紀州きしゅう犬けん

**紀州きしゅう犬けん**
別名べつめい	紀州きしゅう
原産地げんさんち	日本にっぽん
特徴とくちょう
毛色けいろ	ほぼ白しろで、まれに赤あかや胡麻ごまもいる
主要しゅよう畜犬団体だんたいによる分類ぶんるいと標準ひょうじゅん
	イヌ (Canis lupus familiaris)

紀州きしゅう犬けん（きしゅうけん^[1]^[2]^[3]、きしゅういぬ^[4]）は、三重みえ県けんから和歌山わかやま県けん原産げんさんの日本犬にほんいぬの一種いっしゅ。日本にっぽん犬けんとしては中型ちゅうがたである^[2]。1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん）、天然記念物てんねんきねんぶつに指定していされた^[1]^[5]。

概要がいよう[編集へんしゅう]

紀伊きい国こく（現在げんざいの和歌山わかやま県けん～三重みえ県けんの熊野くまの地方ちほう）の山岳さんがく部ぶ、すなわち紀伊きい山地さんち周辺しゅうへんのイノシシ狩猟しゅりょうや、それに伴ともなう諸しょ作業さぎょうに使つかわれていた土着どちゃく犬けんを品種ひんしゅ固定こていした犬いぬで、イノシシ狩猟しゅりょうのための専せん門もんの訓練くんれん所しょも存在そんざいする。また、近畿きんき地方ちほう南部なんぶを中心ちゅうしんに家庭かてい犬けんとしての愛好あいこう者しゃも多おおい。

天然記念物てんねんきねんぶつに指定していされている日本犬にほんいぬ6種しゅの中なかでも飼育しいく頭数とうすうが少すくなめで、ジャパンケネルクラブ(JKC)の2021年ねん登録とうろく数すうでは6種しゅ中ちゅう6位いにとどまっている^[6]。日本犬にほんいぬ保存ほぞん会かいの年間ねんかん登録とうろく数すうを見みると1998年ねん（平成へいせい10年ねん）は1450頭とうの登録とうろくがあったが、2022年ねん（令れい和わ4年ねん）には220頭とうと激減げきげんしている^[7]。

歴史れきし[編集へんしゅう]

1934年ねん 5月1日にち、文部省もんぶしょう（現げん・文部もんぶ科学かがく省しょう）より、紀州きしゅう犬けんは文化財ぶんかざい保護ほご法ほうに基もとづく天然記念物てんねんきねんぶつの指定していを受うけている。そのため、紀州きしゅう犬けんの産地さんちである和歌山わかやま県けんや三重みえ県けんでは紀州きしゅう犬けんの保護ほごに注力ちゅうりょくしている。

和歌山わかやま県けん教育きょういく委員いいん会かいでは優良ゆうりょう紀州きしゅう犬けん章あきら審査しんさ会かいを開催かいさいし、特とくに優良ゆうりょうと認みとめられる紀州きしゅう犬けんに「優良ゆうりょう紀州きしゅう犬けん章あきら」を交付こうふし、台帳だいちょうに登録とうろくしている。^[8]

三重みえ県けん教育きょういく委員いいん会かいも年としに1度ど審査しんさ会かいを開催かいさいし、保存ほぞんの必要ひつようが認みとめられた優良ゆうりょう紀州きしゅう犬けんを紀州きしゅう犬けん台帳だいちょうに登録とうろくするなどして保存ほぞんに努つとめている。^[9]

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

すっきりと鼻筋はなすじの通とおった顔かおにピンとたった三角さんかく耳みみと細ほそい三角さんかく目め（虹彩こうさいは褐色かっしょく）を持もち、典型てんけい的てきな日本にっぽん土着どちゃく犬けんの特徴とくちょうを見みせるが、尾おは柴犬しばけんなどに多おおい巻まき尾おではなく狼おおかみのような差さし尾おが多おおい。

硬かたい直ちょく毛けの上うえ毛げとやわらかく密生みっせいした下毛しもげのダブルコートに覆おおわれた体からだはがっちりした筋肉質きんにくしつで、頭部とうぶがやや大おおきく、顎あごと地面じめんに踏ふん張ばる四肢ししの筋肉きんにくは特とくによく発達はったつしている。

現在げんざい、紀州きしゅう犬けんのほとんどが白しろい被ひ毛けの個体こたいだが、虎毛とらげや胡麻ごま毛げも認みとめられている。白色はくしょく毛げのものが多おおい理由りゆうについては、薄暗うすぐらい山林さんりんでのイノシシとの誤あやま射しゃを防ふせぐためとされるが、実際じっさいは白しろが好このまれる最近さいきんの傾向けいこうによる部分ぶぶんが大おおきいとの説せつもあり、昭和しょうわ初期しょき頃ごろまでは有色ゆうしょく犬けんも少すくなくなかった。

