(Translated by https://www.hiragana.jp/)
イソシアン化水素 - Wikipedia コンテンツにスキップ

イソシアン化水素しあんかすいそ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
イソシアン化水素しあんかすいそ
識別しきべつ情報じょうほう
PubChem 6432654
ChemSpider 4937885 チェック
ChEBI
特性とくせい
化学かがくしき HNC
モル質量しつりょう 27.03 g/mol
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・つねあつ (100 kPa) におけるものである。

イソシアン化水素しあんかすいそ(イソシアンかすいそ、hydrogen isocyanide)は、分子ぶんししきHNCであらわされる化合かごうぶつである。シアン化水素しあんかすいそ (HCN) の互変異性いせいからだである。ほしあいだ物質ぶっしつとして遍在へんざいし、宇宙うちゅう化学かがく分野ぶんやでは重要じゅうよう化合かごうぶつの1つである。

名前なまえ[編集へんしゅう]

英語えいごでhydrogen isocyanideとazanylidyniummethanideのどちらもIUPAC命名めいめいほうもとづいたただしいものであり、優先ゆうせんIUPACめいはない。後者こうしゃ名前なまえは、水素すいそアザン (NH3) とメタニド (C-) をおや化合かごうぶつとした置換ちかんもと命名めいめいほうもとづいたものである[1]

性質せいしつ[編集へんしゅう]

イソシアン化水素しあんかすいそは、C∞v分子ぶんし対称たいしょうせい直線ちょくせんがたさん原子げんし分子ぶんしである。そうせいイオンであり、シアン化水素しあんかすいそ異性いせいたいである[2]。HNCとHCNは、それぞれμみゅーHNC = 3.05デバイμみゅーHCN = 2.98デバイという、どちらもおおきく、ちか双極そうきょくモーメント[3]。このようなおおきな双極そうきょくモーメントが、これらのたねほしあいだ物質ぶっしつとして発見はっけんされやすくしている。

HNC-HCN互変異性いせい[編集へんしゅう]

HNCがHCNよりも3920 cm−1 (46.9 kJ/mol) だけたかいエネルギーをつため、これらの平衡へいこうは、温度おんど100 K以下いかで10−25になるとかんがえられていた[4]。しかし、観測かんそくによると、そのは10-25よりずっとたかく、つめたい環境かんきょうでは実際じっさいはほぼ1けたになることが観測かんそくされた。これは、互変異へんい反応はんのうのポテンシャルエネルギー経路けいろのためであり、互変異化いかこるためには、おおよそ12,000 cm−1のところに活性かっせい障壁しょうへき存在そんざいする。これが、HNCが中性ちゅうせい-中性ちゅうせい反応はんのうでほぼ破壊はかいされる温度おんど一致いっちする[5]

スペクトルの性質せいしつ[編集へんしゅう]

実際じっさいには、HNC は、J = 1→0 遷移せんいもちいて、天文学てんもんがくてき観察かんさつされるほぼ唯一ゆいいつ化合かごうぶつである。この遷移せんいは、≒90.66 GHzでこり、このは、大気たいき電波でんぱとおしやすい「大気たいきまど」によく一致いっちする。HCN をふくおおくの関連かんれん化合かごうぶつもこれにちかまど観測かんそくできる[6][7]

ほしあいだ物質ぶっしつとしての重要じゅうようせい[編集へんしゅう]

HNCは、HCNはべつとして、プロトンシアン化水素しあんかすいそ (HCNH+) やシアン化物ばけもの (CN) とうほしあいだ分子ぶんしとして重要じゅうようほかおおくの関連かんれん分子ぶんし生成せいせい破壊はかいにも複雑ふくざつむすびついている。このようにして、HNCの化学かがく無数むすうほか分子ぶんし性質せいしつ理解りかいつながり、HNC はほしあいだ化学かがくという複雑ふくざつなパズルの不可欠ふかけつなピースとなる。

さらに、HNC は HCN とともに、分子ぶんしくもいガスのトレーサーとして一般いっぱんてきもちいられる。HNC は、ほし形成けいせいつながる重力じゅうりょく崩壊ほうかい調査ちょうさだけではなく、窒素ちっそ分子ぶんし比較ひかくした存在そんざいりょうにより、原始げんしぼしコア進化しんか段階だんかい決定けっていするのにももちいられる[3]

