宇宙うちゅう線せん

天文学てんもんがく上じょうの未み解決かいけつ問題もんだい
なぜ、宇宙うちゅう線せんのうちのいくつかは「神かみの素粒子そりゅうし」と呼よばれるほどの非常ひじょうに高たかいエネルギーをもっているのか？地球ちきゅう近辺きんぺんには十分じゅうぶんにエネルギーのある宇宙うちゅう線せん源げんがないにもかかわらず、なぜそれほどのエネルギーを持もっているのか？遠とおくの線せん源げんから放射ほうしゃされる宇宙うちゅう線せんのうちのいくつかが明あきらかにGZKカットオフ以上いじょうのエネルギーを持もっているのはなぜか？

宇宙うちゅう線せん（うちゅうせん、英えい: cosmic ray^[1]）は、宇宙うちゅう空間くうかんを飛とび交かう高こうエネルギーの放射線ほうしゃせんのことである^[2]。主おもな成分せいぶんは陽子ようしであり、アルファ粒子りゅうし、リチウム、ベリリウム、ホウ素ほうそ、鉄てつなどの原子核げんしかくが含ふくまれている^[3]。なお、地球ちきゅうにも常時じょうじ飛来ひらいしていることが観測かんそくされている。1900年ねんに発見はっけんされた。発生はっせい源げんは、巨大きょだいな星ほしの爆発ばくはつやブラックホールからガスが噴ふき出でるといった大だい規模きぼな天体てんたい現象げんしょうと考かんがえられているが、特定とくていされていない^[4]。

概要がいよう

宇宙うちゅう線せんには太陽たいよう宇宙うちゅう線せんや銀河ぎんが宇宙うちゅう線せん等ひとしがある^[5]^[6]。宇宙うちゅう線せんのほとんどは銀河系ぎんがけい内うちを起源きげんとする銀河ぎんが宇宙うちゅう線せんであり、超新星ちょうしんせい残骸ざんがいなどにより加速かそくされていると考かんがえられている。これらは、銀河ぎんが磁場じばで銀河ぎんが内ないに長時間ちょうじかん閉とじ込こめられるため、銀河ぎんが内ない物質ぶっしつとの衝突しょうとつで破砕はさいし、他たの原子核げんしかくに変化へんかすることがある。実際じっさい、Li、Be、B、Sc、Vなどの元素げんその存在そんざい比ひが、太陽系たいようけい内うちのものと宇宙うちゅう線せん中ちゅうとで大おおきく異ことなることが知しられている。このため、宇宙うちゅう線せんの元素げんそ比ひや同位どうい元素げんその存在そんざい比ひを測定そくていすることで、宇宙うちゅう線せんの通過つうかした物質ぶっしつ量りょうを推測すいそくすることが出来できる。

エネルギーの高たかい宇宙うちゅう線せんの到来とうらい頻度ひんどは極端きょくたんに低ひくくなるが、そのエネルギースペクトルは冪べき関数かんすう dI/dE∝E^{-αあるふぁ}(αあるふぁ〜3)で近似きんじできる。このため、宇宙うちゅう線せんの加速かそくは熱ねつ的てきなものではなく、星ほし間あいだ磁気じき雲くもや衝撃波しょうげきはとの衝突しょうとつを繰くり返かえすフェルミ加速かそくのような機構きこうが考かんがえられる。

地球ちきゅう大気たいき内うちに高こうエネルギーの宇宙うちゅう線せんが入射にゅうしゃした場合ばあい、空気くうきシャワー現象げんしょうが生しょうじ、多おおくの二に次じ粒子りゅうしが発生はっせいする。寿命じゅみょうの短みじかいものはすぐに崩壊ほうかいするが、安定あんていな粒子りゅうしは地上ちじょうで観測かんそくされる。このとき、大気たいき中ちゅうに入射にゅうしゃする宇宙うちゅう線せんを一いち次じ宇宙うちゅう線せん、そこから発生はっせいした粒子りゅうしを二に次じ宇宙うちゅう線せんと呼よぶ^[7]^[8]。一いち次じ宇宙うちゅう線せんの大だい部分ぶぶんは陽子ようしをはじめとする荷電かでん粒子りゅうしである。それに対たいして、二に次じ宇宙うちゅう線せんは地上ちじょう高度こうどでは大半たいはんがμみゅー粒子りゅうしである。

