねん（万まん治ち2年ねん）には16000人にんに増加ぞうかした。

遊廓ゆうかくでは少女しょうじょの人身じんしん売買ばいばいが常態じょうたい化かしていたという。

ヨーロッパでは個人こじんが自分じぶんで売春ばいしゅんする(中略ちゅうりゃく)。日本にっぽんでは全然ぜんぜん本人ほんにんの罪つみではない。大だい部分ぶぶんはまだ自分じぶんの運命うんめいについて何なにも知しらない年齢ねんれいで早はやくも売うられていくのが普通ふつうなのである。 — 沼田ぬまた次郎じろう、荒瀬あらせ進すすむ共ども訳やく『ポンぺ日本にっぽん滞在たいざい見聞けんぶん記き』雄松おまつ堂どう、一いち九きゅう六ろく八はち年ねん

「児童じどう売春ばいしゅん」および「からゆきさん」も参照さんしょう

藤本ふじもと箕山みのやまが著あらわした『色道しきどう大だい鏡きょう』（1678年ねん序じょ、全ぜん18巻かん）は、当時とうじの遊廓ゆうかく25か所しょを列挙れっきょしている。

• 京島きょうじま原ばら（嶋しま原げん）
• 伏見ふしみ夷えびす町まち（撞木しゅもく町まち）
• 伏見ふしみ柳やなぎ町まち（中書島ちゅうしょじま）
• 大津おおつ馬場うまば町まち（馬場うまば町まち、現在げんざいの大津おおつ市し長等ながら）
• 駿河するが府中ふちゅう弥勒みろく町まち（府中ふちゅう宿やど、現在げんざいの静岡しずおか市し葵あおい区く駒形通こまがたどおり5丁目ちょうめ）
• 江戸えど三谷みたに（吉原よしはら遊廓ゆうかく）
• 敦賀つるが六軒ろっけん町まち（現在げんざいの敦賀つるが市し栄新さかえしん町まち）
• 三国みくに松下まつした（松まつヶ下か、現在げんざいの坂井さかい市し三国みくに町まち）
• 奈良なら鴨川かもがわ木き辻つじ（現在げんざいの奈良なら市し東木辻ひがしきつじ町まち・鳴川なるかわ町まち）
• 大和やまと小網こあみ新屋敷しんやしき（現在げんざいの橿原かしはら市し小綱こづな町まち）
• 堺さかい北きた高洲たかす町まち（現在げんざいの堺さかい市し堺さかい区く北旅籠町東きたはたごちょうひがし）
• 堺さかい南津守みなみつもり（現在げんざいの堺さかい市し堺さかい区く南旅篭町東みなみはたごちょうひがし）
• 大坂おおさか瓢箪ひょうたん町まち（新町しんまち遊廓ゆうかく）
• 兵庫ひょうご磯いそ町まち（現在げんざいの神戸こうべ市し兵庫ひょうご区く磯之いその町まち）
• 五町ごちょう街がい（中村なかむら遊廓ゆうかく）
• 佐渡さわたり鮎川あいかわ（現在げんざいの新潟にいがた県けん佐渡さど市し相川あいかわ会津あいづ町まち）
• 石見いわみ温泉おんせん（現在げんざいの島根しまね県けん大田おおた市し温泉津ゆのつ町まち温泉津ゆのつ稲荷いなり町まち）
• 播磨はりま室しつ小野おの町まち（現在げんざいの兵庫ひょうご県けんたつの市し御津みと町まち室津むろつ）
• 備後びんご鞆有磯ありいそ町まち（現在げんざいの広島ひろしま県けん福山ふくやま市し鞆町鞆ともちょうとも）
• 広島ひろしま多々たた海うみ（現在げんざいの広島ひろしま県けん竹原たけはら市し忠海ただのうみ町まち）
• 宮島みやじま新町しんまち（現在げんざいの広島ひろしま県けん廿日市はつかいち市し宮島みやじま町まち新町しんまち）
• 下関しものせき稲荷いなり町まち（現在げんざいの山口やまぐち県けん下関しものせき市し赤間あかま町まち）
• 博多はかた柳やなぎ町まち（現在げんざいの福岡ふくおか市し博多はかた区く下呉服しもごふく町まち）
• 二本木にほんぎ（現在げんざいの熊本くまもと市し西にし区く二本木にほんぎ）
• 長崎ながさき丸山まるやま町まち寄合よりあい町まち（丸山まるやま、現在げんざいの長崎ながさき市し丸山まるやま町まち・寄合よりあい町まち）
• 肥前ひぜん樺島かばしま（現在げんざいの長崎ながさき市し野母崎のぼざき樺島かばしま町まち）
• 薩摩さつま山さん鹿野田かのだ町まち（山やまヶ野の金山かなやま、現在げんざいの霧島きりしま市し横川よこがわ町まち上ノ山かみのやまケ野の）

