朝枝あさえだ繁春しげはる

朝枝あさえだ 繁春しげはる（あさえだ しげはる、1912年ねん（明治めいじ45年ねん）1月がつ1日にち - 2000年ねん（平成へいせい12年ねん）10月14日にち）は、日本にっぽんの陸軍りくぐん軍人ぐんじん。陸士りくし45期き、陸りく大だい52期き恩賜おんし。最終さいしゅう階級かいきゅうは陸軍りくぐん中佐ちゅうさ。第だい25軍ぐん（マレー・シンガポール作戦さくせんの部隊ぶたい）の作戦さくせん参謀さんぼうとして知しられる。

体格たいかくが良よく、見みるからに豪傑ごうけつ風ふうの人物じんぶつだったという。

朝枝あさえだ 繁春しげはる
朝枝あさえだ繁春しげはる参謀さんぼう（大尉たいい時代じだい）
生誕せいたん	1912年ねん1月がつ1日にち 日本にっぽん 山口やまぐち県けん
死没しぼつ	(2000-10-14) 2000年ねん10月14日にち（88歳さい没ぼつ）
所属しょぞく組織そしき	大日本帝国だいにっぽんていこく陸軍りくぐん
軍ぐん歴れき	1933 - 1945
最終さいしゅう階級かいきゅう	中佐ちゅうさ（日本にっぽん陸軍りくぐん）

経歴けいれき

海軍かいぐん下士官かしかんであり、日にち露ろ戦役せんえき後のちに船員せんいんをしていた朝枝あさえだ進すすむの長男ちょうなんとして生うまれる。苦学くがくのすえ福岡ふくおか県立けんりつ門司もじ中学校ちゅうがっこうを卒業そつぎょうし、1929年ねん（昭和しょうわ4年ねん）4月がつに陸軍りくぐん士官しかん学校がっこう予よ科かに入学にゅうがくする。入校にゅうこう生せいは東京とうきょう陸軍りくぐん幼年ようねん学校がっこうから来きたものも含ふくめて総員そういん356名めいであった。予よ科かでは、配属はいぞく部隊ぶたいが西にし義男よしお、衛藤えとう親ちかし美びとともに歩兵ほへい第だい74聯隊れんたい附つけと決きまる。その後ごの1931年ねん（昭和しょうわ6年ねん）9月がつ末まつ、半年はんとし間あいだの隊たい附ふ勤務きんむを終おえて、本科ほんかへ入校にゅうこうする。

三根みね生なま久ひさ大だい著ちょ『参謀さんぼう本部ほんぶの暴あばれ者しゃ』の中なかで、陸士りくしでの成績せいせきについて次つぎのようにふれている。「私わたしの隊たい附ふの時ときの訓育くんいく中隊ちゅうたい長ちょう佐藤さとう大尉たいいが朝鮮ちょうせんの第だい七なな十じゅう四よん聯隊れんたいから東京とうきょうに出張しゅっちょうしてきた折おり、自分じぶんの教おしえ子ごの朝枝あさえだ繁春しげはるの成績せいせきはどうなのだと本科ほんかの私わたしの区く隊長たいちょうの所ところに聞ききに来きたらしいんです。ところが、戦術せんじゅつは同期生どうきせい中ちゅう一番いちばんだというので安心あんしんしたらしい。それはいいんだが、後ごがまずい。操行そうこうがなんと赤あか点てんだと言いうんだ。それには佐藤さとう大尉たいいもびっくり仰天ぎょうてんしたらしい。聯隊れんたい長殿ながとのもお前まえのことについては随分ずいぶん心配しんぱいされておられるが、こんなことでは駄目だめじゃないかとこっぴどく説諭せつゆされて…」とある。

1933年ねん（昭和しょうわ8年ねん）7月がつ、陸軍りくぐん士官しかん学校がっこう本科ほんかを卒業そつぎょう。成績せいせきは、皇族こうぞく(孚まこと彦王)･公おおやけ族ぞく(李り鍝公)を除のぞいて25番ばん/335名めいという好成績こうせいせきであった。『参謀さんぼう本部ほんぶの暴あばれ者しゃ』によると、朝枝あさえだ本人ほんにんは士官しかん学校がっこうの成績せいせきは知しらなかったようである。同年どうねん10月がつ、歩兵ほへい少尉しょういに任官にんかんし歩兵ほへい第だい74連隊れんたいに配属はいぞく。1935年ねん（昭和しょうわ10年ねん）10月がつ、歩兵ほへい中尉ちゅういに進級しんきゅう。南朝鮮みなみちょうせんで第だい19師団しだん（羅ら南みなみ）と第だい20師団しだん（龍山たつやま）が対抗たいこう演習えんしゅうしたとき、早暁そうぎょうからの演習えんしゅうで疲つかれた朝枝あさえだ中尉ちゅういが、昼ひるの小しょう休止きゅうしに田圃たんぼの畦道あぜみちに腰こしを下おろしていたところを演習えんしゅうの審判官しんぱんかんを務つとめる石原いしはら莞爾かんじ歩兵ほへい大佐たいさ（21期き）から叱しかられたエピソードを紹介しょうかいしている。朝枝あさえだの馬うまが、汗あせだくで苦労くろうして農民のうみんが作つくった稲いねをお前まえは馬うまに喰くわすのか。そういう心こころがけじゃいかんと言いったという。このことは不思議ふしぎと未いまだに頭あたまの一隅いちぐうにこびり付ついて忘わすれられない…朝枝あさえだはこう言げんって苦笑くしょうしたという（『参謀さんぼう本部ほんぶの暴あばれ者しゃ』p.141,142）。

