オオカミ

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タイリクオオカミ
タイリクオオカミ Canis lupus
保全ほぜんじょうきょう評価ひょうか[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類ぶんるい
ドメイン : かく生物せいぶつ Eukaryota
さかい : 動物界どうぶつかい Animalia
もん : 脊索せきさく動物どうぶつもん Chordata
もん : 脊椎動物せきついどうぶつもん Vertebrata
つな : 哺乳ほにゅうつな Mammalia
: ネコ食肉しょくにくCarnivora
: イヌ Caniformia
: イヌ Canidae
: イヌ Caninae
ぞく : イヌぞく Canis
たね : タイリクオオカミ C. lupus
学名がくめい
Canis lupus
Linnaeus1758
和名わみょう
オオカミ
タイリクオオカミ
ハイイロオオカミ
英名えいめい
Wolf
Gray wolf
Timber wolf
オオカミの分布ぶんぷ
みどり現在げんざいあか過去かこ

オオカミおおかみえい: wolf学名がくめいCanis lupus)は、ユーラシア大陸たいりくきたアメリカ生息せいそくする大型おおがたイヌぞく哺乳ほにゅう動物どうぶつで、ハイイロオオカミタイリクオオカミともばれている。30以上いじょう亜種あしゅ認識にんしきされており、口語こうごてき理解りかいされているハイイロオオカミは、家畜かちくされていない野生やせい亜種あしゅ構成こうせいされている。オオカミは現存げんそんするイヌ動物どうぶつなか最大さいだい動物どうぶつである。また、のイヌ動物どうぶつとは、みみマズルがあまりとがっていないこと、胴体どうたいみじかく、ながいことで区別くべつされる。しかし、オオカミはコヨーテゴールデンジャッカルなどの小型こがたのイヌ動物どうぶつきんえんであり、それらの動物どうぶつとのあいだ生殖せいしょく能力のうりょくのある交配こうはいしゅしている。オオカミの帯状おびじょう毛皮けがわ通常つうじょう白色はくしょく茶色ちゃいろ灰色はいいろ黒色こくしょくざっているが、北極圏ほっきょくけん亜種あしゅはほとんどしろであることもある。

オオカミはイヌぞくなかもっと協力きょうりょくてき狩猟しゅりょうとくしており、おおきな獲物えものいどむための身体しんたいてき適応てきおうや、より社会しゃかいてき性質せいしつ高度こうど表現ひょうげん行動こうどうなどがそれをしめしている。オオカミは、交尾こうびしたペアとその子供こどもからなるかく家族かぞく移動いどうする。性的せいてき成熟せいじゅくすると、またなかでのえさうばいにおうじて、それぞれのれを形成けいせいするためにはなれることがある。また、オオカミには縄張なわば意識いしきがあり、縄張なわばりをめぐるあらそいがオオカミのおも死亡しぼう原因げんいんとなっている。オオカミはおも肉食にくしょくせいで、かく大型おおがた哺乳類ほにゅうるいのほか、しょう動物どうぶつ家畜かちく腐肉ふにくなまゴミなどをべる。単独たんどくのオオカミやつがいのオオカミは、一般いっぱんてきおおきなれよりもりの成功せいこうりつたかくなる。狂犬病きょうけんびょうウイルスをはじめとする病原びょうげんたい寄生虫きせいちゅうがオオカミに感染かんせんする可能かのうせいがある。

世界せかい野生やせいオオカミの個体こたいすうは2003ねんには30まんとう推定すいていされ、国際こくさい自然しぜん保護ほご連合れんごう(IUCN)では「軽度けいど懸念けねん」とされている。

イヌとの関係かんけい[編集へんしゅう]

従来じゅうらいはオオカミのきんえんしゅとされていたイヌ(イエイヌ)は、近年きんねんではオオカミのいち亜種あしゅ Canis lupus familiaris とする見方みかた主流しゅりゅうになりつつある。ただし、日常にちじょうとしての「オオカミ」には通常つうじょう、イヌはふくまれない。イヌはオオカミがらされて家畜かちくしたものとかんがえられている。

