(Translated by https://www.hiragana.jp/)
溶媒 - Wikipedia コンテンツにスキップ

溶媒ようばい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
溶剤ようざいから転送てんそう
みずもっと身近みぢか代表だいひょうてき溶媒ようばいである。

溶媒ようばい(ようばい、えい: solvent)は、物質ぶっしつかす物質ぶっしつ呼称こしょう

工業こうぎょう分野ぶんやでは溶剤ようざい(ようざい)とばれることもおおい。

概要がいよう

[編集へんしゅう]

もっと一般いっぱんてき使用しようされるみずのほか、アルコールアセトンヘキサンのような有機物ゆうきぶつおおもちいられ、これらはとく有機ゆうき溶媒ようばい有機ゆうき溶剤ようざいばれる。

溶媒ようばいかされるものを溶質ようしつ(solute)といい、溶媒ようばい溶質ようしつわせて溶液ようえき(solution)という。

溶媒ようばいとしては、目的もくてきとする物質ぶっしつかすこと(溶解ようかいたかい)、化学かがくてき安定あんてい溶質ようしつ化学かがく反応はんのうしないことがもっと重要じゅうようである。

目的もくてきによっては沸点ふってんひく除去じょきょしやすいことや、可燃かねんせい毒性どくせい環境かんきょうへの影響えいきょうなどをふくめた安全あんぜんせい重視じゅうしされる。

みず以外いがいおおくの溶媒ようばいは、きわめてえやすく、毒性どくせいつよ蒸気じょうきす。また、化学かがく反応はんのうでは、溶媒ようばい種類しゅるいによって反応はんのうすすかたいちじるしくことなることがられている(溶媒ようばい効果こうか)。

一般いっぱんてき溶媒ようばいとしてあつかわれる物質ぶっしつ常温じょうおんつねあつでは無色むしょく液体えきたいであり、独特どくとく臭気しゅうきつものもおおい。

有機ゆうき溶媒ようばい一般いっぱん用途ようととしてドライクリーニングテトラクロロエチレン)、シンナートルエンテルピン)、マニキュア除去じょきょえき接着せっちゃくざいアセトン酢酸さくさんメチル酢酸さくさんエチル)、き(ヘキサン石油せきゆエーテル)、合成ごうせい洗剤せんざいオレンジオイル)、香水こうすいエタノール)あるいは化学かがく合成ごうせい樹脂じゅし製品せいひん加工かこう使用しようされる。また抽出ちゅうしゅつもちいる。

特性とくせい指標しひょう

[編集へんしゅう]

極性きょくせい溶解ようかいせい混和こんわせい

[編集へんしゅう]

溶媒ようばい溶質ようしつ大別たいべつすると「こう極性きょくせい溶媒ようばい親水しんすいせい)」と「てい極性きょくせい溶媒ようばい疎水そすいせい)」とに区分くぶんできるが、比較ひかく問題もんだいなので明確めいかく線引せんひきはない。極性きょくせい誘電ゆうでんりつ双極そうきょくモーメントとう評価ひょうかされる。経験けいけんそくとして、こう極性きょくせい物質ぶっしつこう極性きょくせい溶媒ようばいけやすく、てい極性きょくせい物質ぶっしつてい極性きょくせい溶媒ようばいけやすい。これは「たものにける」といいあらわされる。具体ぐたいてきには、無機むきしおたとえば食塩しょくえん)や糖類とうるいたとえばショとう)など極性きょくせいおおきい物質ぶっしつみずのようなこう極性きょくせい溶媒ようばいけやすく、またあぶらろうなど極性きょくせいちいさい物質ぶっしつヘキサンのようなてい極性きょくせい溶媒ようばいけやすい。また、こう極性きょくせい溶媒ようばいてい極性きょくせい溶媒ようばい(たとえば、みずとヘキサン、食酢しょくずサラダ油さらだゆ)とは相互そうご混和こんわせず、ぜてもすぐにそう分離ぶんりすることおおい。溶解ようかいせい定量ていりょうてき指標しひょうとしては溶解ようかいパラメーターもちいられる。