名古屋なごやの遊廓ゆうかくは1610年ねん（慶長けいちょう15年ねん）に許可きょかされたがまもなく廃止はいし、1731年ねん（享とおる保ほ16年ねん）藩主はんしゅ徳川とくがわ宗春むねはるの時代じだいに再度さいど許可きょかされ、翌年よくねんから西小路さいこうじ遊廓ゆうかく、富士見ふじみ原げん遊廓ゆうかく、葛かずら町まち遊廓ゆうかくなどが造つくられたが、1736年ねん（元もと文ぶん元年がんねん）に西小路さいこうじ遊廓ゆうかくから出火しゅっかして付近ふきん遊興ゆうきょう地ちに延焼えんしょうしたため、これを機きに各かく遊廓ゆうかくは廃止はいしされ、1850年代ねんだいに復活ふっかつするまで禁止きんしされた（中村なかむら遊廓ゆうかく#中村なかむら遊廓ゆうかく成立せいりつ以前いぜんの名古屋なごやの遊廓ゆうかく参照さんしょう）。

琉球りゅうきゅう国こく時代じだいの那覇なはには、辻つじと呼よばれる地域ちいきに尾お類るい（ジュリ）と呼よばれる遊女ゆうじょを置おいた遊廓ゆうかくがあり、明治めいじ時代じだいに沖縄おきなわ県けんになって以降いこうも続つづいた。尚なお真ま王おう時代じだいの1526年ねん（大だい永なが6年ねん）に始はじまったといわれ、数すう百ひゃくとあった妓ぎ楼ろうのすべてが女性じょせいのみの手てによって運営うんえいされていたという特色とくしょくを持もつ（明治めいじ末まつごろからは遊廓ゆうかくの集会しゅうかい所しょの事務じむ方かたとして男性だんせいが雇やとわれた）。伊波いは普猷ふゆうによると、1672年ねん（寛文ひろふみ12年ねん）に、市中しちゅうの至いたるところにいた尾お類るいを風紀ふうき上じょうよろしくないという理由りゆうから集あつめて辻つじと仲島なかじまの2遊廓ゆうかくに収容しゅうようしたのが始はじまりで、その後ご、渡わたり地ちにも遊廓ゆうかくができたという。

遊廓ゆうかくの構造こうぞう

滝川たきがわ政次郎まさじろうによれば、江戸えど時代じだいの遊廓ゆうかくの構造こうぞうは唐とうの長安ながやすにあった妓ぎ館かんの集合しゅうごう地ちである「平たいら康やすし里さと」に倣ならったものだと言いう。大門おおもんに通つうずる胴どう町まちと直角ちょっかくに交まじわる三さん筋すじの横町よこちょうという構造こうぞうは、京きょうの柳やなぎ馬場ばば、六条ろくじょう三筋みすじ町まち、島原しまばらに共通きょうつうして見みられ、その後ごの江戸えどの吉原よしはら、新しん吉原よしわらなど名なだたる遊廓ゆうかくにも同様どうようの構造こうぞうがみられるという。

『守まもり貞さだ謾稿』によれば、吉原よしはら遊廓ゆうかくでは出入でいり口ぐちとなる門もんは西側にしがわに一いちか所しょあるのみであり、門もんの脇わきに作つくられた番屋ばんやによって通行つうこうする人々ひとびとを監視かんししていた。その後ご、時代じだいを経へるごとに門もんの数かずが増ふえ、150年ねん後ごには7か所しょの門もんが市街地しがいちと連絡れんらくしていた。 全国ぜんこくの多おおくの遊里ゆうりは自然しぜん発生はっせい的てきな配置はいちとなっており、街まちから隔離かくりされた位置いちに娼家しょうかを集あつめ、障壁しょうへきや掘割ほりわりで囲かこんだ廓くるわ構造こうぞうを持もつ遊廓ゆうかくは少数しょうすうであり、特殊とくしゅな例れいと言いえる。

