去勢きょせい

去勢きょせい（きょせい、英語えいご:castration）とは、人間にんげんの男女だんじょ、または動物どうぶつの雌雄しゆうの生殖せいしょくに必要ひつような部位ぶいを切除せつじょすること^[1]。特とくに人間にんげんの男性だんせいや動物どうぶつの雄ゆうの精巣せいそう等ひとしの生殖せいしょくに必要ひつような部位ぶいの摘除てきじょを指さし、動物どうぶつの雌めすの場合ばあいは余計よけいな繁殖はんしょくを防ふせぐためなどの目的もくてきで不ふ妊にん手術しゅじゅつが行おこなわれる例れいが見みられる^[2]。

これらを行おこなう理由りゆうとしては、人間にんげんにおいては疾患しっかん、刑罰けいばつ、風習ふうしゅう、芸術げいじゅつ文化ぶんかなどのために行おこない、動物どうぶつにおいては家畜かちくの肉質にくしつ改良かいりょうや余計よけいな繁殖はんしょくを防ふせぐために行おこなわれる^[1]^[2]。

完全かんぜんに外そと陰部いんぶを去勢きょせいすることを「完全かんぜん去勢きょせい」という。

過去かこには障害しょうがい者しゃの不ふ妊にん手術しゅじゅつを法的ほうてきに強制きょうせいした旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうなどの法律ほうりつもあった^[3]。また、性せい犯罪はんざい者しゃに対たいして刑罰けいばつや再発さいはつ防止ぼうしのために化学かがく的てき去勢きょせいを行おこなう法律ほうりつを施行しこうしている国くにも多数たすう存在そんざいする^[4]^[5]^[6]。

概説がいせつ

手術しゅじゅつによる去勢きょせいは「去勢きょせい術じゅつ」と呼よばれ、男性だんせい（動物どうぶつなら雄ゆう）においては睾丸こうがんの摘出てきしゅつ（場合ばあいによっては陰茎いんけいの切断せつだんを伴ともなう）、女性じょせい（動物どうぶつなら雌めす）においては卵巣らんそうの摘出てきしゅつ（場合ばあいによっては子宮しきゅうと一緒いっしょに摘出てきしゅつ）をいう。男性だんせい（動物どうぶつなら雄ゆう）に限定げんていしていう時ときは「除じょ精せい（術じゅつ）」または「除じょ睾（術じゅつ）」ともいう。

幼よう去勢きょせい: 第だい二に性徴せいちょう以前いぜんの個体こたいの去勢きょせい
熟じゅく去勢きょせい: 成熟せいじゅくした個体こたいの去勢きょせい
半はん去勢きょせい: 片方かたがたの睾丸こうがんのみの摘出てきしゅつ
全ぜん去勢きょせい: 陰茎いんけい・両りょう睾丸こうがん・陰嚢ふぐりを含ふくめた男子だんし外がい性器せいきすべての切除せつじょ。「全ぜん除じょ精せい術じゅつ」ともいう。

去勢きょせいされた者ものは閹人（えんじん）と呼よばれる場合ばあいがある（「閹」は「閉」と同義どうぎで精液せいえきの出口でぐちが閉とじてる意い）

動物どうぶつ

現在げんざいでも家畜かちく・ペット・競走きょうそう馬ばなどに施ほどこされることが多おおく、雌めすが不用意ふよういに子こを産うみ増ふやすのを防止ぼうししたり、特とくに雄ゆうの攻撃こうげき的てきな性質せいしつなどを喪失そうしつさせる目的もくてきで行おこなわれたりすることが多おおい。また、食肉しょくにく用よう家畜かちくの雄ゆうは去勢きょせいすることによって肉質にくしつがよくなる。雄ゆうに対たいしての去勢きょせいは俗ぞくに玉たま抜ぬきと呼よぶ場合ばあいもある。去勢きょせいすると生殖せいしょく機能きのうが失うしなわれるため、子孫しそんを残のこすことは出来できなくなる。競走きょうそう馬ばにおいては去勢きょせいされた馬うまは騸馬と呼よばれる。牡馬ぼば（雄ゆうの馬うま）に対たいして行おこなわれるのが一般いっぱん的てきで、牝馬ひんば（雌めすの馬うま）を去勢きょせいすることは滅多めったに無ない。気性きしょうの悪わるさが原因げんいんで良よい成績せいせきを出だせない馬うまに行おこなわれることが多おおいが、去勢きょせいされることによって気性きしょうが良りょう化かし、良よい成績せいせきを出だす馬うまもいる。

