出典 しゅってん : フリー百科 ひゃっか 事典 じてん 『ウィキペディア(Wikipedia)』
炭酸 たんさん (たんさん、英 えい : carbonic acid )は、化学 かがく 式 しき H2 CO3 で表 あらわ される炭素 たんそ のオキソ酸 さん であり弱酸 じゃくさん の一種 いっしゅ である。
普通 ふつう は水溶液 すいようえき (炭酸 たんさん 水 すい )中 ちゅう のみに存在 そんざい し、水 みず に溶解 ようかい した二酸化炭素 にさんかたんそ の一部 いちぶ が水分 すいぶん 子 こ と反応 はんのう して炭酸 たんさん となる。
CO
2
(
aq
)
+
H
2
O
(
l
)
↽
−
−
⇀
H
2
CO
3
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {CO2(aq)\ +H2O(l)\ <=>\ H2CO3(aq)}}}
この反応 はんのう の平衡 へいこう 定数 ていすう (K h ) は 25 ℃で 1.7 × 10−3 であり[ 1] 、著 いちじる しく左 ひだり に偏 かたよ っているため水溶液 すいようえき 中 ちゅう の二酸化炭素 にさんかたんそ の大 だい 部分 ぶぶん は CO2 分子 ぶんし として存在 そんざい する。触媒 しょくばい が存在 そんざい しない場合 ばあい 、二酸化炭素 にさんかたんそ と炭酸 たんさん の間 あいだ の反応 はんのう が平衡 へいこう に達 たっ する速度 そくど は低 ひく く、正 せい 反応 はんのう の速度 そくど 定数 ていすう は 0.039 s−1 、逆 ぎゃく 反応 はんのう の速度 そくど 定数 ていすう は 23 s−1 である。
二酸化炭素 にさんかたんそ と炭酸 たんさん の平衡 へいこう は体液 たいえき の酸性 さんせい 度 ど を調節 ちょうせつ する上 じょう で非常 ひじょう に重要 じゅうよう であり、ほとんどの生物 せいぶつ はこれら2つの化合 かごう 物 ぶつ を変換 へんかん させるための炭酸 たんさん 脱水 だっすい 酵素 こうそ を持 も っている。この酵素 こうそ は反応 はんのう 速度 そくど をおよそ10億 おく 倍 ばい [要 よう 出典 しゅってん ] にする。
炭酸 たんさん は水溶液 すいようえき 中 ちゅう で2段階 だんかい の解離 かいり を起 お こす。25 ℃における酸 さん 解離 かいり 定数 ていすう は1段階 だんかい 目 め が pK a1 = 3.60、2段階 だんかい 目 め が pK a2 = 10.25 であり、炭酸 たんさん は真 しん の解離 かいり 定数 ていすう において酢酸 さくさん よりも強 つよ い酸 さん であるが、上記 じょうき の二酸化炭素 にさんかたんそ との平衡 へいこう が存在 そんざい するために、見 み かけ上 じょう の pK a* が高 たか い非常 ひじょう に弱 よわ い酸 さん である。このため炭酸 たんさん 塩 しお は相応 そうおう の塩基 えんき 性 せい を示 しめ し、灰汁 あく として古代 こだい より日常 にちじょう 生活 せいかつ のアルカリとして洗浄 せんじょう などに活用 かつよう されてきた。
H
2
CO
3
(
aq
)
↽
−
−
⇀
HCO
3
−
(
aq
)
+
H
+
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {H2CO3(aq) <=> HCO3^{-}(aq) + H^+(aq)}}}
HCO
3
−
(
aq
)
↽
−
−
⇀
CO
3
2
−
(
aq
)
+
H
+
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {HCO3^{-}(aq) <=> CO3^{2-}(aq) + H^+(aq)}}}
K
a
1
=
[
H
+
]
[
HCO
3
−
]
[
H
2
CO
3
]
=
2.5
×
10
−
4
{\displaystyle K_{a1}={\frac {[{\mbox{H}}^{+}][{\mbox{HCO}}_{3}^{-}]}{[{\mbox{H}}_{2}{\mbox{CO}}_{3}]}}=2.5\times 10^{-4}}
酸 さん 解離 かいり に関 かん する標準 ひょうじゅん エンタルピー 変化 へんか 、ギブス自由 じゆう エネルギー 変化 へんか 、エントロピー 変化 へんか の値 ね が報告 ほうこく されており[ 2] 、解離 かいり に伴 ともな いエントロピーの減少 げんしょう がおこるのは、電荷 でんか の増加 ぞうか に伴 ともな いイオンの水 みず 和 わ の程度 ていど が増加 ぞうか し、電 でん 縮 ちぢみ が起 お こり水 みず 分子 ぶんし の水素 すいそ 結合 けつごう による秩序 ちつじょ 化 か の度合 どあ いが増加 ぞうか するからである[ 3] 。この値 ね は以下 いか の平衡 へいこう に対 たい するものでpK a1 *は見 み かけの酸 さん 解離 かいり 定数 ていすう である。