イヌとオオカミのちがいが部分ぶぶんとして胸郭きょうかくげる。オオカミの胸郭きょうかくはイヌの胸郭きょうかくよりもはばせまく、ふかい(上下じょうげたかさがたかい)。オオカミの胸郭きょうかくふかいのは肋骨あばらぼね比較的ひかくてきながく、せまいのは肋骨あばらぼね後方こうほうているためだという。具体ぐたいてきには肋骨あばらぼね頸(肋骨あばらぼね上部じょうぶ胸椎きょうつい関節かんせつする部分ぶぶん)が前方ぜんぽうがっているために、肋骨あばらぼねたい肋骨あばらぼね主部しゅぶ)ががっている形状けいじょうになっているイヌの胸郭きょうかくたいして、オオカミの胸郭きょうかく肋骨あばらぼね頸のがりがほとんどないためうしろにてしまうのだという。オオカミの胸郭きょうかくはばせまくてもふかさがあるためにイヌの胸郭きょうかく容積ようせきてきには大差たいさがないが、深呼吸しんこきゅうをするさいにはオオカミの胸郭きょうかく普段ふだん肋骨あばらぼねかせているぶんだけ、一層いっそう胸郭きょうかく容積ようせきおおきくすることができ、イヌよりもふか呼吸こきゅう出来できるのだという[2]

分布ぶんぷ亜種あしゅ[編集へんしゅう]

亜種あしゅ分布ぶんぷ

北半球きたはんきゅうひろ分布ぶんぷする。分布ぶんぷいきひろいタイリクオオカミはおおくの亜種あしゅ細分さいぶんされる。現存げんそん亜種あしゅは33(絶滅ぜつめつしゅふくめ39亜種あしゅ)に分類ぶんるいされてきたが、近年きんねん研究けんきゅう現存げんそん13亜種あしゅ絶滅ぜつめつ2亜種あしゅへの統合とうごう提案ていあんされている。

かく亜種あしゅ画像がぞう[編集へんしゅう]

形態けいたい[編集へんしゅう]

頭骨とうこつ

おおきさは亜種あしゅ地域ちいきによってことなる。からだどうちょう100 - 160cmかたまでの体高たいこう60 - 90cm、体重たいじゅうは25 - 50kgおおきい個体こたいでは50kgをえるものもいるが、ゆうでも54キロをえるのはまれである。一般いっぱんめすゆう体重たいじゅうより10 - 20パーセント程度ていどちいさい。現生げんなまのイヌのなかで最大さいだい高緯度こういどほどおおきくなる傾向けいこうがある(ベルクマンの法則ほうそく)。記録きろくじょうでは1938ねんアラスカで捕獲ほかくされた体重たいじゅう79.3kgのゆう、ユーラシア大陸たいりくではウクライナころされた 86キログラムのものが最大さいだいとしている。からだしょくはい褐色かっしょくおおく、個体こたいによりしろからくろまである。子供こども時期じきからだしょくい。北極圏ほっきょくけん亜種あしゅはよりしろい。体毛たいもうそうかれ保温ほおん防水ぼうすいすぐれ、なつふゆがある。また姿勢しせいにおいては頭部とうぶ位置いちがイヌにくらべてひくく、頭部とうぶから背中せなかにかけては地面じめんたいして水平すいへいである。

オオカミの足跡あしあと

しきは3/3·1/1·4/4·2/3 = 42で、上顎じょうがくには6ほん門歯もんし、2ほん犬歯けんし、8ほんしょう臼歯きゅうし、および4ほんだい臼歯きゅうしがあり、しもあごには6ほん門歯もんし、2ほん犬歯けんし、8ほんしょう臼歯きゅうし、および6ほんだい臼歯きゅうしち、いずれもイヌよりおおきく丈夫じょうぶである。あたまからはなにかけての頭骨とうこつのラインはイヌよりなめらかで、イヌよりもあご筋肉きんにくりょうおおく、頬骨ほおぼね位置いちたかいため、イヌと比較ひかくしてになっている。また上部じょうぶスミレせん英語えいごばんつ。

ほとんどのイヌのように陰茎いんけいこつ[3]

生態せいたい[編集へんしゅう]

オオカミは雌雄しゆうのペアを中心ちゅうしんとした平均へいきん4‐8とうほどの社会しゃかいてきパック英語えいごばん)を形成けいせいする。れはそれぞれ縄張なわばりをち、ひろさは食物しょくもつりょう影響えいきょうされ100‐1000平方へいほうキロメートルにおよぶ。