遊廓ゆうかくの文化ぶんか

江戸えど時代じだいの遊廓ゆうかくは代表だいひょう的てきな娯楽ごらくの場ばであり、文化ぶんかの発信はっしん地ちでもあった。上級じょうきゅうの遊女ゆうじょ（芸げい娼）は太夫たゆうや花魁おいらんなどと呼よばれ、富裕ふゆうな町人ちょうにんや、武家ぶけ・公家くげを客きゃくとした。このため上級じょうきゅうの遊女ゆうじょは、芸事げいごとに秀ひいで、文学ぶんがくなどの教養きょうようが必要ひつようとされた。

江戸えど中期ちゅうき以降いこうは度々どどの取締とりしまりを受うけながらも、遊廓ゆうかく以外いがいの岡場所おかばしょが盛さかんになった。また、遊廓ゆうかく自体じたいも大衆たいしゅう化かが進すすみ、一般いっぱん庶民しょみんが主おもな客層きゃくそうとなっていった。

近代きんだい以降いこうの遊廓ゆうかく

阿部あべ定じょうが遊女ゆうじょ人生じんせいの最後さいごを過すごした大正たいしょう楼ろう。2019年ねん解体かいたい京口きょうぐち新地さらち（丹波たんば篠山しのやま市し）

1877年ねん（明治めいじ10年ねん）から1958年ねんまで約やく80年間ねんかん続つづいた遊廓ゆうかくの面影おもかげを残のこす猪崎いのさき（京都きょうと府ふ福知山ふくちやま市し）

1872年ねん（明治めいじ5年ねん）、日本にっぽんの近代きんだい化かが進すすむ中なか明治めいじ政府せいふによって芸げい娼妓しょうぎ解放かいほう令れいが発令はつれいされたが、実態じったいはほとんど変かわらなかった。遊女ゆうじょ屋やは貸座敷かしざしきと名称めいしょうを変かえ、貸座敷かしざしきのある区域くいきは「遊廓ゆうかく」として存続そんぞくした。ただし都市とし化かの進展しんてんと共ともに遊廓ゆうかくの存在そんざいが問題もんだいになり、郊外こうがいなどへ移転いてんさせられる事例じれいもあった。1886年ねん（明治めいじ19年ねん）、東大とうだいの近ちかくにあった根津ねづ遊廓ゆうかくが深川ふかがわの洲崎すざきに移転いてんしたのは、その例れいである。

1900年ねん（明治めいじ33年ねん）、遊廓ゆうかくに反対はんたいする廃はい娼運動うんどうが起おきる中なか、内務省ないむしょう令れい娼妓しょうぎ取締とりしまり規則きそくが制定せいていされ、警視庁けいしちょう・各かく府県警ふけんけいは貸座敷かしざしきに関かんする取締とりしまり規則きそくを制定せいていした。しかし内容ないようは、従来じゅうらいの取締とりしまり方針ほうしんの追認ついにんで貸座敷かしざしき営業えいぎょうの許ゆるされる地域ちいきを指定していし、娼妓しょうぎの居住きょじゅう地ちは貸座敷かしざしきの許ゆるされる地域ちいきに限かぎるというものであった。

新聞しんぶん記者きしゃ出身しゅっしんの細民さいみん研究けんきゅう家か・草くさ間あいだ八はち十じゅう雄ゆうによれば、1900年ねん（明治めいじ33年ねん）に内務ないむ大臣だいじんの命いのちにより警保局きょく長ちょうが遊廓ゆうかく新設しんせつに関かんする標準ひょうじゅん内規ないきを定さだめ、地方ちほう長官ちょうかんに通牒つうちょうした。これにより、次つぎの条件じょうけんを満みたさなければ貸座敷かしざしき免許めんきょ地ちの新設しんせつは検討けんとうされないこととなった。

1. その土地とち市街しがいを形成けいせいして戸数こすう2000戸こ以上いじょう、人口じんこう1万まん以上いじょうを有ゆうする。ただし兵営へいえい所在地しょざいち、船着場ふなつきば、その他た特別とくべつの事情じじょうのあるものはこの限かぎりでない。
2. 貸座敷かしざしき営業えいぎょう者しゃが無ないために、密売みつばい淫いんの弊へいに堪こたえない。
3. 付近ふきんに貸座敷かしざしき免許めんきょ地ちが無ないために新設しんせつの必要ひつようがある。
4. その他た地方ちほう民情みんじょうに背馳はいちしない。
5. 貸座敷かしざしき免許めんきょ地ちに適当てきとうな場所ばしょがある。