水酸化 すいさんか ナトリウム水溶液 すいようえき による中和 ちゅうわ 滴 しずく 定 てい 曲線 きょくせん
CO
2
(
aq
)
+
H
2
O
(
l
)
↽
−
−
⇀
H
+
(
aq
)
+
HCO
3
−
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {CO2(aq) + H_2O(l) <=> H^+(aq) + HCO_3^{-}(aq)}}}
,
p
K
a
1
∗
=
6.35
{\displaystyle {\mbox{p}}K_{a1}^{*}=6.35\,}
HCO
3
−
(
aq
)
↽
−
−
⇀
H
+
(
aq
)
+
CO
3
2
−
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {HCO_3^{-}(aq) <=> H^+(aq) + CO_3^{2-}(aq)}}}
,
p
K
a
2
=
10.33
{\displaystyle {\mbox{p}}K_{a2}=10.33\,}
K
a
1
∗
=
[
H
+
]
[
HCO
3
−
]
[
H
2
CO
3
]
+
[
CO
2
]
=
4.45
×
10
−
7
{\displaystyle K_{a1}^{*}={\frac {[{\mbox{H}}^{+}][{\mbox{HCO}}_{3}^{-}]}{[{\mbox{H}}_{2}{\mbox{CO}}_{3}]+[{\mbox{CO}}_{2}]}}=4.45\times 10^{-7}}
K
a
2
=
[
H
+
]
[
CO
3
2
−
]
[
HCO
3
−
]
=
4.7
×
10
−
11
{\displaystyle K_{a2}={\frac {[{\mbox{H}}^{+}][{\mbox{CO}}_{3}^{2-}]}{[{\mbox{HCO}}_{3}^{-}]}}=4.7\times 10^{-11}}
Δ でるた
H
∘
{\displaystyle {\mathit {\Delta }}H^{\circ }}
Δ でるた
G
∘
{\displaystyle {\mathit {\Delta }}G^{\circ }}
Δ でるた
S
∘
{\displaystyle {\mathit {\Delta }}S^{\circ }}
Δ でるた
C
p
∘
{\displaystyle {\mathit {\Delta }}Cp^{\circ }}
第 だい 一 いち 解離 かいり
7.64 kJ mol−1
36.34 kJ mol−1
−96.3 J mol−1 K−1
−377 J mol−1 K−1
第 だい 二 に 解離 かいり
14.85 kJ mol−1
58.96 kJ mol−1
−148.1 J mol−1 K−1
−272 J mol−1 K−1
長 なが い間 あいだ 、炭酸 たんさん は水 みず に溶 と けた状態 じょうたい でしか存在 そんざい できず、炭酸 たんさん そのものを室温 しつおん で単 たん 離 はなれ することは不可能 ふかのう だと考 かんが えられていた。しかし、1991年 ねん にNASA・ゴダード宇宙 うちゅう 飛行 ひこう センター の科学 かがく 者 しゃ が初 はじ めて純粋 じゅんすい な H2 CO3 を作 つく り出 だ すことに成功 せいこう した[ 4] 。彼 かれ らは凍結 とうけつ させた水 みず と二酸化炭素 にさんかたんそ に高 こう エネルギーの放射線 ほうしゃせん を照射 しょうしゃ したのち、加 か 温 ぬく して余分 よぶん な水 みず を取 と り除 のぞ くことにより単 たん 離 はなれ を行 おこな った。得 え られた炭酸 たんさん の構造 こうぞう は赤 あか 外 がい 分光 ぶんこう 法 ほう によって検証 けんしょう された。宇宙 うちゅう 空間 くうかん には水 みず や二酸化炭素 にさんかたんそ の氷 こおり が普通 ふつう に存在 そんざい することから、この実験 じっけん 結果 けっか は宇宙 うちゅう 線 せん や紫外線 しがいせん によってそれらが反応 はんのう することで生成 せいせい した炭酸 たんさん も宇宙 うちゅう 空間 くうかん には存在 そんざい する可能 かのう 性 せい があることを示唆 しさ している。