れと順位じゅんい[編集へんしゅう]

れは雌雄しゆうべつ順位じゅんいせいともない、通常つうじょう繁殖はんしょくペアがさい上位じょういであるが、順位じゅんい交代こうたいもする。さい上位じょういからじゅんにアルファ、ベータとび、最下位さいかい個体こたいをオメガとぶ。順位じゅんいつね儀式ぎしきてき確認かくにんしあい維持いじされる。れはたいてい繁殖はんしょくペアの子孫しそん兄弟きょうだい血縁けつえん関係かんけいにあることがおおい。れを個体こたいざることもある。おおかみれの頭数とうすう最多さいたで42とうにもなったという記録きろくがあるものの、平均へいきんしておおむね3-11とうあいだである。しかし、だい規模きぼれでもおも仕事しごとおこなうのはペアであり、もっと効率こうりついのはペアのおおかみとされている。

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ヘラジカる2とうのオオカミ

オオカミは肉食にくしょくで、シカイノシシ野生やせいヒツジヤギバイソンなどのゆう蹄類、ウサギかじるいなどのしょう動物どうぶつる。えさすくないと人間にんげん生活せいかつけん家畜かちく残飯ざんぱんべる。シカなどのおおきな獲物えものときれで行動こうどうする。健康けんこうたい場合ばあいもあるが、通常つうじょう長時間ちょうじかん追跡ついせきおこな獲物えものれのうちよわ個体こたい病気びょうき高齢こうれい幼体ようたい)をつかまえる。上位じょうい個体こたいが、獲物えものさきべる。

カナダ太平洋たいへいようがんブリティッシュコロンビアしゅうではサケ捕食ほしょくしていることがくそサンプルで判明はんめいしているほか、サケが遡上そじょうしないその沖合おきあい離島りとうでは海岸かいがん付近ふきん甲殻こうかくるいニシンたまご漂着ひょうちゃくしたクジラ死骸しがいなどをえさとしている[4]

最高さいこう速度そくど時速じそく70キロメートル[5]なら20分間ふんかん時速じそく30キロメートル前後ぜんこうなら7時間じかん以上いじょう獲物えものまわことができる。いかける途中とちゅうあきらめることおおく、リカオン などとくらべるとあきらめやすい性格せいかくといえる。狩猟しゅりょう成功せいこうりつ生息せいそく密度みつど環境かんきょう左右さゆうされる。アラスカのデナリ国立こくりつ公園こうえん1977ねんにカリブーを仕留しとめようといかけた回数かいすうが16かいであり、そのうちころしたのが9とう成功せいこうりつは56%という報告ほうこくれいがある。1972ねんオンタリオ[よう曖昧あいまい回避かいひ][どこ?]では35かい獲物えものねらいをさだめそのうちの16とう鹿しかころこと成功せいこうしているところ観察かんさつされた。

繁殖はんしょく[編集へんしゅう]

ようじゅう
  • 繁殖はんしょく一夫一妻いっぷいっさいがたれのさい上位じょういのペアのみがおこなうが、例外れいがいてき個体こたい繁殖はんしょくすることもある。交尾こうび一般いっぱんに1がつ~3がつごろおこなわれる。妊娠にんしん期間きかんは60 - 63にち平均へいきん4 - 6とうむ。めすあなつくりそこで子育こそだてをおこなう。父親ちちおやれの仲間なかま子育こそだてを手伝てつだう。
  • 生後せいご12 - 14にちひらき、生後せいご20 - 24にちうごまわるようになり、生後せいご20 - 77にちあいだれを認識にんしきする社会しゃかいせいそだ離乳りにゅうする。固形こけいしょく大人おとなもどあたえる。8しゅうほどであなはなれるようになる。
  • は1ねんてば成体せいたいおなおおきさになるが、性的せいてき成熟せいじゅくするには2ねんほどかかる。成熟せいじゅくしたオオカミはれにのこるか、れをあらたな場所ばしょうつり、配偶はいぐうしゃつけ(この過程かていで1ひきになることを一匹狼いっぴきおおかみという)、あらたなれを形成けいせいする。

コミュニケーション[編集へんしゅう]

