甲州こうしゅう犬目いぬめ峠とうげ

『甲州こうしゅう犬目いぬめ峠とうげ』

作者さくしゃ	葛飾かつしか北斎ほくさい
製作せいさく年ねん	1830年ねん（天保てんぽう元年がんねん）から1834年ねん（天保てんぽう5年ねん）ごろ。
種類しゅるい	多色刷たしょくずり木版もくはん画が
寸法すんぽう	25.4 cm × 38.1 cm (10.0 in × 15.0 in)

「甲州こうしゅう犬目いぬめ峠とうげ」（こうしゅういぬめとうげ）は、葛飾かつしか北斎ほくさいの名所めいしょ浮世絵うきよえ揃そろい物ぶつ『冨とみ嶽だけ三さん十じゅう六ろく景けい』全ぜん46図ず中ちゅうの1図ず。落款らっかんは「北斎ほくさい改あらため為ため一いち筆ぴつ」とある。

概要がいよう

本ほん図ずで描えがかれている「甲州こうしゅう犬目いぬめ峠とうげ」は、甲州こうしゅう街道かいどうの宿場しゅくばのひとつである犬目いぬめ宿やど（現代げんだいの山梨やまなし県けん上野原うえのはら市し）近辺きんぺんの峠とうげであるが、具体ぐたい的てきな場所ばしょについては明確めいかくになっていない。吉田よしだ兼けん信しんの『甲きのえ駿しゅん道どう中之なかの記き』（文政ぶんせい13年ねん（1830年ねん））に「矢坪やつぼ、犬いぬ目めの駅えき過か、犬目いぬめ峠とうげ有ゆう、けわしき岩山いわやまなり、嶺みね上じょうより富士ふじ嶺みねを望もち、絶景ぜっけいの地じなり」と記しるされており、犬目いぬめ宿やどとその西にしの下鳥しもとり沢さわ宿やどの間あいだにあった峠とうげであると推察すいさつされている。

歌川うたがわ広重ひろしげ『不ふ二に三さん十じゅう六ろく景けい』「甲斐かい犬目いぬめ峠とうげ」

背後はいごに雄大ゆうだいに描えがかれた富士山ふじさんは、その高たかさによって白色はくしょく、藍色あいいろ、茶色ちゃいろで細ささやかに摺すり分わけられている。緑みどりに覆おおわれた急きゅう勾配こうばいの坂道さかみちを左下ひだりしたから右みぎ上じょうに配置はいちし、峠とうげ越こえに挑いどむ旅人たびびとや馬子まごが描えがかれている。地元じもと犬いぬ目めでは遠見とおみと呼よばれる高台たかだいより見みえる富士ふじを北斎ほくさいが描写びょうしゃしたことが伝つたえられているが、北斎ほくさいが実際じっさいに甲州こうしゅうを訪おとずれたという明確めいかくな記録きろくは残のこされていない。本ほん図ずは「峠とうげ」というほど山やま深ふかくはなく、不自然ふしぜんな描写びょうしゃとなっている。一方いっぽう、歌川うたがわ広重ひろしげの『不ふ二に三さん十じゅう六ろく景けい』に描えがかれる「甲斐かい犬目いぬめ峠とうげ」では険けわしい山々やまやまの奥おくに富士ふじが描えがかれており、北斎ほくさいが想像そうぞう上じょうの景色けしきを描えがいた可能かのう性せいも指摘してきされている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 日野ひの原はら健司けんじ『富嶽ふがく三さん十じゅう六ろく景けい』岩波書店いわなみしょてん、2019年ねん。ISBN 978-4-00-335811-5。 
• 磯崎いそざき康彦やすひこ「北斎ほくさいの風景ふうけい・風俗ふうぞく版画はんが」『福島大学ふくしまだいがく人間にんげん発達はったつ文化ぶんか学がく類るい論集ろんしゅう』 34巻かん、福島大学ふくしまだいがく人間にんげん発達はったつ文化ぶんか学がく類るい、2021年ねん、124-109頁ぺーじ。http://hdl.handle.net/10270/5478。 

外部がいぶリンク

• 冨とみ嶽だけ三さん十じゅう六ろく景けい《甲州こうしゅう犬目いぬめ峠とうげ》 - 文化ぶんか遺産いさんオンライン（文化庁ぶんかちょう）