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胃酸いさん

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

胃酸いさん(いさん、えい: Gastric acid、stomach acid; 胃液いえき〈gastric juice〉)は、内壁ないへきなか形成けいせいされる消化しょうかえきである。塩酸えんさん塩化えんかカリウム塩化えんかナトリウム構成こうせいされる。タンパク質たんぱくしつアミノ酸あみのさんながくさり分解ぶんかいする消化しょうか酵素こうそ活性かっせいするという重要じゅうよう役割やくわりたしている。食後しょくごなど、必要ひつようなときに胃酸いさん生産せいさんやすフィードバック機構きこうがある。

ほか細胞さいぼうは、胃酸いさん緩衝かんしょうして調整ちょうせいされたpH確保かくほするため、塩基えんきであるじゅう炭酸たんさんしおさんせいする。胃酸いさんきずつけるのをふせぐために、これらの細胞さいぼう粘液ねんえき粘性ねんせいのある障壁しょうへき)をつくす。膵臓すいぞうはさらにじゅう炭酸たんさんしお大量たいりょうさんせい膵管かいして分泌ぶんぴつすることで十二指腸じゅうにしちょう通過つうかする胃酸いさん中和ちゅうわする。

胃酸いさん主成分しゅせいぶんは、せんなかかべ細胞さいぼうつくられる塩酸えんさんである。その分泌ぶんぴつは、複雑ふくざつ比較的ひかくてきエネルギーコストがたかい。かべ細胞さいぼうは、塩酸えんさんうち分泌ぶんぴつされる広範こうはん分泌ぶんぴつネットワーク(細管さいかん canaliculiばれる)をふくんでいる。ヒトのうち腔中の胃酸いさんのpHは1.5から3.5であり、プロトンポンプH+/K+ ATPアーゼ英語えいごばんによって維持いじされている[1]かべ細胞さいぼう血液けつえきちゅうじゅう炭酸たんさんしお放出ほうしゅつし、アルカリしお英語えいごばんとしてられている血液けつえきちゅうのpHの一時いちじてき上昇じょうしょうこす。

うち腔内の強酸きょうさんせい環境かんきょうは、食品しょくひんからのタンパク質たんぱくしつがその特徴とくちょうてきたたまれ構造こうぞううしなう(変性へんせいする)原因げんいんとなる。これにより、タンパク質たんぱくしつペプチド結合けつごう露出ろしゅつする。しゅ細胞さいぼうは、タンパク質たんぱくしつ分解ぶんかいのための酵素こうそ活性かっせいがたペプシノーゲン乳児にゅうじにはレンニン)を分泌ぶんぴつする。塩酸えんさんはペプシノーゲンを活性かっせいしてペプシンという酵素こうそ変化へんかさせ、アミノ酸あみのさん結合けつごうこわして消化しょうかたすけるタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかいばれる過程かていおこなう。また、酸性さんせい環境かんきょうではおおくの微生物びせいぶつ抑制よくせいあるいは破壊はかいされ、これによって感染かんせんしょう病気びょうきふせぐことができる。

ヘリコバクター・ピロリなど胃酸いさん局所きょくしょてき中和ちゅうわして内部ないぶ生息せいそくする細菌さいきん存在そんざいする。

分泌ぶんぴつ

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胃酸いさん分泌ぶんぴつには、アセチルコリンガストリンヒスタミンという3つのホルモン関与かんよしている。

  • 食事しょくじろうとすると、のうからの刺激しげきふく交感神経こうかんしんけいつたわり、アセチルコリンが分泌ぶんぴつされる。アセチルコリンは胃壁いへき細胞さいぼうムスカリン受容じゅようたい結合けつごうして、胃酸いさん分泌ぶんぴつこる。
  • 食物しょくもつはいると、その刺激しげきによりガストリン細胞さいぼうがガストリンを分泌ぶんぴつする。ガストリンは胃壁いへき細胞さいぼうのガストリン受容じゅようたい結合けつごうして、胃酸いさん分泌ぶんぴつこる。
  • ガストリンはECL細胞さいぼう肥満ひまん細胞さいぼう刺激しげきして、ヒスタミンを放出ほうしゅつさせる。ヒスタミンは胃壁いへき細胞さいぼうのH2受容じゅようたい結合けつごうして、胃酸いさん分泌ぶんぴつこる。

