上總かずさノ海路かいろ

『上總かずさノ海路かいろ』

作者さくしゃ	葛飾かつしか北斎ほくさい
製作せいさく年ねん	1830年ねん（天保てんぽう元年がんねん）から1834年ねん（天保てんぽう5年ねん）ごろ。
種類しゅるい	多色刷たしょくずり木版もくはん画が
寸法すんぽう	25.1 cm × 38.3 cm (9.9 in × 15.1 in)

「上總かずさノ海路かいろ」（かずさのうなじ、かずさのかいじ、かずさのかいろ）は、葛飾かつしか北斎ほくさいの代表だいひょう作さく『富嶽ふがく三さん十じゅう六ろく景けい』全ぜん46図ずの内うちの一いち図ず。1831-34年ねん（天保てんぽう2-5年ねん）頃ごろ刊行かんこう。大判おおばん錦絵にしきえ。落款らっかんは「前ぜん北斎ほくさい為ため一いち筆ぴつ（ぜん・ほくさい・いいつ・ひつ）」。版元はんもとは永寿えいじゅ堂どう西村にしむら屋や与八よはち。

概要がいよう

「近接きんせつ拡大かくだい法ほう」の例れい。歌川うたがわ広重ひろしげ『江戸えど名所めいしょ百ひゃく景けい』のうち「亀戸かめいど梅屋敷うめやしき」。

河村かわむら岷雪『百ひゃく富士ふじ』巻まき四よんより「牛堀うしぼり　常つね州しゅう」。

「上總かずさ」（上総かずさ）は現在げんざいの千葉ちば県けん中央ちゅうおう部ぶにあたり、東京とうきょう湾わん側がわに限かぎると、北きたから、千葉ちば市し、市原いちはら市し、袖ケ浦そでがうら市し、木更津きさらづ市し、君津きみつ市し、富津とみつ市しが該当がいとうする。画題がだいの富嶽ふがくは遠景えんけいの水平すいへい線せん上じょうにあり、上総かずさ側がわから見みていることになる。

本ほん図ずの富士ふじの麓ふもとに伸のびる陸地りくちは富津ふっつ岬みさきと考かんがえられることから、現在げんざいの富津とみつ市しの金谷かなや浦うら・湊浦みなとうら付近ふきんの浦賀水道うらがすいどうの沖合おきあいからの風景ふうけいではないかと推測すいそくされる。

「五ご大力だいりき船せん」あるいは「弁財べんざい船せん」を近景きんけいに大おおきく描えがく「近接きんせつ拡大かくだい法ほう」を採とるが、この手法しゅほうは、歌川うたがわ広重ひろしげの『名所めいしょ江戸えど百ひゃく景けい』に取とり入いれられ、明治めいじの油あぶら画が々家いえ高橋たかはし由一ゆいちにも継承けいしょうされる 。

五ご大力だいりき船せんをよく見みると、2艘そう描えがかれている。近接きんせつ拡大かくだい法ほうの為ため、後うしろの船ふねは随分ずいぶん小ちいさく見みえるが、帆ほの張はり方かたや船首せんしゅの向むきは、前面ぜんめんの船ふねと同おなじである。2艘そうを同調どうちょうさせることによって、絵えの求心力きゅうしんりょくを高たかめている。

前面ぜんめんの帆ほと、帆柱ほばしら先端せんたんと船首せんしゅとを繋つなぐ「筈はず緒いとぐち（はずお）」の間あいだから、富嶽ふがくを見みせる手法しゅほうは、河村かわむら岷雪の『百ひゃく富士ふじ』からの援用えんようが考かんがえられる。

水平すいへい線せんは僅わずかに弧こを描えがいており、左側ひだりがわに船ふねの帆ほが10張はり確認かくにんできる。遠景えんけいに船ふねを配はいするのは、岷雪『百ひゃく富士ふじ』の「常つね州しゅう牛堀うしぼり」でも見みられ、北斎ほくさいへの影響えいきょうがうかがえる。