プロトンせい

[編集へんしゅう]

極性きょくせい溶媒ようばいプロトンせい極性きょくせい溶媒ようばいプロトンせい極性きょくせい溶媒ようばいとに分類ぶんるいされる。プロトンせい溶媒ようばいとは、プロトン(水素すいそイオン)供与きょうよせい溶媒ようばいのことである。おおくのプロトン溶媒ようばい酸素さんそあるいは窒素ちっそ原子げんし結合けつごうした比較的ひかくてき酸性さんせいたか水素すいそつ。また、酸素さんそ窒素ちっそは、共有きょうゆう電子でんしたいつことからプロトン受容じゅようせい(ルイス塩基えんきせい)もあわつ。この性質せいしつによりプロトンせい溶媒ようばい溶媒ようばい分子ぶんしあいだ水素すいそ結合けつごう形成けいせいしているものおおい。みず (H2O)、エタノール (CH3CH2OH) 、酢酸さくさん (CH3C(=O)OH) などがれいとしてげられる。プロトンせい極性きょくせい溶媒ようばいとしてはアセトニトリル (CH3C≡N) 、アセトン (CH3C(=O)CH3) などがげられる。プロトンせい極性きょくせい溶媒ようばいはイオンを安定あんていする効果こうかがあるため、SN1反応はんのうひとしのイオン生成せいせいりつそくとなる反応はんのうによくもちいられる。一方いっぽうプロトンせい極性きょくせい溶媒ようばいイオンのみを安定あんていするものがおおく、かげイオンの反応はんのうせいたかめる傾向けいこうがあるため、SN2反応はんのうひとしこのんでもちいられる。

沸点ふってん

[編集へんしゅう]

溶媒ようばい重要じゅうよう特性とくせい沸点ふってん気化きかねつげられ、それにより蒸発じょうはつはやさが決定けっていけられる。ジエチルエーテル塩化えんかメチレンひとし一部いちぶてい沸点ふってん溶媒ようばい室温しつおんびょう単位たんい時間じかん乾燥かんそうする溶媒ようばいとしてもちいられる。一方いっぽうみずジメチルスルホキシドのようなこう沸点ふってん溶媒ようばい乾燥かんそうには、加熱かねつ減圧げんあつ気流きりゅう下等かとう条件じょうけん必要ひつようである。

密度みつど

[編集へんしゅう]

おおくの有機ゆうき溶媒ようばいみずよりも密度みつどちいさく、みずうえかぶものがおおい。例外れいがいてき塩化えんかメチレンやクロロホルムなどハロゲンけい溶媒ようばい一部いちぶ酢酸さくさんなどはみずよりも比重ひじゅうおおきい。

安全あんぜんせい

[編集へんしゅう]

みずは、不燃ふねんかつ無毒むどくである[1]おおくの溶媒ようばいには危険きけんせいがあり、炭化たんか水素すいそやエーテルの可燃かねんせいたかさ、エーテルけい爆発ばくはつせい酸化さんか反応はんのう、またベンゼンなどの毒性どくせい注意ちゅういはら必要ひつようがある[2]

火災かさい

[編集へんしゅう]

おおくの溶媒ようばいには引火いんかせいがある。一般いっぱんてきには揮発きはつせいたかいものほど引火いんかせいたかい。ただし、塩化えんかメチレンやクロロホルムとうなんもえせい溶媒ようばいもある。また、ほとんどの溶媒ようばい蒸気じょうき空気くうきよりもおもく、容器ようき下部かぶしずんで滞留たいりゅうしやすい。そのため、そらドラム缶どらむかん溶媒ようばいかんなかにも溶媒ようばい蒸気じょうき存在そんざいる。

ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン (THF) などエーテルるい2-プロパノールクメンひとし酸素さんそさらしておくと、爆発ばくはつせいたか酸化さんかぶつ形成けいせいする(自動じどう酸化さんか)。とくに、ひかりたると酸化さんかぶつ生成せいせい加速かそくされる。これらの酸化さんかぶつ蒸留じょうりゅうこう沸点ふってんとめぶん濃縮のうしゅくされることがおおい。エーテルるいくらところBHT のような安定あんていざいくわえたりして保存ほぞんするが、これでもさん生成せいせい完全かんぜんにはめられないことに留意りゅういする必要ひつようがある。