陸士りくし予よ科か生徒せいと隊たい附ふを経へて、陸りく大だい在学ざいがく中ちゅうの1938年ねん（昭和しょうわ13年ねん）3月がつに歩兵ほへい大尉たいいに進級しんきゅう。1939年ねん（昭和しょうわ14年ねん）11月、陸軍りくぐん大だい学校がっこうを3番ばん/52名めいで卒業そつぎょうし、恩賜おんしの軍刀ぐんとうを拝受はいじゅした。

1939年ねん（昭和しょうわ14年ねん）12月、第だい1軍ぐん参謀さんぼう部ぶ付づけとなり日にち中ちゅう戦争せんそうに出征しゅっせい。1940年ねん（昭和しょうわ15年ねん）6月がつ、第だい1軍ぐん参謀さんぼうに移うつり、1941年ねん（昭和しょうわ16年ねん）5月がつ、台湾たいわん軍ぐん研究けんきゅう部員ぶいんに転てんじ、同年どうねん8月がつから10月がつまで南方なんぽうに出張しゅっちょう。同年どうねん10月がつ、陸軍りくぐん少佐しょうさに進級しんきゅう、第だい25軍ぐん参謀さんぼうとして太平洋戦争たいへいようせんそう（大だい東亜とうあ戦争せんそう）の開戦かいせんを迎むかえた。マレー作戦さくせん、シンガポールの戦たたかいに参戦さんせんし、辻つじ政信まさのぶ参謀さんぼうとともにシンガポール華僑かきょう粛清しゅくせい事件じけんに関与かんよした。このとき朝枝あさえだは軍刀ぐんとうを抜ぬいて、軍ぐんの方針ほうしんに随したがわねば憲兵けんぺいでもぶった切ぎってやると言いって、強引ごういんに粛清しゅくせいを強要きょうようして回まわったといわれる。戦後せんご、半藤はんどう一利かずとしがこの粛清しゅくせいについてインタビューしたとき、朝枝あさえだが辻つじ政信まさのぶにばかり責任せきにんを押おし付つけるようなことを言いうため、しまいには両者りょうしゃで怒鳴どなり合ごういになったという。

1942年ねん（昭和しょうわ17年ねん）7月がつ、関東軍かんとうぐん参謀さんぼうに異動いどう。1943年ねん（昭和しょうわ18年ねん）12月から1944年ねん（昭和しょうわ19年ねん）2月がつまでソ連それんに出張しゅっちょう。1944年ねん3月がつ、大本営だいほんえい参謀さんぼう（作戦さくせん課か）。その後ご、第だい14方面ほうめん軍ぐん参謀さんぼうを経へて再ふたたび大本営だいほんえい参謀さんぼう（作戦さくせん課かで満州まんしゅう方面ほうめんを担当たんとう）。1945年ねん（昭和しょうわ20年ねん）6月がつ、同期どうき一いち選抜せんばつのひとりとして中佐ちゅうさに進級しんきゅう。同年どうねん8月がつ、大本営だいほんえい参謀さんぼうとして満州まんしゅうへ出張しゅっちょう中ちゅうに敗戦はいせんを迎むかえた。この時とき、朝枝あさえだ参謀さんぼうは関東軍かんとうぐん防疫ぼうえき給水きゅうすい部ぶ（通称つうしょう・731部隊ぶたい）の部隊ぶたい長ちょう石井いしい四郎しろう軍医ぐんい中将ちゅうじょうに研究けんきゅう資料しりょうの廃棄はいきを指示しじしている。共同通信社きょうどうつうしんしゃ社会しゃかい部ぶ編へん『沈黙ちんもくのファイル』(P137,138)には、その時ときの朝枝あさえ・石井いしいのやりとりが載のっている。

朝枝あさえだ「朝枝あさえだ中佐ちゅうさは参謀さんぼう総長そうちょうに代かわって指示しじいたします。貴き部隊ぶたいの今後こんごの措置そちについて申もうし上あげます。地球ちきゅう上じょうから永遠えいえんに、貴き部隊ぶたいの一切いっさいの証拠しょうこを根ねこそぎ隠滅いんめつしてください。」

朝枝あさえだ「細菌さいきん学がくの博士はかせは何人なんにんですか」」

石井いしい「五ご十じゅう三さん人にん」

朝枝あさえだ「五ご十じゅう三さん人にんは貴き部隊ぶたいの飛行機ひこうきで日本にっぽんに逃にがし、一般いっぱん部隊ぶたい員いんは列車れっしゃで引ひき揚あげさせてください」