遠吠とおぼ英語えいごばんはオオカミのコミュニケーションのひとつ。

オオカミはボディランゲージ表情ひょうじょう遠吠とおぼえなどでれの内外ないがいとコミュニケーションをる。表情ひょうじょうやしぐさはれの順位じゅんい確認かくにんするさい使つかわれる。

遠吠とおぼえは、れの仲間なかまとの連絡れんらくりの前触まえぶれ、縄張なわばりの主張しゅちょうなどの目的もくてきおこなわれ、目的もくてきおうじてかたことなるといわれる。合唱がっしょうのように共同きょうどう遠吠とおぼえすることもある。

なお幼少ようしょうにはおどろいたときなどにくことがある(「キャンキャン」など)が、成長せいちょうすると通常つうじょうえたりいたりすることはない(遠吠とおぼえをのぞく)。

寿命じゅみょう[編集へんしゅう]

飼育しいくでの平均へいきん寿命じゅみょうは15ねんほどである。動物どうぶつえんで20ねんきた記録きろくがある。野生やせいでは、動物どうぶつ同様どうようようよわい死亡しぼうりつたかいが、成熟せいじゅく個体こたいは5 - 10ねんほどき、ときには10ねん以上いじょうきる個体こたいもいる。

化石かせき記録きろく[編集へんしゅう]

オオカミにかぎらず古代こだい脊椎動物せきついどうぶつ化石かせき出土しゅつどはまれであり、断片だんぺんてき情報じょうほう形態けいたいがくてき分析ぶんせきから類推るいすいすることがつねであるため、研究けんきゅうしゃあいだでも見解けんかいことなることがままある[6]。およそ6500まんねんまえこったはく亜紀あきいにしえだいさんあいだ大量たいりょう絶滅ぜつめつ恐竜きょうりゅうしゅ絶滅ぜつめつ肉食にくしょく哺乳類ほにゅうるい出現しゅつげんをもたらした[7]:p.8しゅとして昆虫こんちゅう捕食ほしょくするアードウルフのようなたねのぞき、これらのたねにくこつくだくためのエナメルしつきれにくち、なが期間きかんをかけて環境かんきょう適合てきごうするよう進化しんかしてきた。イヌとネコ肉食にくしょく動物どうぶつ祖先そせんはおよそ恐竜きょうりゅうほろんだ直後ちょくご誕生たんじょうし、別々べつべつ進化しんかげてきたが、イヌ最初さいしょ仲間なかま登場とうじょうするのはおよそ4000まんねんまえのことである[7]:p.16。オオカミは150まんねんまえごろに、その初期しょき小型こがたのイヌ動物どうぶつ集団しゅうだんから発生はっせいしたとかんがえられており[8]:p.241形態けいたいがくてき遺伝子いでんしてき化石かせき標本ひょうほんじょう類推るいすいからもコヨーテおな祖先そせんから進化しんかしたことを示唆しさしている[8]:p.239ジャッカルをはじめとするイヌぞく祖先そせんとはこれよりもまえ分岐ぶんきしていたとかんがえられている[8]:p.240

絶滅ぜつめつ地域ちいきへのさい導入どうにゅう[編集へんしゅう]

オオカミの住処すみか獲物えものである草食そうしょく動物どうぶつ人間にんげんうばったため、オオカミは人間にんげん駆除くじょされる危険きけんおかしてまで家畜かちくおそうようになった。そのため家畜かちくおそがいじゅうであるとして人間にんげんがオオカミを駆逐くちくし、絶滅ぜつめつさせてしまった地域ちいきがある。そうした地域ちいきのなかにはオオカミの絶滅ぜつめつのち天敵てんてきうしなった大型おおがた草食そうしょく動物どうぶつ異常いじょう増加ぞうかし、地域ちいき植物しょくぶつくされたことによって森林しんりん消滅しょうめつし、ぎゃく大量たいりょう草食そうしょく動物どうぶつ餓死がし既存きそん生態せいたいけい攪乱かくらんせしめたというれいがある。こうした撹乱かくらんされた生態せいたいけい以前いぜんのものにもど対策たいさくとして、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくイエローストーン国立こくりつ公園こうえんでは、絶滅ぜつめつしたオオカミがさい導入どうにゅうされている。しかし、さい導入どうにゅう当該とうがい地域ちいき生息せいそくする大型おおがた草食そうしょくじゅうであるエルクが減少げんしょうしていたのは、オオカミによる捕食ほしょくよりも人間にんげん捕獲ほかく気象きしょう条件じょうけん説明せつめいできることがしめされている[9]。また、さい導入どうにゅうともなうアスペンの回復かいふくかたよりのある調査ちょうさ設計せっけいによってられた結果けっかであることがしめされており[10]さい導入どうにゅう生態せいたいけい回復かいふくあたえる影響えいきょう明確めいかくでないことがられている。