また元来がんらいは白しろ・虎とら・胡麻ごまのほかに斑むら毛げのものも多おおく見みられたが、天然記念物てんねんきねんぶつに指定していされた1934年ねん以降いこう、毛色けいろの統一とういつが図はかられた結果けっか、斑むら毛げのものは姿すがたを消けした。

体高たいこう：オス 49 - 55cm / メス 46 - 52cm
体重たいじゅう：オス 18 - 25kg / メス 15 - 20kg

特性とくせい[編集へんしゅう]

本来ほんらいの作出さくしゅつ目的もくてきは、「紀伊きい山地さんち周辺しゅうへんの山村さんそんにおけるイノシシの狩猟しゅりょうおよびそれに伴ともなう諸しょ作業さぎょう」であり、一時いちじはシカ狩かりにも用もちいられた。

優すぐれた犬いぬは1頭とうでもイノシシを倒たおすと言いわれるほどの勇猛ゆうもうさで知しられ、気性きしょうは荒あらい傾向けいこうがある。そのため躾しつけけを怠おこたって野放のばなしにすると非常ひじょうに攻撃こうげき的てきな性格せいかくになり、（特とくに家族かぞく以外いがいの）人間にんげんや犬いぬに噛かみつく危険きけん性せいがある。しかし、きちんと躾しつけを施ほどこせば優秀ゆうしゅうな家庭かてい犬けんになり、小ちいさな子供こどものいる家庭かていでも問題もんだいなく飼育しいくできる。

日本にっぽん土着どちゃく犬けんの一般いっぱん的てき特性とくせいとして、主人しゅじんに忠実ちゅうじつでよそ者ものを警戒けいかいする性質せいしつを持もつため、番犬ばんけんに適てきしている。ただし、大型おおがた動物どうぶつ狩猟しゅりょう犬けんとしての特性とくせい上じょう、無駄むだ吠ほえが少すくないため、威嚇いかくよりも撃退げきたい向むきである。自分じぶんや家族かぞくに害がいを及およぼす相手あいてに対たいしては、一切いっさい容赦ようしゃせず強靭きょうじんな顎あごで食くらいつく。

体質たいしつは非常ひじょうに丈夫じょうふで手入ていれもしやすく、遺伝いでん病びょうは少すくない。山地さんちでの激はげしい狩かりにも耐たえうる体力たいりょく・持久じきゅう力りょくを有ゆうするため、飼育しいくする場合ばあいには十分じゅうぶんな運動うんどうが要求ようきゅうされる。よって、飼育しいく環境かんきょうは郊外こうがいの一軒家いっけんやや農村のうそん地帯ちたいが好このましい。

狩猟しゅりょう[編集へんしゅう]

紀州きしゅう犬けんは、紀伊きい山地さんちに広ひろがる広葉樹こうようじゅ林はやしでのイノシシ狩猟しゅりょうのエキスパートとして、何なに世紀せいきもの間あいだ活躍かつやくしてきた犬いぬであり、祖先そせんは紀元前きげんぜんからいた土着どちゃくの中型ちゅうがた犬けんとされる。

伝統でんとう的てきなイノシシ狩猟しゅりょうでは、狩猟しゅりょう銃じゅうを持もった7、8人にんのハンターと、各かくハンターにつき3、4頭とうの狩猟しゅりょう犬けんが一ひとつの山やまの麓ふもとからばらばらに森もりへ入はいり、音おとを頼たよりに追おい立たてる方法ほうほうをとる。

通常つうじょうは、100kg以上いじょうの体重たいじゅうと鋭するどい牙きばを持もつイノシシに中型ちゅうがた犬けんが飛とびかかっても簡単かんたんに跳はね飛とばされて重傷じゅうしょうを負おってしまうため、犬いぬの重要じゅうような役目やくめはイノシシに攻撃こうげきを加くわえることよりも、むしろイノシシを一いち箇所かしょに留とめておくことである。犬いぬはハンターが来くるまで体勢たいせいを低ひくくして遠巻とおまきにイノシシを挑発ちょうはつ、イノシシが疲弊ひへいしたところを狙ねらって、ハンターがとどめをさす。ただし、ハンターが来こられそうにない場合ばあいなど、まれに犬いぬのみで狩かりを成功せいこうさせることもある。

俗説ぞくせつでは紀州きしゅう犬けんがイノシシを狩かる場合ばあい、雄ゆうがイノシシの前方ぜんぽうから、雌めすが後方こうほうから挟はさみ撃うちにして追おい詰つめると言いわれる。

伝説でんせつ[編集へんしゅう]