海面かいめんと空そらには「ベロ藍あい」が用もちいられている。海面かいめんが遠とおくなるにつれ、徐々じょじょに薄うすくし、水平すいへい線せんで再ふたたび濃こく摺すっている。空そらも、地表ちひょう面めんは濃こく、高こう位置いちは素地そじのまま、最さい上部じょうぶで大変たいへん濃こく摺すり、地ちとの際さいを「雑巾ぞうきんがけ」でぼかしている。

参考さんこう文献ぶんけん

一いち次じ史料しりょう

• 河村かわむら, 岷雪『百ひゃく富士ふじ』京都きょうと・西村にしむら市郎いちろう右みぎ衛門えもんほか書林しょりん、1771年ねん。全ぜん四よん冊さつ。 

二に次じ資料しりょう

• 磯いそ, 博ひろし「河村かわむら岷雪の『百ひゃく富士ふじ』と北斎ほくさいの富嶽ふがく図ず」『美学びがく論究ろんきゅう』第だい1号ごう、関西学院大学かんせいがくいんだいがく文学部ぶんがくぶ美学びがく研究けんきゅう室しつ、1961年ねん、67-84頁ぺーじ。 
• 松本まつもと, 斗と吟ぎん『松本まつもと斗と吟ぎん選集せんしゅう』印しるし美び書房しょぼう、1968年ねん。 
• 永田ながた, 生なま慈監修かんしゅう・著ちょ『北斎ほくさい美術館びじゅつかん4　名所めいしょ絵え』集英社しゅうえいしゃ、1990年ねん。 
• 狩野かの, 博幸ひろゆき『絵えは語かたる14 葛飾かつしか北斎ほくさい筆ひつ 凱風快晴かいせい 赤あか富士ふじのフォークロア』平凡社へいぼんしゃ、1994年ねん。 
• 石井いしい, 謙治けんじ『ものと人間にんげんの文化ぶんか史し76-1 和船わせんI』法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく、1995年ねん。 
• 石井いしい, 謙治けんじ『ものと人間にんげんの文化ぶんか史し76-2 和船わせんII』法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく、1995年ねん。 
• 木更津きさらづ市立しりつ図書館としょかん, 編へん『「木更津きさらづ河岸かわぎし旧記きゅうき」解読かいどく』1996年ねん。 
• 君津きみつ市し史し編へんさん委員いいん会かい, 編へん『君津きみつ市し史し　通史つうし』2001年ねん。 
• 千葉ちば県立けんりつ上総かずさ博物館はくぶつかん, 編へん『東京とうきょう湾わんの船ふね』2006年ねん。※木更津きさらづ市立しりつ図書館としょかん担当たんとう者しゃ様さまにご教授きょうじゅ頂いただきました。 
• 藤澤ふじさわ, 紫むらさき『遊あそべる浮世絵うきよえ 体験たいけん版ばん・江戸えど文化ぶんか入門にゅうもん』東京書籍とうきょうしょせき、2008年ねん。 
• 永田ながた, 生なま慈「北斎ほくさい旅行りょこう考こう」『研究けんきゅう紀要きよう』第だい2号ごう、財団ざいだん法人ほうじん北斎ほくさい館かん　北斎ほくさい研究所けんきゅうじょ、2009年ねん、4-14頁ぺーじ。 
• 浅野あさの, 秀しゅう剛つよし監修かんしゅう『北斎ほくさい決定けってい版ばん』平凡社へいぼんしゃ〈別冊べっさつ太陽たいよう174〉、2010年ねん。 
• 田代たしろ, 博ひろし『「富士見ふじみ」の謎なぞ』祥伝社しょうでんしゃ〈祥伝社しょうでんしゃ新書しんしょ〉、2011年ねん。ISBN 978-4-396-11239-4。 
• 古田ふるた, 亮あきら、ほか, 編へん『近代きんだい洋画ようがの開拓かいたく者しゃ　高橋たかはし由一ゆいち』2012年ねん。 
• 静岡しずおか県立けんりつ美術館びじゅつかん 編へん『世界せかい遺産いさん登録とうろく 富士山ふじさんの絵画かいが展てん』2013年ねん。 
  • 福士ふくし, 雄也ゆうや『富士見ふじみのトポスとその変遷へんせん-「発見はっけん」される富士山ふじさん』2013年ねん、6-15頁ぺーじ。 
  • 福士ふくし, 雄也ゆうや『河村かわむら岷雪画が　百ひゃく富士ふじ』2013年ねん、74頁ぺーじ。 
• 和歌山わかやま県立けんりつ博物館はくぶつかん 編へん『桑山くわやま玉たま洲しゅうのアトリエ』2013年ねん。 
• 永田ながた, 生なま慈『限定げんてい版ばん新撰しんせん　葛飾かつしか北斎ほくさい 永寿えいじゅ堂どう版ばん富嶽ふがく三さん十じゅう六ろく景けい』小学館しょうがくかん、2014年ねん。 
• 橋本はしもと麻里まり『北斎ほくさい原寸げんすん美術館びじゅつかん 100%Hokusai!』小学館しょうがくかん、2016年ねん。 
• 河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ編集へんしゅう部ぶ『葛飾かつしか北斎ほくさい 世界せかいを魅了みりょうした鬼才きさい絵師えし』河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ、2016年ねん。 
• 日野ひの原げん, 健司けんじ『北斎ほくさい 富嶽ふがく三さん十じゅう六ろく景けい』岩波書店いわなみしょてん〈岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、2019年ねん。 
• 永田ながた生なま慈『もっと知しりたい 葛飾かつしか北斎ほくさい 生涯しょうがいと作品さくひん』（改訂かいてい版ばん）東京とうきょう美術びじゅつ、2019年ねん。 
• 磯崎いそざき康彦やすひこ「北斎ほくさいの風景ふうけい・風俗ふうぞく版画はんが」『福島大学ふくしまだいがく人間にんげん発達はったつ文化ぶんか学がく類るい論集ろんしゅう』 34巻かん、福島大学ふくしまだいがく人間にんげん発達はったつ文化ぶんか学がく類るい、2021年ねん、124-109頁ぺーじ。http://hdl.handle.net/10270/5478。 

