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群盲ぐんもうぞうひょう

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
この寓話ぐうわもとられたかべ。タイ北東ほくとう

群盲ぐんもうぞうひょう(ぐんもうぞうをひょうす、群盲ぐんもうひょうぞう)は、すうにん盲人もうじんぞう一部いちぶだけをさわって感想かんそうかたう、というインド発祥はっしょう寓話ぐうわ世界せかいひろひろまっている。しかしながら、歴史れきし原義げんぎから派生はせいしたその通俗つうぞくてき俚言りげんとしての意味いみくにあるいは地域ちいきごとでことなっている。真実しんじつ多面ためんせい誤謬ごびゅうたいする教訓きょうくんとなっているものがおおい。盲人もうじんぞうかた群盲ぐんもうぞうをなでる群盲ぐんもうなでぞう)、群盲ぐんもうぞうなでなど、べつおおい。[1]

その経緯けいいゆえに、『もりず』 と同様どうよう意味いみもちいられることがある。 また、『物事ものごと人物じんぶつ一部いちぶ、ないしはいちめんだけを理解りかいして、すべて理解りかいしたと錯覚さっかくしてしまう』 ことの、たとえとしてももちいられる。

さまざまな思想しそう背景はいけいにして改作かいさくされており、ジャイナきょう仏教ぶっきょうイスラム教いすらむきょうヒンドゥーきょうなどで教訓きょうくんとして使つかわれている。ヨーロッパにもつたわっており、19世紀せいきにはアメリカ詩人しじんジョン・ゴッドフリー・サックスがこれを主題しゅだいにしたつくっている。

あらすじ

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このはなしにはすうにん盲人もうじん(または暗闇くらやみなかおとこたち)が登場とうじょうする。盲人もうじんたちは、それぞれゾウはなきばなど別々べつべつ一部分いちぶぶんだけをさわり、その感想かんそうについてかたう。しかしさわった部位ぶいにより感想かんそうことなり、それぞれが自分じぶんただしいと主張しゅちょうして対立たいりつふかまる。しかしなんらかの理由りゆうでそれがおなぶつべつ部分ぶぶんであるとづき、対立たいりつ解消かいしょうする、というもの。

ジャイナきょう

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ジャイナきょう伝承でんしょうでは、6にん盲人もうじんが、ゾウにれることで、それがなにだとおもうかわれるかたちになっている。あしさわった盲人もうじんは「はしらのようです」とこたえた。さわった盲人もうじんは「つなのようです」とこたえた。はなさわった盲人もうじんは「えだのようです」とこたえた。みみさわった盲人もうじんは「おうぎのようです」とこたえた。はらさわった盲人もうじんは「かべのようです」とこたえた。きばさわった盲人もうじんは「パイプのようです」とこたえた。それをいたおうこたえた。「あなたかたみなただしい。あなたかたはなしちがっているのは、あなたかたがゾウのことなる部分ぶぶんさわっているからです。ゾウは、あなたかた特徴とくちょうを、すべそなえているのです」と[2]

このはなし教訓きょうくんは、おな真実しんじつでも表現ひょうげんことなる場合ばあいもあることであり、ことなる信念しんねんものたちがたがいを尊重そんちょうして共存きょうぞんするための原則げんそくしめしている。7にん盲人もうじんとされる場合ばあいもある。これはジャイナきょう相対そうたい主義しゅぎかんがえにもとづく説話せつわである[2]

仏教ぶっきょう

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日本にっぽん浮世絵うきよええいいちちょう (1652 – 1724) による『しゅう瞽象をなでず』

仏典ぶってんには教養きょうようもの、とりわけ仏教ぶっきょうおしえをしんじないもの群盲ぐんもう盲人もうじん集団しゅうだん)にたとえる記述きじゅつ数多かずおおくある。群盲ぐんもうひょうぞうはなしすうしょ掲載けいさいされている。

パーリ仏典ぶってん説経せっきょうでは、釈迦しゃかはさまざまな邪見じゃけんもとづいて論争ろんそうする沙門しゃもんバラモンをとりあげて、かれらを群盲ぐんもうひょうぞうにたとえ、一部いちぶだけをて、その一部分いちぶぶん執着しゅうちゃくして論争ろんそうしているといている[3]

