機能きのう主義しゅぎ (社会しゃかいがく)

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

社会しゃかいがくにおける機能きのう主義しゅぎ(きのうしゅぎ、えい: functionalism)とは、社会しゃかいてきしょ部分ぶぶんによるある事象じしょうを、それ以外いがい事象じしょうないしより上位じょうい社会しゃかいてき全体ぜんたいたいしてなんらかのかたちで貢献こうけんするかかという視点してんからとらえ、評価ひょうか解釈かいしゃくする方法ほうほうろんてきアプローチである。パーソンズはじまる社会しゃかいシステムろん構造こうぞう機能きのう主義しゅぎ)、ロバート・マートンちゅう範囲はんい理論りろんG.H.ミードはっするシンボリック相互そうご作用さようろんピーター・ブラウらの社会しゃかいてき交換こうかん理論りろん総称そうしょうして「機能きのう主義しゅぎ社会しゃかいがく」とばれることもおおい。機能きのう(function)概念がいねんは、関数かんすう(function)のあわつ。カッシーラーによって「実体じったい概念がいねん」から「関数かんすう概念がいねん」へと学問がくもんてき展開てんかいがたどられ、機能きのう関数かんすう科学かがく史上しじょう共通きょうつう基盤きばんをもつものとみなされた[1]

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

行為こうい理論りろんからの出発しゅっぱつ[編集へんしゅう]

機能きのう主義しゅぎ社会しゃかいがくでは、まずは行為こうい理論りろん準拠じゅんきょし、人間にんげん行為こうい目的もくてき欲求よっきゅう充足じゅうそくにあるとかんがえる。しかしながら人間にんげん単独たんどくではそれらの欲求よっきゅうたすことができないために社会しゃかいシステムを形成けいせいし、目的もくてき手段しゅだん条件じょうけんとしての他者たしゃとの共同きょうどう欲求よっきゅう充足じゅうそく目指めざすことになる。

この社会しゃかいシステムの機能きのうは、本来ほんらいてきには個人こじん行為こういしゃ、すなわちパーソナリティ・システムの欲求よっきゅう充足じゅうそくにあるわけであるが、しかしひとたび社会しゃかいシステムが形成けいせいされると、社会しゃかいシステムとパーソナリティ・システムは、相互そうご独立どくりつした、レベルのことなるシステムとして存在そんざいするようになる。

道徳どうとくてき合意ごうい重要じゅうようせい[編集へんしゅう]

社会しゃかいしゅにおける秩序ちつじょ安定あんていせい維持いじするじょうで、道徳どうとくてき合意ごうい重要じゅうようせい強調きょうちょうする。道徳どうとくてき合意ごういは、社会しゃかいほとんどの人々ひとびとおな価値かち共有きょうゆうしている場合ばあいいだせる。秩序ちつじょ均衡きんこうを、社会しゃかい正常せいじょう状態じょうたいとみなす、社会しゃかいてき均衡きんこう状態じょうたいは、社会しゃかい成員せいいんあいだ道徳どうとくてき合意ごうい存在そんざいすることにもとづく(→デュルケーム)。

潜在せんざいてき機能きのう[編集へんしゅう]

社会しゃかいてき活動かつどうないし社会しゃかい制度せいどのなんらかの社会しゃかいてき活動かつどうたい潜在せんざいてき機能きのうたすことがある。たとえば、機能きのう主義しゅぎしゃ主張しゅちょうによれば、拡大かくだい家族かぞく形態けいたいからかく家族かぞくへの変化へんかは、個々ここ家族かぞく成員せいいん意図いとがどうであれ、産業さんぎょう過程かてい促進そくしんした(産業さんぎょうへの潜在せんざいてき機能きのうたした)という[2]

機能きのうぎゃく機能きのうによる構造こうぞう形成けいせい変動へんどう[編集へんしゅう]

そして、機能きのう主義しゅぎでは、社会しゃかいシステムはそれ自身じしん存続そんぞくのために社会しゃかいシステム自体じたいとしての機能きのうてき要件ようけん充足じゅうそくもとめるようになるとかんがえる。パーソンズの主張しゅちょうによれば、社会しゃかい存続そんぞくするうえでかならたされるべき必要ひつよう条件じょうけんがあるのであって、それをたすのが社会しゃかい制度せいどかんがえねばならない。またデュルケームは、宗教しゅうきょう活動かつどう社会しゃかい統合とうごう安定あんてい寄与きよするものとしてこそもっともよく理解りかいできると主張しゅちょうした[2]。つまり、機能きのう主義しゅぎは、システムの機能きのうおよびぎゃく機能きのうという視点してんむことによって、システムにおける構造こうぞう形成けいせいとその変動へんどうについての説明せつめい可能かのうにするのである。ここでの機能きのうとは社会しゃかいシステムの目的もくてき達成たっせいないし必要ひつようせい充足じゅうそくたいして部分ぶぶんたす貢献こうけんであり、そのような貢献こうけんがうまくいった場合ばあいには部分ぶぶん現行げんこうのありかた維持いじされうるが、そうでない場合ばあいには変動へんどうかうことを余儀よぎなくされる、という説明せつめい図式ずしきである。