騸馬 - 去勢きょせいされた馬うまで競馬けいばや軍馬ぐんばで用もちいられる。
ウシの去勢きょせい、去勢きょせい牛うし(Bullock、Ox)
豚ぶたでは、肉にくに豚ぶたの雄ゆう臭しゅうが出でて食たべられなくなるため、去勢きょせいするか成熟せいじゅくする前まえに屠ほふ畜を行おこなう。動物どうぶつ愛護あいごの面めんで、麻酔ますいや免疫めんえき学がく的てき去勢きょせいを行おこなう国くにもある。去勢きょせいした豚ぶたは英語えいごでBarrowという。
ベルウェザー（英語えいご版ばん） - 鈴すずが首くびにつけられた去勢きょせいされた牡おす羊ひつじである。去勢きょせいされた牡おす羊ひつじ（ウェザー、wether）は羊ひつじ飼かいに従順じゅうじゅんになり、羊ひつじ飼かいの訓練くんれんを経へて、羊ひつじの群むれを率ひきいるリーダーとしての役割やくわりを与あたえられる^[7]。
去勢きょせい鶏にわとり(Capon)
トラップ・ニューター・リターン（英語えいご版ばん） - 野良猫のらねこの生息せいそく数すう調整ちょうせいのための活動かつどうで、捕獲ほかく・絶ぜっ育そだて（避妊ひにん・去勢きょせい）・解放かいほうの英語えいご。

歴史れきし: 古代こだいシュメールの粘土ねんど板ばんに牛うしの去勢きょせいの記録きろくがある^[8]。そのほかに、旧約きゅうやく聖書せいしょのレビ記き、アリストテレスの『動物どうぶつ誌し』などにも去勢きょせいの記述きじゅつが見みられる^[8]。; 甲骨文字こうこつもじに豚ぶたの去勢きょせいを示しめす字じがある^[9]^[8]。また、兵馬へいば俑にある馬うまの像ぞうが騸馬（去勢きょせい馬ば）であるという指摘してきもある^[10]。

寄生きせい去勢きょせい

詳細しょうさいは「寄生きせい去勢きょせい（英語えいご版ばん）」を参照さんしょう

寄生きせい去勢きょせいとは、寄生きせい生物せいぶつによって、生殖せいしょく機能きのうを破壊はかいされることである。甲殻こうかく類るいに寄生きせいするフクロムシ類るい、ヤドリムシ亜あ目め（英語えいご版ばん）^[11]、貝かいなどの軟体生物せいぶつにはBucephalus mytili（英語えいご版ばん）が寄生きせい去勢きょせいを行おこなう^[12]。

ヒト

ヒトにおいては、古代こだいや中世ちゅうせいまでは刑罰けいばつとしても行おこなわれた。また、古代こだい中国ちゅうごくなどでの宦官かんがんや、近代きんだい以前いぜんのヨーロッパでのカストラートなど、目的もくてきや必要ひつよう条件じょうけんに応おうじて、意図いと的てきに多おおくのヒトに対たいして行おこなわれたケースもあった。また、男おとこに対たいする通過つうか儀礼ぎれいとして睾丸こうがんの片方かたがたを切除せつじょする部族ぶぞくもあり、半はん去勢きょせいと呼よばれる。

化学かがく的てき去勢きょせい

詳細しょうさいは「化学かがく的てき去勢きょせい」を参照さんしょう

化学かがく的てき去勢きょせいは、アンドロゲン除去じょきょ療法りょうほうとも呼よばれ、抗こうアンドロゲン剤ざいを利用りようした、性的せいてき欲求よっきゅう及および性せい機能きのうを思春期ししゅんき前まえの水準すいじゅんまで低下ていかさせる治療ちりょうをいう^[13]。

2015年ねん現在げんざいで化学かがく的てき去勢きょせいを実施じっししている国くにと地域ちいきは米国べいこくの8つの州しゅうおよびカナダ、ドイツ、オランダ、ポーランド、スイス、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、モルドバ、韓国かんこくである^[14]。

化学かがく的てき去勢きょせいに用もちいられる薬物やくぶつは、欧州おうしゅうでは主しゅとして酢酸さくさんシプロテロン（CPA）、アメリカでは主しゅとしてメドロキシプロゲステロン酢酸さくさんエステル（MPA）であるが、近年きんねんでは、リュープロレリン、ゴセレリン、トリプトレリンのような、CPAやMPAと比くらべて高価こうかであるが効力こうりょくが高たかいとされるGnRHアゴニストの使用しようが増加ぞうかしている^[13]。

化学かがく的てき去勢きょせいは、性せい犯罪はんざい者しゃに対たいする刑事けいじ罰ばつ（身体しんたい刑けい、残虐ざんぎゃくな刑罰けいばつ）ではなく、異常いじょうな性的せいてき衝動しょうどうを持もつ性的せいてき倒錯とうさく者しゃに対たいする治療ちりょうとして扱あつかわれることがある。

治療ちりょう

ヒポクラテスの説せつとして「去勢きょせいした人ひとは、痛風つうふうにもならないし禿はげない」とされたことから^[15]、痛風つうふうの治療ちりょうとして17世紀せいきまで去勢きょせいが治療ちりょうとして行おこなわれた^[16]。

前立腺ぜんりつせん癌がんのがん細胞さいぼうは、男性だんせいホルモンのテストステロンによって増殖ぞうしょくするため、去勢きょせい術じゅつを行おこなうことが治療ちりょうとされる^[17]。