関連かんれん項目こうもく

• 浮世絵うきよえ
• 名所めいしょ絵え
• 和船わせん

外部がいぶリンク

• “千葉ちば市し美術館びじゅつかん”. 2020年ねん2月がつ27日にち閲覧えつらん。-徳川とくがわ期きの絵画かいが・版画はんが・版本はんぽんコレクションが充実じゅうじつしている。
• “千葉ちば県立けんりつ中央ちゅうおう博物館はくぶつかん”. 2020年ねん2月がつ27日にち閲覧えつらん。
• “袖ケ浦そでがうら市し郷土きょうど博物館はくぶつかん”. 2020年ねん2月がつ27日にち閲覧えつらん。
• “木更津きさらづ市し郷土きょうど博物館はくぶつかん 金きんのすず”. 木更津きさらづ市し教育きょういく委員いいん会かい. 2020年ねん2月がつ27日にち閲覧えつらん。2021年ねん3月がつ31日にちまで、改修かいしゅう休館きゅうかん。
• “君津きみつ市し漁業ぎょぎょう資料しりょう館かん　ノリと海うみの資料しりょう館かん”. 2020年ねん2月がつ27日にち閲覧えつらん。
• “富津ふっつ埋立うめたて記念きねん館かん”. 2020年ねん2月がつ27日にち閲覧えつらん。
• “船ふねの科学かがく館かん”. 2020年ねん3月がつ1日にち閲覧えつらん。-和船わせんのミニチュア模型もけいが展示てんじされている。
• “木更津きさらづ市立しりつ図書館としょかん”. 2020年ねん2月がつ29日にち閲覧えつらん。
• “木更津きさらづ市し有形ゆうけい文化財ぶんかざい（古文書こもんじょ）木更津きさらづ船せん之の由緒ゆいしょ書しょ” (PDF) (2004年ねん6月がつ18日にち). 2020年ねん2月がつ27日にち閲覧えつらん。
• “木更津きさらづ市し有形ゆうけい文化財ぶんかざい（歴史れきし資料しりょう）五ご大力だいりき船せん絵馬えま” (PDF) (2014年ねん6月がつ18日にち). 2020年ねん2月がつ27日にち閲覧えつらん。