江戸えど時代じだい、紀伊きい国こく阪本さかもと村むらの鉄砲てっぽう名人めいじん・弥わたる九郎くろうが山道さんどうを歩あるいていると、オオカミが苦くるしんでいた。かわいそうに思おもって助たすけてやると、後日ごじつ弥わたる九郎くろうの家いえの前まえにオオカミの子こと思おもわれる一いち匹ひきの子犬こいぬがいた。弥わたる九郎くろうはその子犬こいぬに「マン」という名なを与あたえて育そだてた。新しん宮城みやぎ主あるじが狩猟しゅりょうを行おこなった際さい、一いち頭とうのイノシシが突進とっしんしてきたが、マンがイノシシを撃退げきたいし、その名声めいせいは大おおいに上あがったという。

このマンが紀州きしゅう犬けんの先祖せんぞと伝つたえられており、紀州きしゅう犬けんはオオカミの血ちを引ひいているという。また、弥わたる九郎くろうの墓所はかしょは熊野くまの観音かんのん札所ふだしょ第だい17番ばん水すい月山がっさん岩いわ洞ほら院いん（三重みえ県けん南牟婁みなみむろ郡ぐん御浜みはま町まち阪本さかもと）にある。

危険きけん犬いぬ種しゅ（特定とくてい犬けん）としての扱あつかい[編集へんしゅう]

一部いちぶ自治体じちたいでは、紀州きしゅう犬けんを人ひとに危害きがいを加くわえる恐おそれがある犬いぬ種しゅとして「特定とくてい犬けん」に指定していしている。

紀州きしゅう犬けん以外いがいに特定とくてい犬けんとして指定していされている犬いぬ種しゅとして、土佐とさ闘犬とうけん、秋田あきた犬いぬ、ジャーマン・シェパード、ドーベルマン、グレートデーン、セント・バーナード、アメリカン・スタッフォードシャー・テリア（アメリカン・ピット・ブル・テリア）がある。

イギリスやフランス、ドイツなど諸しょ外国がいこくでは土佐とさ闘犬とうけんなどの闘犬とうけんを「危険きけん犬いぬ種しゅ」としてペット飼育しいくの規制きせい対象たいしょうに指定していしており、飼育しいくが可能かのうな場合ばあいであっても、口くち輪わの装着そうちゃくなど厳重げんじゅうな管理かんりが義務付ぎむづけられている場合ばあいがある。しかし日本にっぽんにおいては、飼主かいぬしのずさんな管理かんりが原因げんいんの特定とくてい犬いぬ種しゅによる咬傷こうしょう事故じこが絶たえないにもかかわらず、法的ほうてきな飼育しいく規制きせいはされていない。

2015年ねん9月14日にち、千葉ちば県けん松戸まつど市しの路上ろじょうで女性じょせいが紀州きしゅう犬けん(7歳さい雄ゆう、体長たいちょう1m20cm余あまり、体重たいじゅう21kg)に噛かまれる事故じこがあった。前日ぜんじつに10代の男性だんせいが噛かまれたことで脱走だっそうが判明はんめいしており、犬いぬを捜索そうさくしていた松戸まつど署しょ署員しょいん3名めいと飼かい主ぬしで取とり押おさえようとしたが飼かい主ぬしにも噛かみついたため、松戸まつど署員しょいんが飼かい主ぬしに許可きょかを取とって拳銃けんじゅうを発砲はっぽうし射殺しゃさつした。発砲はっぽうは13発はつにも及およんでおり全国ぜんこくから非難ひなんが殺到さっとうしたが、松戸まつど署しょは「麻酔ますい銃じゅうは猟りょう友とも会かいなどしか持もっておらず、警察けいさつの通常つうじょう装備そうびにはない。緊急きんきゅう時じの対応たいおうとして、拳銃けんじゅうの使用しようは適切てきせつだった」としている。犬いぬ用ようのおりや網あみも手配てはいしていたが間まに合あわなかったという^[10]。事故じこ後ごのマスコミ取材しゅざいで、この犬いぬは劣悪れつあくな飼育しいく環境かんきょう・管理かんりのもとで飼育しいくされていたことが分わかった。近所きんじょの住民じゅうみんによると、5年ねん前まえに脱走だっそうして人ひとや小型こがた犬けんに噛かみついて以来いらいは狭せまいベランダで飼かわれており、散歩さんぽに連つれていかれるのを見みたこともなく、片かたづけられていない糞尿ふんにょうの異臭いしゅうがしていたという^[11]^[12]^[13]。その後ご、11月に松戸まつど署しょは過失かしつ傷害しょうがいなどの罪つみで飼かい主ぬしを松戸まつど区検くけんに書類しょるい送検そうけんしているが、2016年ねん2月がつ12日にちに松戸まつど区検くけんは不ふ起訴きそ処分しょぶんとしている。理由りゆうは明あきらかにされていない^[14]。