日本にっぽん[編集へんしゅう]

日本にっぽん固有こゆうのオオカミのうち、本州ほんしゅう四国しこく九州きゅうしゅう分布ぶんぷしていたものは、ニホンオオカミCanis lupus hodophilax または Canis hodophilax)とばれる。オオカミのなかでは小型こがたで(中型ちゅうがた日本犬にほんいぬぐらい)、毛色けいろ白茶しらちゃけており、なつふゆでは毛色けいろわったとされる。

ニホンオオカミ1905ねん明治めいじ38ねん)に奈良ならけん東吉野ひがしよしのむら鷲家わしかこう(わしかぐち)にて捕獲ほかくされたわかいオスの個体こたい最後さいご目撃もくげきれいがなく、絶滅ぜつめつしたとられる。1910ねん明治めいじ43ねん)8がつ福井ふくいじょうにあった農業のうぎょう試験場しけんじょう松平まつだいらみのりためしじょう)で捕獲ほかくされたイヌ動物どうぶつがニホンオオカミであった」との論文ろんぶん発表はっぴょうされた[11][12]が、この個体こたい標本ひょうほん現存げんそんしていない(福井ふくい空襲くうしゅうにより焼失しょうしつ写真しゃしん現存げんそん)ため、最後さいごれい認定にんていするには学術がくじゅつてきには確実かくじつである[12]

ニホンオオカミの標本ひょうほんは、頭骨とうこつはある程度ていどのこっているが、剥製はくせい全身ぜんしん骨格こっかく標本ひょうほんきわめてすくなく、日本にっぽん国内こくないではすうてんしかられていない。日本にっぽん国外こくがいでは、鷲家わしかこう捕獲ほかくされた個体こたいかり剥製はくせい頭骨とうこつが、ロンドン自然しぜん博物館はくぶつかん保管ほかんされている[13]。また、シーボルト長崎ながさき出島でじま飼育しいくしていたニホンオオカミの剥製はくせい1たいが、オランダ国立こくりつ自然しぜん博物館はくぶつかん保存ほぞんされている。

日本にっぽんでは関東かんとう中部ちゅうぶ地方ちほうにおいて秩父ちちぶ三峯みつみね神社じんじゃ奥多摩おくたま武蔵むさし御嶽おんたけ神社じんじゃでオオカミを眷属けんぞくとしてまつっており、山間さんかん中心ちゅうしんとしたおおかみ信仰しんこう存在そんざいする[ちゅう 2]。オオカミを「大神おおがみ」と表記ひょうきしていた地域ちいきおおい。日本にっぽん各地かくちのこおくいぬ伝承でんしょうはニホンオオカミの習性しゅうせい人間にんげん都合つごう解釈かいしゃくしたというせつがある。

眷属けんぞくとしてのオオカミの利益りやく山間さんかんにおいては五穀豊穣ごこくほうじょうししがいよけ、都市としにおいては火難かなん盗賊とうぞくよけなどで、19世紀せいき以降いこうにはものとしの霊験れいけん出現しゅつげんする。眷属けんぞく信仰しんこう江戸えど時代じだい中期ちゅうき成立せいりつし、幕末ばくまつには1858ねん安政あんせい5ねん)にコレラだい流行りゅうこうし、コレラは外国がいこくじんによりまれた悪病あくびょうであるとかんがえられ、ものとしの霊験れいけんもと眷属けんぞく信仰しんこう興隆こうりゅうした。そのためものとしののろいとしてもちいられるおおかみ遺骸いがい需要じゅようたかまり、またどう時期じき流行りゅうこうした狂犬病きょうけんびょうジステンパー拡大かくだいによっておおかみししがい発生はっせいし、明治めいじ以降いこう家畜かちくおそがいじゅうとして懸賞けんしょうきんまでけられた徹底的てっていてき駆除くじょなどのふくあいてき原因げんいんによって絶滅ぜつめつしたとおもわれている。

