脱出だっしゅつ速度そくど

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脱出だっしゅつ速度そくど(だっしゅつそくど Escape velocity)とは、力学りきがくとく軌道きどう力学りきがく)において、推進すいしんりょくたない自由じゆう物体ぶったいが、おおきな質量しつりょうべつ物体ぶったい(ここでは重力じゅうりょくてんぶ)の重力じゅうりょくから脱出だっしゅつする、つまり無限むげんとおまで移動いどうするのに必要ひつよう最低さいてい速度そくど重力じゅうりょくてん質量しつりょうとその中心ちゅうしんからの距離きょり関数かんすうである。

噴射ふんしゃによってつね加速かそくされているロケットは、いかなる距離きょりにおいても脱出だっしゅつ速度そくどたっする必要ひつようがない。燃料ねんりょう噴射ふんしゃにより運動うんどうエネルギーが補給ほきゅうされるからである。脱出だっしゅつするために物体ぶったい加速かそくするちから確保かくほするための、適切てきせつ推進すいしんモードと、十分じゅうぶん推進すいしんざいがあれば、いかなる速度そくどでも脱出だっしゅつ可能かのうである。

とくに多用たようされる地球ちきゅうおよ太陽たいようかんしては、地球ちきゅう表面ひょうめん脱出だっしゅつ速度そくどだい宇宙うちゅう速度そくど地球ちきゅうじょうにおける太陽たいようからの脱出だっしゅつ速度そくどだいさん宇宙うちゅう速度そくどともばれる。脱出だっしゅつ速度そくどは、移動いどう物体ぶったい運動うんどうエネルギー重力じゅうりょくポテンシャル位置いちエネルギー)がひとしくなる速度そくどである。脱出だっしゅつ速度そくどたっした物体ぶったいは、表面ひょうめんにとどまることも、衛星えいせい軌道きどうにとどまることもない。重力じゅうりょくてん地表ちひょうめんからはなれる方向ほうこうへの脱出だっしゅつ速度そくど物体ぶったいは、速度そくどとしながらもいつまでもはなれていき、速度そくどがゼロになることはない。脱出だっしゅつ速度そくどたっした物体ぶったいは、脱出だっしゅつうごきをつづけるのに追加ついか推進すいしんりょく必要ひつようとしない。べつかたをすれば、脱出だっしゅつ速度そくど物体ぶったいは、距離きょり無限むげんだいちかづくにつれ速度そくどがゼロにかぎりなくちかづいていき、けっしてもどってることがない。脱出だっしゅつ速度そくどよりおおきな速度そくど物体ぶったい場合ばあいは、無限むげんとおにおいてせい速度そくどつ。

天体てんたいなどの球形きゅうけい重量じゅうりょう物質ぶっしつ重力じゅうりょくてんとし、空気くうき抵抗ていこうとう考慮こうりょしないとした場合ばあい脱出だっしゅつ速度そくどVeは以下いかしきあらわされる。

地球ちきゅうから太陽系たいようけいがいへの脱出だっしゅつ速度そくど場合ばあいとうは、地球ちきゅう公転こうてん速度そくど加味かみする必要ひつようがある。

脱出だっしゅつ速度そくど一覧いちらん[編集へんしゅう]

