男根だんこん期き

男根だんこん期き（だんこんき、独どく: phallischen / ödipalen Phase、英えい: phallic stage）は、ジークムント・フロイトが主張しゅちょうする5つの心理しんり性的せいてき発達はったつ理論りろん（独どく: Triebtheorie、英えい: psychosexual development、リビドー発達はったつ段階だんかい）うちのひとつで、肛門こうもん期きに次ついで3番目ばんめに表あらわれる。男児だんじにおいてはペニスがその主役しゅやくをなし、女児じょじにおいてはクリトリスがその役割やくわりを担になう。ラテン語らてんごではファルスは陽ひ根ね＝勃起ぼっきした男根だんこんを指さし、性的せいてきな目覚めざめを意味いみする。

概要がいよう

フロイトによればこの時期じきの小児しょうに性欲せいよくの中心ちゅうしんは性器せいき（ペニス・クリトリス）である。子供こどもは自分じぶんの器官きかんの性器せいきとしての役割やくわりを知しり、男女だんじょの性的せいてき違ちがいに気きづいていく（精通せいつうがある、自慰じいをするなど）。この気き付つきには個々人ここじんによって、また男児だんじと女児じょじで発達はったつに違ちがいが出でてくる。時期じきについては諸説しょせつあるが、おおむね3歳さいから6歳さい頃ごろまでとされる。またこの時期じきにエディプス・コンプレックスが形成けいせいされる。男根だんこん期きはエディプス期きとも呼よばれ、重かさなっているとも考かんがえられるが、この点てんに関かんしては論者ろんしゃによっては違ちがいがある。いずれにしろペニスにリビドーが集中しゅうちゅうする時期じきを指さしている。

外そと性器せいきを持もつ男児だんじと内うち性器せいきを持もつ女児じょじとでは、この時期じきの生育せいいくが後天的こうてんてきな性格せいかくへ与あたえる影響えいきょうには差異さいがあるとされる。女児じょじは男根だんこんが無ないことに対たいする違和感いわかんを覚おぼえ、男児だんじは男根だんこんの勃起ぼっきにより性差せいさを自覚じかくする。そうした自覚じかくから性的せいてき好奇心こうきしんに目覚めざめ、お医者いしゃさんごっこなどの行為こういも見みられる。女児じょじには精通せいつうのようなダイナミックな性せい機能きのうの発現はつげんが初潮しょちょうまで無ないこと、性器せいきの勃起ぼっきの自覚じかくが女児じょじより男児だんじに顕著けんちょなため、女児じょじに限かぎって性的せいてきな快楽かいらくに目覚めざめることがこの男根だんこん期きへの移行いこうとされることもある。

この男根だんこん期きにペニスやクリトリスを通とおして形成けいせいされるリビドー（部分ぶぶん欲よく動どう）は、エディプスコンプレックスと呼よばれる両親りょうしんとの三角さんかく関係かんけいによって、去勢きょせいされるかされないかの葛藤かっとうを経験けいけんし、その結果けっかとして彼かれのリビドーは抑圧よくあつされる。自我じがや超ちょう自我じが、エスが形成けいせいされるという重要じゅうような時期じきとして考かんがえられる。

男根だんこん期きに関かんしてはジャック・ラカンのファルス理論りろんなどによって、さらに深ふかめられている。

男根だんこん期きへの固着こちゃく

男根だんこん期きに何なんらかのリビドー固着こちゃくが生しょうじると個人こじんの性格せいかくに影響えいきょうすると言いわれる。

例たとえば、男児だんじは母親ははおやもしくは母親ははおや的てきな存在そんざいに強つよく魅みかれるようになる。もしくは母性ぼせいへの逸脱いつだつした思慕しぼや、年齢ねんれいの極端きょくたんに離はなれた女性じょせいへの興味きょうみに固着こちゃくする。いわゆるマザーコンプレックスである。これはエディプスコンプレックス時じに生しょうじていた母親ははおやを獲得かくとくしたいという思おもいと同おなじものであり、神経症しんけいしょうによる退行たいこうの原因げんいんとなることもある。

男根だんこん期きとエディプスコンプレックスは強つよく関かかわっている。あまりに父親ちちおやから「ペニスを切きり落おとすぞ」というような威喝いかつが強つよかった場合ばあい、そのような経験けいけんは去勢きょせい不安ふあんとして残のこる事ことになる。その恐怖きょうふは恐怖症きょうふしょうや権威けんいへの恐おそれなど、様々さまざまな不安ふあんへと転換てんかんされる。これも神経症しんけいしょうの素地そじを作つくる。

女児じょじにおいては男児だんじと全まったく正せい反対はんたいで、男根だんこん期きに固着こちゃくすると、父親ちちおやや父親ちちおやに似にた存在そんざいに強つよく惹ひかれるようになる。これはいわゆるファーザーコンプレックスである。

また女児じょじはペニスを持もち続つづけていると勘違かんちがいする事ことがあり、これはエディプスコンプレックスの未み解決かいけつに由来ゆらいすると言いわれている。つまり男根だんこんに固着こちゃくしているという事ことであり、こうなると女性じょせいは男性だんせい的てきな性格せいかくを身みに付つけたり、自分じぶんは男性だんせいであると考かんがえるようになる。またその正せい反対はんたいにペニスが常つねに去勢きょせいされるという不安ふあんに怯おびえていると、自分じぶんは力ちからのない女性じょせいであると考かんがえるようになる。

以上いじょうの男根だんこん期きへの固着こちゃくは精神せいしん分析ぶんせきにおけるエディプスコンプレックスの理論りろんと強つよく関係かんけいしている。

批判ひはんと注記ちゅうき

後ごの精神せいしん分析ぶんせき家かや、精神せいしん分析ぶんせきに対たいするフェミニストからの反論はんろんにより、現代げんだいでは男根だんこん期きやエディプスコンプレックスにおけるペニス優位ゆういの考かんがえは大おおきな批判ひはん対象たいしょうとなっている。

フロイトの研究けんきゅうは男児だんじに偏かたよっていたため、女児じょじの性的せいてき発達はったつに関かんしては研究けんきゅうが深ふかまってはいない。ただしフロイト自身じしんは女児じょじの患者かんじゃから得えられたペニス羨望せんぼうや空想くうそう研究けんきゅうによって、初はじめは女児じょじもペニスを持もっていると考かんがえているが、自身じしんにはペニスがない事ことを自覚じかくするプロセスがあると主張しゅちょうしている。これが女児じょじの去勢きょせいコンプレックスであるが、女児じょじにおいてペニスに当あたるクリトリスに関心かんしんが集中しゅうちゅうしている段階だんかいとして彼かれは考かんがえているようである。

またフロイトの考かんがえるペニスという観念かんねんは、ラカンによって指摘してきされているが、正確せいかくにはファルスに近ちかい。つまりそれはリビドーという人間にんげんの根本こんぽん的てきな心しん的てきエネルギーの質しつを決きめるものなのである。故ゆえにフロイトは立派りっぱな女性じょせいたちに対たいして「あなたたちは女性じょせい的てきではなくて、むしろ男性だんせい的てきなのです」と言いっている。彼かれの男根だんこん期きに対たいする考かんがえ方かたには、そもそもペニスがリビドーの質しつを決きめ、またその質しつが「能動のうどう的てき・男性だんせい的てき」という特徴とくちょうを備そなえていることに注目ちゅうもくしていたようである。

関連かんれん項目こうもく

• 発達はったつ心理しんり学がく