典型てんけいてき大人おとなのヒトの毎日まいにちやく1.5リットルの胃酸いさん分泌ぶんぴつする[2]胃酸いさん分泌ぶんぴつはいくつかの段階だんかいからる。塩化えんかぶつイオンと水素すいそイオンは、かべ細胞さいぼう細胞さいぼうしつから別々べつべつ分泌ぶんぴつされ、細管さいかんない混合こんごうされる。胃酸いさんは、そのせんうち腔に分泌ぶんぴつされ、徐々じょじょおもない腔にたっする[2]さん最初さいしょ比較的ひかくてきpH中性ちゅうせい粘液ねんえきそう横断おうだんしなければならないので、分泌ぶんぴつされたさんうち腔にたっする正確せいかく方法ほうほうについては、論争ろんそうまとになっている。

塩化えんかぶつイオンとナトリウムイオンは、かべ細胞さいぼう細胞さいぼうしつから細管さいかんうち腔に活発かっぱつ分泌ぶんぴつされる。これにより、かべ細胞さいぼうまく横切よこぎって−40 mV - −70 mVのまけ電位でんい発生はっせいし、これによりカリウムイオンと少量しょうりょうのナトリウムイオンが細胞さいぼうしつからかべ細胞さいぼう細管さいかんない拡散かくさんする。

炭酸たんさん脱水だっすい酵素こうそは、二酸化炭素にさんかたんそみず反応はんのう触媒しょくばいして炭酸たんさん生成せいせいする。このさんはすぐに水素すいそイオンとじゅう炭酸たんさんイオンに解離かいりする。水素すいそイオンは、H+/K+ ATPアーゼアンチポーター交換こうかん輸送ゆそうたい)ポンプをかいして細胞さいぼうからていく。

同時どうじに、ナトリウムイオンは活発かっぱつさい吸収きゅうしゅうされる。つまり、分泌ぶんぴつされたK+イオンとNa+イオンのだい部分ぶぶん細胞さいぼうしつもどる。細管さいかんないでは、分泌ぶんぴつされた水素すいそイオンと塩化えんかぶつイオンがざりい、さん分泌ぶんぴつせんうち腔に分泌ぶんぴつされる。

胃酸いさんなか到達とうたつする最高さいこう濃度のうどは、細管さいかんないの160 mMである。これは動脈どうみゃくやく300まんばいであるが、体液たいえきとほぼ正確せいかくとうはりせい英語えいごばんである。分泌ぶんぴつされたさん最低さいていpHは0.8であるが[3]胃酸いさんない腔においてpH 1から3のあいだ希釈きしゃくされる。塩酸えんさん濃度のうどとしては、0.1mol/Lおよび0.3%程度ていどである。

食事しょくじあいだ通常つうじょう10 mEq/hour未満みまん少量しょうりょう胃酸いさん持続じぞくてき基礎きそ分泌ぶんぴつがある[4]

食事しょくじ消化しょうかするために分泌ぶんぴつりょうやす胃酸いさん分泌ぶんぴつには以下いかの3つのそうがある[2]

  1. のうしょう英語えいごばん(cephalic phase): 胃酸いさん分泌ぶんぴつりょうの30%は、べることへの期待きたいかんものにおいやあじ刺激しげきされることで分泌ぶんぴつされる。このシグナルは迷走めいそう神経しんけいだいX脳神経のうしんけい)をかいしてのう高次こうじ中枢ちゅうすうから発生はっせいする。それは、かべ細胞さいぼう活性かっせいしてさん放出ほうしゅつし、ECL細胞さいぼう英語えいごばん活性かっせいしてヒスタミン放出ほうしゅつする。迷走めいそう神経しんけい(CN X)はまた、G細胞さいぼう英語えいごばんガストリン放出ほうしゅつペプチド英語えいごばん放出ほうしゅつします。最後さいごに、D細胞さいぼう英語えいごばんからのソマトスタチン放出ほうしゅつ抑制よくせいする.[5]
  2. しょう: 食事しょくじ消化しょうかのためのさんやく6わりがこの段階だんかい分泌ぶんぴつされる。さん分泌ぶんぴつは、膨張ぼうちょう食物しょくもつちゅう存在そんざいするアミノ酸あみのさんによって刺激しげきされる。
  3. ちょうしょう: のこりの10%のさん糜汁英語えいごばん小腸しょうちょうはいると分泌ぶんぴつされ、小腸しょうちょう肥大ひだいアミノ酸あみのさんによって刺激しげきける。十二指腸じゅうにしちょう細胞さいぼうからは、ガストリンに影響えいきょうあたえずにかべ細胞さいぼう作用さようするエンテロオキシンチン英語えいごばん分泌ぶんぴつされる[5]