ただしこうした内規ないきがあっても、実際じっさいには世論せろんを考慮こうりょして、遊廓ゆうかくの新設しんせつはもとより拡張かくちょうすら許可きょかされなかったという。しかし、大阪おおさかの今里いまさと新地さらちや市岡いちおか新地さらち（港みなと新地さらち）のように、芸妓げいぎとして営業えいぎょうする花街はなまちとして設立せつりつ許可きょかを得えたものの営業えいぎょう内容ないようは貸座敷かしざしきと変かわらず、実質じっしつは新設しんせつ遊廓ゆうかくに等ひとしい所ところや、遊廓ゆうかくではなく私娼窟ししょうくつとして県けんや議会ぎかいが設立せつりつを許可きょかした鳥取とっとり県けんの倉吉くらよし新地さらちなど、警察けいさつや行政ぎょうせいの区割くわりでは遊廓ゆうかくではないものの地元じもとの人ひとには「遊廓ゆうかく」として認識にんしきされている所ところもある。もちろん、これらは貸座敷かしざしき指定してい地ちではないので、行政ぎょうせいや警察けいさつの資料しりょうには遊廓ゆうかくとしてカウントされていない。

草くさ間あいだによれば、1929年ねん（昭和しょうわ4年ねん）12月31日にちにおける統計とうけいは以下いかの通とおり。

• 貸座敷かしざしき指定してい地ちは全国ぜんこくで541箇所かしょ。うち30箇所かしょは貸座敷かしざしき営業えいぎょう者しゃは存在そんざいしない、いわば有名ゆうめい無実むじつのもので、したがって実際じっさいに貸座敷かしざしきの存在そんざいする遊廓ゆうかくは511箇所かしょ。
• 貸座敷かしざしき指定してい地ちの最もっとも多おおいのは北海道ほっかいどう（45箇所かしょ、うち3箇所かしょが有名ゆうめい無実むじつ）で、ついで山口やまぐち（41箇所かしょ、うち15箇所かしょが有名ゆうめい無実むじつ）、三重みえ（30箇所かしょ）、山形やまがた（26箇所かしょ）、福島ふくしま（25箇所かしょ）、長崎ながさき（23箇所かしょ）、栃木とちぎ（21箇所かしょ）、新潟にいがたおよび静岡しずおか（20箇所かしょ）、広島ひろしま（19箇所かしょ）、京都きょうと（17箇所かしょ）。
• 少すくないのは鹿児島かごしまおよび沖縄おきなわ（1箇所かしょ）、鳥取とっとり、徳島とくしまおよび山梨やまなし（2箇所かしょ）、奈良なら、和歌山わかやまおよび愛媛えひめ（3箇所かしょ）。
• 廃はい娼が実行じっこうされたのは群馬ぐんまおよび埼玉さいたま。
• 100戸こ以上いじょうの貸座敷かしざしきで公娼こうしょう街がいをなす遊廓ゆうかくの個数こすうは19箇所かしょで、大阪おおさか市し南みなみ区く五ご花街はなまち499戸こ、京都きょうと市し東山ひがしやま区く祇園ぎおん町まち449戸こ、宮川みやがわ町まち418戸こ、東京とうきょう市し浅草あさくさ区く新吉しんよし原ばら295戸こ、深川ふかがわ区く洲崎すさき286戸こ、大阪おおさか市し西にし区く松島まつしま257戸こ、京都きょうと市し下京しもぎょう区く七なな条じょう新地さらち237戸こ、沖縄おきなわ県けん那覇なは市し辻つじ町まち土ど之の蔵くら町まち234戸こ、京都きょうと市し東山ひがしやま区く祇園ぎおん町まち（乙部おとべ）227戸こ、大阪おおさか市し西にし区く新町しんまち212戸こ、京都きょうと市し中京ちゅうきょう区く先斗ぽんと町まち194戸こ、大阪おおさか市し西にし区く堀江ほりえ156戸こ、京都きょうと市し上京かみぎょう区く北新地きたしんち151戸こ、下京しもぎょう区く島原しまばら146戸こ、名古屋なごや市し西にし区く旭あさひ139戸こ、岡山おかやま市し東西とうざい中島なかじま町まち120戸こ、堺さかい市し龍神りゅうじん107戸こ、京都きょうと市し伏見ふしみ区く中書ちゅうしょ島とう104戸こ、大阪おおさか市し住吉すみよし区く飛田ひだ 100 戸こ。以上いじょうは確実かくじつであるが総数そうすう不ふ詳しょう。
• 娼妓しょうぎ1000人にん以上いじょうを有ゆうする遊廓ゆうかくは大阪おおさか市し西にし区く松島まつしま遊廓ゆうかく3657人にん、東京とうきょう市し浅草あさくさ区く新吉しんよし原ばら2557人にん、深川ふかがわ区く洲崎すさき2329人にん、名古屋なごや市し西にし区く旭あさひ遊廓ゆうかく1562人にん、京都きょうと市し東山ひがしやま区く宮川みやがわ町まち1340人にん、神戸こうべ市し福原ふくはら遊廓ゆうかく1329人にん。
• 1遊廓ゆうかくに娼妓しょうぎ1人にんを置おき、かつてのなごりをとどめるものは、北海道ほっかいどう厚岸あっけし郡ぐん浜中はまなか村むら遊廓ゆうかく、岩手いわて県けん紫波しわ郡ぐん日詰ひづめ町まち遊廓ゆうかく、石川いしかわ県けん鳳至ふげし郡ぐん宇出津うしつ町まち遊廓ゆうかく、珠洲すず郡ぐん小木おぎ町まち遊廓ゆうかく、山口やまぐち県けん熊毛くまげ郡ぐん曾根そね村むら遊廓ゆうかくの5箇所かしょ。
• 1箇年かねん間あいだの遊客ゆうかくが100万まん人にん以上いじょうの遊廓ゆうかくは、大阪おおさかの松島まつしま遊廓ゆうかく209万まん440人にん、東京とうきょうの新しん吉原よしわら167万まん8305人にん、大阪おおさかの飛田ひだ153万まん7576人にん、東京とうきょうの洲崎すさき137万まん2535人にんの4箇所かしょ。
• 全国ぜんこく511箇所かしょの遊廓ゆうかくにおいて貸座敷かしざしきを営業えいぎょうする者ものは1万まん1154人にん、娼妓しょうぎは5万まん56人にん、遊客ゆうかくの総数そうすうは1箇年かねんに2278万まん4790人にん、その揚代あげだいは7223万まん5400円えん。