エゾオオカミ[編集へんしゅう]

一方いっぽう北海道ほっかいどうおよび樺太からふと千島ちしま生息せいそくした亜種あしゅは、エゾオオカミ (Canis lupus hattai) とばれている。ニホンオオカミよりも大型おおがたで(シェパードほど)、褐色かっしょく毛色けいろだったとされている。アイヌではエゾオオカミを「りをするかみ(オンルプシカムイ)」「ウォーとえるかみ(ウォセカムイ)」など地域ちいきによって様々さまざまがあるが、雅語がごとしての「おおきなくちかみ(ホロケウカムイ)」は北海道ほっかいどう全域ぜんいきつうじた。伝承でんしょうでは英雄えいゆうたすける、主人公しゅじんこうだましておっとにしようとする、いたずらきなど様々さまざま性格せいかくかたられるが、カムイのオオカミはしろつとされる[14]明治めいじ以降いこう入植にゅうしょくしゃにより毛皮けがわにく目的もくてき狩猟しゅりょう獲物えものエゾシカ一時いちじ激減げきげんし、入植にゅうしょくしゃれてきた牛馬ぎゅうばなどの家畜かちくおそってがいじゅうとされ、懸賞けんしょうきんまでけられた徹底的てっていてき駆除くじょによりかず激減げきげんし、ジステンパーなどのいぬ病気びょうき影響えいきょう1879ねん明治めいじ12ねん)の大雪おおゆきによるエゾシカ大量たいりょうかさなった結果けっか1900ねん明治めいじ33ねんごろ絶滅ぜつめつしたとられる。

更新こうしんオオカミ[編集へんしゅう]

シベリアに生息せいそくしていた大型おおがた亜種あしゅで、日本にっぽん本州ほんしゅうでも化石かせきつかっている。ニホンオオカミよりもふる時代じだい日本にっぽんわたった。

文化ぶんか[編集へんしゅう]

さかなりのようにかえしがついたわな道具どうぐヴォルフスアンゲル。かえしのついた部分ぶぶんえさけて、オオカミがジャンプしないとべられないたかさに設置せっちして、べたオオカミがげられるようにしたわなである。
めすおおかみちちロームルスレムス
『ロームルスとレムスの発見はっけん』(ピーテル・パウル・ルーベンスさく)

ヨーロッパ中国ちゅうごくなど牧畜ぼくちくさかんであった地域ちいきでは家畜かちくおそがいじゅうとしてきらわれる傾向けいこうにあり、ぎゃく日本にっぽん北海道ほっかいどうのぞく)のように農業のうぎょうさかんであった地域ちいきでは、農作物のうさくもつ被害ひがいをあたえるシカなどのがいじゅう駆除くじょするえきじゅうとして、こわれをもたれると同時どうじしたわれもした。また、アイヌやネイティブアメリカンなどのように、狩猟しゅりょう採集さいしゅう生活せいかつさかんであった民族みんぞくでも神格しんかくされることがある。

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神話しんわ伝説でんせつ民俗みんぞく[編集へんしゅう]