分泌ぶんぴつ調節ちょうせつ

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消化しょうかせい潰瘍かいよう疾患しっかん(PUD)および食道しょくどう逆流ぎゃくりゅうしょう(GERD)のそうやく標的ひょうてきふく胃酸いさん分泌ぶんぴつおも決定けってい因子いんししめ

胃酸いさんさんせいは、自律じりつ神経しんけいけいといくつかのホルモン両方りょうほうによって調節ちょうせつされている。迷走めいそう神経しんけいかいしたふく交感神経こうかんしんけいけいガストリンというホルモンは、かべ細胞さいぼう刺激しげきして胃酸いさんさんし、かべ細胞さいぼう直接ちょくせつ作用さようし、間接かんせつてきにはちょうクロム親和しんわせい細胞さいぼうさま細胞さいぼう(ECL)からのヒスタミンというホルモンの分泌ぶんぴつ刺激しげきする。血管けっかん作動さどうせい腸管ちょうかんペプチドコレシストキニンセクレチンはいずれもさんせい阻害そがいする。

なかでの胃酸いさんさんせいは、せい調節ちょうせつ因子いんしまけのフィードバック機構きこうによって厳密げんみつ調節ちょうせつされている。かべ細胞さいぼうG細胞さいぼうδでるた細胞さいぼうちょうクロム親和しんわせい細胞さいぼうさま細胞さいぼうという4種類しゅるい細胞さいぼうがこのプロセスに関与かんよしている。これにくわえて、迷走めいそう神経しんけい(CN X)の末端まったんちょうかべない神経しんけいくさむら分泌ぶんぴつおおきく影響えいきょうします。

神経しんけい終末しゅうまつは、2つの刺激しげきせい神経しんけい伝達でんたつ物質ぶっしつアセチルコリンおよびガストリン放出ほうしゅつペプチド分泌ぶんぴつする。これらは、かべ細胞さいぼう直接ちょくせつ作用さようし、G細胞さいぼうからのガストリンの分泌ぶんぴつちょうクロム親和しんわせい細胞さいぼうさま細胞さいぼうからのヒスタミンの分泌ぶんぴつにより媒介ばいかいされる。ガストリンは、ヒスタミンの放出ほうしゅつ刺激しげきすることで、直接的ちょくせつてき間接かんせつてきかべ細胞さいぼう作用さようする。

ヒスタミンの放出ほうしゅつは、における胃酸いさん分泌ぶんぴつもっと重要じゅうようせい調節ちょうせつ機構きこうである。その放出ほうしゅつはガストリンとアセチルコリンによって刺激しげきされ、ソマトスタチンによって阻害そがいされる。

中和ちゅうわ

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十二指腸じゅうにしちょうでは、胃酸いさん炭酸たんさん水素すいそナトリウムによって中和ちゅうわされる。これにより、pHの酸性さんせいいきいたりてき条件じょうけん酵素こうそぐん妨害ぼうがいされる。膵臓すいぞうからの炭酸たんさん水素すいそナトリウムの分泌ぶんぴつは、セクレチンによって刺激しげきされる。このポリペプチドホルモンは、十二指腸じゅうにしちょうのpHが4.5から5.0を下回したまわると、十二指腸じゅうにしちょうおよびそらちょう粘膜ねんまくのいわゆるS細胞さいぼう英語えいごばんから活性かっせいされて分泌ぶんぴつされる。中和ちゅうわ以下いかしきあらわされる。

HCl + NaHCO3 → NaCl + H2CO3

炭酸たんさんは、ちょう上皮じょうひないまく結合けつごうした炭酸たんさん脱水だっすい酵素こうそによる触媒しょくばい作用さようにより、二酸化炭素にさんかたんそおよびみず急速きゅうそく平衡へいこう[6]中和ちゅうわ関連かんれんしたうち腔内の炭酸たんさんガスじゅん放出ほうしゅつにつながる。十二指腸じゅうにしちょうといった吸収きゅうしゅうせいじょうちょうでは、溶解ようかいした二酸化炭素にさんかたんそ炭酸たんさん両方りょうほう血液けつえき平衡へいこうする傾向けいこうがあり、これによって中和ちゅうわ生成せいせいされたガスのだい部分ぶぶんはいからされる。