1931年ねん（昭和しょうわ6年ねん）12月31日にちで遊廓ゆうかくの個数こすうは減少げんしょうしていないが、貸座敷かしざしき営業えいぎょう者しゃは9799人にんとなり、娼妓しょうぎは5万まん2064人にん、遊客ゆうかくは2239万まん3000人にんと、1929年ねんと大差たいさは無ない。

「公娼こうしょう 私娼ししょうの存在そんざいは文明ぶんめい国こくたる日本にっぽんの恥辱ちじょく」という議論ぎろんもなされていた。1923年ねん（大正たいしょう12年ねん）の関東大震災かんとうだいしんさいを機きに当局とうきょくによって「私娼ししょう撲滅ぼくめつ」が試こころみられ、当局とうきょくが浅草あさくさ 千束ちづか町まちの私娼窟ししょうくつを潰つぶしたために、浅草あさくさ全域ぜんいきが私娼窟ししょうくつのようになったとされる。そのため、「私娼ししょう公娼こうしょうの絶滅ぜつめつ論ろんは、風俗ふうぞくの改善かいぜんが達成たっせいされなければ意味いみがない」と夢野ゆめの久作きゅうさくが指摘してきしている。

大正たいしょう時代じだい末期まっきには日本にっぽんでも廃はい娼運動うんどうが盛もり上あがりを見みせ、1926年ねん（大正たいしょう15年ねん）9月がつには、国際こくさい連盟れんめいの下したに廃はい娼運動うんどう推進すいしんのための国民こくみん委員いいん会かいが発足ほっそくしたほか、同年どうねん10月がつには廃はい娼運動うんどうを展開てんかいする廓清かくせい会かい、矯風きょうふう会かいなど関係かんけい者しゃにより廃はい娼全国ぜんこく同志どうし大会たいかいが開催かいさいされた。こうした動うごきに対たいして遊郭ゆうかく側がわも遊郭ゆうかく連れんを組織そしきし、全国ぜんこく大会たいかいを開催かいさいして廃はい娼運動うんどうに抵抗ていこうした。