  • 中世ちゅうせいヨーロッパにおいては、おおかみはしばしば恐怖きょうふ対象たいしょうとして描写びょうしゃされる。北欧ほくおう神話しんわでは巨大きょだいおおかみであるフェンリルかみ々のてきとしてえがかれている。童話どうわの『あか頭巾ずきん』では、おおかみあか頭巾ずきんべようとする悪役あくやくとしてえがかれている。18世紀せいき中旬ちゅうじゅんには、「ジェヴォーダンのしし」とばれる巨大きょだいおおかみだい山猫やまねことも)が出現しゅつげんしたとされ、フランス中部ちゅうぶ地方ちほう震撼しんかんさせた。しかし、オオカミはいちひきだけでおおきな獲物えもの習性しゅうせいはなく、臆病おくびょう動物どうぶつであるため、科学かがくてきてこの事件じけんにオオカミはかかわっていないとされている。
  • キリスト教きりすときょうでも、おおかみ邪悪じゃあくがいじゅうとしてあつかわれることがおおく、ななつの大罪だいざいでは、ユニコーンドラゴンおなじく『憤怒ふんぬ』を象徴しょうちょうする動物どうぶつとしてあつかわれることがある。
  • 人間にんげんおおかみ変身へんしんするひとおおかみについての記述きじゅつ古代こだいよりしばしばられる。ヨーロッパでおおかみきらうのは中世ちゅうせいキリスト教きりすときょうが、土着どちゃく信仰しんこう駆逐くちくするためひとおおかみ伝説でんせつ利用りようしてきた影響えいきょうおおきい。中世ちゅうせいのヨーロッパでは、ひとおおかみ存在そんざいしんじられており、昼間ひるま人間にんげん姿すがたをしているひとおおかみが、夜間やかんにはおおかみ姿すがた人間にんげんおそい、ぎん武器ぶきぎん弾丸だんがんなど)でなければたおすことが出来できないなどとされた。古代こだいローマの博物はくぶつ学者がくしゃであるプリニウス著書ちょしょ博物はくぶつ』において、ひとおおかみあらわれたといううわさ紹介しょうかいしたうえで、このような変身へんしん存在そんざいはでたらめであると否定ひていしている。イギリス本土ほんど諸島しょとうでははや段階だんかいおおかみ駆逐くちくされたために、ひとおおかみ伝説でんせつ外国がいこく起源きげんのものであり、魔法使まほうつかいや巫女ふじょはたいていねこうさぎけることになってしまった、というせつセイバイン・ベアリング=グールドとなえている[15]
  • インドにはオオカミが子供こどもそだてたといううわさ多数たすうあり(おおかみ)、とくアマラとカマラという少女しょうじょ事例じれいられる。
  • 長野ながのけん佐久さく猿久保さるくぼでは、オオカミがおさんするあな発見はっけんしたら、赤飯せきはん重箱じゅうばこ村人むらびとあなまえそなえた。オオカミはおさん無事ぶじえるとそらになった重箱じゅうばこ村人むらびといえまで返却へんきゃくしたという民話みんわがある[16]
  • 科学かがくてき観察かんさつもとづくはなしとしてシートン動物どうぶつおおかみおうロボ有名ゆうめいである。
  • カムチャツカ半島はんとうでは、双子ふたご父親ちちおやはオオカミであるとされた[17]

指導しどうしゃかみ[編集へんしゅう]

山津やまづ見神けんしんしゃしろおおかみぞう

軍事ぐんじ[編集へんしゅう]

題材だいざいとした作品さくひんなど[編集へんしゅう]

あか頭巾ずきんとオオカミ

そのおおかみ題材だいざいとした作品さくひん[編集へんしゅう]

小説しょうせつ[編集へんしゅう]
漫画まんが[編集へんしゅう]
映画えいが[編集へんしゅう]
アニメーション[編集へんしゅう]
  • おおかみ香辛料こうしんりょう』(2008ねん
  • おおかみ香辛料こうしんりょう MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』(2024ねん

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ インドネパールパキスタンブータン個体こたいぐんはワシントン条約じょうやく附属ふぞくしょI。
  2. ^ ただしヤマイヌんだじょうでのニホンオオカミ以外いがいのイヌ動物どうぶつとの混同こんどう分類ぶんるいのままの崇拝すうはいられる。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ Boitani, L., Phillips, M. & Jhala, Y. 2018. Canis lupus (errata version published in 2020). The IUCN Red List of Threatened Species 2018: e.T3746A163508960. doi:10.2305/IUCN.UK.2018-2.RLTS.T3746A163508960.en. Downloaded on 10 April 2020.
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  3. ^ W. Chris Wozencraft: Wolf. In: Andrew T. Smith, Yan Xie: A Guide to the Mammals of China. Princeton University Press, Princeton NJ 2008, ISBN 978-0-691-09984-2, S. 416–418.
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  5. ^ 今泉いまいずみ忠明ただあき野生やせいイヌの百科ひゃっか』(だい2はんデータハウス動物どうぶつ百科ひゃっか〉、2007ねん、15ぺーじISBN 9784887189157 
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