ながおもね含経では鏡面きょうめんおうという人物じんぶつが10にん盲人もうじんあつめ、それぞれがはながったながえきばきねみみあたまかなえおか阜、はらかべうしあし、膊(ひざ)をはしらあと前足まえあし)をうすを緪(つな)にたとえるはなしになっている[4]だいろうすみけいのたとえがへびになっているほかながおもね含経とほぼおなじである[5]

おこりけいでも鏡面きょうめんおう主催しゅさいだが、はななわきばを橛、みみあたまこう栿、脊、わきを簟、髀をあしうすを帚とたとえるものすこわっている[6]

だい般涅槃経では、[7][8][9]しゅうめくらかく以手さわしゅうめくらせつぞうたいまたせつしゅうめくらかくおのしゅもっさわる…しゅうめくらぞうたいかずまた(ま)たかずとも)などとの表現ひょうげんで、[10]ぞう仏性ぶっしょう比喩ひゆとしてべられている。[11][12]仏性ぶっしょうは、ふつ以外いがい無明むみょう衆生しゅじょうはもちろんじゅうじゅう菩薩ぼさつでさえも十分じゅうぶん完全かんぜんにはりえない仏教ぶっきょう究極きゅうきょく真理しんりすなわち勝義まさよしである。[13]しかしながら、まったくのだん善根ぜんこんであってもほとけれる可能かのうせいがあるともく。[14]

華厳経けごんきょうでは、きばみみあたまいしはなきねあしうすゆかはらへびとなっている[15]。いずれのおしえでも、真理しんりるには仏教ぶっきょうおしえが必要ひつようだと結論けつろんしている。

13世紀せいき成立せいりつした『とうかいもと』にも「めくら摸象」のかたりすうかい登場とうじょうする。

19世紀せいきはじめに出版しゅっぱんされた『北斎ほくさい漫画まんがだい8さつなかにも、このはなしもとにした掲載けいさいされている[16]

イスラム教いすらむきょう

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今日きょうのアフガニスタンのガズニーむ12世紀せいきペルシアじんスーフィズム詩人しじんハキーム・サナイは、その著書ちょしょかべかこまれた真理しんりえん』のなかで、このはなし紹介しょうかいしている[17]

13世紀せいき、ペルシアじん詩人しじんでスーフィズム教師きょうしジャラール・ウッディーン・ルーミーは、その著書ちょしょ精神せいしんてきマスナヴィー英語えいごばん』のなかでこのはなしにしている。ルーミーはサナイの影響えいきょうつよけており、こののヒントもサナイの詩集ししゅうからているが、はなしを「暗闇くらやみなかのゾウ」とすこ変化へんかさせている。このは、あるヒンドゥー教徒きょうと暗闇くらやみにゾウをれてきたことではじまっている。すうにんおとこ暗闇くらやみなかでゾウにれて感想かんそうべ、はな水道すいどうかんみみおうぎあしはしら玉座ぎょくざのようだと感想かんそうべた。ルーミーはこのを「視野しやせまものは、感触かんしょくものろうとしているにひとしい。感触かんしょくでは物事ものごと全体ぜんたいからない。各々おのおのがロウソクをっていれば、認識にんしきちがいはくなるのに」とむすんでいる[18][19]

ジョン・ゴッドフリー・サックス

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1909ねん出版しゅっぱん書籍しょせき「Golden treasury readers」にえがかれた挿絵さしえ

欧米おうべいでは、19世紀せいきのアメリカの詩人しじんジョン・ゴッドフリー・サックスが1872ねん発表はっぴょうした "The Blind Men and the Elephant" によりこのはなし有名ゆうめいになった。

インドで6にん盲目もうもくおとこが、ゾウにいたいとかけてった。かれらはそれぞれがことなる部位ぶいさわったうえで、ぞうかべへびおうぎ、ロープのようであると主張しゅちょうし、意見いけん対立たいりつした。サックスはう。神学しんがく論争ろんそうはこれにている。かれらはべつひと意見いけん理解りかいすることができていないと[20]

20世紀せいきのハンガリーまれのイラストレーターポール・ガルドン英語えいごばんは、1963ねん出版しゅっぱんされたこのほんにイラストをえがいている。

中国ちゅうごくまれのイラストレーターエド・ヤング英語えいごばんは、1992ねんにサックスのはなし改作かいさくした絵本えほん『Seven Blind Mice』をえがいている。