ブンゼンバーナーではなく、安全あんぜんせいのため電熱でんねつフラスコヒーターを使つかい、沸点ふってんが90以下いかであれば水蒸気すいじょうきよく普通ふつうである[3]

毒性どくせい

[編集へんしゅう]

ほぼすべての有機ゆうき溶媒ようばいには有毒ゆうどくせいがある。おおくの有機ゆうき溶媒ようばいは、麻酔ますい作用さようゆうし、大量たいりょう吸引きゅういん急激きゅうげき意識いしき喪失そうしつおこしうる。この性質せいしつのため、医療いりょうよう麻酔ますいやく鎮痛ちんつうざいとして利用りようされたが、そのおおくは神経しんけい毒性どくせい発癌はつがんせいあわつのため、現在げんざい使用しようされていない。(ジエチルエーテルは、現在げんざいでも麻酔ますいやくとして使用しようされるが、極端きょくたん引火いんかせいたかいため、先進せんしんこくでは使つかわれることまれ)

発癌はつがんせい観点かんてんからは、クロロホルムのほかにも、(ガソリンにもふくまれる)ベンゼンHMPAなどは、発癌はつがんせいゆうする、もしくはその可能かのうせいがあるとかんがえられている。

メタノール代謝たいしゃにより生成せいせいするギ酸ぎさんのため、視神経ししんけい障害しょうがいあたえ、失明しつめいさらには死亡しぼうすることもある。

その臓器ぞうき障害しょうがいこすものもおおい。肝臓かんぞう腎臓じんぞうあるいは大脳だいのうなど。

有機ゆうき溶媒ようばい毒性どくせい環境かんきょう負荷ふかがしばしば問題もんだいとなる。このため、つよ毒性どくせい溶媒ようばいから、比較的ひかくてきてい毒性どくせい溶媒ようばい(ときみず)へのえ、あるいは溶媒ようばいりょう削減さくげん(とき溶媒ようばい反応はんのう)、といった化学かがくプロセスの開発かいはつおこなわれている。それらはグリーンサスティナブルケミストリーあつかわれる研究けんきゅう内容ないようである。

こう化学かがくせい手袋てぶくろには20種類しゅるい以上いじょうあり、つまりすべてに対応たいおうしていることはないためであり、不適切ふてきせつ場合ばあい手袋てぶくろ通過つうかする[4]有害ゆうがい溶媒ようばい(あるいは薬品やくひんなどでも)れた場合ばあい、ただちに石鹸せっけんみずあら[4]

使用しようじょう全般ぜんぱんてき注意ちゅうい

[編集へんしゅう]
  • 溶媒ようばい蒸気じょうきさらされることはけ、作業さぎょう環境かんきょうドラフトチャンバーもちいたり換気かんきくする。
  • 密閉みっぺい容器ようき保存ほぞんする。
  • 可燃かねんせい溶媒ようばいちかくでふうけてはならない。
  • 爆発ばくはつ火災かさいけるために引火いんかせい溶媒ようばいゆかながしてはならない。
  • 溶媒ようばい蒸気じょうき吸入きゅうにゅうしてはならない。
  • 溶媒ようばい皮膚ひふにつけてはならない。おおくの溶媒ようばい皮膚ひふより容易ようい吸収きゅうしゅうされる。

精製せいせい

[編集へんしゅう]

だい部分ぶぶん抽出ちゅうしゅつ化学かがく反応はんのう使つかわれる一般いっぱんてき溶媒ようばい等級とうきゅうは「試薬しやく等級とうきゅう」であり、純度じゅんどは97-99%で、わずかな水分すいぶん揮発きはつせい不純物ふじゅんぶつふく[2]一部いちぶ場合ばあいには、さらにこう純度じゅんど溶媒ようばい必要ひつようとし、そのためにこう純度じゅんど溶媒ようばいったり、あるいは溶媒ようばい精製せいせいすることになる[2]