粒子りゅうし加速器かそくきなどで人間にんげんが作つくり出だせるエネルギーは、重心じゅうしん系けいで最大さいだい10¹³ eVのオーダー（CERNで計画けいかくされているLHCが 1.4×10¹³ eV）であり、実験じっけん室しつ系けいに換算かんさんしても、10¹⁷ eV程度ていどである。それに対たいし、宇宙うちゅう線せんのエネルギーは実験じっけん室しつ系けいで最大さいだい 10²⁰ eVに達たっする。このため、宇宙うちゅう線せんによって超ちょう高こうエネルギー領域りょういきでの素粒子そりゅうし反応はんのうについて重要じゅうような知見ちけんを得えることができる。実際じっさいに、様々さまざまな新しん粒子りゅうしが素粒子そりゅうし実験じっけんより先さきに宇宙うちゅう線せん中ちゅうから見みつかった。

一般いっぱんにはGZK限界げんかいを越こえるエネルギーを持もつ宇宙うちゅう線せん（超ちょう高こうエネルギー宇宙うちゅう線せん）は観測かんそくされないとされているが、その観測かんそくを目的もくてきとした実験じっけん計画けいかく（テレスコープアレイ実験じっけん）がある。

宇宙うちゅう線せんは、集積しゅうせき回路かいろ中なかの素子そしのようなごく微小びしょうな電子でんし装置そうちの誤作動ごさどうの原因げんいんともなる。基本きほん的てきなところは他たの放射線ほうしゃせん等とうと同おなじだが、地上ちじょうではどこへでも降ふり注そそいでいる点てんなど特異とくいな点てんなどもあり、理学りがく的てきな研究けんきゅうとしてだけではなく、実務じつむ的てき工学こうがく的てきな対策たいさくなどが検討けんとうされる対象たいしょうでもある。

発見はっけん

以下いか、記述きじゅつはM. S. Longair "High Energy Astrophysics Third Edition" 2011 Cambridge University Pressの1.10節せつに従したがう。

1900年ねん頃ごろ、自然しぜん放射線ほうしゃせん源げんから離はなれた暗くらい場所ばしょに設置せっちされた検けん電器でんき(electroscope)が放電ほうでんすることが観測かんそくされ、これは宇宙うちゅう線せんの存在そんざいを示しめす最初さいしょの手てがかりとなった。

その後ご、1912年ねんと1913年ねんにビクター・フランツ・ヘスとKolhörsterによって有人ゆうじん気球ききゅう実験じっけんが行おこなわれた。高度こうどが上あがるにつれて大気たいきのイオン化いおんかが増加ぞうかすることが観測かんそくされ、これは宇宙うちゅう線せんの放射ほうしゃ源げんが地球ちきゅう大気たいきの外そとに存在そんざいすることを示しめす重要じゅうような結果けっかとなった。この業績ぎょうせきにより、彼かれは1936年ねんにノーベル物理ぶつり学がく賞しょうを受賞じゅしょうしている。

1929年ねんには、Skobeltsynが放射ほうしゃ性せい崩壊ほうかいによって放出ほうしゅつされる電子でんしの特性とくせいを研究けんきゅうするために霧きり箱ばこ(cloud chamber)を発明はつめいした。彼かれは霧きり箱ばこの中なかで宇宙うちゅう線せんの粒子りゅうしが引ひき起おこすトラックを観察かんさつし、これが宇宙うちゅう線せんの存在そんざいをさらに裏付うらづけるものでした。