HCO+/HNCは、ガス密度みつど測定そくていする手段しゅだんとしてもちいられる[8]。この情報じょうほうからかく進化しんかほし形成けいせい、さらにはブラックホールによるガス供給きょうきゅう情報じょうほうられ、こう光度こうど赤外線せきがいせん銀河ぎんが形成けいせい機構きこうについてのふか洞察どうさつあたえられる。さらに、[HNC]/[HCN] がひかり解離かいり領域りょういきではほぼ均一きんいつXせん解離かいり領域りょういきではよりおおきいという性質せいしつから、HNC/HCN ひかり解離かいり領域りょういきとXせん解離かいり領域りょういき区分くぶんするのにもちいられる。HNCの研究けんきゅう比較的ひかくてき単純たんじゅんであり、これはもっとおおきなモチベーションの1つとなっている。大気たいきまどとしてJ = 1→0 遷移せんい明瞭めいりょう部分ぶぶんほかに、簡単かんたん研究けんきゅうもちいることのできる多数たすう同位どういたい異性いせいたい英語えいごばん(アイソトポマー)があり、また観測かんそく容易よういにするおおきな双極そうきょくモーメントつ。これらのため、生成せいせい破壊はかい反応はんのう経路けいろ研究けんきゅうすすみ、これらの反応はんのう宇宙うちゅうこることにかんする洞察どうさつられた。さらに、HNC とHCN のあいだの互変異性いせい研究けんきゅうにより、より複雑ふくざつ異性いせい反応はんのうのモデルも提案ていあんされた[5][9][10]

ほしあいだ物質ぶっしつとしての化学かがく[編集へんしゅう]

HNCは、分子ぶんしくもなかおも物質ぶっしつとしてられるため、ほしあいだ物質ぶっしつとして普遍ふへんてきなものである。その存在そんざいりょうは、窒素ちっそ含有がんゆう化合かごうぶつ存在そんざいりょう密接みっせつ関連かんれんしている[11]。HNCはおもHNCH+H2NC+ との解離かいりせいさい結合けつごうにより生成せいせいし、おもH3+C+のイオン-中性ちゅうせい反応はんのうにより破壊はかいされる[12][13]分子ぶんしくも形成けいせい初期しょき段階だんかいである3.16 × 105としおよ典型てんけいてき温度おんどである20 Kの条件じょうけん速度そくど計算けいさんおこなった結果けっか以下いかひょうである[14][15]

Formation Reactions
Reactant 1 Reactant 2 Product 1 Product 2 Rate constant Rate/[H2]2 Relative Rate
HCNH+ e- HNC H 9.50×10−8 4.76×10−25 3.4
H2NC+ e- HNC H 1.80×10−7 1.39×10−25 1.0
Destruction Reactions
Reactant 1 Reactant 2 Product 1 Product 2 Rate constant Rate/[H2]2 Relative Rate
H+
3
HNC HCNH+ H2 8.10×10−9 1.26×10−24 1.7
C+ HNC C2N+ H 3.10×10−9 7.48×10−25 1.0

これら4つの反応はんのうもっと支配しはいてきなものであり、したがってみつ分子ぶんしくもにおけるHNCの形成けいせいにおいてもっと重要じゅうようなものである。 HNCの形成けいせい破壊はかいには、さらになんじゅうもの反応はんのうがある。これらの反応はんのう様々さまざまなプロトン分子ぶんし生成せいせいするため、HNCは、アンモニアやシアン化物ばけものとうほかおおくの窒素ちっそ含有がんゆう分子ぶんし存在そんざいりょう密接みっせつ関連かんれんする[11]。HNCの存在そんざいりょうはHCNの存在そんざいりょうとも関連かんれんしており、これら2つの分子ぶんし環境かんきょうおうじて特殊とくしゅ比率ひりつ存在そんざいする傾向けいこうにある[12]。これは、HNCを生成せいせいする反応はんのうではしばしばHCNもしょうじ、反応はんのうこる条件じょうけん依存いぞんして、両者りょうしゃ異性いせい反応はんのう存在そんざいするためである。

天文学てんもんがくてき検出けんしゅつ[編集へんしゅう]

HCN(HNCではない)は、1970ねん6がつアメリカ国立こくりつ電波でんぱ天文台てんもんだいの30フィート電波でんぱ望遠鏡ぼうえんきょうもちいて、L. E. SnyderとD. Buhlがはじめて検出けんしゅつした[16]最初さいしょ分子ぶんし同位どういたいH12C14N は、W3 (OH)、Orion A、Sgr A(NH3A)、W49、W51、DR 21(OH)6つのことなる電波でんぱげんから、88.6 GHzのJ = 1→0 遷移せんいにより観察かんさつされた。2番目ばんめ分子ぶんし同位どういたい H13C14N は、Orion AとSgr A(NH3A)の2つの電波でんぱげんからの86.3 GHzのJ = 1→0 遷移せんいにより観察かんさつされた。HCNはその、1988ねんにスペインのベレッタさんにあるIRAM30m望遠鏡ぼうえんきょうもちいて銀河系ぎんがけいそと検出けんしゅつされた[17]。これは、IC 342方角ほうがくに90.7 GHzのJ = 1→0遷移せんい観察かんさつされたものである。このほか、1996ねん観測かんそくされた百武ももたけ彗星すいせいからの検出けんしゅつ報告ほうこくされている[18][19]