機能きのう主義しゅぎ社会しゃかいがくは、こうして社会しゃかい形成けいせいされる理由りゆうをそれがたす機能きのうによって説明せつめいするとともに、個人こじんレベルと社会しゃかいレベルとを独立どくりつさせることによって、個人こじん観点かんてんからの目的もくてきろんてき説明せつめいけようとした。

批判ひはん[編集へんしゅう]

  • 機能きのう主義しゅぎでは社会しゃかいてき葛藤かっとう形態けいたい不安定ふあんていせい説明せつめい出来できない。なぜなら機能きのう主義しゅぎは、あらゆる社会しゃかいてき活動かつどう社会しゃかい安定あんていさせるよう円滑えんかつ相互そうご作用さようしているとみるからである。
  • 現存げんそん機能きのうてき関係かんけい撹乱かくらんするようなメカニズムがなんらられないので、変化へんかということを説明せつめい出来できない。
  • 社会しゃかいてき活動かつどう存在そんざいをその結果けっかあるいは効果こうかということから説明せつめいするてんで、機能きのう主義しゅぎ目的もくてきろんいち形態けいたい
  • 個々人ここじん自身じしん行為こうい付与ふよしている意味いみ無視むしして、たん行為こうい結果けっかだけに焦点しょうてんわせている[2]

学説がくせつにおける位置いちづけ[編集へんしゅう]

初期しょき[編集へんしゅう]

機能きのう主義しゅぎ古典こてんてき形態けいたいは、社会しゃかいゆう機体きたいせつ社会しゃかい機械きかいろんである。とりわけ、社会しゃかいゆう機体きたいせつは、19世紀せいき社会しゃかい学理がくりろん形態けいたいとしておおきな役割やくわりたしたが、アナロジーによる説明せつめいにとどまるという限界げんかいせいがあった。機能きのう主義しゅぎ思想しそうマリノフスキーラドクリフ=ブラウン代表だいひょうされるイギリス社会しゃかい人類じんるいがくて、社会しゃかいがくにもれられた。

展開てんかい[編集へんしゅう]

その社会しゃかいシステムや環境かんきょうたいする適応てきおう機能きのう構造こうぞう過程かていといった説明せつめい概念がいねんあらたに社会しゃかい分析ぶんせきのための装置そうちとしてまれるようになる。具体ぐたいてきには、エミール・デュルケムによる分業ぶんぎょう機能きのう説明せつめいや、ラドクリフ・ブラウンによる親族しんぞく機能きのうについての説明せつめいである。

1960年代ねんだいまで、とりわけ米国べいこくでは社会しゃかい学理がくりろん主導しゅどうてき伝統でんとうであった。パーソンズとマートンは、両者りょうしゃともデュルケームに幅広はばひろっているが、機能きのう主義しゅぎ信奉しんぽうしゃだった。

また、一般いっぱんシステム理論りろん社会しゃかいシステムろんへの導入どうにゅうもすすみ、このながれは、パーソンズらの構造こうぞう機能きのう主義しゅぎへと結実けつじつするにいたった。また、1980年代ねんだい中頃なかごろ、アメリカにおいてジェフリー・アレクサンダー中心ちゅうしんとして、パーソンズの社会しゃかい理論りろん批判ひはんてき継承けいしょう目指めざネオ機能きのう主義しゅぎ立場たちばまれた。批判ひはんてき主張しゅちょうとしては、パーソンズらが、葛藤かっとう分裂ぶんれつ要因よういん考慮こうりょせず、社会しゃかいてき凝集ぎょうしゅうせいをもたらす要因よういん過度かど強調きょうちょうした結果けっか階級かいきゅう人種じんしゅジェンダーといった要因よういんもとづく分裂ぶんれつ不平等ふびょうどう状態じょうたい過小かしょう評価ひょうかされる。創造そうぞうせいのある社会しゃかいてき行為こうい社会しゃかいなかたす役割やくわり重要じゅうようしていない。機能きのう分析ぶんせき社会しゃかいそなえてもいない特質とくしつ社会しゃかい付与ふよしている。「ニーズ」や「目的もくてき」といった概念がいねん目的もくてきろんてきであると批判ひはんけている[3]。しかし、マートンの機能きのう分析ぶんせきは、ギデンズ構造こうぞうさい生産せいさん理論りろんだけでは限界げんかいがあった、マリノフスキーの人類じんるいがくげブラウが再論さいろんしたクラのれい機能きのうてき等価とうか論理ろんりがルーマンの社会しゃかいシステムろん社会しゃかい運動うんどうろん頻用ひんようされているてんなどからして、応用おうよう範囲はんいのこされている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 碓井うすい
  2. ^ a b c アバークロンビー/ヒル/ターナー
  3. ^ アンソニー・ギデンズ

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]