石井いしい「分わかった。すぐ取とりかかるから安心あんしんしてくれたまえ」

石井いしいは自分じぶんの飛行機ひこうきへ数すう歩ほ、歩あるいて立たち止どまり、思おもい直なおしたように引ひき返かえしてきた。

石井いしい「ところで朝枝あさえだ君くん、貴重きちょうな研究けんきゅう成果せいかの学術がくじゅつ資料しりょうもすべて隠滅いんめつするのかね」

朝枝あさえだ「何なにをおっしゃいますか、閣かく下か。根ねこそぎ焼やき捨すててください」

また、この満州まんしゅう出張しゅっちょう中ちゅう、ソ連それん軍ぐんから樺太からふとで現地げんちの第だい88師団しだんが日本にっぽん軍師ぐんし団だんが交戦こうせんを続つづけていることを知しらされ、その上級じょうきゅうにあたる札幌さっぽろの第だい5方面ほうめん軍ぐんに停戦ていせんするよう、電報でんぽうを打うち、これによって樺太からふとでの停戦ていせんが成立せいりつしている。

旧きゅう満州まんしゅうや朝鮮半島ちょうせんはんとうの民間みんかん日本人にっぽんじんやソ連それんの捕虜ほりょとなった軍人ぐんじん計けい180万まん人にんについて、ソ連それんの指令しれい下かに移うつし、日本にっぽん国籍こくせき離脱りだつまで想定そうてい、病人びょうにんなどを除のぞき現地げんちに「土着どちゃく」させ事実じじつ上じょう"棄民"化かする「関東軍かんとうぐん方面ほうめん停戦ていせん状じょう況きょうニ関せきスル実視じっし報告ほうこく」を1945年ねん8月がつ26日にち付づけで大本営だいほんえい参謀さんぼう名めいにて報告ほうこくした(その3部ぶのうち1部ぶが1993年ねん8月がつにロシアの軍ぐん関係かんけいにて発見はっけんされたと共同通信きょうどうつうしんが報ほうじている)。

その後ご、朝枝あさえだはソ連それん軍ぐんに捕つかまり、1949年ねん（昭和しょうわ24年ねん）8月がつに復員ふくいんしている。

1954年ねん（昭和しょうわ29年ねん）1月がつ27日にち、駐ちゅう日にちソ連それん大使館たいしかんのラストボロフ二に等とう書記官しょきかんがアメリカに政治せいじ亡命ぼうめいする「ラストボロフ事件じけん」が発生はっせい。ラストボロフはソ連それんの日本にっぽんにおける諜報ちょうほう活動かつどうの元締もとじめであり、同年どうねん8月がつにアメリカはラストボロフの自白じはくにより、日本にっぽんでのソ連それんの諜報ちょうほう活動かつどうの一端いったんを発表はっぴょうした。このニュースが日本にっぽんの新聞しんぶんに掲載けいさいされた際さいに、朝枝あさえだと志位しい正二しょうじが「自分じぶんはラストボロフに協力きょうりょくしていた」として警視庁けいしちょうに自首じしゅしている。戦後せんごは木下きのした産さん商しょう（その後ご吸収きゅうしゅうされ　現げん三井物産みついぶっさん）で勤務きんむした。

満蒙まもう開拓かいたくについての発言はつげん

井出いで孫まご六ろく（直木賞なおきしょう作家さっか）著ちょ『終おわりなき旅りょ』に掲載けいさいのインタビューで満蒙まもう開拓かいたくに関かんして訊きかれ「満州まんしゅうで日本人にっぽんじんのやったことは強盗ごうとうと同おなじことです。強盗ごうとうの子こを引ひきとって、残留ざんりゅう孤児こじの養父母ようふぼたちは、今日きょうまで養やしなってくれたのです。残留ざんりゅう孤児こじ問題もんだいを中曽根なかそね康弘やすひろ首相しゅしょうは全力ぜんりょくをあげて解決かいけつしなければいけません」と語かたっている。

親族しんぞく

• 岳父がくふ 宝蔵寺ほうぞうじ久雄ひさお（陸士りくし23期き、陸りく大だい33期き、陸軍りくぐん中将ちゅうじょう）

参考さんこう文献ぶんけん

• 秦はた郁いく彦 編へん『日本にっぽん陸海りくかい軍ぐん総合そうごう事典じてん』第だい2版はん、東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱん会かい、2005年ねん
• 井出いで孫まご六ろく『終おわりなき旅たび - 「中国ちゅうごく残留ざんりゅう孤児こじ」の歴史れきしと現在げんざい』岩波書店いわなみしょてん、1986年ねん
• 三根みね生なま久ひさ大だい『参謀さんぼう本部ほんぶの暴あばれ者しゃ　陸軍りくぐん参謀さんぼう朝枝あさえだ繁春しげはる』、文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、1992年ねん
• 『沈黙ちんもくのファイル 「瀬島せじま龍三りゅうぞう」とは何なにだったのか』共同通信社きょうどうつうしんしゃ社会しゃかい部ぶ編へん、1996年ねん。主おもに魚住うおずみ昭あきらによる

関連かんれん項目こうもく

• シンガポール華僑かきょう粛清しゅくせい事件じけん