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの1946年ねん（昭和しょうわ21年ねん）にはGHQの指令しれいにより公娼こうしょう制度せいどが廃止はいしされるが、カフェーや料亭りょうていなどと看板かんばんを変かえて、遊廓ゆうかくはほぼそのまま「赤あか線せん」の通称つうしょうで呼よばれる地域ちいきとして存続そんぞくした。1957年ねん（昭和しょうわ32年ねん）に売春ばいしゅん防止ぼうし法ほうが成立せいりつし、1958年ねん（昭和しょうわ33年ねん）4月がつ1日にちの同どう法ほうの施行しこうと共ともに、公娼こうしょう地域ちいきとしての遊廓ゆうかくの歴史れきしは完全かんぜんに幕まくを閉とじることになった。

現在げんざい公認こうにんの娼婦しょうふ街がいはないが、表向おもてむき料理りょうり旅館りょかんに転向てんこうしつつも客きゃくと仲居なかいとの個室こしつ内ないでの交渉こうしょうを「自由じゆう恋愛れんあい」の名目めいもくにかつてと変かわらない営業えいぎょうを継続けいぞくしている地域ちいきもいくつかある。大阪おおさかの飛田ひだ新地しんち（飛田ひだ遊廓ゆうかく）などがそれである。

また東京とうきょうの吉原よしはらのように、かつての公娼こうしょう街がいがその後ごもソープランドや風俗ふうぞく営業えいぎょうの多おおく集あつまる地域ちいきとなり、公娼こうしょう地域ちいき同然どうぜんの状態じょうたいが継続けいぞくしている地域ちいきも少すくなくない。

脚注きゃくちゅう

飛田ひだ新地さらち　大阪おおさか

参考さんこう文献ぶんけん

• 小野おの武雄たけお『吉原よしはらと島原しまばら』講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ 2002年ねん　ISBN 4061595598
• 藤本ふじもと箕山みのやま 『色道しきどう大だい鏡きょう』1678年ねん - 1688年ねん / 復刻ふっこく版ばん 八木はちぼく書店しょてん、2006年ねん7月がつ ISBN 484069639X
• 永井ながい良和よしかず、井上いのうえ章一しょういち（編へん）、2008、「遊郭ゆうかくの形成けいせいと近代きんだい日本にっぽん：「囲かこい込こみ」と取締とりしまり」、『性欲せいよくの文化ぶんか史し』1、講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃ選書せんしょメチエ〉 ISBN 9784062584258
• 『全国ぜんこく遊廓ゆうかく案内あんない』（1930年ねん） - 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんデジタルコレクション

関連かんれん文献ぶんけん

• 沖浦おきうら和光かずみつ『「悪所あくしょ」の民俗みんぞく誌し　―色町いろまち・芝居しばい町まちのトポロジー』文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、2006年ねん3月がつ ISBN 978-4-16-660497-5

関連かんれん項目こうもく

• 売春ばいしゅん
• 管理かんり売春ばいしゅん
• ちょんの間あいだ
• 吉原よしはら大火たいか
• 三丁さんてい町まち
• 風俗ふうぞく街がい
• 青あお線せん
• 渡鹿野島わたかのじま
• 港みなと崎さき遊廓ゆうかく
• 田町たまち (八王子はちおうじ市し)
• 穴守稲荷あなもりいなり神社じんじゃ
• 桂歌丸かつらうたまる - 横浜よこはま市し南みなみ区く真金まがね町まちの遊郭ゆうかくに生うまれた落語らくご家かで吉原よしはらが舞台ぶたいの古典こてん演目えんもく「紺屋こんや高尾たかお」、「お見立みたてて」を得意とくい演目えんもくの一ひとつとする。歌丸うたまる自身じしん自身じしんが「紺屋こんや高尾たかお」を高座こうざに掛かけた時ときのマクラで「私わたしは女郎じょろう屋やの若様わかさまとしてこの世よに誕生たんじょう致いたしました」と語かたっている。

外部がいぶリンク

• 日本にっぽん大だい百科全書ひゃっかぜんしょ(ニッポニカ)『遊廓ゆうかく』 - コトバンク
• ブリタニカ国際こくさい大だい百科ひゃっか事典じてん 小しょう項目こうもく事典じてん『遊郭ゆうかく』 - コトバンク
• 世界せかい大だい百科ひゃっか事典じてん 第だい２版はん『遊郭ゆうかく(遊廓ゆうかく)』 - コトバンク
• 百科ひゃっか事典じてんマイペディア『遊郭ゆうかく(廓くるわ)』 - コトバンク