疾患しっかんにおける役割やくわり

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ていさんしょう英語えいごばんおよびさんしょうでは、胃酸いさんすくない、またはまったくない状態じょうたいであり、ない腔の殺菌さっきん作用さよう低下ていかしているため、問題もんだいしょうじる可能かのうせいがある。このような状態じょうたいでは、消化しょうかかん感染かんせんしょうビブリオぞく細菌さいきんヘリコバクターぞく細菌さいきん感染かんせんなど)のリスクがたかくなる。

ゾリンジャー-エリソン症候群しょうこうぐん英語えいごばんおよびこうカルシウムしょうでは、ガストリン上昇じょうしょうがあり、これが胃酸いさん過剰かじょうさんせいにつながり、胃潰瘍いかいよう原因げんいんとなる。

過剰かじょう嘔吐おうと特徴とくちょうとする疾患しっかんでは、ていしお素性すじょう英語えいごばん代謝たいしゃせいアルカローシス英語えいごばんH+塩素えんそ欠乏けつぼうによるちゅう酸性さんせい低下ていか)を発症はっしょうする。

薬理やくりがく

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プロトンポンプ酵素こうそプロトンポンプ阻害そがいやく標的ひょうてきであり、過剰かじょうさん特徴とくちょうとする疾患しっかんにおいてのpHを上昇じょうしょうさせる(したがって胃酸いさん低下ていかさせる)ために使用しようされる。H2アンタゴニストは、間接かんせつてき胃酸いさんさんせい減少げんしょうさせる。せいさんやく存在そんざいするさん中和ちゅうわする。

歴史れきし

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消化しょうかにおける胃酸いさん役割やくわりは、1820年代ねんだいから1830年代ねんだいにかけて、事故じこにより瘻孔あな)がひらいたアレクシ・サンマルタン英語えいごばん協力きょうりょくおこなわれたウィリアム・ボーモント研究けんきゅうによって確立かくりつされた。ボーモントは消化しょうか過程かてい観察かんさつして胃酸いさん抽出ちゅうしゅつし、さん消化しょうか重要じゅうよう役割やくわりたしていることを検証けんしょうした[7]

出典しゅってん

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  1. ^ Elaine N. Marieb, Katja Hoehn, Katja N. Hoehn (2018). Human Anatomy and Physiology, 11th edition. Pearson Education, Inc. pp. 1264. ISBN 0134580990. https://books.google.ca/books/about/Human_Anatomy_Physiology.html?id=6MrdswEACAAJ&redir_esc=y 
  2. ^ a b c Dworken, Harvey J (2016). Human digestive system: gastric secretion. Encyclopædia Britannica Inc.. http://www.britannica.com/science/human-digestive-system/Gastric-secretion 
  3. ^ Guyton, Arthur C.; John E. Hall (2006). Textbook of Medical Physiology (11 ed.). Philadelphia: Elsevier Saunders. p. 797. ISBN 0-7216-0240-1 
  4. ^ Page 192 in: Elizabeth D Agabegi; Agabegi, Steven S. (2008). Step-Up to Medicine (Step-Up Series). Hagerstwon, MD: Lippincott Williams & Wilkins. ISBN 0-7817-7153-6. https://archive.org/details/stepuptomedicine0000agab 
  5. ^ a b Lecture, "Function of the Stomach and Small Intestine" Deakin University School of Medicine. October 15, 2012
  6. ^ Lönnerholm, G.; Knutson, L.; Wistrand, P. J.; Flemström, G. (1989). “Carbonic anhydrase in the normal rat stomach and duodenum and after treatment with omeprazole and ranitidine”. Acta Physiologica Scandinavica 136 (2): 253–262. doi:10.1111/j.1748-1716.1989.tb08659.x. PMID 2506730. 
  7. ^ Harré, R. (1981). Great Scientific Experiments. Phaidon (Oxford). pp. 39–47. ISBN 0-7148-2096-2. https://archive.org/details/greatscientifice00romh/page/39 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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