同おなじ年ねん、GeigerとMullerによってガイガー・ミュラー検出けんしゅつ器きが発明はつめいされた。この検出けんしゅつ器きを用もちいることで、個々ここの宇宙うちゅう線せんを検出けんしゅつし、到着とうちゃく時刻じこくを非常ひじょうに正確せいかくに測定そくていすることが可能かのうになりました。

霧きり箱ばこ実験じっけんは、宇宙うちゅう線せんが荷電かでん粒子りゅうしのシャワーを引ひき起おこすことを示しめした。大気たいきシャワーとは、一いち次じ宇宙うちゅう線せん（地球ちきゅう外がい起源きげん）が大気圏たいきけんに突入とつにゅうしたときに大気たいき中ちゅうに発生はっせいする、電離でんり粒子りゅうしと電磁でんじ放射線ほうしゃせんの広範囲こうはんい（何なんキロもの幅はば）に及およぶカスケードのことである。1934年ねんにB.Rossiによって発見はっけんされ、1937年ねん、P.AugerはRossiの報告ほうこくを知しらずに同おなじ現象げんしょうを発見はっけんした。Augerは高こうエネルギーの一いち次じ宇宙うちゅう線せん粒子りゅうしが大気圏たいきけんの高たかい位置いちで空気くうき核かくと相互そうご作用さようし、二に次じ、三さん次じ相互そうご作用さようのカスケードが始はじまり、最終さいしゅう的てきに電子でんしや光子こうしのシャワーが地上ちじょうに到達とうたつすることを観測かんそくから明あきらかにした。Rossiは、検出けんしゅつ器きを互たがいに離はなして宇宙うちゅう線せんを観測かんそくすることで、多おおくの粒子りゅうしが同時どうじに検出けんしゅつ器きに到達とうたつすることを発見はっけんした。

また、1930年代ねんだいから1950年代ねんだい初頭しょとうにかけて、宇宙うちゅう線せんは新しん粒子りゅうしの発見はっけんにおいて重要じゅうような役割やくわりを果はたした。

1930年ねんには、MillikanとAndersonとがスコベルツィンよりも10倍ばい強力きょうりょくな電磁石でんじしゃくを使用しようして、霧きり箱ばこを通過つうかする粒子りゅうしの軌跡きせきを調しらべ、特とくにAndersonは、正せいの電荷でんかの、電子でんしのような動うごきをみせる粒子りゅうし（陽電子ようでんし）を観測かんそくした（Anderson 1932）。また、1933年ねんにBlackettとOcchialiniによって、宇宙うちゅう線せんがチェンバーを通過つうかしたときに自動的じどうてきにトリガーされる霧きり箱ばこを使つかって再さい確認かくにんされた（Blackett and Occhialini, 1933）。陽電子ようでんしの存在そんざいは、1928年ねん、Diracによって既すでに理論りろん的てきに予測よそくされていた。

1936年ねんには、AndersonとNeddermeyerが宇宙うちゅう線せんから、中間子ちゅうかんし(mesotron)と呼よばれる電子でんしと陽子ようしの間あいだの質量しつりょうを持もつ粒子りゅうしを発見はっけんした。これは1935年ねん、湯川ゆかわによって理論りろん的てきに予測よそくされていた。

2023年ねん11月24日にち、大阪おおさか公立大こうりつだい学がくの研究けんきゅうチームが、計算けいさん上じょうは1グラムで地球ちきゅうが破壊はかいされるほどの強つよいエネルギーの宇宙うちゅう線せんを発見はっけんしたと発表はっぴょう。研究けんきゅうチームは2008年ねんからアメリカ、ユタ州しゅうの砂漠さばく地帯ちたいに507台だいの検出けんしゅつ装置そうちを設置せっちし、観測かんそくを続つづけている^[9]。