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磁気じき構造こうぞう

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単純たんじゅんつよ磁性じせい構造こうぞう
単純たんじゅんはんきょう磁性じせい構造こうぞう
2次元じげんにおけるべつ単純たんじゅんはんきょう磁性じせい構造こうぞう

磁気じき構造こうぞう(じきこうぞう、えい: Magnetic structure)という用語ようごは、ある物質ぶっしつの、典型てんけいてきには秩序ちつじょをもった結晶けっしょう格子こうしうえで、磁気じきスピン秩序ちつじょをもって配列はいれつする構造こうぞうす。固体こたい物理ぶつりがくいち分野ぶんやとして研究けんきゅうされている。

さまざまな磁気じき構造こうぞう

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ほとんどの固体こたい磁性じせいであり、すなわち磁気じき構造こうぞうたない。かく状態じょうたいパウリの排他はいた原理げんりにしたがい、たがいにはん平行へいこうのスピンをもつ電子でんしたいによってめられ、スピン密度みつどはいたるところで拮抗きっこうし、スピン自由じゆうはトリビアルなものになる。このような物質ぶっしつでも通常つうじょうは、パウリつね磁性じせいラーモアはん磁性じせいランダウはん磁性じせいのためよわ磁気じきてき挙動きょどうしめす。

より興味深きょうみぶかいケースとして、物質ぶっしつちゅう電子でんし上記じょうき対称たいしょうせい自発じはつてきやぶ場合ばあい存在そんざいする。基底きてい状態じょうたいにあるつよ磁性じせいからだちゅうでは、ある大域たいいきてき共通きょうつう単一たんいつスピン量子りょうしじくについて特定とくていのスピン量子りょうしすう電子でんし過多かたとなり、物質ぶっしつ巨視的きょしてき磁化じかしめす(通常つうじょう多数たすう電子でんしスピンのきを上向うわむきとする)。はんつよし磁性じせいからだでは、もっと単純たんじゅんともせんてきはん磁性じせいたい場合ばあい電子でんしスピンは交互こうご上下じょうげいており、たがいにしあって巨視的きょしてき磁化じかしょうじない。しかし、とく磁気じきフラストレーションのあるはん磁性じせいたい場合ばあい、はるかに複雑ふくざつ磁気じき構造こうぞうしょうじ、局所きょくしょてきスピンの配向はいこう本質ほんしつてきに3次元じげん自由じゆうをとる。磁鉄鉱じてっこうはじめとするフェリ磁性じせいからだは、ある意味いみつよ磁性じせいたいはんきょう磁性じせいたいなかあいだてきなふるまいをしめす。フェリ磁性じせいたいつよ磁性じせいたいおなじく巨視的きょしてき磁化じかしめすが、局所きょくしょてきにはことなる方向ほうこういた磁化じかつ。

上記じょうき議論ぎろん基底きてい状態じょうたい磁気じき構造こうぞうかんするもので、有限ゆうげん温度おんどしたでは磁気じき構造こうぞう励起れいきける。これを記述きじゅつするための、両極端りょうきょくたんのモデルがられている。ストナー模型もけい遍歴へんれき電子でんし磁性じせいからだとも)では、電子でんし状態じょうたい局在きょくざいされており、それらの平均へいきんじょう相互そうご作用さようにより対称たいしょうせいやぶられる。この描像では、温度おんど上昇じょうしょうともな電子でんし上向うわむきスピン状態じょうたいから下向したむきスピン状態じょうたい移動いどうするため、局所きょくしょてき磁化じか一様いちよう減衰げんすいする。一方いっぽう電子でんし状態じょうたい特定とくてい原子げんし局在きょくざいし、原子げんしスピンあいだ短距離たんきょり相互そうご作用さようのみがはたらく場合ばあいは、量子りょうしハイゼンベルク模型もけい英語えいごばんもちいられる。この場合ばあいも、有限ゆうげん温度おんどでは原子げんしスピン配向はいこう理想りそうてき配置はいちから逸脱いつだつし、したがって、つよ磁性じせいたい巨視的きょしてき磁化じかはやはり減衰げんすいする。