文化ぶんか

ウーラノス - ギリシア神話しんわでクロノスに去勢きょせいされた神かみ。
キュベレー／スコプツィ
宦官かんがん／宮刑きゅうけい／自じ宮みや／羅ら切きり
カストラート
ユダヤ教きょう - 去勢きょせいした人間にんげんは改宗かいしゅうできない。動物どうぶつの去勢きょせいも行おこなわれない。
- 申さる命いのち記き - 第だい23章しょう「すべて去勢きょせいした男子だんしは主おもの会衆かいしゅうに加くわわってはならない。」^[18]

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

^ ^a ^b 去勢きょせい. コトバンクより2023年ねん10月がつ3日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b 不ふ妊にん・去勢きょせい手術しゅじゅつをして飼がいましょう環境省かんきょうしょう
^ 日本にっぽん放送ほうそう協会きょうかい. “旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法のっとってなに？ - 記事きじ”. NHKハートネット福祉ふくし情報じょうほう総合そうごうサイト. 2023年ねん10月がつ3日にち閲覧えつらん。
^ TIMES編集へんしゅう部ぶ, ABEMA (2022年ねん8月がつ29日にち). “年間ねんかん3万まん人にんが性せい被害ひがいに遭あうタイで“性せい犯罪はんざい者しゃの化学かがく的てき去勢きょせい”が可能かのうに臨床りんしょう心理しんり士し「日本にっぽんでも重症じゅうしょう者しゃで3人にんに1人ひとりが再犯さいはんする現状げんじょうに適用てきようを」”. ABEMA TIMES. 2023年ねん10月がつ4日にち閲覧えつらん。
^ “小児しょうに性せい犯罪はんざい者しゃを化学かがく的てきに去勢きょせい米まいアラバマで州法しゅうほう成立せいりつ”. BBCニュース. 2023年ねん10月がつ4日にち閲覧えつらん。
^ “韓国かんこく「化学かがく的てき去勢きょせい」初はつ執行しっこうへ、子こども狙ねらう性せい犯罪はんざい常習犯じょうしゅうはんに薬物やくぶつ投与とうよ”. www.afpbb.com (2012年ねん5月がつ24日にち). 2023年ねん10月がつ4日にち閲覧えつらん。
^ トレイルズ「道みち」と歩あるくことの哲学てつがく著者ちょしゃ:ROBERT MOOR
^ ^a ^b ^c 学まなべ, 小佐々こさざ (2011年ねん6月がつ). “日本にっぽん在来ざいらい馬ばと西洋せいよう馬ば--獣しし医療いりょうの進展しんてんと日にち欧おう獣じゅう医学いがく交流こうりゅう史し”. 日本にっぽん獣じゅう医師いし会かい雑誌ざっし = Journal of the Japan Veterinary Medical Association. pp. 419–426. 2023年ねん2月がつ4日にち閲覧えつらん。
^ “中国ちゅうごく兽医史し”. agri-history.ihns.ac.cn. 2023年ねん2月がつ4日にち閲覧えつらん。
^ 菊地きくち, 大樹たいき「秦はた馬ばの実像じつぞう」、[出版しゅっぱん社しゃ不明ふめい]、2021年ねん6月がつ20日はつか、doi:10.15083/0002000777。
^ 寄生きせい去勢きょせい. コトバンクより2023年ねん4月がつ21日にち閲覧えつらん。
^ Kuris, Armand M. (1974-06). “Trophic Interactions: Similarity of Parasitic Castrators to Parasitoids” (英語えいご). The Quarterly Review of Biology 49 (2): 129–148. doi:10.1086/408018. ISSN 0033-5770.
^ ^a ^b 小沢おざわ春はる希まれ「性せい犯罪はんざい者しゃの化学かがく的てき去勢きょせいをめぐる現状げんじょうと課題かだい」『レファレンス』 2019年ねん 824号ごう p.25-47, 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん
^ 姜きょう暻來、「韓国かんこくにおける性せい犯罪はんざい者しゃに対たいする化学かがく的てき去勢きょせい―性せい暴力ぼうりょく犯罪はんざい者しゃの性せい衝動しょうどう薬物やくぶつ治療ちりょうに関かんする法律ほうりつの概観がいかん」『比較ひかく法ほう雑誌ざっし』 2012年ねん 46巻かん 2号ごう p.75-102, ISSN 0010-4116, 日本にっぽん比較ひかく法ほう研究所けんきゅうじょ
^ “世界せかいの英雄えいゆうは､みんな｢痛風つうふう｣に苦くるしめられた”. 東洋とうよう経済けいざいオンライン (2016年ねん4月がつ16日にち). 2023年ねん2月がつ4日にち閲覧えつらん。
^ Christian von Deuster: Zur Pathologie der menschlichen Stimme. Medizinhistorische Betrachtungen zum Kastratengesang. 2004, S. 46 f. zu Kastration aus medizinischen Gründen.
^ 前立腺ぜんりつせんがん.
^ 『申さる命いのち記き(口語こうご訳やく)#第だい23章しょう』。ウィキソースより閲覧えつらん。