くにまたは地域ちいきごとのことわざとしての意味いみ

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日本にっぽん

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日本にっぽんでは、凡人ぼんじん大人おとなぶつだい事業じぎょう理解りかいがたさま直喩ちょくゆ、として使つかわれる用語ようごである。[1]

近年きんねん引用いんよう

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19世紀せいきのインドの宗教しゅうきょうラーマクリシュナは、1883ねん他宗たしゅう寛容かんよう人々ひとびとさとすため、この寓話ぐうわ引用いんようしている[21]

デヴィッド・ボームDavid Bohm)は1951ねん出版しゅっぱんした『量子りょうしろん』のなかで、粒子りゅうし波動はどうじゅうせい説明せつめいするのにこのはなしいている[22]

20世紀せいきのインドのスーフィズム研究けんきゅうイドリース・シャー英語えいごばんは、1970ねん著書ちょしょThe Dermis Probe英語えいごばん』のなかに、微小びしょう視野しやからだんだんとひろげていき、最後さいごにようやくゾウの全身ぜんしんえる様子ようすはなしせており、このはなしリチャード・ウィリアムス英語えいごばんによって4分間ふんかんのアニメーションにもされている。このはなしは「群盲ぐんもうぞうひょうす」をヒントにつくられたものである[23]

アメリカの作家さっかニール・スティーヴンスンは、2008ねん発表はっぴょうした長編ちょうへん小説しょうせつAnathem英語えいごばん』のなかで、このはなしいている[24]

HIV研究けんきゅうミハエル・レーダーマンは、2008ねん論文ろんぶんなかで、クローンせいB細胞さいぼう反応はんのう英語えいごばんにおけるB細胞さいぼういがこのはなしているとべている[25]

ミシガン大学だいがく研究けんきゅうしゃ、アーロン・エルキス、ドゥラゴミール・ラデフ英語えいごばんらは、2008ねん論文ろんぶんなかで、論文ろんぶん引用いんよう引用いんようさきいちめんのみをとらえているためにかたよりがあり、引用いんようぶん集合しゅうごう要約ようやくしてもなお引用いんようもと論文ろんぶん概要がいようぶんとは差異さいがあることをしめしている[26]

2010ねん製薬せいやく会社かいしゃバイエルは、目隠めかくしをした女性じょせいがサイをさわって正体しょうたいをいいあてる、という趣旨しゅしのテレビコマーシャルのなかで、避妊ひにん製品せいひん部分ぶぶんてき情報じょうほうえらばないよう宣伝せんでんしている[27]