局所きょくしょてき磁性じせいについては、おおくの磁気じき構造こうぞう磁気じき空間くうかんぐん英語えいごばんによって記述きじゅつされる。これにより、ある3次元じげん結晶けっしょう構造こうぞうにおいて可能かのう上下じょうげスピン構成こうせいのすべての対称たいしょうぐん列挙れっきょすることができる。しかし、この形式けいしきでは螺旋らせん磁性じせいのようなより複雑ふくざつ磁気じき構造こうぞう記述きじゅつすることはできない。

研究けんきゅう手法しゅほう

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磁気じき構造こうぞうちゅう秩序ちつじょは、磁化じかりつ温度おんどおよび印加いんか磁場じば強度きょうど関数かんすうとして観察かんさつすることによっても研究けんきゅうすることができるが、スピン配置はいちを3次元じげん画像がぞうとして実際じっさい観測かんそくするためには、中性子ちゅうせいし回折かいせつもっともよく使つかわれる[1][2]中性子ちゅうせいしける散乱さんらん結晶けっしょう構造こうぞうちゅう原子核げんしかくによるものがおもである。このため、あい転移てんいてん以上いじょうの、物質ぶっしつつね磁性じせいたいとして温度おんど範囲はんいでは、中性子ちゅうせいし回折かいせつ結晶けっしょう構造こうぞう画像がぞうのみをあたえる。あい転移てんいてんたとえばはんつよし磁性じせいたいにおいてはネール温度おんどつよ磁性じせいたいにおいてはキュリーてんよりしたでは、中性子ちゅうせいし自体じたいのもつスピンが磁気じきモーメントに起因きいんする散乱さんらんけるようになり、ブラッグ反射はんしゃ強度きょうど変化へんかする。事実じじつとして、磁気じき構造こうぞう単位たんい格子こうし結晶けっしょう構造こうぞう単位たんい格子こうしよりもおおきい場合ばあい、まったくあたらしいブラッグ反射はんしゃ発生はっせいすることもある。これはちょう構造こうぞう英語えいごばん形成けいせいいち形態けいたいである。したがって、構造こうぞう全体ぜんたいとしての対称たいしょうせいも、結晶けっしょう構造こうぞうとはことな結晶けっしょうぐんとなりうる。このような構造こうぞうは、磁性じせい考慮こうりょしない通常つうじょう空間くうかんぐんではなく、1651種類しゅるいある磁気じき空間くうかんぐんシュブニコフ英語えいごばんぐん )のうちどれかにより記述きじゅつする必要ひつようがある[3]

通常つうじょうXせん回折かいせつはスピン配置はいちについて「盲目もうもく」であるが、特殊とくしゅ形式けいしきのXせん回折かいせつにより磁気じき構造こうぞう研究けんきゅうすることが可能かのうになってきている。物質ぶっしつちゅうのある元素げんそ吸収きゅうしゅうはし英語えいごばんちか波長はちょう選択せんたくされた場合ばあい散乱さんらん異常いじょうしめし、この異常いじょう成分せいぶんたいになっていないスピンを原子げんしそとから電子でんしの、たま対称たいしょう分布ぶんぷに(ある程度ていど反応はんのうする。したがって、このたねXせん異常いじょう回折かいせつ英語えいごばんから磁気じき構造こうぞうについての情報じょうほうることが可能かのうである。

より近年きんねんでは、中性子ちゅうせいしげんシンクロトロンみなもとたよることなく磁気じき構造こうぞう研究けんきゅうできる卓上たくじょう技術ぎじゅつ開発かいはつされている[4]

単体たんたい元素げんそ磁気じき構造こうぞう

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常温じょうおんつねあつつよ磁性じせいしめ単体たんたい元素げんそは、てつコバルトニッケルの3つのみである。これは、キュリー温度おんどTc室温しつおんよりもたかいためである。(Tc > 298 K)。ガドリニウムは、室温しつおんのすぐで(293 K自発じはつ磁化じかしめしはじめるため、4番目ばんめつよ磁性じせい元素げんそとしてかぞえられることもある。ガドリニウムには螺旋らせん磁性じせい構造こうぞうつことを示唆しさする研究けんきゅうがいくつかあるが[5] 、ガドリニウムは通常つうじょうつよ磁性じせいたいであるという従来じゅうらいからの見解けんかい補強ほきょうする研究けんきゅうもある[6]