理論 りろん 計算 けいさん によって、水 みず が1分子 ぶんし でも存在 そんざい すると炭酸 たんさん はすぐに二酸化炭素 にさんかたんそ と水 みず に戻 もど ってしまうが、水 みず を含 ふく まない純粋 じゅんすい な炭酸 たんさん は気体 きたい 状態 じょうたい で安定 あんてい であることが示 しめ されており、その半減 はんげん 期 き はおよそ18万 まん 年 ねん であると考 かんが えられる[ 5] 。
大気 たいき 中 ちゅう の二酸化炭素 にさんかたんそ (0.033 %) が溶 と け込 こ んだ水 みず の pH は 5.6 である。通常 つうじょう の雨水 あまみず は二酸化炭素 にさんかたんそ で飽和 ほうわ 状態 じょうたい になってはいないため、大気 たいき 汚染 おせん 物質 ぶっしつ がなければその pH は 6 前後 ぜんこう である。工場 こうじょう などから排出 はいしゅつ された二酸化 にさんか 硫黄 いおう などの酸性 さんせい 酸化 さんか 物 ぶつ が溶 と け込 こ み、二酸化炭素 にさんかたんそ で飽和 ほうわ した雨水 あまみず よりpHが低下 ていか したものは酸性 さんせい 雨 う と呼 よ ばれる。雨 あめ のpHはチョーク や石灰岩 せっかいがん などの炭酸 たんさん 塩 しお 鉱物 こうぶつ に影響 えいきょう し、様々 さまざま な地形 ちけい を作 つく り出 だ す。岩石 がんせき に含 ふく まれる炭酸 たんさん カルシウム と二酸化炭素 にさんかたんそ が溶解 ようかい した水 みず の間 あいだ には、以下 いか のような平衡 へいこう が成 な り立 た っている。
CaCO
3
+
CO
2
+
H
2
O
↽
−
−
⇀
Ca
(
HCO
3
)
2
{\displaystyle {\ce {CaCO3\ +CO2\ +H2O\ <=>\ Ca(HCO3)2}}}
(
CaCO
3
(
s
)
+
CO
2
(
aq
)
+
H
2
O
(
l
)
↽
−
−
⇀
Ca
2
+
(
aq
)
+
2
HCO
3
−
(
aq
)
)
{\displaystyle {\ce {(CaCO3(s)\ +CO2(aq)\ +H2O(l)\ <=>\ Ca^{2+}(aq)\ +2HCO3^{-}(aq))}}}
これにより、水 みず が入 はい りこんだ断層 だんそう 線 せん 付近 ふきん の地下 ちか 洞窟 どうくつ が浸食 しんしょく されることがある。また水 みず が蒸発 じょうはつ したり、二酸化炭素 にさんかたんそ の溶解 ようかい 度 ど が低下 ていか したりすると炭酸 たんさん カルシウムが再 さい 結晶 けっしょう し、鍾乳石 しょうにゅうせき や石筍 せきじゅん を形成 けいせい する。チョークからなる帯 おび 水 すい 層 そう からくみ上 あ げられた水 みず は多量 たりょう の炭酸 たんさん カルシウムが溶解 ようかい しており、「硬水 こうすい 」と呼 よ ばれている。
^ Welch, M. J.; Lipton, J. F.; Seck, J. A. (1969). "Tracer studies with radioactive oxygen-15. Exchange between carbon dioxide and water". J. Phys. Chem. 73 : 3351–3356. DOI: 10.1021/j100844a033
^ D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982).
^ 田中 たなか 元治 もとはる 『基礎 きそ 化学 かがく 選書 せんしょ 8 酸 さん と塩基 えんき 』 裳 も 華 はな 房 ぼう 、1971年 ねん
^ Moore, M. H.; Khanna, R. (1991). "Infrared and Mass Spectral Studies of Proton Irradiated H2O + CO2 Ice: Evidence for Carbonic Acid". Spectrochim. Acta [A] 47 : 255–262.
^ Loerting, T.; Tautermann, C.; Kroemer, R. T.; Kohl, I.; Mayer, E.; Hallbrucker, A.; Leidl, K. R. (2000). "On the Surprising Kinetic Stability of Carbonic Acid". Angew. Chem., Int. Ed. 39 : 891–894. DOI: 10.1002/(SICI)1521-3773(20000303)39:5<891::AID-ANIE891>3.0.CO;2-E
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