位置いち 対象たいしょう 脱出だっしゅつ速度そくど Ve (km/s)[1] 位置いち 対象たいしょう 脱出だっしゅつ速度そくど Ve (km/s)[1] けいからの脱出だっしゅつ速度そくど Vte (km/s)
太陽たいよう表面ひょうめん 太陽たいよう重力じゅうりょく 617.5
水星すいせい表面ひょうめん 水星すいせい重力じゅうりょく 4.25 水星すいせい 太陽たいよう重力じゅうりょく ~ 67.7 ~ 20.3
金星かなぼし表面ひょうめん 金星きんぼし重力じゅうりょく 10.36 金星かなぼし 太陽たいよう重力じゅうりょく 49.5 17.8
地球ちきゅう表面ひょうめん 地球ちきゅう重力じゅうりょく 11.186 地球ちきゅう 太陽たいよう重力じゅうりょく 42.1 16.6
つき つき重力じゅうりょく 2.38 つき 地球ちきゅう重力じゅうりょく 1.4 2.42
火星かせい表面ひょうめん 火星かせい重力じゅうりょく 5.03 火星かせい 太陽たいよう重力じゅうりょく 34.1 11.2
ケレス表面ひょうめん ケレスの重力じゅうりょく 0.51 ケレス 太陽たいよう重力じゅうりょく 25.3 7.4
木星もくせい表面ひょうめん 木星もくせい重力じゅうりょく 60.20 木星もくせい 太陽たいよう重力じゅうりょく 18.5 60.4
イオ表面ひょうめん イオの重力じゅうりょく 2.558 イオ 木星もくせい重力じゅうりょく 24.5 7.6
エウロパ表面ひょうめん エウロパの重力じゅうりょく 2.025 エウロパ 木星もくせい重力じゅうりょく 19.4 6.0
ガニメデ表面ひょうめん ガニメデの重力じゅうりょく 2.741 ガニメデ 木星もくせい重力じゅうりょく 15.4 5.3
カリスト カリストの重力じゅうりょく 2.440 カリスト 木星もくせい重力じゅうりょく 11.6 4.2
土星どせい表面ひょうめん 土星どせい重力じゅうりょく 36.09 土星どせい 太陽たいよう重力じゅうりょく 13.6 36.3
タイタン表面ひょうめん タイタンの重力じゅうりょく 2.639 タイタン 土星どせい重力じゅうりょく 7.8 3.5
天王星てんのうせい表面ひょうめん 天王星てんのうせい重力じゅうりょく 21.38 天王星てんのうせい 太陽たいよう重力じゅうりょく 9.6 21.5
海王星かいおうせい表面ひょうめん 海王星かいおうせい重力じゅうりょく 23.56 海王星かいおうせい 太陽たいよう重力じゅうりょく 7.7 23.7
トリトン トリトンの重力じゅうりょく 1.455 トリトン 海王星かいおうせい重力じゅうりょく 6.2 2.33
冥王星めいおうせい表面ひょうめん 冥王星めいおうせい重力じゅうりょく 1.23 冥王星めいおうせい 太陽たいよう重力じゅうりょく ~ 6.6 ~ 2.3
太陽系たいようけい銀河系ぎんがけい中心ちゅうしんからの位置いち 銀河系ぎんがけい 492–594[2][3]
事象じしょう地平線ちへいせん ブラックホール重力じゅうりょく 299,792.458 (光速こうそく
  • 水星すいせいおよ冥王星めいおうせいは、公転こうてん軌道きどう軌道きどうはなれしんりつおおきいため、太陽たいようからの脱出だっしゅつ速度そくどは、その時点じてん太陽たいようからの距離きょりによって変化へんかする。

参照さんしょう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b For planets: Planets and Pluto : Physical Characteristics”. NASA. 2017ねん1がつ18にち閲覧えつらん
  2. ^ Smith, Martin C.; Ruchti, G. R.; Helmi, A.; Wyse, R. F. G. (2007). “The RAVE Survey: Constraining the Local Galactic Escape Speed”. Proceedings of the International Astronomical Union 2 (S235): 755–772. arXiv:astro-ph/0611671. doi:10.1017/S1743921306005692. 
  3. ^ Kafle, P.R.; Sharma, S.; Lewis, G.F.; Bland-Hawthorn, J. (2014). “On the Shoulders of Giants: Properties of the Stellar Halo and the Milky Way Mass Distribution”. The Astrophysical Journal 794 (1): 17. arXiv:1408.1787. Bibcode2014ApJ...794...59K. doi:10.1088/0004-637X/794/1/59.