ジスプロシウムエルビウム単体たんたいは、どちらも2つの磁気じきしょう転移てんいてんつ。これらはどちらも室温しつおんではつね磁性じせいしめすが、ネール温度おんど以下いかでは螺旋らせん磁性じせいを、キュリー温度おんど以下いかではつよ磁性じせいしめす。ホルミウムテルビウムツリウムは、さらに複雑ふくざつ磁気じき構造こうぞうしめ[7]

ネール温度おんどえると秩序ちつじょうしなたんきょう磁性じせい構造こうぞうもある。クロムは、ある程度ていど単純たんじゅんはんきょう磁性じせいたいのようにふるまうが、単純たんじゅん上下じょうげ交互こうごスピン構造こうぞううえっていないスピン密度みつど変調へんちょう[8]マンガンαあるふぁ-しょうは29原子げんし単位たんい胞をち、低温ていおんでは複雑ふくざつではあるが全体ぜんたいとしてしあうたんきょう磁性じせい配置はいちをとる(磁気じき空間くうかんぐん英語えいごばんP 4 2'm')[9][10]。ほとんどの単体たんたい元素げんそしめ磁性じせい電子でんし由来ゆらいするが、どうぎん磁気じき秩序ちつじょは、電子でんしくらべはるかによわかく磁気じきモーメントボーア磁子かく磁子をの参照さんしょう)によって支配しはいされ、絶対ぜったいれいちか転移てんい温度おんどをもつ[11][12]

ちょう伝導でんどうたいとなる元素げんそは、臨界りんかい温度おんど以下いかちょうはん磁性じせいしめす。

元素げんそ番号ばんごう 元素げんそめい ちょう伝導でんどう Tc キュリー温度おんど ネール温度おんど
3 リチウム 0.0004 K[13]
13 アルミニウム 1.18 K[13]
22 チタン 0.5 K[13]
23 バナジウム 5.4 K[13]
24 クロム 311 K[14]
25 マンガン 100 K[14]
26 てつ 1044 K[15]
27 コバルト 1390 K[15]
28 ニッケル 630 K[15]
29 どう 6×10−8 K[14]
30 亜鉛あえん 0.85 K[13]
31 ガリウム 1.08 K[13]
40 ジルコニウム 0.6 K[13]
41 ニオブ 9.25 K[13]
42 モリブデン 0.92 K[13]
43 テクネチウム 8.2 K[13]
44 ルテニウム 0.5 K[13]
45 ロジウム 0.0003 K[13]
46 パラジウム 1.4 K[13]
47 ぎん 5.6×10−10 K[14]
48 カドミウム 0.52 K[13]
49 インジウム 3.4 K[13]
50 スズ 3.7 K[13]
57 ランタン 6 K[13]
58 セリウム 13 K[14]
59 プラセオジム 25 K[14]
60 ネオジム 19.9 K[14]
62 サマリウム 13.3 K[14]
63 ユウロピウム 91 K[14]
64 ガドリニウム 293.4 K[15]
65 テルビウム 221 K[15] 230 K[14]
66 ジスプロシウム 92.1 K[15] 180.2 K[14]
67 ホルミウム 20 K[15] 132.2 K[14]
68 エルビウム 18.74 K[15] 85.7 K[14]
69 ツリウム 32 K[15] 56 K[14]
71 ルテチウム 0.1 K[13]
72 ハフニウム 0.38 K[13]
73 タンタル 4.4 K[13]
74 タングステン 0.01 K[13]
75 レニウム 1.7 K[13]
76 オスミウム 0.7 K[13]
77 イリジウム 0.1 K[13]
80 水銀すいぎん 4.15 K[13]
81 タリウム 2.4 K[13]
82 なまり 7.2 K[13]
90 トリウム 1.4 K[13]
91 プロトアクチニウム 1.4 K[13]
92 ウラン 1.3 K[13]
95 アメリシウム 1 K[13]

出典しゅってん

[編集へんしゅう]
  1. ^ Neutron diffraction of magnetic materials / Yu. A. Izyumov, V.E. Naish, and R.P. Ozerov ; translated from Russian by Joachim Büchner. New York : Consultants Bureau, c1991.ISBN 030611030X
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