絵画かいが挿絵さしえ

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参考さんこう文献ぶんけん

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  1. ^ a b 小学館しょうがくかん国語こくご辞典じてん編集へんしゅう, ed (2001-04). “群盲ぐんもうぞうひょうす”. 日本にっぽん国語こくごだい辞典じてん. 4 きかく~けんう (2 ed.). 小学しょうがくかん. p. 1188 
  2. ^ a b Elephant and the blind men”. Jain Stories. JainWorld.com. 2006ねん8がつ29にち閲覧えつらん
  3. ^ 説経せっきょう,6.4(Jaccandha-vagga)
  4. ^ 大正たいしょうしんおさむ大藏經だいぞうきょうテキストデータベース ながおもね含経
  5. ^ 大正たいしょうしんおさむ大藏經だいぞうきょうテキストデータベース おもね含部だいろうすみけい
  6. ^ 大正たいしょうしんおさむ大藏經だいぞうきょうテキストデータベース おこりけい
  7. ^ くもり, (1925-06). だい涅槃ねはん経巻きょうかんさんじゅう二師子吼菩薩品第十一之六”. In 高楠たかくす順次郎じゅんじろう. 大正たいしょうしんおさむ大蔵経だいぞうきょう. 12 宝積ほうしゃく 涅槃ねはん. 大正たいしょう一切経いっさいきょう刊行かんこうかい. pp. 555-556. https://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/ddb-sat2.php?mode=detail&useid=0374_,12,0555&key=%E8%A1%86%E7%9B%B2%E4%BB%A5%E8%B1%A1 
  8. ^ くもり, (1925-06). だい涅槃ねはん経巻きょうかんさんじゅう四迦葉菩薩品第十二之二”. In 高楠たかくす順次郎じゅんじろう. 大正たいしょうしんおさむ大蔵経だいぞうきょう. 12 宝積ほうしゃく 涅槃ねはん. 大正たいしょう一切経いっさいきょう刊行かんこうかい. p. 569. https://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/ddb-sat2.php?mode=detail&useid=0374_,12,0568&key=%E8%B1%A1%E5%96%A9 
  9. ^ めぐみ, いむ (1925-06). だい涅槃ねはん経巻きょうかんさん十師子吼菩薩品之六”. In 高楠たかくす順次郎じゅんじろう. 大正たいしょうしんおさむ大蔵経だいぞうきょう. 12 宝積ほうしゃく 涅槃ねはん. 大正たいしょう一切経いっさいきょう刊行かんこうかい. p. 802. https://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/ddb-sat2.php?mode=detail&useid=0375_,12,0802&key=%E8%A1%86%E7%9B%B2%E4%BB%A5%E8%B1%A1 
  10. ^ 塚本つかもと, けいさち; 磯田いそだ, 熙文 (2009-08-20). “だい涅槃ねはん経巻きょうかんさん十師子吼菩薩品第二十三のろく”. だい般涅槃経 (南本みなみもと) III. 新国にいくにやく大蔵経だいぞうきょう. 6 涅槃ねはん 3 (1 ed.). 大蔵おおくら出版しゅっぱん. pp. 386-387. ISBN 978-4-8043-8047-6 
  11. ^ おう如来にょらいおうせいあまねしんほうひとし涅槃ねはんけいめくら一切いっさい無明むみょう衆生しゅじょう、のたとえ。
  12. ^ もり章司しょうじ, ed (1987-06). 仏教ぶっきょう比喩ひゆ例話れいわ辞典じてん. 東京とうきょうどう出版しゅっぱん. pp. 352-353 
  13. ^ 高崎たかさき, 直道なおみち (2014-11-14). 涅槃ねはんけい』を (1 ed.). 岩波書店いわなみしょてん. pp. 325-326. ISBN 978-4-00-600322-7 
  14. ^ 高崎たかさき, 直道なおみち (2014-11-14). 涅槃ねはんけい』を (1 ed.). 岩波書店いわなみしょてん. pp. 322, 331-332. ISBN 978-4-00-600322-7 
  15. ^ 大正たいしょうしんおさむ大藏經だいぞうきょうテキストデータベース 大方おおかたこうふつ華嚴經けごんきょうずい演義えんぎ
  16. ^ 国会図書館こっかいとしょかん 近代きんだいデジタルライブラリー 北斎ほくさい漫画まんが だい8さつ 16/35
  17. ^ イドリース・シャー英語えいごばんしる、『ダルヴィーシュの物語ものがたり英語えいごばんISBN 0-900860-47-2 Octagon Press 1993.
  18. ^ Arberry, A.J. (2004ねん5がつ9にち). “71-The Elephant in the dark, on the reconciliation of contrarieties”. Rumi – Tales from Masnavi. 2006ねん8がつ29にち閲覧えつらん
  19. ^ For an adaptation of Rumi's poem, see this song version by David Wilcox here.
  20. ^ The poems of John Godfrey Saxe
  21. ^ Gupta, Mahendranath (Sunday, 11 March 1883). “Chapter V – Vaishnavism and sectarianism – harmony of religions”. Kathamrita. Vol. II. ISBN 8188343013. http://www.kathamrita.org/kathamrita2/k2sec02.htm 
  22. ^ Quantum theory by David Bohm, p. 26. Retrieved 2010-03-03.
  23. ^ Shah, Idries. “The Teaching Story: Observations on the Folklore of Our "Modern" Thought”. 2010ねん3がつ5にち閲覧えつらん
  24. ^ Stephenson, Neal (2008). Anathem. p. 359: HarperCollins. pp. 935. ISBN 978-0-06-147409-5 
  25. ^ The lymph node in HIV pathogenesis by Michael M. Lederman and Leonid Margolis, Seminars in Immunology, Volume 20, Issue 3, June 2008, Pages 187-195
  26. ^ Blind men and elephants: What do citation summaries tell us about a research article? by Aaron Elkiss, Siwei Shen, Anthony Fader, Güneş Erkan, David States and Dragomir Radev, Journal of the American Society for Information Science and Technology, Volume 59 Issue 1, January 2008, Pages 51-62.
  27. ^ Bayer Women Pills”. 2010ねん6がつ18にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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