溶媒ようばいには化学かがくてき安定あんていせい維持いじするために安定あんていざい添加てんかされている場合ばあいがある。また、水分すいぶんやその不純物ふじゅんぶつ混入こんにゅうしている場合ばあいもある。

溶媒ようばい精製せいせいとは、一般いっぱんてきに、乾燥かんそう蒸留じょうりゅうのことである[5]モレキュラーシーブなどの乾燥かんそうざいによる乾燥かんそうや、蒸留じょうりゅう操作そうさにより精製せいせいおこなわれる場合ばあいおおい。

代表だいひょうてき溶媒ようばい物性ぶっせい

[編集へんしゅう]

溶媒ようばいは、極性きょくせい溶媒ようばい極性きょくせいプロトンせい溶媒ようばい極性きょくせいプロトンせい溶媒ようばい分類ぶんるいした。極性きょくせい誘電ゆうでんりつあらわし、誘電ゆうでんりつじゅんならべた。極性きょくせい溶媒ようばいみずより密度みつどおおきいものはふとし文字もじしめした。

代表だいひょうてき溶媒ようばい物性ぶっせい
溶媒ようばい しめせせいしき 沸点ふってん (℃) 誘電ゆうでんりつ 密度みつど (g/mL) 分類ぶんるい
ヘキサン
(hexane)
69 2.0 0.655 極性きょくせい
ベンゼン
(benzene)
80 2.3 0.879 極性きょくせい
トルエン
(toluene)
111 2.4 0.867 極性きょくせい
ジエチルエーテル
(diethyl ether)
35 4.3 0.713 極性きょくせい
クロロホルム
(chloroform)
61 4.8 1.498 極性きょくせい
酢酸さくさんエチル
(ethyl acetate)
77 6.0 0.894 極性きょくせい
塩化えんかメチレン
(methylene chloride)
40 9.1 1.326 極性きょくせいプロトンせい
テトラヒドロフラン
(tetrahydrofuran, THF)
66 7.5 0.886 極性きょくせいプロトンせい
アセトン
(acetone)
56 21 0.786 極性きょくせいプロトンせい
アセトニトリル
(acetonitrile)
82 37 0.786 極性きょくせいプロトンせい
N,N-ジメチルホルムアミド
(N,N-dimethylformamide, DMF)
153 38 0.944 極性きょくせいプロトンせい
ジメチルスルホキシド
(dimethyl sulfoxide, DMSO)
189 47 1.092 極性きょくせいプロトンせい
酢酸さくさん
(acetic acid)
118 6.2 1.049 極性きょくせいプロトンせい
1-ブタノール
(1-butanol, n-butanol)
118 18 0.810 極性きょくせいプロトンせい
2-プロパノール
(2-propanol, isopropyl alcohol)
82 18 0.785 極性きょくせいプロトンせい
1-プロパノール
(1-propanol, n-propanol)
97 20 0.803 極性きょくせいプロトンせい
エタノール
(ethanol)
79 24 0.789 極性きょくせいプロトンせい
メタノール
(methanol)
65 33 0.791 極性きょくせいプロトンせい
ギ酸ぎさん
(formic acid)
100 58 1.21 極性きょくせいプロトンせい
みず
(water)
100 80 0.998 極性きょくせいプロトンせい

出典しゅってん

[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん

[編集へんしゅう]
  • J.Leonard、G.Procter、B.Lygo『研究けんきゅうしつ役立やくだ有機ゆうき化学かがく反応はんのう実験じっけんテクニック―実験じっけん基本きほんから活性かっせいガスでの反応はんのう操作そうさまで』丸善まるぜん出版しゅっぱん、2012ねんISBN 978-4-621-08433-5  Advanced practical organic chemistry, 2nd ed, 1998.
  • L.F.フィーザー、K.L.ウィリアムソン『フィーザー/ウィリアムソン有機ゆうき化学かがく実験じっけん』(だい8はん丸善まるぜん、2000ねんISBN 4-621-04734-5  Organic experiments, 8th ed, 1998.

関連かんれん項目こうもく

[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク

[編集へんしゅう]