[HNC]/[HCN]の存在そんざい温度おんど依存いぞんせい確認かくにんすることにけておおくの検出けんしゅつがなされた。温度おんど存在そんざいあいだつよ相関そうかんにより、その分光ぶんこうがくてき検出けんしゅつし、それから環境かんきょう温度おんどそとすることが可能かのうとなった。これにより、この分子ぶんししゅ環境かんきょうへのおおきな洞察どうさつられた。オリオン分子ぶんしくも沿ったHNC、HCN の希少きしょう同位どういたい存在そんざいは、あたたかい領域りょういきつめたい領域りょういきあいだで、1けた以上いじょうことなる[20]。1992ねん、オリオン分子ぶんしくもえんかく沿ったHNC、HCNとその重水素じゅうすいそアナログの存在そんざいりょう測定そくていされ、存在そんざい温度おんど依存いぞんせい確認かくにんされた[6]。1997ねんのW3きょ大分おおいたくも調査ちょうさでは、HNC、HN13C、HN15Cをふくむ14のことなる化学かがくしゅ構成こうせいする24のことなる分子ぶんし同位どういたいられた。この調査ちょうさでは、[HNC] / [HCN]存在そんざい温度おんど依存いぞんせいがさらに確認かくにんされ、さらに今回こんかいはアイソトポマーの依存いぞんせい確認かくにんされた[21]

ほしあいだ物質ぶっしつとしてHNCが検出けんしゅつされたのは、これらだけではない。1997ねんおうし分子ぶんしくもえん沿ってHNCが観測かんそくされてHCO+たいする存在そんざいえん沿って一定いっていであることが発見はっけんされ、HNC がHCO+由来ゆらいしてしょうじるという反応はんのう経路けいろ信頼しんらいせいたかめることとなった[7]。2006ねんには、HN13C やHN15C をふく様々さまざま窒素ちっそ化合かごうぶつ存在そんざいりょうからCha-MMS1原始げんしぼしコアの進化しんか段階だんかいはじめて推定すいていされた[3]

2014ねん8がつ11にちアタカマ大型おおがたミリサブミリ干渉かんしょうけいもちいたはじめての観測かんそくで、レモン彗星すいせい (C/2012 F6)およびアイソン彗星すいせいコマ内部ないぶのHCN、HNC、ホルムアルデヒドおよびちり分布ぶんぷ結果けっか公表こうひょうされた[22][23]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ The suffix ylidyne refers to the loss of three hydrogen atoms from the nitrogen atom in azanium (NH+
    4
    ) See the IUPAC Red Book 2005 Table III, "Suffixes and endings", p. 257.
  2. ^ Pau, Chin Fong; Hehre, Warren J. (1982-02-01). “Heat of formation of hydrogen isocyanide by ion cyclotron double resonance spectroscopy”. The Journal of Physical Chemistry 86 (3): 321-322. doi:10.1021/j100392a006. ISSN 0022-3654. 
  3. ^ a b c Tennekes, P. P. (2006). “HCN and HNC mapping of the protostellar core Chamaeleon-MMS1”. Astronomy and Astrophysics 456 (3): 1037-1043. arXiv:astro-ph/0606547. Bibcode2006A&A...456.1037T. doi:10.1051/0004-6361:20040294. 
  4. ^ Hirota, T. (1998). “Abundances of HCN and HNC in Dark Cloud Cores”. Astrophysical Journal 503 (2): 717-728. Bibcode1998ApJ...503..717H. doi:10.1086/306032. 
  5. ^ a b Bentley, J. A. (1993). “Highly virationally excited HCN/HNC: Eigenvalues, wave functions, and stimulated emission pumping spectra”. J. Chem. Phys. 98 (7): 5209. Bibcode1993JChPh..98.5207B. doi:10.1063/1.464921. 
  6. ^ a b Schilke, P. (1992). “A study of HCN, HNC and their isotopomers in OMC-1. I. Abundances and chemistry”. Astronomy and Astrophysics 256: 595-612. Bibcode1992A&A...256..595S. http://adsabs.harvard.edu/full/1992A%26A...256..595S. 
  7. ^ a b Pratap, P. (1997). “A Study of the Physics and Chemistry of TMC-1”. Astrophysical Journal 486 (2): 862-885. Bibcode1997ApJ...486..862P. doi:10.1086/304553. 
  8. ^ Loenen, A. F. (2007). “Molecular properties of (U)LIRGs: CO, HCN, HNC and HCO+”. Proceedings IAUえーゆー Symposium 242: 1-5. 
  9. ^ Skurski, P. (2001). “Ab initio electronic structure of HCN- and HNC- dipole-bound anions and a description of electron loss upon tautomerization”. J. Chem. Phys. 114 (17): 7446. Bibcode2001JChPh.114.7443S. doi:10.1063/1.1358863. 
  10. ^ Jakubetz, W.; Lan, B. L. (1997). “A simulation of ultrafast state-selective IR-laser-controlled isomerization of hydrogen cyanide based on global 3D ab initio potential and dipole surfaces”. Chem. Phys. 217 (2-3): 375-388. Bibcode1997CP....217..375J. doi:10.1016/S0301-0104(97)00056-6. 
  11. ^ a b Turner, B. E. (1997). “The Physics and Chemistry of Small Translucent Molecular Clouds. VIII. HCN and HNC”. Astrophysical Journal 483 (1): 235-261. Bibcode1997ApJ...483..235T. doi:10.1086/304228. 
  12. ^ a b Hiraoka, K. (2006). “How are CH3OH, HNC/HCN, and NH3 Formed in the Interstellar Medium?”. AIP Conf. Proc. 855: 86-99. doi:10.1063/1.2359543. 
  13. ^ Doty, S. D. (2004). “Physical-chemical modeling of the low-mass protostar IRAS 16293-2422”. Astronomy and Astrophysics 418 (3): 1021-1034. arXiv:astro-ph/0402610. Bibcode2004A&A...418.1021D. doi:10.1051/0004-6361:20034476. 
  14. ^ The UMIST Database for Astrochemistry”. 2019ねん2がつ27にち閲覧えつらん
  15. ^ Millar, T. J. (1997). “The UMIST database for astrochemistry 1995”. Astronomy and Astrophysics Supplement Series 121: 139-185. arXiv:1212.6362. Bibcode1997A&AS..121..139M. doi:10.1051/aas:1997118. 
  16. ^ Snyder, L. E.; Buhl, D. (1971). “Observations of Radio Emission from Interstellar Hydrogen Cyanide”. Astrophysical Journal 163: L47-L52. Bibcode1971ApJ...163L..47S. doi:10.1086/180664. 
  17. ^ Henkel, C. (1988). “Molecules in external galaxies: the detection of CN, C2H, and HNC, and the tentative detection of HC3N”. Astronomy and Astrophysics 201: L23-L26. Bibcode1988A&A...201L..23H. 
  18. ^ Irvine, W. M., et al. (1996) "Spectroscopic evidence for interstellar ices in comet Hyakutake." 03 October 1996, Nature, 383, 418‒420.
  19. ^ 菅原すがわら春菜はるな、「彗星すいせい有機ゆうき分子ぶんしとその物質ぶっしつ進化しんかへの役割やくわり」 『地球ちきゅう化学かがく』 2016ねん 50かん 2ごう p.77-96, doi:10.14934/chikyukagaku.50.77
  20. ^ Goldsmith, P. F. (1986). “Variations in the HCN/HNC Abundance Ratio in the Orion Molecular Cloud”. Astrophysical Journal 310: 383-391. Bibcode1986ApJ...310..383G. doi:10.1086/164692. 
  21. ^ Helmich, F. P.; van Dishoeck, E. F. (1997). “Physical and chemical variations within the W3 star-forming region”. Astronomy and Astrophysics 124 (2): 205-253. Bibcode1997A&AS..124..205H. doi:10.1051/aas:1997357. 
  22. ^ Zubritsky, Elizabeth (2014ねん8がつ11にち). “RELEASE 14-038 - NASA's 3-D Study of Comets Reveals Chemical Factory at Work”. NASA. 2014ねん8がつ12にち閲覧えつらん
  23. ^ Cordiner, M.A. (11 August 2014). “Mapping the Release of Volatiles in the Inner Comae of Comets C/2012 F6 (Lemmon) and C/2012 S1 (ISON) Using the Atacama Large Millimeter/Submillimeter Array”. The Astrophysical Journal 792 (1): L2. arXiv:1408.2458. Bibcode2014ApJ...792L...2C. doi:10.1088/2041-8205/792/1/L2. http://iopscience.iop.org/2041-8205/792/1/L2/article 2014ねん8がつ12にち閲覧えつらん. 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]